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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
幸福の庭と静かなる塔
92/135

92話

「ただいまー」

 鏡から体を引っ張り出して『幸福の庭』へ戻ると、鏡の前でずっと待機していたらしいガイ君が寄ってきた。

「とりあえず防衛成功してきたよ。いえーい」

 そしてガイ君に向けて手を出したところ、下からにゅっと手が出てきて、ガイ君と私の間に割り込んだ。ムツキ君である。

 私達を驚かせて満足したのか、ムツキ君の手は親指を立てながら影の中に沈んでいった。あいる・びー・ばっく?

 ガイ君と改めてハイタッチしていたら、ソウルソード、ソウルナイフの刃物連中が柄を私に向けて飛んできたので、柄を握ってあげた。刃物とのハイタッチは柄でやってる。じゃないと危ない。

 それからブラッドバットが私の手にぶつかってきたり、太腿から外れて私の体を頑張って尺取虫のように移動してきたリリーがタッチしてきたり、春子さんが気づいたら手にくっついていたり、ボレアスがパタッと私の頭に被さってきたり、と、一頻り装備モンスターとハイタッチ(と言っていいのか分からないのが多いけれど)をすることになった。




「それじゃあ皆装備するからよろしくね」

 声を掛ければ、装備モンスター達はいそいそと持ち場に戻り、私の装備になってくれた。

 鎧を着て、ガイ君を合成し直して、装備完了。

 ……唯一、ブラッドバットだけがパタパタ飛びつつ不満げだった。

 今回、『静かなる塔』では特殊メイク兼小道具、みたいな扱いだったから装備(?)していたけれど、『幸福の庭』に戻ってきた以上、別にブラッドバットを装備する必要はない。

 必要はない、のだけれど……。

「……即興演劇で血糊が必要になるかもしれないもんね」

 今後、いきなり演劇を始めなくてはいけない事になる事もあるかもしれない。

 そうでなくても、ブラッドバットの機動性と変形性があれば、『不意打ちで敵に飛んでいって顔で炸裂、敵の顔面を血塗れにして視界を奪う』なんてことも可能なのだ。

 それから、いざという時の輸血。……これはあんまりやりたくないけど、いざとなったらやろう。それに、春子さんよりはブラッドバットの方が高い機動力を持つ。斬られた所に張り付いてかさぶたの代わりになって応急処置する、とか、そういう事はしてくれるんじゃないかと思う。


 ……ということで、私はブラッドバットを装備することにした。助演女優賞ということで。

 装備する場所は、クロウと同じく、太腿のベルト。

 クロウを固定するベルトにホルダーを1つつけて、そこに瓶を固定した。

 普段は瓶の中で血液のふりをしておいて、いざとなったら内側からコルク栓を押し出しつつ瓶の外に出て活動する、ということになる。


「名前は……ブラッドバットだから……ブラバ……ブラウザバック……左上の矢印……あ、こら、やめなさい。やめなさい」

 そして装備するのだから、ということで名前を考えていたら……何が気に食わなかったのか、ブラッドバットが私の顔面にべしゃっ、とぶつかって血塗れにしてくれた。中々に気持ち悪い感触。

 指先でつつくと、顔面に付いた血が全て一か所に集まり、またコウモリの形になって私の目の前でぱたぱたホバリングし始める。

「じゃあねえ……血、だから、鉄子……いや、だったら徹子……あ、こら。分かったから。分かったから」

 どうやらこれも気に食わないらしいブラッドバットは、またしても私の顔面にぶつかってくれた。

 反抗期なんだろうか。


 それから『ちしぶき』『ちのり』『けつ』『しり』『へもぐろ』『せっけっきゅー』『けっぺい』『かさぶた』『ああああ』『おっ゜て』『もょもと』『すけさん』『アイリン』……と、大分頑張って色々ひねり出したけれど、悉くダメ出しを食らった。

 今までで一番くらってる。なんだろう。春子さんがすんなり一発で通った分がここに来てるんだろうか。

 それともブラッドバット、反抗期なんだろうか。反抗期なのかもしれない。




 結局、主演女優賞のブラッドバットの名前は、『秋子』になった。

 血、ということで『柔肌の熱き血潮に触れもみで』を教えてあげたら気に入ったらしい。

 だから『晶子』にしようと思ったんだけれど、どうせこの子達は漢字なんて分からないので、春子さんと揃えて秋子にすることにした。

 ……しかし、秋子でいいなら徹子でもいいじゃないか。わからん。




 ブラッドバット改め秋子を装備したら、私は『幸福の庭』のB7Fへ向かう。

 何故なら、セイクリアナ国王がそこに入っているからである。




 B7F、パノプティコンはほぼ満員になっていた。

 またどこかに牢屋を増設しなくてはいけないかもしれない。

 そして、牢の一つの中に、国王が入れてあった。

 セイクリアナ国王はまだ気絶したままだったので、まずは起こすところからだ。


 リリーが《スプラッシュ》を加減して撃って、セイクリアナ国王の顔面に水を掛ける。

「っぷわ!?」

 気絶した人に水を掛けると起きる、というのは本当だった。起きた。

「お目覚めですか」

 セイクリアナ国王は飛び起きて、護身用の武器を探してか、腰のあたりに手をやりながら身を固くし、しばらく事態を把握し切れていないかのように目を瞬かせ……やがて、事態を思い出したらしい。

「き、貴様……ここはどこだ!他の兵達は……いや、その前に何故、このような事を!対話を望んだのではなかったのか!」

 セイクリアナ国王の目は油断なくあたりを見回し、脱出経路や他の人達を探す様に動く。

 しかし、ここは独房だ。残念ながら私以外は何も見つからないはず。

「く……貴様、何が望みだ!」

 口ではそう、混乱した、ほとんど意味の無い問いを発しているけれど……目は、ひとところに留まる事無く、動き続ける。

 そして、私の後ろ、鉄格子に目が留まり、その強度を目測し始めたので……ふと、私は、アークダルさんのやり口を思い出した。

 つまり、とりあえず、カマをかけてみよう、という。

「私の望みは、『本物の国王』ですが」

 目の前の『セイクリアナ国王』の目を真っ直ぐ見つめながらそう言えば、明らかに、警戒を露わにした。

 ……これは、ビンゴ、かな。




 ストケシア姫がセイクリアナに来ているのだから、テオスアーレの国王が『ダンジョンに行ったばかりに死んでしまった』という話くらい、セイクリアナ国王は聞いているはずだ。

 つまり、『メイズ』と『ダンジョン』の危険性を。

 ……なのに、いくら900人弱の人質と100人以上の護衛が居るからと言って、国王が直々にダンジョンへ来るだろうか?

 普通、国王が直々に来る前に……『影武者』を寄越したり、するんじゃないか。

 私はなんとなく、そう思ったのだ。

 今思えば、セイクリアナ国王を落とし穴の下へ落とした時、周りの兵士達は王を追ってすぐに階下へ降りることはせず、とりあえず周りのスライムを倒すことを優先していた。

 あれ、よく考えたら結構不思議だったな、と思うのだ。

 集められた冒険者ならまだしも、王の近衛みたいな人達さえ、スライムと交戦しようとするばかりで、自ら落とし穴へ落ちようとした人は居なかったのだし。

 ……あれも、『王が影武者だった』という理由があったなら納得がいく。

 そして少なくとも、目の前の『セイクリアナ国王』が起きた時の反応は明らかに戦士のそれだったし、疑うには十分だったのだ。(グランデム国王みたいな、戦士かつ国王、みたいな人も居ない訳じゃないんだろうけれど。)




「ということで、あなたへの質問1つ目です。『あなたは誰ですか』」

 ということで、『セイクリアナ国王(仮)』にそう質問すると、セイクリアナ国王(仮)は悔し気に口を引き結んだ。

「答えてはいただけない、と」

 言葉を重ねてみても、だんまりだった。

 ……なら仕方ないかな。

「ゴーレム。適当な子供を1人連れてきなさい」

「っ!」

 近くにいたゴーレムに声を掛けると、セイクリアナ国王(仮)の表情に焦りが浮かんだ。

「どうしたのですか。『国王陛下』」

 セイクリアナ国王(仮)は何か迷うように視線を彷徨わせ続けている。

 ……まあ、本当のことを話したとしても、私が子供に危害を加えなくなるとは限らないのだしね。


 そうしてそう時間もかからず、ゴーレムが子供を1人連れてきた。

 貧民ではなく、そこそこの一般的な家庭の子供だ。

 母親から離され、恐ろしいモンスターに見張られ、恐怖に涙を零しながらここで過ごしている少年は、閉じ込められてからすっかりやつれてしまっている。

 その痛ましい様子を見て、セイクリアナ国王(仮)が歯を食いしばるのが見えた。

「さて。では、もう一度お伺いしましょう。あなたは誰ですか?」

 ホークを抜いて、少年の首筋に刃を宛がう。

 少年は恐怖に声も出ず、目を見開き震えながら、じっとセイクリアナ国王(仮)を見つめているばかりだ。

「お答えいただけたなら、この刃をしまいますよ。さあ」

 私の視線と、少年の視線、2つの視線を受けて……セイクリアナ国王(仮)は、項垂れ、答えた。

「……シカーダ・ティクス。先王をお守りしていた近衛だ」




 勿論、ここでセイクリアナ国王が嘘を吐いている可能性もあるけれど、多分、本当に影武者、なんじゃないかな、と思う。

「そうですか。では、それを証明するものは」

「無い」

 だろうね。あったら逆に怪しい。

「では、先王に仕えていた近衛の名前を挙げなさい。とりあえず5人分」

 ということで、それらしい名前を5人分聞いたら、その人達をパノプティコンの中から探して、シカーダさんの顔を見せて(時々、他の人を見せたりしてフェイントを入れつつ)、このセイクリアナ国王(仮)がシカーダ・ティクスさんである事を証明してもらった。

 まあ、これで9割9分は大丈夫だと思う。

 仮に間違っていても問題ないかな。




「では、改めましてシカーダ・ティクスさん。次の質問です。今、セイクリアナ国王はどこに居ますか?」

 これはちょっと気になるので聞いてみたら、案の定、だんまりを決め込まれてしまった。

 仕方ないから、ゴーレムが固定している少年に接近して、抱きしめるようにしながらその腹にクロウを突き刺した。

 ……ように、見えたと思う。

「っ!?き、貴様っ!」

 少年の体が血を吹き、少年は前へ崩れ落ちた。

 ……尚、この血は秋子だ。少年はクロウの柄で鳩尾を突かれて気絶した。

 折角の人を殺すなんて、勿体ない事はしない。

「死体はいつも通り処理するように。それから、次の子供を連れてきなさい」

 けれど、そんなことがシカーダさんに分かる訳はないので、ゴーレムに命じて少年の死体(生きてる)を運び出させた。元の独房に入れておいてもらおう。

「き……貴様、よくも、よくも、罪のない子供を……!」

「はい。罪のない子供でした。でもあなたが教えて下さらないので」

 私が笑いかけると、怒りに震えるシカーダさんはより強く、歯を食いしばる。


「来ましたね」

 そして次の子供が連れてこられる。

 今度はかなり裕福な家の子と見える少女だ。

 こちらはさっきの少年とは違い、最初から泣き喚いている。中々よろしい。

 ……そして、ゴーレムに張り付いて戻ってきた秋子を回収。自力で動く血糊って、すごく便利。

「では、もう一度お伺いしましょう。……セイクリアナ国王は、今、どこに居るのですか?」

 クロウを軽く振りながら聞けば、シカーダさんは絶望の表情を浮かべた。




 ……ということで、そこから先は案外スムーズに進んだ。

 シカーダさんがぺらぺら喋ってくれたからである。

 一度、舌を噛みきって死のうとしたので、すかさず最高級薬を開けて蘇生した。

 そして、蘇生したシカーダさんの前で子供をまた刺した(ふりをしつつ、また秋子をぶちまけた)ので、シカーダさんはそれ以降、無為に死のうとすることも無かった。


 そして、分かった事は3つ。

 1つ目。今、セイクリアナ国王は、王城の隠し部屋に隠れているらしい。ちなみに、ストケシア姫は王城の客間だそうだ。

 2つ目。セイクリアナの王城の隠し部屋は、中庭の隅にある人口の滝の奥に入り口があるらしい。

 それから3つ目。『ミセリア・マリスフォール』については、この人はロイトさん達以上に知らなかった。

 ……まあ、これだけ分かれば上等かな。




 ということで、尋問も終わりにすることにした。

 本物のセイクリアナ国王が居たら、マリスフォールについてもっと聞こうと思っていたのだけれど。


 さて、おそらく、2日後~3日後には、ロイトさん達がセイクリアナの都へ帰ってくる。

 手には『メディカ』からの手紙を携えて。

 ……そうしたら、いよいよセイクリアナも滅ぶ。

 今のうちにやれることはやっておこう。


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