8話
最初に、ダンジョンのフロアを増やした。
B2Fが増えて、やっとダンジョンがダンジョンらしくなってきたかんじ。なんだかとてもうれしい。
フロアを増やしたら、思い切ってB1Fを大改造した。
1番目の部屋と2番目の部屋の間の廊下を無くして縮めて、3番目の部屋や、元・2番目の部屋の位置をぶち抜いて大きな1つの部屋にしてしまったのだ。
2番目の部屋にあった壁の数式は1番目の部屋に。3番目の部屋の入り口にあったダイアルは2番目の部屋と1番目の部屋を区切るドアに付けた。
そして、2番目の部屋以降、ぶち抜いて作った大部屋。
この大部屋は迷路にしてしまった。
何故迷路にしたか、というと、侵入者を分断する為である。
まず、迷路に入ってすぐの所に分かれ道があり、2つのボタンと2つの扉がある。
その2つのボタンは同時に押さないと仕掛けが動かないから、ここは2人以上の人間が居ないと攻略できない、ということ。
お一人様お断りの構造になってしまったけれど、大丈夫。お一人様だったらこの迷路に入る前に殺せばいい。
……それぞれのボタンを作動させると、入ってきた扉とボタンとボタンの間にシャッターが下り、代わりに、先へ続くドアが開く。
つまり、ここで侵入者は先に進むため、確実に分断されることになる。
2手に分かれた侵入者の内、右のドアから入った組を待ち構えているのは、巨大迷路だ。
なんとこの巨大迷路、平面構造をしていない。
B1FとB2Fの間を行ったり来たりしないと先へ進めないようになっているのだ。
それに加えて、螺旋階段で方向感覚を狂わせたり、落とし穴で落ちないと先に進めないようにしたり、と、意地悪な仕掛けにしてある。
勿論、迷路にはトラップも充実している。
壁から矢が飛んでくるトラップや、跳ね上がる床によって天井とこんにちわアンド圧縮するトラップ、ふくらはぎ半ばぐらいまでの浅い落とし穴の中に頑丈なトラバサミがあるトラップ、ギロチンの刃、畳一畳分ぐらいの吊天井……と、実に様々。
迷路の通路は広くない。
だから、大人数であればあるほど、トラップを避けにくくなり、結果、トラップ迷路で数を減らせる、という事になる、はず。
立体構造の巨大迷路は、抜けるのに相当な時間と体力を必要とするはずだ。そして、相当な犠牲も。
そうして迷路を抜けた先には、B2Fの奥へと続く階段がある。
その先で、分岐点で左手に分かれた仲間と合流できるわけだ。
……左に進んだ仲間が生きていれば、だけれど。
左のドアを進んだ組を待ち構えているのは、とても単純なものだ。
それはただの下り坂一本道。曲がることなく真っ直ぐな下り坂は、そのままB2Fへ続いている。
……ただし、誰かがドアを潜ってから30秒で、入り口の上から巨大鉄球が落ちてくる。
当然、狭い通路に逃げ場はない。逃げる手段は、ひたすら下り坂を駆け下りていくだけ。
これも大人数であればあるほど、犠牲者が増えるだろう。狭い通路にたくさん人が居たら、動きづらいだろうし。
……そして、鉄球に追い立てられて、さっさとB2Fに着いた人達を待ち受けるのは、リビングアーマー君と私、そして、私の意思で作動する無数のトラップだ。
右に進んだ人達は、時間と体力をたっぷり消費して迷路を攻略する。
左に進んだ人達は、時間を掛けることもできず、鉄球に追い立てられて下り坂を逃げ切る。
……つまり、右に進んだ侵入者と左に進んだ侵入者は、私達が待ち構えるB2Fに時間差を伴ってやってくるのだ。
どうせ、どんなトラップを仕掛けても、対処しきれない敵は居るだろう。
なら、最初からトラップだけで対処しようとしない。
そして、今ある戦力を無駄なく使うためにも、この『時間差』の罠はとても有効だろう。
ダンジョンの改築に、ほとんど魂を使い切ってしまった。
残っているのはわずか13ポイント分だ。一番初めの時よりひどい。
けれど、あの時と比べたら固定資産が格段に増えている。迷路もトラップも下り坂も鉄球も、それらすべてが私の武器であり、防具である。
……これらを駆使すれば、最初とは比べ物にならない効率と安定感で侵入者を殺せることだろう。
さて、ダンジョンの改築は済んだ。
いっそ、さっさと侵入者の大群でも来ないものか、と、わくわくしてしまう程なのだけれど、こういう時に限って侵入者は来ない。
かといって、魂をほとんど使い切った今、できることはほとんど無い。
……ああ、そうだ。まだ前回と前々回の死体を還元してなかった。
あれを還元して、その分の魂でまたなにかできることが無いか探してみよう。
剣士さんの死体と、両手剣の戦士さんの死体、そして、薬草摘みの女性2人の死体。
合わせて死体4つを還元して、しめて魂175ポイント分なり。
女性2人は大したことなかったみたいだけれど、戦闘職らしかった2人の死体の価値が高かったみたいだ。
……けれど、10000ポイント分の魂を使い切った後で175ポイント分の魂が増えても、何か、こう……足りない感じがする。仕方ないけれど。
現在の魂、188ポイント分。
当然、これで何かしようとも思えない。
となると、あとは本当に侵入者待ちか。
仕方ないから、道具の整理でもしていようかな。
……そう思って、道具の整理を始めたところで、新発見があった。
死体の、第3の、活用の可能性である。
今まで、死体はゾンビとスケルトンにしかできないと思っていた。
しかし、違ったのだ。モンスターにできるのは、死体丸ごとや骨だけでは無かったのだ。
『血』。血液である。
そう。両手剣の戦士さんを片付ける時の都合で、血だけ別枠で回収していたのだ。
その血を鑑定能力で鑑定して、何に使えるかを調べたら、血をモンスターにすることができる、ということが判明したのだった。
……血から生み出せるモンスター、その名も『ブラッドバット』。血液でできたコウモリ型モンスターである。
このモンスターは、自由に血液に戻ったり、コウモリに戻ったりできる。
つまり、血だまりからいきなり現れて襲ったり、侵入者に突撃して顔面を血塗れにして目つぶししたりできるモンスターなのだ。
人間の血200mlぐらいと魂70ポイント分で1匹生み出せる。血液無しで作ろうとしたら魂200ポイント。
サイズも大体、200ml分ぐらい。つまり、普通のコウモリより大きいぐらいのサイズ。
……1匹2匹、居てもいいかもしれない。とどめを刺す要員として使わなければ、経験値を無暗に奪うことも無いだろうし、トラップ感覚で使えるかも。
けれど、今の段階だと2匹しか作れないので、やっぱりちょっと保留にしておこう。
多分、次の侵入者相手ぐらいなら、私とリビングアーマー君とトラップだけで何とかなると思うから。
それから、両手剣の戦士さんが使っていた、立派な両手剣。
リビングアーマー君に『これはどうよ』と聞いてみたら、盾を抱えるようなポーズをとったまま、両手剣には触ろうともしなかった。
……多分、盾と剣で戦うスタイルが性に合ってるんだろう。なら、無理に装備を変えろと言うつもりも無い。
ちなみにこの両手剣、私の腕で持ち上がるし、一応振れもするけれど、私がまともに使えるとは言い難い。
よって、私の装備はスコップ続投である。
それから、女性2人が持っていた籠にたっぷり入っていた『薬草』。
また合成して、『傷薬』を作った。
……そうしたら、『傷薬』5個を合成することで、『上級薬』にできることが判明したので作っておいた。
多分、高級なんだと思う。何が高級なのかは分からないので何とも言えない。ただ、見た目はちょっと高級になった。
薬草はただの葉っぱに見える。
『傷薬』は、すりつぶして他の薬品や脂なんかと混ぜたような、軟膏のような見た目で、小さな壺みたいな入れ物に入っている。
そして、『上級薬』は……とろりとした液体。小さい焼き物の瓶に入っている。そしてその瓶がまた、綺麗な細工なのだ。細かい飾り模様が刻まれている焼き物の瓶は、見ていて中々楽しい。
そしてきっと、見た目だけではなく、効果も『上級』なのだろう。
なんといっても、『薬草』25個分の薬なのだから。
……とはいっても、薬草は女性2人がたくさん摘んでくれていたので、あまりありがたみが無い。
……そう。女性2人が、たくさん摘んでくれていたから。
そして、女性2人が薬草を摘んでいたのは、このダンジョンの外の森。
もしかして、外に出れば薬草採り放題なんじゃないだろうか。
ちょっと外に出ると、もう夜だった。
けれど、ダンジョンの中で目が慣れていたからか、それとも、ダンジョンに成った影響なのか、夜目はそこそこ利く。
月明りだけでも十分に森の中を探索することができる程度には。
そのまま、下草を眺めて『薬草』を探すと……案外すぐに見つかってしまった。
ダンジョンで見たのと同じ形の葉っぱが地面から生えている。成程、これが『薬草』か。
ダンジョンから『薬草』までの距離、12歩。中々に近かった。
よく見れば、辺りにはたくさん薬草が生えている。
多分、この辺りにまで薬草摘みに来る人があまりいないんだろう。このダンジョンの付近はいわば、薬草摘みの穴場、なんだろうな。
……よし、折角だ。この薬草、持って帰ろう。
持ってきたスコップが、本来の用途で役に立つ。
私は見つけた薬草の根元から少し離れたところにスコップの剣先を深く差し込むと、ゆっくりと、てこの原理を利用するようにスコップを押し下げ、スコップの剣先を押し上げた。
……そうして持ち上がったスコップの剣先は、そこに薬草を乗せて地上に出てきた。
薬草には根も土もついたままだ。状態も悪くない。
よし、このまま持って帰ろう。そして、畑に植えよう。
ダンジョンの中で育てれば生育も早いだろうし、ダンジョン内で薬草を栽培しておけば、いざという時の保険にもなるだろう。
なんなら、畑の他に薬草園を1つ作ってもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、薬草を株ごといくつか採集していたら、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。
……馬の数は、1頭じゃない。複数、多分、3、4頭はいる。
きっと、戻ってこない村の女性たちを心配して来たのだろう。
さあ、早速新しいダンジョンの使い心地を試そう。
……その前に薬草を植える時間はあるだろうか?