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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
幸福の庭と静かなる塔
95/135

95話

 一度落ちた馬車に近づいて中身を確認しようとすると、傍にはもう、兵士達が集まり始めていた。

 仕方ないので、キメラ馬の手綱を切り落とし、空飛ぶ馬車とその中身だけを残して、キメラ馬はさっさと逃がしてしまった。

「サイクロプス!」

 そして、一つ目の巨人に声を掛けると、巨人は案外俊敏にやってきた。

「この馬車を運んで、『幸福の庭』まで着いてきて!」

 散々城を荒らしたサイクロプスは私の言葉に頷くと、空飛ぶ馬車を抱えてすぐに身をひるがえして走り出した。

 ……走り出した。

 すごい。走る巨人凄い。大迫力。

「あ、あっち」

 そして、走り出す方向が真逆だったサイクロプスを誘導しながら、私も撤退。

 追いかけてくる兵士にむけてもう何発か《フレイムピラー》をお見舞いして、視界を遮ってやる。

 駄目押しに《アトロシティミスト》も使って、完全に視界を遮って、あとは盲撃ちに飛んでくる矢や魔法を避けたり払ったりしながら逃げるだけ。


 撤退しながらサイクロプスが抱える馬車の中身を見てみたら、身なりの良いおじさんと、綺麗な女性が何人か、それから護衛らしい兵士が入っていた。

 兵士の方は、私が覗いた瞬間襲い掛かってきたので、そのまま避けた。

 そこへ丁度良く、サイクロプスが揺れてくれたら、兵士は馬車から落ちて、そのままサイクロプスからも落下。地面に叩きつけられる事になった。あぶないあぶない。


 中に居た人達の衣類でロープを作って簡単に拘束したら、そのまま私もサイクロプスに運んでもらう……いや、駄目か。

「そっちじゃないよ、あっち」

 ……このサイクロプスはどうにも方向音痴らしい。




 追いかけてきた魔法と矢が掠って、少しばかり怪我をした。

 けれど、すぐに秋子が止血してくれて、のそのそ追いついた春子さんがすぐ治してくれたので、特に問題は無かった。

 ……のだけれど、私を気遣ってか、サイクロプスは馬車を小脇に抱え、私を手の中に握って運ぶことにしたらしい。

 時々、私を目がけて飛んできた矢と魔法がサイクロプスの巨大な指に当たるけれど、そもそも、この巨人にとっては矢なんてつまようじみたいなものだし、魔法で怪我をしたとしても、すぐに再生できてしまうのだ。

 サイクロプスは自らの巨体と再生能力の高さを活かして、私を守ってくれるらしい。

「ありがとうね」

 握られたままお礼を言うと、サイクロプスはなんとなく嬉しそうに大きな一つ目を細めつつ……間違った方向へまた向かって行った。

「そっちじゃなくて、あっち」

 ただし、言えばちゃんと正しい方向へ戻るので、致命的な方向音痴では無い、と思いたい。




 そうして道を指示する事数度、なんとか無事、『幸福の庭』に到着。

 国王(仮)他数名の女性を全員パノプティコンに収容したら、サイクロプスを伴ってセイクリアナの人達の誘導に向かう。

 急がないと、きっとすぐ、邪魔が入るだろうから。




『幸福の庭』の中に最低限のモンスターを残して、残りほぼ全ての戦力をダンジョンの外へ出す。

 ダンジョンから左右に広がるように進み、ダンジョンの反対方向からやってくるクロノスさん達と合わせて、セイクリアナの都を包囲する。

 そのまま人を誘導して『幸福の庭』に近づけて、それから殺す。

 ……これで精霊も殺して、ついでに魂をダンジョンで回収できるはず。




 私はサイクロプスと一緒に、再び町へ戻った。

 そして、私達より一足先に戦っていたゴーレム達に加勢する。

「う、うわっ、サイクロプス……!?」

「嘘だろ!?なんでこんな魔物がこんなところに居る!」

 サイクロプス効果はすごかった。

 ……クロノスさんもだけれど、大きいモンスターは、それだけで『強そう』。

 そして『強そう』だと、それだけで相手の士気を下げてくれるのだ。

 大きいと遠くからでも見えて、遠くの人にまで威嚇効果があるから、とても効果的。


 サイクロプスは兵士を薙ぎ払い、武器を持って戦おうとする民衆をぎょろり、と睨みつけてすくみ上らせ、戦意を喪失した彼らを上手に追い立てて『幸福の庭』の方向へと誘導してくれた。

「そっちじゃない、そっちじゃない」

 時々、方向を修正するため、それから、サイクロプスが攻撃できないような、路地の隙間とかから攻撃してくる兵士の駆除のために、私が動く。

 ホークとピジョンを抜いて兵士と数度戦えば、私は返り血を浴びてそこそこにすごい恰好になる。

 ……返り血に塗れて、血の滴る剣を握って、走って追いかけてくる人が居たら、民衆は逃げる。

 なので、戦えば戦う程、民衆の誘導に適した格好になっていくのだった。効率的。




 しばらく、町の外周に沿うようにして進み、民衆を誘導し、町を包囲していくと……やがて、先からやってくるゴーレムに出くわした。

 クロノスさん率いるゴーレム部隊の端っことようやく出会えたらしい。

 こうなれば後は、包囲の輪を縮めていくだけだ。

「ちょっと肩に乗せてね」

 サイクロプスの肩に持ち上げてもらって、乗る。

 そこから天に向かって、《ラスターステップ》を発動。

 光の板を数枚浮かべて、予め決めてあった通りに模様を作る。

 ついでに、そこへ《フレイムピラー》を派手にぶつければ、とてもよく目立つ。

 ……これで、クロノスさん達にも、反対側から民衆の誘導と包囲を行っているモンスター部隊も、包囲網を縮めていってくれるだろう。


 包囲網の外には火を放っていく。

 逆走する民衆が居ると誘導が上手くいかなくなるから、退路を断っていく目的で。

 ……それから、なんとなく、だけれど、こうした方が精霊を殺しやすい気がするから。

 火を放ち、町を焼き、民衆を追い立て、私達の行進は続く。

 都の中心を過ぎ、更に包囲網は狭く狭くなっていく。

 このままもっと進めば、『幸福の庭』へ近づいていく事になる。

 そうなれば、この『国』の中心……つまり、精霊の居場所が、『幸福の庭』のエリア内になる。

 ……だから、私達はこのまま、民衆を誘導していかなくてはいけなかった。


 けれど、その計画の一端が崩れる。

 ふと、激しい水の音を聞いた気がした。

「……ちょっと肩に乗せて」

 サイクロプスに頼んで、また肩の上に乗せてもらい、遠くの様子を見る。

 ……すると、ある一角で、火が巻き起こり、水が激しくぶつかり、風が舞い、地が割れ、闇が蠢くのが見えた。

 そして、包囲網が破れ、そこから民衆が逃げようとしているのも。

 ……避難に関わっていたロイトさん達がいつの間にか戻ってきて、ゴーレムの包囲網を崩したらしい、と見るのが正解だろう。




 ……このままだと、人がロイトさん達の方へ移動する。

 そうなってしまうと、『幸福の庭』周りに人を集められない。

 如何せん、『都』の範囲が広いセイクリアナだ。

 できるだけ人を『幸福の庭』の近くに集めて、精霊の魂をちゃんと拾えるようにしておきたかった。

 ……けれど、多分、間に合わない。

 ロイトさん達とは、できれば戦いたくない。少なくとも、準備の無い状態では戦いたくない。

 だから、ロイトさん達を潰して包囲網を復活させる、と言うのは無し。

 ならば、民衆……『国』の移動、そして魂の流出、という状態に対して、どうするか。

 ……私は、空にまた《ラスターステップ》と《フレイムピラー》を放った。

 また特定の模様が空に浮かんで輝く。

 これは、『手あたり次第殺せ』の合図である。


 ……多分、もう、間に合わない。

 ロイトさん達の対処をする時間は無いし、対処しようにも、対処する間にも民衆は『幸福の庭』じゃない方へ逃げていってしまうだろう。

 セイクリアナから遠く離れた異国の地であるエピテミアまで移動してくれるならともかく、予期せぬ方向へ逃げられると困る。

 ただでさえ『幸福の庭』は元々、人口の少ないエリアにあるのだ。

 だからこそ、できるだけたくさんの人を近くに集めて、『国』の場所、精霊の場所を移動させたかった。

 ……でも、間に合わない。

 なら、仕方ない。


 とりあえず、手あたり次第に民衆を殺す。

 こうすれば自然と、包囲網近くの民衆……つまり、『幸福の庭』から遠い民衆が先に死ぬことになる。

 つまり、人間が多い場所が自然と、『幸福の庭』に近づいていく、ということだ。

 ……勿論、誘導が足りなくて、精霊の魂を回収できない状態で『国が死ぬ』レベルの人数が死んでしまう事も考えられる。

 でも、時間の無さとロイトさん達への対処を考えた時、もうこれしかないのだ。

 ……後は、精霊がちゃんと、『幸福の庭』まで誘導されてくれていることを祈りながら、手近な人を殺していこう。


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