76話
「おじゃまします……うわ」
中に入ったら早速、モンスターが襲い掛かってきた。
モンスターは……なんだろう、今まで作ろうともしたことがないモンスターだから、ちょっと名前が分からない。
ふわふわ宙を飛んでいて、魔法撃ってくる。……とりあえず全員、魔女に見える。
魔女モンスター達が、杖を構えて魔法を撃ってくる。
避けるけれど、避けた先にも魔法が降ってくる。
火の玉の次は雹の雨だし、その次は風の刃で、闇でできた蛇とか光の矢とかがどんどん飛んでくる。キリがない。私は塔の中の探索どころじゃない。
なんとか魔法を避けながら、そこらへんに居た魔女モンスターを剣で斬り殺しつつ、なんとかやってみようとするけれど……1分しない内に諦めた。
これ、とっても、面倒くさい。
とても面倒くさいので、《ラスターケージ》を一気に広げて、魔女モンスター達を全員壁際や天井や床に押し付けてしまった。消耗は大きかったけれど、後悔は無い。
雨あられと魔法を撃ってきていた魔女モンスター達が塔の壁と光の壁に挟まれて身動きが取れなくなっているのを見たら、少しすっきりした。
……そして、『これはもしやいけるんじゃないだろうか』と直感。
私は《ラスターケージ》の『外側』に、光のトラップを発動させた。
案外うまくいった。
今まで、《ラスターケージ》は『内側』に向けて、色々と弄っていた。
剣山を出したり、光の矢を射出したり、光のギロチンを落としたり。
そういう風に、ポータブル・トラップ部屋として活用していたのだ。
……けれど、今回みたいに使うのもアリだ。
勿論、今回みたいに、ある程度密閉された空間で、べらぼうには広くなくて……っていう条件下においてのみ、使える訳だけれど。
しかも、相当消耗も大きいわけだけれど。
……消耗は大きかったけれど、後悔は無い。本当に無い。だって、とてもスピーディーな解決だったし……多分、他にやりようは無かったと思う。
成程、このダンジョン、確かに、攻略が面倒だ。
これで大したお宝も無いなら、本当に誰も来ないのも頷ける。
それでも私はめげずに探索を始めた。
……そして、そんなに苦労するでもなく、1Fから2Fへ上がる為であろう階段を見つけた。
が。
……私はもう少し、色々探索することにした。
最初に感じたのは、『ずいぶんと最初からクライマックスだなあ』ということ。このダンジョンにしては、かなり不相応な戦力配分じゃないかと思う。
……このダンジョン、どう考えてもそんなに稼げてはいないだろうし。
このダンジョンは、人をたくさん招き入れて、その時に得られる魔力とやらで回す『王の迷宮』とは違う。
……だから、このダンジョンがどうやって生活しているか、といえば、可能性は2つ。
1つは、侵入者を殺して、その魂で食いつないでいる可能性。
そしてもう1つは、『金鉱ダンジョン』みたいにダンジョン内で金や魔石を作って、それを売って生活用品を買っている、という可能性。
前者は、多分、無い。
何故なら、本当に『侵入者を殺す』のが目的なら、わざわざ1Fに戦力集中なんてさせないから。
こんな事をしたら、敗北を察知した侵入者達はすぐにダンジョン外へ逃げて行ってしまうだろう。
これじゃあ、人を殺すにいい具合である、とは言えない。だから多分、こっちは無い。
そして後者なら、このダンジョンの主は、塔のてっぺんから地上、そしてアセンスの町まで、頑張って行き来していることになる。
……私なら、近道、作るな。
ということで、私は消耗の回復のための休憩も兼ねて一回塔の外に出て、『抜け道』を探し始めた。
塔の外壁をくまなく探し、塔周辺を4kmぐらいずーっとのんびり探し。
……そして、抜け道が見つからなかった。
私の苦労は一体。
しかし、そうなると本当に、このダンジョンだけでこのダンジョンの主は生きているのか疑問になってくる。
というか、ダンジョンの主は本当にここに居るんだろうか?
……その可能性もあるのか。
別に主(ダンジョンの人間部分を便宜上そうするけれど)がダンジョン(建造物)の外にいちゃいけない、という事はない。現に私がそうだし。
だから、ダンジョンを放り出して、ダンジョンの主がダンジョン外にが居てもいい。
その場合は……2パターンある。
1つは、この塔の主が、私と同じように、複数のダンジョンである、というパターン。
この場合は厄介だけど、同時にチャンスでもある。
芋蔓式に他のダンジョンも手に入る可能性が高いから。
そしてもう1つは、『望まずしてダンジョンに成ってしまった』パターン。
……ダンジョンに成ってしまったけれど、ダンジョンとしての活動をしたくない、という人が居たならば、多分、ダンジョン放り出して外に行ったきり帰ってこないんじゃないかな。
でも、自分自身であるダンジョンを攻略されるのは怖いから、1Fに戦力集中させて、できる限り侵入者を追い払うようにしている、と。
……ありえなくは、ない、かなあ……。
というか、それ以外に、色々と納得がいく説明ができない。
ダンジョンに成ったとはいえ、人間が生活するにはそれ相応のシステムが必要だ。
それが見当たらない以上、それらが巧妙に隠されているか、或いは、そもそもこのダンジョンに主が住んでいない、としか考えられない。
単純にこのダンジョンの主がとんでもないおバカという可能性もあるけれど……。
悩んでいても仕方ないので、とりあえず塔を登り始めた。
勿論、ダンジョンを破壊しながら進むとか、空から侵入するとか、そういう登り方じゃなくて、割と王道な登り方をした。と思う。
つまり、モンスターが居たらできるだけ威圧だけで退かして戦闘を避けられるように努力し(大体無駄に終わったけれど)トラップがあったら怖いので常に《ラスターステップ》に上下左右を挟まれながら歩き(トラップがほとんどなくて大体無駄に終わったけれど)なんとなく勘で隠し扉を見つけては積極的にショートカットして(3Fから一気に10Fまでいけた。らくちん。)順調に進んでいった。
うん。王道。
……そして結局、そんなに苦労せずにダンジョンの10Fに辿り着いた。
最上階である。
紛うことなき最上階なのだけれど……何も、無かった。
ここまでも何も無かったけれど、本当に何も無かった。お宝1つ無かった。すごい。ある意味凄い。本当に骨折り損のくたびれ儲け……いや、複雑骨折貧血打撲栄養失調かつ利益無し、みたいな、そういう疲労感がある。ひどい。
成程、このダンジョンの作り丸ごとが、1つのトラップなのか。
侵入者の気力を奪い、疲労感でいっぱいにする、という。
……まあ、それはさておき。
最上階をくまなく探したのだけれど、あるはずのものが無かった。
そう。玉座の部屋が、無かった。
ダンジョンの主が居ないのは分かる。別に、ここに居なくてもいいんだから、分かる。
でも、玉座の部屋は、無いといけないと思う。
ということで、ショートカットしてしまった階層も含めて、もう一度全て探索しつくした。
が、何も無かった。
マップも書いて、徹底的に探索したのだけれど無かった。
その工程で塔の全てのモンスターが逃げて戦意を喪失して隅っこでぶるぶる震えるか、死体になるかのどちらかになったのだけれど、やっぱり何も無かった。
……ふむ。
じゃあ、地下か。
1Fをもう一度、マップと照らし合わせながら探索した。
すると、奥まった一角の壁が一部、破壊可能であることが分かった。
そして、その壁を破壊すると、その奥には下り階段があったのである。
……すごい。これはすごい。
ダンジョン内のものは基本的に破壊不能だ。ガラスだって砕けない。
けれど、破壊可能に設定することもできる。
……このように、一部分だけを設定することもできるらしい。多分、そのためのコストが結構するのだろうけれど。
うん。機会があったらこの技、使ってみよう。
下り階段を下りてすぐ、モンスターが待ち構えていた。
ホロウシャドウ……ではないのかな。影なんだけれど、ムツキ君みたいに『影の中に入っている』んじゃなくて、『影が立体化したかんじ』のモンスター。
シルエットだけだけれど、錫杖みたいなものを持っている。
多分、魔法を使うのが上手くて、かつ、実体が無い分、物理に強いかんじのモンスターだ。
……ならこちらの初手は決まったようなものだ。
私はリッチが杖を構えるより速く、魔法を使った。
《フレイムピラー》で、とりあえず相手の動きを止めつつダメージを入れよう、というつもりで。
……しかし、私の魔法は、発動しなかった。
「……あれっ」
まるで、自分の精神を緩く縛られているような、そんな奇妙な感覚に驚く間もなく……モンスターの魔法が私に迫っていた。
が、無事。
ガイ君が私の体ごと後方に動いて距離をとり、ホークとピジョンが動いて、敵の闇魔法を切り裂き……リリーの放った霧と、ムツキ君の放った火柱と、ボレアスが放った風の刃が、そのまま飛んでいった。
どうやら、魔法を使えなくなったのは私だけだった模様。
慌てる相手に気遣ってやる必要もない。私はガイ君を引っ張るぐらいの勢いで走って、ホークとピジョンを構えて、そして……影を斬り裂いた。
そこへ、リリーやボレアスやムツキ君が魔法をしこたま叩き込み、無事、影は消えた。
勝った。
「なんだったんだろう」
戦闘が終わっても、私は魔法を使えなかった。しかし、リリー他、モンスター達は使えているらしい。
なんだろう。まるで、私だけ魔法を封じられているような……。
……あ。
そういえば、『王の迷宮』さんが、言ってた気がするな。
『静かなる塔』は魔封じの能力だ、って。
……もしかして、それなのか。
そう考えれば、色々と納得がいく。
魔法を使う、かつ、空を飛んだり、実体が無かったりして物理的な攻撃に強いモンスター。
そういうモンスターばかりなのは、『魔封じ』の力をより有効に使うため、なんだろう。
種が見えてくれば、警戒もしやすい。
その先へ進むにも、そんなに苦労せずに済んだ。
やっぱり、『王の迷宮』さんとお話しておいてよかった。
そうして進んだ先にあったものは、私の想像をかなり超えた代物だった。
「ひ、人だ!」
「冒険者か!?」
「助けが来たの……?」
……そこは、広い広い草地。
空を模した高い天井。風も光もあり、畑が耕されていて、更には家も建っている。すごいなあ。
……このダンジョン、地下で人間を飼ってるらしい。




