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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
魔銀の道とグランデム城
67/135

67話

 思えば、私だって最初からダンジョンだったわけじゃない。

 ……私自身のことなのに今一つ分からないこともあるけれど、多分、私がたまたま、あの最初のダンジョンに到着して、そこで、あのダンジョンでたまたまてるてる坊主さんが死んで、それで、そこに居た私がたまたま、あのダンジョンに成ったのだ。

 つまり、私が来る前から、あそこにはダンジョンがあった。

 ……ダンジョンって、何だろうね。

 誰が作ったんだろう。

 あったんだから、最初に誰かが作るなり、自然にできるなりしたはずなんだけれど……。

「ねえ、レイル君。君はダンジョンに成った時、その……君が成る前のダンジョン、が、どういう所だったか、知ってる?あるいは、その前。ずっと前……そのダンジョンが、『誰でもない』ダンジョンだった事、って、あったのかな」

「……は?」

 一応、レイル君は『金鉱ダンジョン』に元々居た誰か……つまり、先代、にあたる誰かを知っている訳だ。話しぶりからして、その誰かを殺して、レイル君が今の金鉱ダンジョンに成ったみたいだし。

「ダンジョンって、なんだろうね」

 半分独り言みたいになってしまったのだけれど、マジックミラーの向こう側では、レイル君自身、案外真面目に考えているようだった。

「もしかして、何か知ってる?」

「……いや、何も」

 けれど、それを教えてくれる気には、ならないらしい。




 それから少し色々話をしてみたのだけれど、レイル君は今一つ、こちらに協力的じゃなかった。当然か。

 多分、割とプライドが高いんだろうね。それ自体は悪いことじゃないと思う。

 ……悪いことじゃないんだけれど、そのせいで困ってはいる。

 これから『あのゴーレムの魔法陣って何?』とか、『各ダンジョンが持つ特殊能力みたいな奴、君も持ってる?』とか、『精霊ってどこにいる?』とか、『悪魔召喚の方法ってマイナーなの?』とか……そういう事を聞きたいのだけれど、素直に聞いても答えてくれないだろう。

 下手に聞いて、嘘を吐かれても困る。

 捕まえてミノムシにしてる時点で、好感度は最低値だろうし、これから仲良くなって教えてもらうのはちょっと難しいのかもしれない。




 ……ところで、『語るに落ちる』と、いう言葉がある。

 いくら尋問しても相手が答えない時、相手に色々と喋らせるように仕向けて、その中でするっと大事なことを言ってしまうようにしろ、という……そういうような意味だったと思う。

 実際、これはある程度有効だと思う。

 ネット上のやさぐれた人達には『教えて下さいお願いします』と素直に頼むよりは、間違った知識を並べ立てた方が、間違った知識への反論や批判が殺到して必要な情報をすぐ集められる、みたいなのもあったし。

 ……うん。それでいこう。

 万一、私の当てずっぽうが当たってしまったら、その時はその時で、『こいつ分かってる』と思わせることができるんだし、まあ、気楽にいこう。気楽に。




「あの金のゴーレムの胸、魔法陣があったよね」

 レイル君は答えない。

「あの魔法陣でゴーレムを強化してたのかな。そうじゃないと、金のゴーレムなんて、柔らかくて戦闘には向かないもんね」

 相変わらず、レイル君は答えてくれない。

 まあいいや。続ける。

「……あの魔法陣、どこかで見た覚えがあるんだよね」

 レイル君が、少し反応した。

 おやっ。ここで反応されるという事は……『知られたらまずい場所で実際に魔法陣が使われている』のかな。

 それとも、そういう組織にレイル君自身が居るのか。

 うーん、そう言えば、レイル君の後ろに誰かが居る、という可能性を全然考えてなかった。これはまずかったかな。

 ……考えても仕方ないし、私の目標は『間違った事を相手の神経を逆なでするように並べたてる』事だから、続けよう。

「多分、町で見たんだと思う。誰かが使ってて、実際に目の前で」

「そんなはずは」

 ここでレイル君が口を挟んだけれど、ここは『間違った事』を言うために、押す。

「見た。鉄の板に魔法陣を刻んで、丈夫な鍋にしてた。それから、本にも載ってたと思う。紙に書いてるところを見た。紙を保護する目的で」

「そんなはずはない!」

 ……そして、レイル君、ここで反論。

「でも」

「鉄の板なんかで発動できる魔法じゃない事ぐらいみて分かるだろう!大体、あれは禁書にあった古い魔法を復刻したものだ!そう街角で見るようなものじゃない!」

 ……これで、分かった事がある。

 1つに、レイル君は多分、魔法に詳しい。

 そしてもう1つ。多分、あの魔法陣は、レイル君のオリジナルか、オリジナルでなくても、強いこだわりがあるもの。


「でも私は多分、鉄の板であの魔法陣が使われてるのを見てる。そこかしこで見た。君こそ何か勘違いしているんじゃないの?それに、君が禁書なんて読めるとは思えないんだけれど」

 もうちょっと聞きたかったから、もうちょっと煽る。

「鉄の板であの魔法陣がどの程度動くかも分からない奴とは違うんだよ。俺はこれでもエピテミア魔道学校を史上最高成績で卒業したんだぞ?禁書ぐらい、幾らでも読める!それから、あの魔法陣を復刻したのは俺だ。他の奴が使えるわけがないんだよ!」

 おおー。頂きました。

 やっぱりあの魔法陣、オリジナルなのか。

 そして、レイル君は、エピテミア魔道学校を卒業している、と。

 ということは、魔法が得意なんだろうね。だからこそ、物理的な戦闘力を上げるためにああいう鎧を着ていたんだろうけれど。




 それから同じ要領で話を続けて、『悪魔召喚の魔法って知ってる?』とか、そういう質問をぶつけてみた。

 結局、レイル君はどっちも知らない……というか、『おとぎ話なんて信じてない』というスタンスだった。

 やっぱり一般的には知られてないらしい。


 さらに、『精霊の効率のいい殺し方って知ってる?』と聞いてみて、『俺は人工精霊の作り方を知ってる』と自慢された。

 ヴメノスの魔導書にもそんなかんじのやつ、載ってた気がする。


 そして更に、『選ばれたダンジョンはそれぞれ特殊能力を持っているのだ』と自慢してみて、『それぐらい俺にもある』と反論されて、更につついて『金を操る能力』を持っていると教えてもらった。

 ちなみに、レイル君は他のダンジョンの事はあまり知らないらしく、結局、私が持っているはずの特殊能力みたいなものについては何の手がかりも得られなかった。




 ……ということで、散々色々聞きだすことに成功した。

 レイル君はレイル君で、私を言い負かしてすっきりしたらしい。なんだかすっきりした顔してる気がする。

 やっぱり尖がりたいお年頃でプライドが高い人にはこうやってお話してもらうに限る。




 さて。

 色々と話してもらったけれど、最後にもう1つ。

 最初の内に聞きだせなかったままになっている、『ダンジョンって何だろう』という問い。

 ……これは、多分、煽り合いじゃ教えてもらえないだろうな、と思ったから、私もマジックミラーの部屋の中に入ることにした。

「お邪魔します」

「……なっ……」

 私を見て、レイル君は驚いた様子だったけれど、まあ、仕方ない。

 できる限り相手が話しやすい環境にしたいし。

「姿を見せるのは初めまして」

「な、なんで出てきた」

「こっちの方がお話しやすいかと思って」

 私が出てきたことでプレッシャーになったのかな、レイル君はそわそわというか、落ち着かなげというか、そういうかんじに視線を彷徨わせている。

 相手が動揺しているなら、やりやすいよね。

 さて、相手の動揺を誘ったところで、早速話し始めよう。


「もう分かってるかもしれないけれど」

 そう切り出せば、レイル君は『分かっているふり』をせざるを得ない。

「私は、ダンジョンに成る前の記憶が無くて、困ってる」

 ……例え、結構突拍子もない事を言われたとしても。

 記憶喪失。

 この世で最も都合のいい、つじつま合わせの言い訳だと思う。




「だから、ダンジョンというもの自体をよく分かってない」

「……それは」

「駄目元で聞くけれど、もし、『ダンジョンって何か』、『誰が最初にダンジョンを作ったのか』、知っていたら教えて欲しい」

 姿を見せた事によるプレッシャーと、突拍子もない言い訳と、突然の『お願い』。

 これらの要素は、元々動揺していたレイル君に問題なく通ったらしい。

 しばらく、レイル君は考え込んだ。


「……一説によると」

 そして遂に、レイル君は口を開く。

「ダンジョン、というものは、遠い昔、この世界を創り給うた神と争った邪神の……最後の抵抗、だったらしい」




「……へー、邪神。へー……」

 思わず感嘆の声を漏らしたけれど、それをレイル君は別の意味に受け取ったらしい。

「はっ。俺だってそんなおとぎ話信じちゃいないさ」

 まあ、これがおとぎ話かどうかはさておき。

「よくそんなこと知ってるね」

 どこで、そんな『一説』を知ったのかは、気になる所。

 素直に賞賛するつもりでそう言ってみれば、レイル君はさっきの私の台詞が嘲笑ではなく感嘆だったと思い当たったらしい。

「……エピテミア魔道学校を史上最高成績は伊達じゃないんだよ」

 自慢げである。

「ああ、禁書、読めるって言ってたね。学校で読んだの?」

 そして、褒められれば悪い気はしなかったらしい。レイル君はとても親切に教えてくれた。

「いや、マリスフォールの遺跡にそんな内容の壁画があったのを覚えていただけだ」

「マリスフォールの遺跡?」

「テオスアーレ……は滅びたか、まあいいや。まあ、テオスアーレとセイクリアナの間あたりだ」

 ……ふーん、そっか。

 ちょっとそれは気になる、かもしれない。

 よし、決めた。

 次に滅ぼすのは、セイクリアナにしよう。




 それから少し迷ったのだけれど、レイル君としばらく色々な話をした後、レイル君を殺した。

 情報は惜しいけれど、私の情報が漏れる危険性と、金鉱ダンジョンが手に入るメリットを考えれば、まあ、そうなる。安全策でいこう。

 ちなみに、レイル君1人で1923020ポイント分の魂が得られた。割と儲かった。




 今日はなんだか疲れてしまった。

 もう寝て、明日、セイクリアナを滅ぼす計画を立てよう。

 あ、その前に、金鉱ダンジョンを貰いにも行かなきゃいけない。

 ……また忙しくなる気がする。


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客人に雑談ついでにお茶出す感覚で魂貰ってて草
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