表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
幸福の庭と静かなる塔
90/135

90話

 ドレスに着替えて『メディカ』になったら、1匹待機させておいたブラッドバットに手伝ってもらって、ちょっと特殊メイクした。

 ちなみに、今回、リリーは外して太腿に着けてある。(春子さん協力)

 サイランさんの死因はリリーみたいなものだから、リリーが着いてたら流石に警戒されると思う。


 準備が終わったら、牢屋の中で体育座りしながらロイトさん達の到着を待つ。

 ロイトさん達は順調に『静かなる塔』を進み、もう9Fに到達する所だった。

 ちょっといくらなんでも速くないかな。結構ギリギリだったね。

「罠ばかりだな。……『王の迷宮』でもそうだったが……やはりここは、メイズの手が加わった場所なのか」

「しっかし、モンスターが居ないのって気味悪いっすよねえ……」

「そーねェ。ひたすら回り道を歩かされるだけってのはあんまり面白くないわね。ちょっとロイト。アンタなんか面白いことしなさいよ」

「おーい、油断するなルジュワン。足元に地雷があるぜ」

「えっ」

「こらこら、ロイト。そういう冗談はやめないか」

 ……終始、こんな調子で仲良く絆パワー満載に塔を進んでいる。

 騙されて疑心暗鬼になって殺し合いしてたことなんて嘘みたいだけれど、あれは……死ぬ前の事だったしノーカンって事なのかな。

 それとも、雨降って地固まる、なのかな。私は雨降ってジ・エンド派なんだけれど。




「おっ、お宝だな」

 ロイトさん達は、素直に9Fの隠し通路をスルーして、10Fの奥にまで到達した。ありがたいけど、ちょっと期待外れ。

 そしてそこで、やっぱり素直に、飾られたデスネックレスを見つけた。

「げえっ!?で、でもこれ、血だまり……!」

 ついでに血だまりも見つけた。

「……罠に気を付けろ、という事かな」

「それとも、モンスターかしらねェ?」

 各々が警戒する中、スファーさんが血だまりを飛び越えてデスネックレスの前に行こうとして……その瞬間、血だまりからブラッドバット達が一斉に飛び立った。

「うわっ!?」

「スファー、下がれ!《フレイムピラー》……あれっ……あ」

「馬鹿か!ロイト!」

 そしてブラッドバットにロイトさんが《フレイムピラー》を撃とうとしたらしいんだけれど、発動せず。

 代わりにサイランさんが剣で斬りこんで行って、スファーさんを救出。

「く、一旦退くぞ!」

「そーね。一々消耗してらんないわ。《ダークヴェール》」

 最後にルジュワンさんが暗幕のようなものを出してブラッドバット達を食い止めつつ、全員で撤退。

 私の方としてもここで彼らを仕留められるとも思ってないから、無理に手の内を明かさないことにして、ここは見送りの方針。




「……っはー、やっちまった……くそ、もう使えねえんだよなぁ、フレイムピラー……」

「気が緩んでいるぞ、ロイト。これが姫様の前だったらどうするんだ……まあ、そう落ち込むな」

 そしてロイトさん達は、というか、ロイトさんが反省会を広げ始めた。

 ひたすら落ち込むロイトさんを周りが慰める会になってる。

 本当に仲いいね。

「ま、しょーがないんじゃないの。アタシもさっきうっかり《シャドウダンサー》使いそうになったわよ。はー、やれやれ、《ダークヴェール》なんて応用効かないからずっとお蔵入りしてたってのにねー、分かんないもんだわ」

「ううう、俺も《ダートバレット》使えれば、トラップの類も幾らか見つけやすくなるんですけど……」

 ……おや。

 これは……これは、もしかしたら、規則性が見えた、か。

「まあ、今回はこれで済んだが、下手するとストケシア姫の御身に関わることにもなりかねない。今後は俺達全員、気を付けていかないとな。……しかし、今まで使えていた技や魔法が突然、使えなくなるとな……」

「……まあ、俺達全員、悪魔に復活させられてる訳だし、なぁ……くそ、あの悪魔め、ポンコツな治し方しやがって」

 うん。

 分かった。

 ……ロイトさん達はどうやら、『私が手に入れたスキル』を使えなくなっているらしい。




 ここからは憶測になるけれど、私が人を殺して手に入れるスキルオーブって、ランダム入手なんだと思う。

 相手が複数のスキルや魔法を持っていたとしても、その全てが手に入る訳じゃない。多分。

 ……そして多分、その『スキルオーブ』は殺した人の命の設計図(があるのかは知らないけれど)の一部か何かで、『スキルオーブ』を私が握ってしまっていると、悪魔が頑張っても『復元しきれない』状態になるんじゃないだろうか。

 なんとなく今までもこういう風に『能力があってもおかしくなかったのに手に入らなかったスキルオーブ』はあった気がする。グランデムの上級武官達とか、テオスアーレの王の周りの兵士達とか、かなりしょぼかったし。

 ……それから『王の迷宮』さんはからは《一家眷族》を手に入れているけれど、レイル君他ダンジョン達からは特に何も貰ってない気がする。

 これ、スキルオーブがランダム入手だから、で説明がつく気がする。

 勿論、『王の迷宮』さんが単にダンジョン能力とは関係なく《一家眷族》を持っていた、という可能性もあるけれど。

 ……或いは、『王の迷宮』さんが『スキルでダンジョン能力を偽っていた』とか、そういう可能性も考えられるけれど。


 それから、復活後のスキル使用について。

 ロイトさんは《フレイムピラー》を使えなかったらしい。

 そして現に、ルジュワンさんは私が手に入れなかったスキルを使っている。

 更によくよく考えてみれば、ロイトさん達を殺して手に入れた魂は多分、そのまま保存してあるわけだけれど……あれがロイトさん達の『全て』ではなく、魔力になって霧散してしまう部分があったとしたならば……そして、悪魔はその霧散した部分を繋ぎ合わせてロイトさん達を復活させたのだと考えれば……辻褄が合う。

 つまり、ロイトさん達は悪魔によって蘇ったけれど、ロイトさん達の一部だったものを私が握っているばっかりに、弱体化&特定のスキルの喪失、という状況に陥っているのだろう。

 うん。この説明が合っている保証は無いし、単に悪魔が手を抜いただけのような気もするけれど、理由がついたら少しすっきりした。




 ロイトさん達は長い観察の結果、無事(と言うかなんというか)『奥にあるネックレスは多分デスネックレス』という結論に至り、10F奥のお宝部屋を後にした。

 やりよる。




「……これで終わり、とは思えんなぁ」

「ほら、セイクリアナの連中が閉じ込められてた、っていう場所があったはずじゃない?その奥とかアヤシイと思うんだけど」

「ということは、どこかに隠し通路でもあるのか」

 推理自体は微妙に惜しいけれど(人間牧場は1Fの隠し通路、玉座の部屋は9Fの隠し通路、と、別の道でしか到達できない)ここから隠し通路を探し始めたら多分、順当に正解を引くんだろうなあ、これ。


 やっぱり正解を引いた。

 ロイトさん達は10Fをしらみつぶしに探し回り、お宝部屋も魔法を撃って破壊可能壁が無いことをきっちり探し、それから9Fに下り、そこで隠し通路を見つけた。やりよる。

「下り階段……当たりっぽいですね」

「ああ。……慎重に行くぞ」

 そしてロイトさん達は階段を下り始め……私へと、近づいてくる。

 私は体育座りから、『いかにも具合の悪そうに横たわっている』姿勢へとフォームチェンジして、ロイトさん達を待ち受けることにした。




 +++++++++


 俺達が隠し通路の先の階段を下りていき、階段の終わりまで到達すると、かすかな息遣いのようなものが聞こえてきた。

 サイランに「奥からだな」と口の動きだけで確認すると、サイランも1つ頷いて、奥の方……息遣いの聞こえる方、人の、生き物の気配のする方へ警戒を向けた。

 アークダルとスファー、ルジュワンにも目配せして確認してから、俺達は奥へと進み始めた。




 今、俺達5人はストケシア姫と一緒に、セイクリアナ国王の所でお世話になってる。

 もう少し落ち着いて、俺達がちゃんと魂を取り戻したらここを出て、テオスアーレのエピテミアを都にして、もう一度テオスアーレを作り直そう、という話をしている。

 ……だが、セイクリアナは今、ダンジョンの魔の手に落ちようとしている。

『幸福の庭』と、そこの管理人であるというメディカ、というモンスター……いや、もしかしたら、『王の迷宮』からテオスアーレを滅ぼした、メイズ、の手によって。

 メイズ。

 初めて会った時は、強いのだろうけれどとてもそうは見えない、ただの女の子だった。

 次に会った時は、卑怯な手を使って俺達を殺す、最悪の殺人者だった。

 ……そして最後に会った時は、姫様を悪魔の手から庇い、俺達を逃がした……恩人だった。

 俺にはあいつの目的は分からねえ。

 でも、俺を殺したお礼はたっぷりしてやるつもりだし、テオスアーレを滅ぼしたお礼も含めて、殺しても殺したりないぐらいの目に遭わせてやろうと思うし、今後姫様に危害を加えるようなことがあれば容赦なく殺してやろうと思う。

 ……それから、姫様と俺達を悪魔やグランデム兵から助けた事の、礼は……礼は言うつもりはねえけど、殺す前に理由を聞くぐらいは、したいと思ってる。

 特に、俺よりも姫様ご自身がそう思ってらっしゃるらしい。

 姫様は、メイズに攫われた。

 そして、『王の迷宮』に閉じ込められて、そこでメイズとしばらく暮らしてたらしい。

 ……姫様は言ってた。

「どうしても、私、メイズさんがやった事や言った事、全部本当だったとは思えないけれど、全部嘘だったとも、思えないの。何か、裏に大きな理由があったんだと、そう思うの」

 と。

 ……俺個人としても、確かに気になりはする。

 そして、姫様を守る者として、『裏にある大きな理由』を気にしなきゃならない。

 セイクリアナに世話になってる身としては、セイクリアナを救う手掛かりがあるなら、手に入れたい。

 だから俺は、メイズに会いたい。

 会って、一発ぶん殴って、話を聞いて……それから、殺すかどうか、決めてもいいと、思ってる。

 だって俺も、メイズが言ってたこと、やった事……全部本当だったとは思えないけれど、全部嘘だったとも思えねえから。




『幸福の庭』には、メディカという管理人が居たらしい。

 セイクリアナの兵士が聞いた話だと、元々メディカは『王の迷宮』に居たが、『ものを奪う悪魔』の手によって『王の迷宮』を奪われ、主人とともにセイクリアナへ来た、ということらしかった。

 ……そして、メディカは連れ去られた。

『王の迷宮』から出てきてテオスアーレの都を破壊していった、巨大な黒いゴーレム達によって。

 ……この時点で、メディカとメイズになんらかのつながりがある事はほぼ確定してる。

 メディカがメイズと同一人物だ、という線も含めてな。

『幸福の庭』が豹変してからセイクリアナの兵士が『幸福の庭』に挑み、1人を残して全員帰らないままになっている。

 そして、残った1人は手紙を持ち帰り、セイクリアナ国王と『幸福の庭』との橋渡しになった訳だ。

 ……勿論、俺はそいつに聞いた。

『メディカという奴と手紙を渡してきた奴は同じ奴か』ってな。

 そしたら、『容姿はとても似ていたけれど、雰囲気がまるで別人だった』と返事が返ってきた。

『双子だと言われた方がしっくりきた』とも。

 ……勿論、丸のみにして信じるつもりもねえけど、これは……益々、調べる必要が出てきたよな。




 そして俺達はメディカが連れ去られた方角にあるダンジョンに目を付けて、この『静かなる塔』へやってきた。

 このダンジョンからメディカがセイクリアナ国民を救出したこともあるらしいし、どうにもやっぱり怪しいんだよな。


「……牢、か」

 そして俺達が隠し通路の階段の先へ進んでいくと、1つの牢だけああり、中に……。

「……あいつ……!」

「待て、スファー!」

 スファーが短剣を抜いて、牢に向かって走り、そして、牢の中に居た人物に向かって短剣を突き出した。

「っ!」

 が、牢の鉄格子に阻まれて、スファーの刃が牢の中の人物に届く事は無かった。

「スファー、落ち着け」

 いきり立つスファーを宥めて後ろへ下がらせると、俺は牢の中の人物……メイズの前に、鉄格子越しに立った。

 ……が。

「人間の男……!姉さんの差し金ですか。……私も舐められたものですね。何をされても私は口を割りませんと言ったはずです。さあ、斬りたければ斬りなさい。焼きたければ焼きなさい。犯したければ犯せばいい!」

 どこか怪我でもしているのか、流れた血の跡の残る顔で、目の前の女……メイズにとても良く似ている女は、メイズに感情を200%増ししたような表情で、俺達に食って掛かったのだった。

 ……これ、どうすっかな。


 +++++++++


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ