99話
ダンジョンを潰すメリットは2つある。
1つは、相手が私に危害を加えてこなくなるという事。当然だけれど。
そしてもう1つは、潰したダンジョンを無料で私の物にできるということ。
……ダンジョンが増えれば、移動範囲が広がる。
移動範囲が広がって悪い事は無いので、できればダンジョンを潰していって、私の物にしていきたい。
なので、別に『恋歌の館』と『常闇の洞窟』以外のダンジョンでも、簡単に落とせそうならどんどん落としていく所存だ。
そしてちょうどいい事に、『常闇の洞窟』が、セイクリアナの端っこの方……つまり、隣国オリゾレッタの近くにある。
これはもう、足にするしかないだろう。
どうせ、レイナモレとオリゾレッタは滅ぼす事になるのだし。
それ以上はまた適宜。
さて。
今回のセイクリアナ侵略において、私は1つの重大な発見をした。
それは、馬よりもクロノスさんの方が速い、ということだ。
……しかし、クロノスさんは『王の迷宮』を守る大事な戦力。そうそう動かすわけにはいかない。
サイクロプスも大きい分、移動速度は速そうだけれど、手薄になっている『静かなる塔』の警護にあたってもらいたい。
そしてどうせならもういっそ、移動用のモンスターを作ってしまった方が速いのではないか、という事に気付いたのだ。
……空飛ぶ馬キメラでもいいけれど、キメラ馬は、実はそんなに速くない。少なくとも、クロノスさんよりは遅いと思う。全力疾走するクロノスさんは恐ろしいほど速いのだ。
やはり大きいと安定してコストが高くつく分、安定して速く強くなるらしい。
ということは、ここはやはり、コスト度外視で大きなモンスターを作るべきだろうか。
しかし、コスト削減も大きな目標の一つ。
……となれば、自然と選択肢は限られてくる。
数時間後、私は動く城(の如きゴーレム)に乗っていた。
内部には手狭なワンルームながら、キッチン水回りも完備。
大きな馬車のような見た目にしてあるため、脚を折りたたんで車輪を出し、馬を用意すれば馬車に擬態することも可能。馬収納スペースも一応ある。2頭まで収納可能。
更に、外部にはひっそりとクロスボウと火炎放射器を装備。
攻撃力を防御と速度に割り振って、その代わりに装備を充実させ、魔石粉末入り人工宝石を多用することによって、低コストかつ安全・高速な移動を実現。
制作コストは装備内装含めて魂75,000ポイント分也。
……普通のゴーレムが1体6000ポイント分なのを考えれば、お値段は普通のゴーレム12体分半。
しかし、ペガサスが1体50万ポイント分だったり、ワルキューレが1体100万ポイント分だったりすることを考えれば、相当に安く上がったと考えられる。
「これからよろしくね」
そういうわけで、早速生まれた動く城ゴーレムの上に乗って(外乗りも可能な作りなのだ)、早速名前を考える。
……動く城……ハウ……動く城……ゴーレム……。
「じゃあ君はハーレム君だ」
振り落とされた。
ハーレム君改め、ジョーレム君(城レム、ということで)にもホロウシャドウを装備させたり準備を整えたら、早速、試運転がてら『静かなる塔』から『常闇の洞窟』まで……。
……と思ったのだけれど。
「あっ入らない」
……サイクロプスを、『静かなる塔』の警護に回したかったのに、サイクロプスをダンジョンの玉座の部屋の壁掛け鏡まで連れていこうとしたら、その前の迷路部分で詰まって、通れなかった。
……。
仕方ないので、ジョーレム君を一旦分解して『幸福の庭』の外に出して組み立て直し、私はジョーレム君に乗って、サイクロプスは走って、一緒に『静かなる塔』まで移動することにした。
「そういえば、サイクロプスも名前、要る?」
ジョーレム君に話しかけたりしていた所、どうにもサイクロプスからの視線がじっとりしていたので聞いてみたところ、実に不満げに頷かれてしまった。
……サイクロプスを新たに生み出すつもりもないから、個体識別する必要も無いよね、と思っていたのだけれど、やっぱりあると嬉しいものらしい。
そういえば、このやりとり、ガイ君の時にもやった気がする。
「じゃあ、君は、ダイス君で」
サイコロプス。
ということで、モンスター作成・移動の前に、『静かなる塔』の改装を行った。
理由は簡単、改装しないとサイクロプス改めダイス君が満足に入れないから。
その上、しゃがんでなんとか入ったとしても、天井に頭がつかえて狭そうだから。
……塔の入り口や天井に頭をぶつけて痛そうに押さえながら大きな目に涙を湛えているいじらしい姿を見たら、改装せざるを得ない。
ということで、塔の大幅改装を行った。
1Fから8Fまでを2フロアずつぶち抜いて、4フロアにした。
これでダイス君も頭がつっかえることなくのびのび歩ける。
そして、その4フロアに設置するのは、迷路……というか、『目印の無い箱』の集合体。
1つのフロアが4×4で16マスに区切られていて、それが4フロアで64個のマスが立方体になるように箱を積み重ねてあるようなかんじ。
そして各フロアには16マスの内1マスだけ空けて15個の箱状の小部屋が収められている。
それぞれの箱は上下左右に扉があり、それぞれがそれぞれの箱へと繋がっているのだ。
箱1つ1つに目印は無い。そして、箱1つ1つは全て、一応、6方向全てに繋がるようにできている。(1Fの箱は下には移動できないので5方向。)
……ただし、繋がっているだけで、罠が無いとは限らない。
不用意に箱と箱を繋ぐ扉を開くと、罠が作動することがある。
『土石(大)』による壁出現&生き埋めとか、『火石(大)』による火炎放射とか、『毒石(特大)』による毒噴射とか。ワイヤーによる首切断とか。
勿論、罠で侵入者を殺してしまうのはあまり望ましくないので、回避前提、回復前提で作ってある。あくまで狙いは消耗と分断。
そして何より、この箱迷路の特徴は、『箱が動く』ということだ。
一片4m程の各箱にはキャスターがついている。
各フロアの床には箱との連動トラップの他に、レールがついている。
そして箱の外側には、ダイス君が居る。
ダイス君は私からの指示に従って、箱部屋を移動させる。
……とてもアナログな、道の変わる迷路の完成。
箱の組み換えによって、侵入者の分断も容易。
分断された侵入者を誘導して、先に上階へ上げてしまう事も、また容易。
そんなキューブな迷路を抜けると、9Fと10Fをぶち抜いた広いフロアにはダイス君が待ち構える。
……このフロアはダイス君のために作ってある。
サイクロプスの体躯が自由に動き回れる広さと高さ。ダイス君の援護をするためだけのトラップ。
それから、光源。
ダイス君にはホロウシャドウとソウルハンマー(匠ではない。もっとでっかいやつを作った)を装備させてある。ホロウシャドウが自由に動くためには影、ないしは影を作るための光が必要だから、天井には『光石(中)』を複数個設置して、はっきりと濃い影ができるのに十分な明るさを用意。
これでサイクロプスは、存分にその力を振ってくれるだろう。
最上階の奥の宝物がトラップなのは改装前と変わらない。
最上階の奥の宝物の奥に隠し通路があって、その先にはトラップしかないという仕掛けは新しいもの。
ちなみに、B1Fへの道は、塔の『外』にある。
宝物の奥、隠し通路の手前にあるスイッチを踏むと、塔の外壁にでっぱりが並んで現れる。
そうしたら、フロア奥の飾りに見えるであろう大窓から塔の外へ出て、壁のでっぱりを足場にして屋上へ登るのだ。
屋上には大きな下り階段があるので、そこから箱迷路の外側を通りながらB1Fまで入れるようになっている。
……勿論、この通路は主に、サイクロプス用。
ダイス君は箱迷路を動かし終わってスタンバイすることになったら、階段を上がって屋上に出て、屋上の淵に手をひっかけつつ、大窓から塔の中に入ればいい。
……体が大きなサイクロプスだからこそできる移動方法。
こんな具合に『静かなる塔』の改装も終わった。
最早、静かじゃない。
何故、『静かなる塔』をこんなに気合入れて改装したかと言えば、私が『常闇の洞窟』を攻略している間に『恋歌の館』の人が『静かなる塔』の様子を見にやってくるかもしれないからだ。
どうもここ3つのダンジョンは協力関係にあったらしいから、警戒しておくに越したことはない。
……『恋歌の館』さんの能力が『魅了』であることは分かっている。
だから一応、対策はした。
『静かなる塔』最上階の奥、宝物庫に潜むブラッドバット達に、『睡眠薬』(1瓶魂5000ポイント分也)を持たせてある。
もし、ダイス君が魅了されてしまったら、これをぶっかけて眠らせてもらう。
……そうすれば、少なくとも、ダイス君を持っていかれる、っていうことは無いはず。
あとは、その間に私が対応しに行ければいい。
どうしても不安なら、トラップだけで殺してしまえるように調整すればいい。やり様はいくらでもある。
ダイス君が入る為に、一度、ダンジョン1F入り口に繋がっている箱を動かして、隙間を作る。
そこからダイス君に入ってもらって、内側からまた箱を動かしてもらって、ダイス君が『静かなる塔』の内部に入ることに成功。
ダンジョンに居てくれさえすれば指示は遠隔で出せるので、これで一安心。
そうして私はジョーレム君に乗って、『常闇の洞窟』を目指し始めた。
セイクリアナの端っこにあるものだから、ジョーレム君の足でも2日程度はかかりそうだ。
でもその間、私はのんびりとジョーレム君内部で待機しながら、時々外への警戒を払っておけばいい。
快適。
結局、ジョーレム君の中で1回眠って翌日の夕方にはもう、『常闇の洞窟』付近に到着してしまった。
ここからは収納していた馬を出して、馬車擬態モードで進む。
『常闇の洞窟』の周りには、ちらほらと馬車が停まっていたり、馬がいたりした。
そこそこ繁盛しているダンジョンらしい。
私も馬車(に擬態したジョーレム君)から降りて、早速『常闇の洞窟』の中へ進む。
「あっ、そこのお嬢さん。ここは初めてかい?」
……も、その前に声を掛けられた。
「ええ」
「そうだろうと思った。『フェアリーランタン』を持たずに入ろうとするんだから」
「フェアリーランタン?」
「そう。これの事だ」
私に声を掛けてきた男性は、腰に幾つも下げていたランタンの中から1つとり、私の目の前に掲げて見せてくれた。
「……わあ」
「可愛いだろ?」
ランタンは、とても可愛らしいものだった。
薄く桃色に色づいた丸いガラスのカバーの中に、小さな妖精が1匹、入れられている。
ほんのり虹色がかったトンボの羽のような羽を生やしている、小さな女の子の姿をした妖精。
その妖精はふんわりしたピンク色のワンピースを着て、ランタンの中で歌いながらくるくる回って踊っているらしかった。楽しそう。
妖精の可愛らしさもさることながら、ランタン本体もまた、花の彫刻が施されたもので、品よく可愛らしい仕上がりになっていた。
「この妖精は暗い所で光るんだ。この『常闇の洞窟』じゃ、普通の光はすぐ消えちまうけれど、この『フェアリーランタン』の光は消えないんだよ」
「へえ」
ランタンのガラスカバーに指先を寄せると、中の妖精は指に近づいてきて、ガラス越しににっこり笑った。
可愛い。
「……ということで、『常闇の洞窟』に入る冒険者は皆、これを持って入る、ってわけさ。お値段は銀貨5枚。お嬢さんは可愛いから、銀貨4枚にまけとくよ。どうだい?」
……ふむ。
相変わらず、妖精はにこにこしている。
ランタンを差し出してくる男性もにこにこしている。
そして、私はお金には困っていない。
「……もうちょっと安くなりません?」
「え?う、うーん……じゃあ、銀貨3枚!これ以上はまからないよ!」
けれど一応値切ってみてから買う事にした。
……うん。
男性に銀貨を3枚払って、ランタンを受け取る。
妖精は益々嬉しそうに、ガラスカバーの中で飛んだり回ったりしている。
「はい。まいどあり。あ、妖精には時々、水をあげてやってくれよな。ランタンの上に、水を入れる穴がある」
「成程」
フェアリーランタン売りの男性に諸説明を受けたら、早速、フェアリーランタンを持って『常闇の洞窟』の中に入る。
……どのタイミングでこのフェアリーランタンを破壊すべきか、考えながら。




