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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
幸福の庭と静かなる塔
91/135

91話

 ロイトさん達が目の前で困っているのが分かった。

 多分、『これ、メイズかもしれないし、本当にメディカかもしれない。顔は同じなんだけど中身が違いすぎる。なにはともあれ決定打に欠ける』みたいな事を考えてるんじゃないかな。

 そして彼らが対応に困っている中……1人、アークダルさんが一歩前へ進み出てきた。

「っ!」

 私は身を縮めながらアークダルさんを睨む。

 アークダルさんは表情を変えずに私の視線を受け止め、そして、言った。

「演技しても無駄だぞ、メイズ。俺達にはもうお前の正体が分かっている」

 ……これ、カマかけてるんだろうなあ。

「……え?あなた達は……その『メイズ』に命じられてここへ来たのでしょう?」

 なので当然、私は、『何を言っているのこの人達は?』という反応をとることになる。

 そうすれば当然、『私がメイズかメディカか分からない』ロイトさん達は、いよいよもって困ることになるのだ。




 ロイトさん達の想像には、3つの選択肢がある。

 1つ目は、私が『メイズ』であり、『メディカ』なんて存在しない、最初から全てメイズの1人芝居、という説。

 2つ目は、私が『メイズ』であり、『メディカ』はまた別の場所に存在する、という説。

 3つ目は、私が『メディカ』であるという説。

 そして、ロイトさん達はこれら3つの選択肢を決定するだけの材料を持っていない。

 しかも彼らはその材料を私から得るしかない。

 だから、あとは私が嘘を吐いていることを悟られなければいい。

 それだけで嘘と本当をイーブン:イーブンに持ち込むことができる。なぜなら、決定打が無いから。

 ……そうしたら、後は『私を生かす価値』を見出させてやればいい。




「……あなた達は、姉の……メイズの、敵、ですか?」

 問えば、ロイトさん達は困ったような反応を見せる。

 どう答えればいいのか、決めあぐねているんだろう。

 そして、私達の間にしばらく、緊張感を孕んだ沈黙が満ち……そして、沈黙を破ったのは、アークダルさんだった。

「そうだと言ったら?」

 そう言いながらアークダルさんは剣を抜く。

 成程、一応、『私がメイズだと確信している』ふりをしているんだろう。

 カマ掛け2段目、ということか。

「……その証明を」

 なのでこちらも疑い返す。

 すぐに警戒を解いたりはしない。なぜなら『メディカ』はこの人達の事を知らないし、この人達が自分をどう疑っているかの全貌なんて知らないのだから。


「証明?」

「メイズの敵だというなら、あなた達はセイクリアナの人でしょう?見たところ、騎士のようですが。なら、セイクリアナの紋章くらい、お持ちですよね」

 さて、今度はロイトさん達が困る番だ。

 相手は2段に掛けたカマに引っかからなかったばかりか、今度はよく分からない警戒をしている。

 勿論、警戒の先にちらちらと見えているのは『情報』。

 ロイトさん達が欲しがっているものであり、『メディカ』を生かす価値であるもの。

 当然、ロイトさん達は考える。

『ここはひとまず信用したふりをしよう。相手がメディカならそれでよし、相手がメイズならその時また考えよう』みたいなことを。




「……いや、俺達はセイクリアナの人間じゃない」

「これを見てくれ」

 ロイトさんが進み出て、私の前に出してきたのは、古びたブローチのようなもの。

「……これは……!テオスアーレ、テオスアーレの……ああ、もしかして、あなた達は、姫君の……!」

 私は鉄格子の間から手を出して、ロイトさんの手を握った。

「ああ、よく、よくご無事で……!」

 手を握られたロイトさんが困っている。とても困っている。

「ごめんなさい。私がもっと強ければ、『王の迷宮』も姉も、奪われなくて済んだのに。テオスアーレが……ああなることも……」

 謝られてもっと困っている。とても困っている。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 泣かれてもっと困っている。とてもとても困っている。


 楽しい。




 一頻り謝り倒した頃には、なんとなくロイトさん達が気まずげな様子になっていた。

 ひたすらにロイトさん達の無事を喜び、苦労を労い、これからの無事を祈り、謝り、謝り、謝り倒した為、流石に緊張感が緩くなってきてしまったらしい。

 けれどぐすぐすずるずるしている私の顔をマントの端っこで拭いつつ(汚いと思うんだけど、この人達にとってマントって雑巾みたいなものなんだろうか?ボレアスが怒って抗議のぱたぱた運動を始める気がするのだけれど)、やっと彼らは彼らの目的を思い出したんだろう。

「ええと、聞きたいことがあるんだけど、いいか」

「はい。なんなりと」

 やっと、私から情報を得ようとし始めたらしい。




「君は『王の迷宮』からセイクリアナの『幸福の庭』にまで来た。それから、魔物の襲撃があって、ここへ攫われた。間違いないか」

「はい。間違いありません」

「じゃあ、『静かなる塔』へ攫われて、どうしていたか、教えてくれ」

 成程、まずは情報の空白を埋めることにしたらしい。

 裏をとるよりは先にしておいた方がいいかもしれないよね。建設的。

「はい。……私はここへ連れてこられる途中で意識を失いました。恐らく、首を絞められたのだと思います。そして気づいたら、もうここに居ました。だから、ここがどこなのかも知らなくて……ここは『静かなる塔』の中なのですね?」

 こういう所でボロは出したくないから、気を付ける。

「ああ。ここは『静かなる塔』の地下1階にあたる場所だな」

「で、アンタはここに閉じ込められて、ずっと寝てたって訳ェ?」

「……いいえ。姉が一度、ここへ来ました。『幸福の庭』の中に隠した一部の部屋を動かすための術式を聞きだすために」

 勿論、そんなものは無い。

 あったとしても、『ダンジョンに成る』ことでそんなものはいくらでも分かるようになるのだから無意味である。

 でも嘘を吐く分には自由。

 だって、『幸福の庭』の最奥まで入って出てきた人は居ないのだから。

「……その、ええと、なんすか?部屋?を動かすと……どうなるんです?」

「メイズの今の主人……『王の迷宮』と姉を奪っていった人が、正式に『幸福の庭』の主となります」

 そして彼らはダンジョンではない。

 ダンジョンのシステムについても嘘吐き放題。

「そうなるとどうなるんだ?」

 サイランさんの不安そうな顔に応えるように、私もまた、深刻そうな表情を浮かべて、答えた。

「セイクリアナも、テオスアーレと、同じようになるでしょう。セイクリアナは、大量の魔物と罠に襲われ、一夜にして滅びます。ですから、私は部屋を魔法で隠しました。……しかし、それを破られるのも、時間の問題でしょう」




「た……大変じゃねえか!すぐ、戻って……も、もしかしたら姫様も!?」

「ああああああ、そ、そうか!俺達、姫様を置いてきちまってるじゃないですかーっ!」

 深刻な事態を想起させる言葉に、ロイトさんやスファーさんが大慌てし始めた。

 セイクリアナが滅べば、当然、セイクリアナ滞在中のストケシア姫にも危険が及ぶ、と考えたらしい。

 成程、だからこんなにセイクリアナの心配をしているわけか。

 テオスアーレ復興のための土台になってくれる国だから、滅びられたら困る、ということでもあるかもしれないけれど。

「ロイト、スファー、落ち着け。……もう1つ、聞きたいことがある。『王の迷宮』が奪われた、と言っていたが、一体誰に奪われたんだ」

 しかし、ロイトさんやスファーさんに対して、アークダルさん、サイランさん、ルジュワンさんは落ち着いていた。

 妥当。

「そう、よねえ。……つまり、そいつが元凶、ってわけでしょお?」

「テオスアーレを滅ぼし、セイクリアナも滅ぼそうとしている……一体、何者なんだ」

 私です、とも言えないので、ここは少し考える。

 ……できるだけ、大げさな存在が良い。

 それはそれは、もう、『嘘』かどうかを確かめることもできないくらいに。

 それでいて、説得力は欲しい。

 危機感も欲しい。

 ……となれば、ぴったりの名前が、1つあるじゃないか。

 なんてすてきなんだろう。グランデムの王様に感謝しなくては。

「その人の事は詳しく知りません。しかし……『ミセリア・マリスフォール』と、名乗っていました」




「ま……まりす、ふぉーる……!?」

「み、ミセリアって、あの『悪魔姫』ですか!?な、なんで、死んだはずじゃ」

 テオスアーレの人達は、自分達が滅ぼした国のこともそこそこちゃんと知っていたらしい。

 よかった。ここで『誰それ知らない』とか言われたらどうしようかと思った。

 まあ、『マリスフォール』という名前くらいは知っていて当然だろうと踏んで名前を出したのだから、こうなってもらわなきゃ困るのだけれど。

「いや、ただ別人が名乗っている可能性も十分にあるだろう。……だが……『メディカ』。君はその人について、何か知らないか」

「いいえ……ただ、年は、ストケシア姫様とおなじくらいの、とても美しい女の人だった、としか……でも、とても綺麗だったのに、なんだか、怖くて」

 正直なところ、私もグランデム王に聞いた情報の端きれしか知らないから、ここは本当に答えられない。

「あの、でも、マリスフォール、って……テオスアーレが統治する前にあった、国の名前、ですよね。ミセリア、って……?」

「……当時のマリスフォールの姫君だ。とても美しく、あまりの美しさに魔を呼び寄せたと聞く」

「悪魔召喚だの、人間の内臓をひっくり返らせるだの、精霊を人間の手で無理矢理生み出すだの……そういうおぞましい魔法を率先して編み出しては魔導書にしていったらしいぜ。多分、テオスアーレの城に、いくつかその類の本が残ってたと思うけどよ……ほら、うっかり姫様が読みそうになって、俺達が慌てて止めた奴……」

「ああ……だが、恐らくあの後、姫様はお読みになってしまったのだろうな……そして、俺達の為に、悪魔を……」

 ……あれっ。

 それってもしかして……『ヴメノスの魔導書』のことかな。

 ミセリア・マリスフォールさんが、あの本の著者、だったんだろうか。




 できるだけ『ミセリア・マリスフォール』さんの事を聞きたかったのだけれど、ロイトさん達自身も、その人の事を良く知らないらしかった。

 分かった事は、『マリスフォールのお姫様だったこと』。『あぶない魔法を生み出して魔導書を書いたこと』。『マリスフォールを滅ぼした後、マリスフォール王族の中で唯一、彼女だけ、行方が分からなくなっていたこと』。

 つまり、収穫はあんまり無かった。

 強いて言うなら、『テオスアーレのお城の中に居た人でも詳しく知らない』という情報が手に入った、と言うべきか。

 まあ、仕方ないね。




「っ……!」

 ロイトさん達がいよいよどうするか、と深刻な顔をしている中、私は胸を押さえて蹲った。

「ど、どうした」

「ま、魔術、が……また1つ、破られてしまった、ようです……!」

 ここでブラッドバットがいい仕事をして、私が咳き込んだ時に血を吐いたかのような演出をしてくれた。

 今回の助演女優賞は君だ。

「め、メイズ……じゃないのか。メディカ。大丈夫か。あとどのぐらい持ちそうだ?」

「あと……2日……いえ」

 そこでもう一度咳き込んで、ブラッドバットを吐き出して見せつつ、私はロイトさんの目を見て、強く頷いた。

「3日は。3日は必ず、持たせます。命に代えても!ですから、どうか……どうか、セイクリアナの人達を、助けて下さい!」




 それから私はロイトさん達にいくつか指示し、ロイトさん達は私からの手紙を手に、セイクリアナの都へ戻っていった。

 セイクリアナを、そして何より、ストケシア姫を救うために。

 私の情報が嘘でも真実でも、危険の可能性がお姫様に降りかかるだけで彼らは動かざるを得ないのだから、仕方ないね。

 ……うん。

 これにて防衛完了。

『幸福の庭』へ戻ろう。


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