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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
幸福の庭と静かなる塔
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77話

 成程。確かにそうか。

 ダンジョンを経営していくなら、人を殺して魂を得るか、多くの人がダンジョン内に留まる時間を長くして経験値……魔力とやらを得られるようにするか、どちらかが必要になる。

 時間効率が良いのは当然前者だけれど、ただ食いつないで生きるだけなら、後者でも十分に可能。

 そして、そのために『王の迷宮』さんのようにお宝を仕込んで冒険者に優しいダンジョンにして、たくさんの人の『出入り』を生み出す必要はなく……このダンジョン、『静かなる塔』のように、人間を捕まえて、ダンジョン内に『拘束』しておいてもいいのか。

 ……盲点。




 とりあえず、魔法結界(魔法を使うと解除できる壁。そこそこコストが高い)を解除して、中に入る。

「何故こんなところに人がいるのですか?」

 そして私は、『何故こんなところに人が』の答えが『ダンジョンから出ずにダンジョンを回すため』だと知っているけれど、そんなことは言わない。

「私達、いつのまにかここに連れてこられていて……でも、魔法も使えなくて、ここからずっと出られなくて」

「多分、あの塔のダンジョンで何かがあったんだと思うんだが……」

 成程。

 ここに居る人達は全員、『静かなる塔』へ来た、『魔法使い系』の人達らしい。

 彼らは魔法が使えなければ、多少冒険慣れしている一般人と大して変わらない。(特に、静かなる塔から自力で帰れなかったような弱い人なら尚更。)

 だから、彼らは入り口をふさいでいた魔法結界を退かすこともできず、ここが『静かなる塔』の地下だということも知らずに閉じ込められ続けていたわけなんだろうけれど。


「それは大変でしたね。しかし、閉じ込められていたという割には皆さん、お元気そうですが」

「ここは生きていくために十分なものがあったんですよ。畑も野菜の種もあったし、家もあった。奥には家畜小屋があるし、川には魚も居る。……閉じ込められているのでなければ、そう悪い環境でもないんですが」

「病気になれば薬が運ばれてくるし」

 成程。このダンジョン、ちゃんと飼っている人間の健康管理はしていたんだな。

「薬が運ばれてくる、とは?」

「ああ、そっちに石造りの建物があるだろ?」

 建物イン建物。不思議な眺めだけれどしょうがない。ここはそういう場所だ。

「あそこの中に祭壇があって、そこにお願いすれば、大抵のものは貰えるんだよ」

 ということは、その祭壇とやらの裏側に、このダンジョンの主が居ると考えていいかな。

「酒とかの嗜好品も出てくるぞ。そんなに多くはないが」

「ほんとに、閉じ込められてさえいなけりゃなあ……」

 ……じゃあずっと閉じ込めておいてあげてもいいんだけれど。ここの主さえ殺してしまえば、この人間牧場も私のものだ。


「閉じ込められたままもう、ずいぶん経った……外では死んだことにされてるかもな……」

「家族に会いたい……」

「お前はまだいいよな、ここに来てまだ1月くらいだもんな。でも俺はもう3年はここに居るんだぜ?……はあ、もう仕事クビになってるだろうしなあ……」

 ……しかし、彼らをここに閉じ込めっぱなしにするよりは、出してあげた方が良いだろう。

「あの、もしよろしければ、なのですが……ここを出て、暮らす場所やお仕事が無いなら、私のところで働きませんか?人手が足りないんです。もしお手伝いして頂けるなら、とてもありがたいのですが……」

 人間が増えれば、国の精霊を殺す近道になるから。




 その場に居た人達の半数以上が、私の話に飛びついた。

 どうもこの『静かなる塔』、相当長い時間を掛けて人間牧場を作っていたらしい。

 年単位でここに閉じ込められていた人はもう雇用も失っている。その日暮らしの冒険者だったりすると、ここを出ても行き先が無いのが現状らしく……雇用と住む場所、そして美味しいごはん、と3拍子揃えば、渡りに船、ということらしい。

 そして、残り半分の人達も、それぞれ家族や友人に安否を知らせた後には、私の仕事を手伝ってくれる、と約束してくれた。

 助けてもらった分の恩は果たす、ということらしい。

 彼らが義理に厚い人達でとても助かった。

 世の中ギブアンドテイクだよね。




 人間牧場のみなさんは、それぞれ荷造りとかがあるらしいのでその場に残し、私はこのダンジョンの主に会いに行くことにした。


 人間牧場の外からぐるりと回りこむように進めば、いくつかのトラップと、頑張って即席で生み出したであろうモンスター数体と遭遇した以外、特に苦労も無く最奥へ進むことができた。

「……誰も居ないね」

 しかし、そこには誰も居なかった。

 そこにあるのは、ベッドや机などの家具、そしていくらかの生活用品。

 食べ物もあるし、ここに誰かが住んでいるのは間違いない。

 ……ふと見ると、机の上に設置されたランプの傍、見やすい位置にメモが置いてあった。

 確認すべく近づいて覗き込む。

『右を見ろ』

 ……。

 咄嗟に私はその場にしゃがむ。

 同時に、リリーが《キャタラクト》で私の周りに滝のバリアを張って、ボレアスが《ゲイルブレイド》で風の刃を四方へ飛ばした。

 ムツキ君は様子見する模様。

「っ!」

 そして、滝の向こう側、私の左の方から誰かの押し殺した悲鳴のようなものが聞こえたので、リリーが《キャタラクト》を解除すると同時にそちらへ走り、ホークとピジョンを振るう。

「っ、《ソウルシールド》!」

 しかし、攻撃は奇妙に光る壁のようなものに阻まれた。

 壁越しに、風の刃に斬り裂かれたのであろう腹を庇う若い男性と目が合った。

 壁を破ろうと力を込めても、壁を破れる気がしない。

 が、別に、破れなくったって問題は無い。

「くらえ、《メンタルブ……っぐぅっ!?」

 何か、魔法を発動しようとしたらしい男の人の足下……足元に生まれた影から、ムツキ君の手が伸びる。

 そして、綺麗にチョークスリーパーを掛けた。

 男性が暴れないように、適当にリリーが凍らせたり、ボレアスが風を巻き起こしてみたりと色々やって……そして、男性は、おちた。

 ……とりあえず、ムツキ君の手とタッチしておいた。いえーい。




 おとした男性をどうしようかな、と考えた。

 これから、人間牧場に居た人達と一緒に都の『幸福の庭』へ戻りたいから、あんまり手荒なことはしたくないし。

 いっそここで殺してしまうのもアリだけれど。

 ……まあ、試すだけなら、タダか。リスクはあるけれど、多分、そんなに危険じゃないはず。


 探せば、部屋の奥に扉があって、その先に玉座の部屋があった。

 ……主を殺さずにダンジョンを乗っ取ろうとするのは初めてだから、ちょっとどうなるか分からない。

 けれど多分、なんとかなるんじゃないかな。

 落ちてる男性を簀巻きにした後、私は玉座に座った。


 その瞬間、今までダンジョンを乗っ取る時には感じなかった、抵抗のようなものを感じた。

 しかし、その抵抗を破るのもそう難しくはなかった。

 ……多分、今簀巻きになって私の足下に転がっているこのダンジョンの主の抵抗だったのだろう。気絶しているから、抵抗できなかったみたいだけれど。

 そして、ダンジョンが私に塗り替えられていく。

 ……塗り替える間中、ずっとわずかな抵抗があって時間がかかってしまったけれど、まあ、大丈夫の範囲内。

 最後はごり押しするような感覚で、『静かなる塔』を塗り替えつくした。


 そうして、私はこの『静かなる塔』に成った。……いや、もう感覚としては、『静かなる塔』が私に成った、という方が近い。

 私はもう、1つのダンジョンくらい簡単に飲み込める程度には、大きい。

 最初のダンジョン、王の迷宮、魔銀の道、元・グランデム城、幸福の庭、そして静かなる塔。

 これで6つ目だ。いい加減、この感覚にも慣れてきた。

 自分の感覚が広がり、このダンジョンの中の様子が全て分かる。

 ……モンスターは居ないね。私が全滅させたらしい。まあ、隠し部屋に居た奴とかも全部倒してしまったから、当然と言えば当然か。

 あと、このダンジョンに居るのは、私と、人間牧場の人達、そして、目の前に転がっているこのダンジョンの元・主。

 さて、この人には後でたくさんお話を聞かせてもらおう。


 私はすっかり薄青に染まった玉座の部屋の壁掛け鏡から『王の迷宮』に戻ると、そこで他のゴーレム達と一緒にチェスを指していたクロノスさんに『静かなる塔』さんを預けた。

 ダンジョン間移動なら時間はほぼかからないから、暇になったらまた来て殺そう。


 それから、元々のダンジョンに戻って、薬草を摘む。

 一応、フェルシーナさん達には『薬草を採りに』という目的で出てきているから、言い訳できる材料は欲しい。

 ……と思って、少し久しぶりに薬草園にやってきたのだけれど。

「誰だお前」

 そこには、光り輝く薄緑のスライムがいた。

 輝いてた。キラキラしてた。

 ……どうやら、薬草を食べては精製し、薬草を食べては精製し、と繰り返し続けた結果、『神薬』なるレベルのお薬スライムになっていたらしい。

 立派なものである。

 ……となると、このお薬スライムをここに置きっぱなしにしておくのも勿体ないか。

「一緒に来る?」

 聞いてみると、頷くようにぴょこん、と1つ跳ねてみせてくれたので、とりあえず、『幸福の庭』に移動させた。

 残った薬草園にはまた新しいスライムを放っておいた。

 彼らもまた、放っておくうちに立派なお薬スライムになることだろう。




 鞄に薬草を詰めたら、また『静かなる塔』に戻る。

 その頃には人間牧場の人達も荷造りが終わっていたので、彼らと一緒に『幸福の庭』へ戻ることにした。




 歩いてアセンスの町までゆっくり移動して、アセンスの町からは私のお金で馬車を雇って、アセンスの町在住だった人達以外を連れて都へ戻る。

 アセンス在住だった人達は知り合いに安否を報告して、落ち着いたころに『幸福の庭』へ来てもらえるように言っておいた。

 ……まあ、最悪バックレられてもそんなに困りはしないから、いいのだけれど。


 アセンスの町から都までの馬車の中、助けた人々は私に感謝しきりだった。

 何と言っても、彼らはろくにお金を持っていなかったから、馬車も道中の宿も食事も、大体全部、私の奢りだったのだ。

 お城2つ分の宝物を手に入れて、かつ、自分で人工宝石やミスリルを生産している私は最早、そうそうお金に困る事も無い。

 お金で買える信頼はいくらでも買っておこう。




 そうして都へ戻り、人間牧場の人達はそれぞれ、知り合いの元へと去っていったり、私の元へ残ったりした。

 残った人は7人程度。

 それぞれ、元々が天涯孤独の根無し草だった人達だ。

「とりあえず、『幸福の庭』へ向かいましょうか」

 彼らは今日の宿にも困る人達なので、もうさっさと『幸福の庭』へ連れていく。

「いや、ありがたい。何から何まで……」

「いいんですよ。困った時はお互いさまです。その代わり、私が困った時には助けて下さいね」

 私が『幸福の庭』の『ワルキューレ』であることはもう全員に言ってある。

 そして、人間牧場に居た人の中の1人に、「若い頃に何度かワルキューレと戦った事があるが、皆あんた程別嬪じゃなかったしもっとツンケンした嫌な奴らだったぜ」みたいな褒め言葉を貰ったので、そのついでにワルキューレの特徴を教えてもらった。

 何といっても、ダンジョン産まれダンジョン育ち。外のワルキューレには興味があるんだよ。


「ワルキューレ、っつうと、人間の女みたいなモンスターだよな。話もできるが、大体はツンケンしてて碌に話にならねえ。剣も魔法も使えるが、大体はどっちかに偏ってるな。アンタはどっちもできるのかい?」

「まあ、一応は」

 ……答えてから、気づいた。

 私、フェルシーナさん達には鎧姿なんて見せてない。

 そもそも、戦闘能力が高い、なんて、言ってない。

 ……誤魔化しておいた方がいいかな。

「でも、実は剣の方はあまり強くなくて。ああ、でも、私の姉にあたるワルキューレはどちらも強かったですね」

 ちなみに、その姉の名前は『メイズ』。

「え?でもその剣」

「フェイクなんです。こうやって剣と鎧を装備していれば、剣士のワルキューレに見えるでしょう?」

 そういうことです。


「ワルキューレとお話をしたことは無いんですか?」

「あるぜ。そこそこ話ができる奴が居てな。あいつら、大体、高い山とかに居るけどよ、寿命が長いもんだから、物知りなんだわ。……ま、俺はそのワルキューレに『一発ヤらせてくれ!』っつって直後に半殺しにされたんだけどな!この頬の傷はその時にやられたのよ!」

 ……そしてワルキューレ、プライドが高く、割と潔癖の気がある、と。

「だからまあ、アンタみたいに物腰の柔らかいワルキューレなんざ、見た事ねえもんだからびっくりしたな」

「元来の気質かもしれませんね。それから、私はご主人様から、人間の皆さんと交流するために様々な事を教わっていますから」

 なので、『ワルキューレ』を知る人から見れば、私はとても『苦労している』ように見えるんだとか。

 フェルシーナさんとかも、そう思ったりしているのかもしれない。




『幸福の庭』に7人の人間牧場の人達を連れ帰ると、そこにはフェルシーナさん達が居た。

「おや、丁度戻ったところだったか。……ん?その人達は?」

 丁度来てくれたらしいフェルシーナさん達も一緒に『幸福の庭』の中へ案内して、お茶とお菓子を出す。

 そして、質の良い薬草を探して森に入っていたらダンジョンを見つけた事、そのダンジョンの中から人間の気配がしたので、ダンジョンの中に入った事、ダンジョンの中に入ったら『魔法が使えなくなる魔法』を使われたけれど、モンスターには効かなかったらしく、魔法を使って突破できた、という事、人間牧場の人達を救出した事、人間牧場の人達を『幸福の庭』で雇う事にした事……などを話した。

 一応、人命救助している訳だから、フェルシーナさん達の心象は良かったらしい。

 何度もお礼を言われた。

 ……けれど、マリポーサさんは『つまりダンジョンを1人で突破できるだけの能力があるのね』みたいな顔をしていた。多分、フェルシーナさんも思ってるし、他の人達も思ってる。

 うん、しょうがない。ある程度の戦闘能力の誇示は牽制になるから、そんなに悪くは無い、とも思う。

 それに一応、『魔法特化で剣はフェイクです』みたいな話をしてあるし、ガイ君がうまく動いて『いかにも剣の扱いには慣れていない』ような動きをしてくれたし、ホークとピジョンがうまく動いて『とっても軽い、作り物の剣』のふりをしてくれたから、かなり信憑性があったと思う。

 まあ、あんまり期待はしない。

 あくまで私への警戒は人懐こさと人間と交流する姿勢でカバーするつもりだ。




「こちらでは市民への説明も無事終わった。明日から私達が交代で警邏にあたる。市民も興味を持っているようだから、明日からメディカは忙しくなるぞ」

「ここはレストランみたいな扱いになるのかしら?メディカちゃんの作るお菓子は美味しいし、楽しみね」

 そして、フェルシーナさん達もまた、働いてくれていた。

 いよいよ明日から『幸福の庭』がオープンするわけだ。

 さあ、『幸福の庭』の人畜無害ぶりをとくと見るがいい。


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