97話
パノプティコンの中には、まだ人が200人程度残っていた。
まずは、この人達をどうするかを考えよう。
ちなみに国王(仮)はその近くに居た女性諸共、真っ先に殺してもらったからもういない。あれが本物の国王だったかももう分からないので、そこはちょっと失敗だったかもしれない、と思わないでもない。
まあ、時間も無かったし、下手したらロイトさん達に民衆の避難誘導をされて、セイクリアナの精霊の魂の回収に失敗していた可能性もあったわけで、そう考えればまだいい方か。
わざわざ『幸福の庭』パノプティコン内の人を全滅させなかったのには理由がある。
1つは、『魔力』の回収のため。
私が集めたいのは魂であって魔力ではない。つまり、魂であって、経験値ではない。
……けれど、どうも、魂を集めるにあたって、『魔力』の回収はそこそこ有利に働きそうだ。
何せ、私は『ホロウシャドウメーカー』を作ってしまっている。
……もう元は取れているけれど(つまり、今『幸福の庭』にはホロウシャドウが100匹以上居る)、元を取った以上にホロウシャドウを量産したい、とも考えてしまう。
ホロウシャドウの有能っぷりはムツキ君を見ていれば分かる事だし、テオスアーレの時や今回のようにダンジョン外でモンスターを使わなくてはいけない時、モンスターにモンスターを装備させておければとても心強い。
今回、布(つまり、人が着ていた服)も大量に手に入っているし、剣も大量に余っているし、もう『ファントムマントメーカー』や『ソウルソードメーカー』も導入してしまおうか。
モンスターが増えることで経験値が分散するデメリットはあるけれど、装備モンスターが増える分にはそのデメリットが無いのだし、いっそモンスター大量強化をしてしまってもいいかもしれない。
……そして2つ目の理由は、『殺すなら装備モンスターを装備させたモンスターに殺させたり、皆で分け合って殺した方が効率が良いから』。
魔力の回収を行わないにしても、とりあえず一旦ストップをかけたかったのはこれが理由。
1つ目の理由と合わせれば即ち、『モンスターを量産するための魔力を回収して、それからモンスターを強化するために殺す』という事になる。
どうせ、次のダンジョンを作って次の国に手を出すまでに時間がかかるのだし、その間は今居る人間を殺さずに保存しておいて、『ホロウシャドウメーカー』を動かそうと思う。
ずっと『ホロウシャドウメーカー』は稼働しっぱなしにしてあるので、特に変更する所も無い。
後は、パノプティコン内の人間の体調管理に気を付けて、勝手に死なれないように管理するだけ。
これにはリビングドール達とゴーレムの何体かに仕事を割り当ててある。
ここで働くリビングドールやゴーレムは、人間が死にかけた時に殺して経験値を回収する、という仕事もある。
なので、全員にホロウシャドウを装備させて、少しでも効率を上げるようにした。
それから『ソウルソードメーカー』『ソウルナイフメーカー』『ファントムマントメーカー』をそれぞれ導入。
それぞれ、魂600,000、魂5000,00、魂600,000ポイント也。
少し高くついたけれど、300体作れば元が取れる。
これでモンスターの強化も捗るだろう。
……今まで何となく、私が装備するモンスターと同種のモンスターは量産しないようにしていた。
量産モンスターはどうしても、使い捨てにするような事も多い。
だから装備モンスターの彼らが気にするんじゃないか、と思っていたのだけれど……案外彼らはそのあたりを気にしていないらしいので、これからはどんどん量産していこうと思う。
……リビングアーマーは他のモンスターと比べて少しコストがかさむせいか、メーカーもその分ちょっと他より高くつくので……また今度、ということにしたい。
ということで早速、『王の迷宮』に各メーカーを設置。
ソウルソードとソウルナイフ、ファントムマントはそれぞれ、スライムメーカーと同じように使える。
つまり、ホロウシャドウのように魔力を注ぎ込む必要は無く、アイテムを放り込めばモンスターになる、ということだ。
なのでわざわざ『幸福の庭』にメーカーを設置する必要も無い。アイテム倉庫があるのは『王の迷宮』なので、ここでモンスターを作ってしまった方がいいだろう。
……輸送するにしろ、自力で動かないアイテムの状態よりは、自力で動いてくれるモンスターの状態になっていてくれた方がいいし。
各メーカーにアイテム倉庫から剣やナイフやマントを運び込んで、突っ込んでいく前に、少し思い至って最初のダンジョンへ向かう。
「匠ー、お久しぶりです」
そこにはソウルハンマーの匠が、すっかり山になった人工宝石の山の前で自慢げにしていた。
「しばらく放っておいてごめんね」
リビングドール姉妹のルビアとサフィアもそれぞれ寄ってきて挨拶してくれるので、握手でそれに応える。
それから匠の意見を聞きながら、酸化アルミニウムやクロムを作り足し、『王の迷宮』で作った魔石や、グランデムその他で手に入った魔石をこちらへ運び込んだ。
これでまた、匠にはしばらく魔石粉末入り人工宝石を作っていてもらおう。
匠謹製の魔石粉末入り人工宝石を、剣1本につき1粒ずつ、『ソウルソードメーカー』に一緒に入れていく。
すると、生み出されるソウルソードは、鍔や柄に人工宝石をあしらったデザインになって出てくるのだ。
クロノスさんを作る時にもやった事だけれど、魔石粉末入り人工宝石を組み入れた無機物系モンスターは強くなる。
これでモンスターの強化を図っていこう。
その作業はゴーレム達のバケツリレー方式でさくさく終わらせた。
メーカーから生み出されたモンスター達は、それぞれ整列させながらゴーレムやリビングドールに装備させていく。
モンスター同士でぺこん、とお辞儀したり、握手(そもそも握る手が一方に無いことが大概だけれど)したりして、挨拶しているのが微笑ましい。
きっと彼らも仲良くやってくれるだろう。
さて。
モンスターの強化はモンスター達に任せて、私はひとまず強化が終わったゴーレム達とクロノスさん、そしていつもの装備モンスター達と一緒に、セイクリアナの王城へ向かう。
……それから、ダンジョン内に出てやっと背中を伸ばすことができるようになったサイクロプスも一緒に連れていくことにした。
宝物庫の番をしていたのだから、宝物庫に詳しいかもしれないし。
それから……サイクロプスには、鉄の大籠(魂100ポイント分也)を1つ、背負っていってもらう事にした。
「く、くそ、戻ってきやがった!」
「今更何をしようってんだよお!」
案の定、セイクリアナの城の中には、逃げ残った人達が居た。
恐らく、戦火をこの城の中でやり過ごした方が生き残れると判断した人達なのだろう。
或いは、火事場泥棒しようとした人達か。実際、金品を抱えている人達も何人か居た。
「総員、回収作業に移る!」
なので、まずは彼らを回収しよう。
勿論、彼らも回収対象だ。野放しにしたり、ここで殺してしまったりするよりは、ちゃんとダンジョンに持ち帰った方がいい。丁度、パノプティコンに空き部屋があるのだし。
とりあえず、《ラスターステップ》を光源として天井付近に出した。
光の床が生まれた事により、城の中にははっきりと色濃く影が生まれる。
そこにムツキ君が真っ先に動き、後からゴーレム部隊が装備しているホロウシャドウ達も続いて動く。
「う、うわっ!なんだ、脚がっ」
ホロウシャドウ達はそれぞれ、城に残っていた人達の影から現れては脚を掴み、首を絞め、動きを封じていく。
「サイクロプス、彼らを籠の中へ」
そんな状態になった人達は、サイクロプスに回収してもらう。
サイクロプスは動けなくなった人達をつまみあげては、背中の籠の中へと入れていく。
一つ目巨人の背負う籠の中に入れられてしまった人達は、それぞれ脱出を図ろうと頑張ったりもするのだけれど、鉄の格子を登ったとしても、その先の蓋が重すぎて開けられない。
そうこうしている間にホロウシャドウが絞め落としてくれるので、籠に入った人達は脱出することなく、大人しくサイクロプスの背に収まっていることになった。
城の中を一通り見て回って、人の回収を済ませたら、中庭の滝の裏の宝物庫へ向かう。
宝物庫へは、サイクロプスが率先して進んで中を案内してくれた。
宝物庫の中にある隠し部屋とか、そういう一見気づかないような場所まで案内してくれたのでとてもありがたい。
どうやら、ずっと宝物庫の番をさせられていたサイクロプス、宝物庫の増築経歴をしっかり覚えていたから、隠し部屋もお手の物だったらしい。
それから、普段、宝物庫への物の出入りを眺めるぐらいしかやることが無かったらしく、『あれがここに無いから、この奥にはまだ部屋があるに違いない』みたいな推理をして、サイクロプスすら知らない隠し部屋をも見つけていた模様。
有能。
宝物庫の中身を分別せず、とりあえずあるもの全部クロノスさん達に運んでもらい、サイクロプスも籠の中がいっぱいなので、ゴーレム達についていってもらって一旦帰ってもらった。
その間、私と装備モンスター達は城の中を探索する。
……けれど、あんまり収穫らしい収穫も無かった。隠れていたメイドさん達を見つけたくらい。全員捕まえた。
国王の部屋らしき場所からはそれ相応の金品が手に入ったけれど、所詮はそれまで。
テオスアーレみたいにヴメノスの魔導書が手に入ったりとか、そういう事は無かった。
やっぱり、大事なものは宝物庫にあった、っていうことだろうか。
後で検分するのが楽しみ。
戻ってきたクロノスさん達に城の中の金品武具その他を運び出してもらい、私達はまた『幸福の庭』へ戻った。
そして改めて、宝物庫の中身の検分を始める。
最初に見たのは、剣。
……なにせ、ホークとピジョンが大興奮しながらカタカタカタカタ震えてアピールしていたものだから、真っ先に見ざるを得なかった。
片方の剣は、刃が黒い。もう片方は白。
対になっている剣らしく、装飾も対になっている。
どうも、ホークとピジョンはこの剣が大層気に入ったらしい。
2振とも、延々とカタカタカタカタアピールを続けていたので、この剣に合成し直してボディの新調をすることにした。
……そうして、新しくなったホークとピジョンを装備してみたら、なんだか、軽かった。
振ってみたら、とても調子が良い。
試し切りしてみたら、石が羊羹のように切れた。
……これはいい。
続いて、ナイフも良さそうなものがあった。
やや大ぶりながらも細身でスマートな印象。けれど、その刃はしっかり鋭く、頼りがいのあるもの。
クロウがこれを気に入ったらしいので、こちらもボディを新調。
クロウはあんまり使ってあげられていないけれど、武装していないふりをしたいときのメインウエポンは専らクロウになる。
ちゃんと強化できる時に強化しておいた方がいいだろう。
それに、本人ならぬ本ナイフも気に入った体が折角見つかったのだし。
折角だから、ソウル刃物達にも魔石粉末入り人工宝石を付けておいた。
気に入ったようで何より。
鎧とマント、つまりガイ君とボレアスのお気に召すものは無し。
リリーもすっかり魔石粉末入り人工宝石で目が肥えてしまったのか、宝石も見て楽しむまでに留まっているらしい。
ムツキ君はそもそもが影なので、特にボディを新調することもない。
……その代わり、他の物はいくつかあった。
1つ目は、スキルオーブ。
今回のセイクリアナ侵攻自体では目新しいスキルが手に入っていないので、これは嬉しい。
このスキルは《霖雨蒼生》なるスキル。珍しいことに、回復系のスキルだ。これはありがたいね。
……そういえば、スキルオーブが人間の宝物庫の中にあるって、珍しいことなんじゃないだろうか。
2つ目は、錫杖。
この錫杖を地面に刺すと、刺した人とその仲間を守る結界を作れる、というものらしい。
結界の範囲は、刺した人の魔法の腕によるみたいだ。
私が刺したら半径5mぐらいにしかならなかったのに、リリーが刺したら半径10mぐらいになった。
ちなみにガイ君が刺したら半径1mの可愛い結界ができた。
そして3つ目は……本。
ただし、タイトルは無い。
本の見返しに、『マリスフォール王家に栄光あれ』と書いてあるだけ。




