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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
幸福の庭と静かなる塔
83/135

83話

 そこからは混戦状態に陥った。

 兵士達は現れたモンスターと戦うべく、出口の方へ固まる。

 モンスターから逃げようと、一般市民達は『幸福の庭』の奥へ逃げ込もうとする。

 リビングドール達は市民達の避難を誘導して、B2F以降へと市民を逃げ込ませ、私はクロノスさん達と戦うふりをしつつ、『魔法が効かない!』とやっていた。

 クロノスさんは魔法トラップほぼ無効のとてもすごいゴーレムなので、魔法を使っている分にはほとんどダメージが無い。安心して戦うふりをすることができた。

 そして、兵士は……ある程度はもう諦めよう、という事で、結構バンバン殺してもらった。

 クロノスさんが腕を一振りすれば、吹き飛んだ兵士がワイングラスや食事の皿なんかを巻き込んで壁に叩きつけられる。

 ガラスや陶器の割れる甲高い音が人々の悲鳴に混じって、ある人を委縮させ、ある人を奮い立たせる。

 戦闘はますます加熱していき、弱い兵士はどんどん死んでいった。


 ある程度戦闘が長引いた頃には、市民の避難は終わり、1Fには兵士とゴーレムが戦うのみとなった。

 ダンジョンの中は警戒していても、ダンジョンの外から『幸福の庭に関係の無いモンスター』がやってくるとは想定していなかったらしい兵士達は、最初の混乱で大分数を減らした。

 一方、ゴーレム達は元気だ。

 元気に決まっている。

 だってあのテオスアーレの戦争で、思う存分人を殺しに殺したゴーレム達だ。

 強い。彼らはとても強い。

 ……なので、ある程度戦って兵士の人数を減らし、市民の避難が終わった時点で、ゴーレム達はそこそこ余裕をもっていた。

 少なくとも、『一方的に倒される』ような事は無い。

 ……これなら、払わなくていいコストは払わなくても済むかな。


 適当に頃合いを見て、クロノスさんに合図した。

 合図は、《グリッター》。

 きらきらするだけの魔法だから、ゾンビでもなんでもないクロノスさんに放つ意味は無い。

 だから、他にこんな魔法を使う人も居ないだろう、という事で、合図に使った。

 《グリッター》をクロノスさんの傍で発動させ、きらきら、と無駄に光を放たせる。

 それを見たクロノスさんは、しっかり私の方へ向き直り……そして、突進してきた。

「なっ」

「こ、こいつ急にっ」

 クロノスさんによる見事なショルダータックルによって、私とクロノスさんの間に居た兵士達は跳ね飛ばされる。

「馬鹿者!戦線を崩すな!」

「そうは言っても……!」

 フェルシーナさんの怒声が響くけれど、もう遅い。

 私はこうする事を見越して、最初からフェルシーナさん達から離れた場所に居たのだから。

 クロノスさんは私の眼前に迫ると……その腕を伸ばして、的確に、正確に、私の胴体を掴み、持ち上げた。

「きゃっ……は、放しなさい!」

 そのまま私はクロノスさんに持ちあげられて、抵抗するふりをする。

 が、当然、クロノスさんは魔法にも強いすごいゴーレムなので、効かない。

「あっ、メ、メディカちゃんが!?」

「おのれ、あのゴーレム、メディカが狙いだったのか!?」

 そしてクロノスさんが頭上に私を掲げながら、退却する。

 兵士達はこの展開に混乱しながらも、とりあえず、ゴーレムに連れ去られる私を追いかけて、B1Fから1Fへと動いていく。

 射掛けられる矢は私を憚ってか遠慮がちで、魔法はとっくに諦められている。

 それぞれの武器を持った兵士達は1Fへと向かってクロノスさんを追いかけ、下っ端黒鋼ゴーレム達に押しとどめられつつも、なんとか突破していく。

 突破させているのだから、突破してもらわなくちゃ困る。


 クロノスさん達は上手に動いて、兵士達の8割方を1Fまで追いかけさせることに成功した。

「メディカーっ!」

 その中には、フェルシーナさん達、中央の兵士も居た。

「フェルシーナさーん!」

 そして、クロノスさんによって攫われつつ、私はフェルシーナさんに向かって叫ぶ。

「フェルシーナさん!セイクリアナを、お姉様から守って……!」

 フェルシーナさんに言葉が届いたらしいことを確認して、クロノスさん達はいよいよ、本気の退却モードに入る。

 下っ端ゴーレム達は『幸福の庭』に乗りつけられた馬車や馬を奪って逃走。

 クロノスさんは馬に乗ったら馬がつぶれてしまうので、そのまま走る。

 去り際に《キャタラクト》や《オブシディアンウォール》で足止めしつつ、クロノスさん達は無事、私を攫って逃走することに成功したのだった。




 ……そして、ダンジョン、『幸福の庭』が、動く。


 まず、1FとB1Fの間の階段がシャッターによって封鎖された。

「なっ、入り口が塞がれたぞ!」

「くそ、中にまだ市民と兵士が……!」

 ……ただ、ダンジョンである以上、完璧な封鎖空間は作れないみたいなので、実は、こっそりと農業用の塔の1つがB1Fへの入り口になっている。

 藁や肥料に隠れて入り口が見えない以上、入り口は消えたと言ってもいいのだけれど。


 続いて、B1FからB2Fへ続く階段も封鎖され、厨房の奥に新たな階段が生まれた。

 会場内に残っていた兵士達はこれで実質どこにも行けなくなってしまった。長い時間放っておいたら厨房の奥の階段に気付くだろうけれど、それまでの時間が稼げればいい。


 そして、B2Fに避難した市民達を、リビングドール達が誘導していく。

「どうしよう……たくさんのモンスターが……」

「まさか、こんなことになるなんて……」

「く、くそ、お前達のせいだぞ!モンスターなんかがやってる店なんぞ信用しなければ、こんなことには……!」

 市民達は不安がったり、憤りをリビングドールにぶつけたり、と、混乱を続けていたけれど、リビングドールが誘導したり、『大丈夫』『落ち着いて』『この奥なら安全です』と書かれたボードを掲げて見せたりしている内に、次第に落ち着いて誘導されるようになっていった。

 誘導されずに帰ろうとした人は、もれなくこっそりトラップの餌食になった。


 誘導された人達は、B3F、B4F、と深みへ入っていき……そして、B4Fに待機していた巨大スライム達とご対面した。「は、え……?」

 ぷるぷる、とする巨大スライム達の方へ、リビングドール達は人々を誘導していき、困惑する人はリビングドール達に優しく押されて、巨大スライムの方へ巨大スライムの方へ、と移動していく。

 そして、巨大スライム達もぷるぷると動きながら陣形を変え、リビングドール達ごと人々を円状に囲み……そして、一気に円の中央へ、人々へと襲い掛かった。




 戦える人は全員、クロノスさん達の方へ行ってしまっている。

 つまり、巨大スライム達が襲うのは、戦闘能力の無い人、或いは、戦闘能力があっても使う気が無かった人。

 巨大スライム達はその体に5人ずつほど人々を包み込み、窒息させて落としていく。落とした人は、円の外へ。

 最後の最後まで市民達を逃がさないように、リビングドール達も一緒に巨大スライムに飲み込まれたわけだけれど、そこは器用なスライム達のこと。リビングドール達だけ、最初にスライム・サークルの外へと放り出されている。

 リビングドール達は落ちた人達を運んだり、うっかり脱走してしまっている人を追いかけて捕まえたり。


 ……そうして、巨大スライムが円状に押し合いへし合いくっつきあって、某ドーナッツショップのもちもちドーナッツみたいになっていたのも短い間の事。

 なんとか『幸福の庭感謝祭』の来場者、合計640人を生け捕りにすることに成功した。

 ちなみに、クロノスさん登場騒ぎの段階で逃がすつもりは無かったけれど逃がしちゃった一般市民は80人ちょっと。

 逃がすつもりで1Fに誘導できた兵士達は150人ぐらい。

 生け捕りが上手くいかなくて殺してしまった兵士や一般市民の数は合わせて131人。手に入った魂は579303ポイント分。

 まあ、逃がしちゃった人達は勿体なかったけれど、ぼちぼち、といったところかな。




 さて。

『幸福の庭』の様子は分かるけれど、今、私は『幸福の庭』に居ない。

 私はというと、クロノスさんに乗ってひたすら進行中だ。

 向かう先は勿論、『静かなる塔』。

 そこから壁掛け鏡経由でまた『幸福の庭』に戻る予定。


 ……しかし、私はここで、とても重大な事に気付いてしまった。

「……クロノスさん、速い……」

 今まで私は、ダンジョンの外での移動は、馬で移動していた。

 しかし、今、クロノスさんに乗って移動して……気づいてしまったのだ。

 クロノスさん、馬より、速い。

 周りを走る馬と、馬に乗るゴーレム達。

 それらを見ながら、悠々と流して走ってそれでも馬と同じスピードで走れるクロノスさん。

 ……使える場所は限られるけれど、人目につかない所だったら……今後、クロノスさんに乗って移動することに、しようかな……。




 そして私達が移動する中、『幸福の庭』の外……つまり、ダンジョン1Fでは、兵士達がどうしたものか、と集まっていた。


「くそ、メディカが……私が、もっと側に居れば、こんなことには……!」

「フェルシーナ……あなたのせいじゃないわ」

 中でも、フェルシーナさんの落ち込み方は一段と大きかった。

 自責の念に駆られているらしく、悔し気にクロノスさん達が去った方を向いて、拳を握りしめている。

「おい、バイラ。貴様、あのワルキューレに肩入れしているのではないだろうな」

「……どういうことだ」

 しかし、そんなフェルシーナさん達の傍にやってきた男性……多分、フェルシーナさんの同僚の中央の兵士であろう人は、鋭い視線を緩めることなく、辺りを警戒していた。

「あのゴーレム共が、ワルキューレの手引きでは無いとどうして言える?」

「それは……」

 疑うのも当然だと思う。実際そうなんだから。

「『幸福の庭』の階段が閉ざされた事も考えれば、あのワルキューレが仕組んだ事だと考えるのが妥当ではないか?」

「あら、それなら兵士長。メディカは1つ気になることを言っていたわ」

 言葉に詰まるフェルシーナさんを押しのけて、兵士長、と呼ばれた男性の前に進み出たのはマリポーサさんだった。

「『セイクリアナをお姉様から守って』とメディカは言っていたわね。兵士長にも聞こえたんじゃない?」

 笑みの形に弧を描く唇と、優しく細められた瞳。しかし、マリポーサさんの瞳は挑戦的な鋭さを湛えて、兵士長を貫いた。

「……『メイズ』だったか」

 兵士長はマリポーサさんの視線を受け、確かめるようにそう口にする。

「ええ。私達が手に入れた情報では、メディカには同じワルキューレのお姉さんが居た。……そのお姉さんの名前が、『メイズ』。剣も魔法も得意な、戦うために生み出されたワルキューレ。……そして」

「『王の迷宮』を使い、テオスアーレを滅ぼした方です」

 突如、辺りが不自然に静まり返る。

 兵士達が一斉に、姿勢を正す。

 ……優雅に揺れる服の裾は、品の良い物ではあれど、長すぎも、ふんわりとしてもいない。

 緩やかにウェーブする髪は首の後ろで1つに括られ、険しい紫水晶の目と相まって、柔らかさや優雅さよりも凛々しさを強く表していた。

「そう。私の祖国を滅ぼし……そして、私の命と魂を、助けた方です」

 しばらくぶりに見たストケシア姫は、すっかりふんわりさ加減を失っていた。


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