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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
7/135

7話

 しばらく待っていたけれど、侵入者は特に来なかった。

 仕方がないから畑の世話や馬の世話をして、リビングアーマーに不寝番を頼んで(そもそもリビングアーマーに睡眠が必要かは分からないけれど)、私は少し眠ることにした。

 しばらくぶりの睡眠のような気もするし、そうでも無い気もする。

 しかし、睡魔は案外早く訪れたのだった。




 特に夢も見ず、しっかりがっつり眠って起きた。おはようございます。

 玉座から身を起こすと、リビングアーマーがこちらに体(というか鎧)を向けた。

「おはよう。侵入者は無いみたいだね」

 多分、私の睡眠中に侵入者があったら、ダンジョンとしての私が気づいて起きられるとは思うのだけれど、どうにも不安はぬぐえなかった。

 下手したら寝ている間に永眠してしまうかもしれないし。

 ……こういう意味でも、やっぱりリビングアーマーを作って良かった。

 ワンオペだったらおちおち眠れもしなかっただろうから。




 さて、起きたら馬の世話をしに行く。

 とは言っても、馬の体の汚れを『還元』してやるぐらいだ。ご飯は勝手に食べてるみたいだし。

 それから畑の世話を……しようとして、驚いた。

「流石にこれはすくすく過ぎ」

 眠る前に撒いた種がもう芽吹いて、双葉どころか本葉まで生えている。

 これがダンジョンか。つくづく恐ろしい奴よ。

 元気にすくすく育ちすぎて怖い野菜に水を撒いたら、侵入者が来るまでにやれる雑務を終わらせておこう。




 最初に、服。

 魂1ポイント分を使って裂いた裾を元に戻す。

 これでてるてるワンピースはとりあえず元通りだ。

 いつまでも裂けた裾の服を着ているのは落ち着かないからね。


 次に、薬。

 薬草がこれで5つになったので、試しに合成して『傷薬』にしてみた。

『薬草』よりは即効性があるみたいだから、作っておいて損は無いと思う。

 今後、私がお世話にならないとも限らないし。

 ついでに、最初の侵入者3人組の着ていた服を裂いて包帯を作っておいた。私がお世話にならないとも限らないし!


 それから、お金の整理。

 最初の侵入者から手に入れた銅貨と鉄貨に今回の剣士が持っていた分を足して、銀貨1枚、銅貨6枚、鉄貨4枚になった。

 ……ダンジョンに居っぱなしだとお金を使う機会も無いけれど、今後どうなるか分からないから、大事に保管しておこう。


 さらに続いて、装備の選定。

 剣士が身に付けていた手袋とブーツは最初の侵入者3人組の物より丈夫で使いやすそうだったので、こっちに交換。

 更に、武器。

 今までてるてる坊主さんのナイフを使っていたんだけれど、如何せん、刃渡りがそんなにない。

 刃渡り16cm、というところか。

 しかし、剣士が持っていた短剣は刃渡り24cm程度。柄まで合わせれば肘から指先ぐらいまでの長さがあって、中々頼りがいがある。

 ……スコップのリーチには敵わないけれど、とりあえず、この短剣もサブウエポンとして装備しておこう。

 剣士が使っていたベルトを腰に巻いて、そこに短剣を固定する。

 てるてる坊主さんのナイフは、適当な布帯で太腿の邪魔にならない位置に固定。

 武器がいっぱいあるとなんだか心強くていい。

 尤も、今後もしばらく、メインウエポンはスコップのままだろうけれど……。




 やることも終わってしまったので、草地の部屋で乗馬の練習を始めた。

 草地の部屋をのんびり馬に乗って動き回るのはなんだか少し楽しい。

 草地の部屋は36畳ぐらいの面積だけれど、もう少し広くできたらもう少し楽しいかもしれない。今のところその予定は無いけれど。


『侵入者3名』

 そして、馬に乗っていたら侵入者がやってきた。

 侵入者を喜ぶ余裕ができたのだから、最初と比べて大分成長したんだなあ、と思う。

 さて、リビングアーマー君と一緒に頑張ってこよう。




 +++++++++



「では、俺は奥の様子を見てきます。お2人はここで待っていてください」

「よろしくお願いします、ゲルムさん」

「気を付けてよ、ゲルム」

 ダンジョンに入ってすぐの部屋で、私達とゲルムさんは分かれた。


 私とファナは、森へ薬草を摘みに来た。

 いつもと違う場所へ行ってみようか、なんて話をしながら、少し奥の方まで。

 ……そして、そこでダンジョンを見つけてしまったのだ。

 多分、最近になってからできたか、最近になってから復活したダンジョンなんだと思う。ここしばらく、この辺りは平和だったもの。

 私達は運よく近くにいたゲルムさん……村の護衛役をしてくれている人にダンジョンの事を伝えて、一緒にダンジョンまでやってきた。

 ダンジョンからはモンスターが湧き出てくることがある。

 そうなったら、森の近くにある私達の村は、きっと被害を受けてしまう。

 だから、ダンジョンは見つけ次第、攻略して魔物の増加を防がなきゃいけない。

 ダンジョンは大抵、そのダンジョンに眠る宝物を持ち出すか、内部の強いモンスターを倒せば、その機能を停止する。

 ゲルムさんはその『ダンジョン攻略』のため、1人でダンジョンの中へ入っていった。

 ゲルムさんは強い人だけれど……それでも、少し心配だわ。


「なーに心配そうな顔してんのよ、エクレ」

「だって、ファナ。ここはダンジョンよ?凶悪なモンスターが居たっておかしくないのよ?」

 でも、ファナはあんまり心配していないみたい。

「ゲルムは強いじゃない。大丈夫よ。この間、村の近くに出たアーマードアントを一撃で倒したの、覚えてないの?」

 ……そうね。ゲルムさんはとても強い人。

 私なんかじゃ持ち上げることすらできないような両手剣を振って、豪快に魔物を倒していく姿はとても力強くて、凛々しくて、なんだかとても眩しくて、格好良くて……あ、その、違くて、その、とにかく、とても頼りがいのある人なんだけれど……。

「それに、ダンジョンって言ったって、魔物が碌に居なくてお宝だけあるダンジョンだってあるっていうじゃない?今回もそれかもしれないわよ?ふふふ、お宝が見つかったら山分けかしら。そうだったら、こんな風にみみっちく薬草詰みなんてしなくてもよくなるかも!」

 うきうきとしているファナを見て、私は少しため息を吐いた。

 どうしてこんなに楽天的でいられるのかしら。ファナの楽天的な考え方は羨ましくもあるけれど……。

 ゲルムさんが心配だわ。


 長いような短いような時間、ダンジョンの入り口近くで待っていた。

 けれど、ゲルムさんは戻ってこない。

「どうしましょう、ファナ。もしかして、ゲルムさんに何かあったんじゃ」

「エクレは心配性ね。大丈夫よ、もう少し待ってればゲルムも戻ってくるわ」

 私がどんどん焦る一方、ファナはあんまり心配していないみたい。

 ……そうよね。あんまり心配しすぎても、仕方ないわよね。

 そう思って、落ち着こうとした時だった。

「すみませーん!エクレさん!ファナさん!いらっしゃいますか!」

 部屋の奥の扉が開いて、1人の女性が出てきた。




「え……あ、あんた、誰よ」

 流石にファナも驚いている。

 だって、このダンジョンに人が居るなんて思わないもの。

「あ、あの、私は怪しいものじゃありません。ただ、奥でトラップに掛かってしまった方が、お怪我を。でも、私、薬草の類を使い切ってしまっていて……そうしたら、入り口近くにいるエクレさんとファナさんという女性が薬草を持っているだろうから、呼んできてくれ、と」

 ……ゲルムさんが、お怪我を。

「大変……!行きましょう、ファナ!」

「え、ちょ、ちょっと、大丈夫なの?ゲルムが引っかかるようなトラップがあるなら、私達なんてお手上げよ!?」

 早速動きかけた私を、ファナが掴んで止めた。

 でも、ゲルムさんが。

「あ、大丈夫です。道中のトラップは私が全部、身を挺して解除しましたので!」

 ……けれど、女性の言葉に嘘は無さそう。

 だって、この女性、あちこち包帯が巻いてあるんだもの……。

『薬草を使い切った』って言ってたし、きっと、道行くすべてのトラップに引っかかったのね……。

「それに、ゲルムさんが通った道ならきっと大丈夫だわ。行きましょう、ファナ!」

「ええー……んもう、しょうがないなあ……ま、私達の名前も知ってたし、薬草持ってることも知ってたみたいだし、信頼はできる、かあ」

 こっちです、と案内してくれる女性に先導されて、私達はダンジョンの奥へ入っていった。




「この部屋です!」

 そして、3番目の部屋に入ってすぐ、女性が場所をあけてくれたから、すぐに部屋の真ん中へ駆け寄る。

 そこに落とし穴と、落とし穴に嵌ったままのゲルムさんの姿が少し見えたから。

「ゲルムさん!今、薬草を……」

 屈んで、落とし穴を覗き込んで、ゲルムさんの怪我の具合を見ようとして……私は、見てしまった。

 光の無い目。

 入り口からは影になって見えなかった部分は、血で真っ赤に汚れていた。

 落とし穴の中には血が溜まっていて、さらに、その中に、腕が、落ちてる。

「エクレ、危ない!」

 ファナの声に振り向いた時、私が見たのは、黒い盾。

 そして、鋭い剣の切っ先だった。



 +++++++++




「リビングアーマー君、お疲れ様。いえーい」

 いえーい、と言いながら両手を出せば、リビングアーマーはおろおろしたように身じろぎするばかりだった。

 なのでハイタッチの何たるかを教えてあげた。

 説明すれば大体分かったらしく、剣を納めて、盾は腕につけたまま手だけ離して、『いえーい』の如く両手を出してくれた。

 なので改めてハイタッチ。

 今回の戦いはとてもスムーズにいきました、拍手。


 今回は相手が勝手に分断されてくれたから、とても楽だった。

 ……とは言っても、両手剣を使う戦士は中々の強敵だったけれど。

 多分、前回の剣士さんよりも強かったんじゃないだろうか。

 が、強化されたリビングアーマー君と私の演技の敵では無かった。

 私は最初、リビングアーマーに襲われている演技をしていたのだ。

 両手剣の戦士さんは、壁際に追い詰められている私と、追いつめているリビングアーマーの間に割って入って、リビングアーマーと戦い始めた。

 ……けれど、演技なんて要らなかったかもしれない。

 だって、リビングアーマー君はとても強かったのだ。

 装備抜きでも召喚に4000ポイント分の魂を使うというだけのことはある。戦いの技術が、とても高いように見えた。

 大ぶりな両手剣の攻撃を盾で弾き、剣を繰り出す。或いは、剣で受け止めて盾で押す。

 ……こんな戦い方1つとっても、リビングアーマー君は中々に立派だった。

 だって、両手剣の戦士さんは私を背に庇いながら、じりじりと追い詰められていったのだから。

 流石、Lv4になっただけのことはあるし、盾を与えただけのこともあった。リビングアーマー君、あっぱれである。

 ……が、今回、とどめを刺したのは私だ。

 簡単なことだった。

 リビングアーマー君に完璧に集中している戦士を背後から《一点突破》でぶっすりやるだけの簡単なお仕事。

 それとほぼ同時にリビングアーマー君が戦士の腕を切断したけれど、とどめは私だから経験値は私に入った模様。


 それから、両手剣の戦士さんの死体を落とし穴に入れて、パッと見で死んでいるように見えないようにして、床に零れた血は回収して……。

 そして、後は『あなた達の仲間が怪我をしたので薬草プリーズ』という内容の演技で入り口付近にいた女性2人を3番目の部屋まで連れてきて、私とリビングアーマー君で1人ずつ始末してゲームセット。

 ダンジョンとしての私に耳に2人の会話が聞こえていたから、女性2人の名前は分かっていたし、女性2人が薬草を摘んでいたことも分かっていたから、とてもリアリティのある演技ができたと思う。

 小道具に使った包帯も相手の警戒心を解くのに役立ったみたいだし。

 前回や前々回と比べれば、かなりスムーズな進行だった。

 この調子でこれからもいきたいところだ。




 さて、今回のリザルトに移ろう。

 今回手に入った魂は、なんと、7150ポイント分。

 女性2人は最低ラインである1000ギリギリぐらいだったのだけれど、如何せん、両手剣の戦士さんが強かった。

 1人で5000ポイントを超える大物だったのだ。

 ああ、魂がポイント換算されると改めて、相手の強敵具合が分かるし、それをスムーズに倒せた私達の成長具合も分かる。

 どことなく、達成感!


 それから、手に入った道具。

 毎度のお約束の如く、死体が3つ。ただし、腕と血が別回収になってるけれど。

 そして、立派な両手剣が1本。

 鋼の胸当てが1つ。

 ガントレットが1組。

 それから服や下着やブーツやそういったものが3人分。

 薬草いっぱい。

 薬草が入っていた籠2つ。

 髪留めが1つ。

 革紐に飾り石を編み込んだブレスレットが1つ。


 そして、私とリビングアーマー君には経験値が入った。

 おかげで私はLv5になったし、リビングアーマー君もLv5になった。

 ……あれっ、剣士さんを倒した時にリビングアーマー君が一気にLv4になったから、てっきり、私も一気に4ぐらい上がるものだと思ったのだけれど……。

 Lvが高くなるほど、レベルアップにたくさんの経験値が必要、っていう事なのか、それとも、単に私はレベルが上がりにくいのか。

 ……前者は分からないけれど、後者は間違いない気がする。


 それから、両手剣の戦士さんから《一刀両断》なるスキルを手に入れた。

 大ぶりで隙の大きい攻撃を放つようなスキルの模様。ただし、その分破壊力満点。

 ……迷ったけれど、これも私が習得することにした。

 不意打ちなら、隙が大きくても問題ないことも多い。

 リビングアーマー君はスキルが無くてもそこそこ強いから、ここは私の強化に充てさせてもらおう。

 リビングアーマー君の強化の手段は結構あるけれど、私の強化は難しいから、私は強化できるところで積極的に強化していきたい。




 さて。

 今回手に入れた魂7150ポイント分と、持ち越した2970ポイント分。

 合わせて10120ポイント分!

 これを使って、このダンジョンを大規模改造しよう。


 ……多分、さっきの侵入者達は、どこかの村の村人だったらしい。

 なら、3人の行方を探すため、これから侵入者が増加するだろう。

 それを見越して、ダンジョンを強化しておかなければ。


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