65話
『魔銀の道』を、戦場用に広くエリアをとっておいたのが功を奏した。
金ぴかのゴーレムとその一団は、洞窟に入る手前で一度集合してから洞窟内に侵入するつもりらしく、少し時間が稼げた。
……元々、この『魔銀の道』は、侵入者を殺すために作っていない。
戦争の際の『戦場』としての、人間同士の殺し合いの場としてのダンジョンだったのだから、当然なのだけれど。
だからこそ、今回の侵入者達をどうするかが問題だった。
……金ぴかのゴーレムの中に、一際、不思議なゴーレムが居る。
金の鎧みたいな。
「よし、お前達は先に行け。罠に気をつけろよ。それからミスリルの魔物……ミスリルのリビングアーマーとか、ゴーレムとか、そういうのが出てくるだろうからな。そういうのが出てきたら無理せず退いて、いつもの陣形になれ」
そしてそのゴーレムはそう言うと、他の金ぴかゴーレム達に隊列を整えさせ、洞窟内へと侵入を始める。
……多分、あのゴーレムというか鎧、中になんか入ってると思う。
具体的には、人。
モンスターを率いた人。
当然、最初に思い当たるべきは、『魔物使い』なんだろう。一応、そういう人が居るっぽい、という事は分かってる。
……が、私は今回、その線より先に警戒するものがあると思う。
『ダンジョン』。私と同業の人。
そのパターンだった時が一番厄介だし、一番警戒すべきだし……今、一番その線が濃いよな、とも思う。
何故、と言われれば、勘、としか答えられない。
しかし、モンスターとの意思疎通の具合や、警戒しているポイント、ここまで見た目に揃ったモンスターの大軍……。
……そして何より、グランデム領内には『金が採れるダンジョン』があるって、聞いたことがあるから。
憶測に憶測を重ねた推理だけれど、あながち間違っても居ないんじゃないかな。
だとすれば、この人達の目的は、何だろう。
商売敵を潰す事?それとも……和平、とは思いにくいもんね。うん。
どっちにしろ、このモンスターの大軍を警戒しない理由にはならないのだし、限られた時間の中で迎撃の準備はしておこう。
まず、トラップを一通り仕掛けた。
いつも通り。私が戦うに便利そうなもの……ギロチンだとか、落とし穴だとか、跳ね上がる床だとか、伸びあがる床だとか、そういう奴。
ついでに、階層に分けて作った都合で坂道がある事を利用して、転がる鉄球リターンズ。
ミスリルのゴーレム達にも警戒態勢を敷いてもらって、それから、念のため、ミスリル製造施設は『*かべのなかにいる*』状態にした。つまり、壁の中に埋めた。
ダンジョンの壁はダンジョン自身にしか壊せないようにできるから、これで実質、隠蔽完了。
それから一応念のため……もし、相手が穏便な対応を求めていた場合のため、ミスリルのゴーレムの内1体に『歓迎!金鉱のダンジョンの御一行様!』と書いたプラカードを持たせた。
……多分、使わない。
それから……グランデムの宝物庫とテオスアーレの宝物庫の中身を使って、新しくゴーレムを数体、製造しておいた。
+++++++++
ある日、シュタールの町に買い出しに行ったら、恐ろしい情報が耳に入ってきた。
『ミスリルを産出する鉱山ダンジョンができた』と。
情報をもたらしたのは、テオスアーレから逃げてきた冒険者達。
テオスアーレは冒険者を募ってグランデムからの侵攻を退けようとしていたらしいが、馬鹿な奴以外は全員もうとっくに逃げてる。
テオスアーレの都市エピテミアに逃げる奴も居たが……もうちょっと足を延ばして山脈をぐるりと少々回ればもうグランデムの都市クレイガルだ。
だから、冒険者達はクレイガルや、その近隣の都市に逃げてきた奴が多い。
そして、クレイガルからシュタールまでもそう遠くないし、シュタールの近くには俺の『金鉱』があるから、冒険者達はこぞってこっちに逃げてきたわけだ。
おかげで俺のダンジョンは潤ったが……そこで、『ミスリルを産出するダンジョン』についての話題が出たわけだ。
どうも、テオスアーレとグランデムの国境の山脈にできた洞窟らしい。
そこで採れたミスリルがテオスアーレの兵士達の装備になったらしく、ミスリルを実際に見た奴も多く居た。ミスリルが採れるのは確かな話なんだろう。
……冒険者達、また、シュタールの出稼ぎ鉱夫達も、金よりミスリルに心惹かれている様子で、噂が広まるにつれて『そのミスリルの坑道とやらに行ってみよう』と誘い合う姿もちらほら見られるようになっていった。
そして実際、『金鉱』に来る人間の数は減っていった。
俺は、『ミスリルを産出する鉱山ダンジョン』の情報をできるだけ集めた。
……とは言っても、テオスアーレとグランデムの国境にできた洞窟で、山脈を貫いてトンネルのようになっている、というぐらいしか情報は得られなかった。
つまり、ミスリル鉱山のダンジョンに行ってから戻ってきている人間が居ないのだ。
……普通に考えて、つまりそれは、余程ミスリル鉱山ダンジョンの居心地がいい、という事になる。
まずい。
このままではまずい。
俺のダンジョンは、人間が多く出入りして、長くとどまり、時々『落盤事故』で死ぬことによって収益を黒字にしているダンジョンだ。
人がダンジョン内に留まったり、魔法を多く使ったりすることによって、ダンジョン内で『金鋼窟』から金が育ち、それを採りに人間が来て、時々、金を俺自身が回収しては町に売りに行って、そこで食料や日用品を買って……とやって、循環しているダンジョンだ。
それが、人間がもし来なくなってしまったら、当然だが俺も生活していけない。
……俺は、決意した。
『ミスリルを産出する鉱山ダンジョン』とやらができたせいで、俺の『金鉱』に人間が来なくなったというなら。
その『ミスリルを産出する鉱山ダンジョン』とやらを潰してやろう、と。
そうして、今に至る。
俺はすぐ、ありったけの金を回収して、ゴーレム兵を作った。
金は魔法と相性がいい。魔法陣を組みこんで作れば、それだけで鋼にも負けない強度のゴーレムができる。
それだけじゃない。魔法と相性のいいゴールドゴーレムは、それ自身が魔法を使う事もできる。
ミスリル鉱山のダンジョンがどんなダンジョンかは知らないが、多くの魔法を使うゴーレム達が居れば、そうそう負けないだろうと予想できた。
そして俺自身も、ゴーレムに似せた金の鎧で武装する。
魔法陣を組み込んで軽量化・強化した渾身の作。物理にも魔法にも耐える最高の防具だ。
……後は、俺自身が習得した魔法をもってすれば、ダンジョン攻略ぐらいなんとでもなるだろう。
この『金鉱』の時みたいに。
……エピテミア魔道学校を史上最高成績で卒業した実力を見せてやる。
そうして今、ようやく噂のダンジョンに到達した。
ゴールドゴーレムは重いから、数が多いと馬車で運ぶこともできない。
仕方がないから歩いてきたが、歩くとゴーレムは遅い。
……結局、そこそこ長い時間を掛けての到着になってしまった。
だが、勝負はここからだ。
「進軍開始!」
俺の命令を聞いて、ゴールドゴーレム達は洞窟の中へと進んでいった。
「……何もないな」
だが、予想していたより、このダンジョンは危険の少ないダンジョンだったらしい。
一本道のダンジョンは、本当にただ山脈を貫いて道を作っただけのようにも見える。
……もしかして、このダンジョンはテオスアーレ王家がグランデムへの奇襲のために作ったダンジョン、なんだろうか。
あり得ない話じゃない。テオスアーレには『王の迷宮』があったのだし、王家とダンジョンが裏で繋がっている可能性だって十分にあったはずだ。
……だが、なんにせよ、このダンジョンが拍子抜けだったことに変わりはないな。
こんなに大量の兵力を持ってくる必要は無かったかもしれない。
そう、嘆息した時だった。
ぞわり、と、嫌な予感が背筋を通り抜けていった。
「っ、《オブシディアンウォール》!」
咄嗟に魔法を展開して天井にすると、上から落ちてきた何かがぶつかって、ガキン、と、硬く鋭い音を立てた。
立て続けに嫌な予感がしてその場から離脱すると、床から剣山が飛び出した。
突如、次々と作動していく罠を見て、また、そこかしこから突如として現れたミスリルのゴーレム達を見て……さっきの予想が誤りだったことを知る。
「……面白いじゃないか」
だが、これでいい。
これでこそいい。
こうでなきゃ、潰し甲斐が無い!
「《フリーズ》!《オブシディアンウォール》!」
最初に、床も壁も天井も、凍り付かせた。
それから、それらを全て黒曜石の壁で覆い直す。
敵のミスリルゴーレム兵達は次々と奥からやってきては、黒曜石の部屋の中、じっとこちらに襲い掛かるタイミングを計って、じりじりと距離を詰めてきている。
……そして、その均衡を破ったのは俺だった。
「ゴールドゴーレム部隊!整列しろ!」
声を掛けるや否や、俺のゴーレム達が動く。
予め正確に決めてあった通り、狂い無く。
動き始めたゴールドゴーレム達に向かって、ミスリルゴーレム達が襲い掛かり、そして俺は……渾身の一撃を放つ。
「《アンリミテッドレイ》!」
杖を内蔵した鎧の右手から放たれた光線は、ゴールドゴーレムにぶつかり、反射し、次のゴーレムにぶつかり、反射し……と、繰り返していく。
特製の魔法陣を施したゴールドゴーレムの胸部は、ぶつかった魔法を増強して跳ね返す。
僅か1秒にも満たない間に、俺の魔法は何倍、何十倍にも増強され……そして、ミスリルゴーレムを一掃すべく放たれた。
……はずだった。
きらり、と光って魔法は見当違いの方向へ飛んでいった。
「なっ」
それだけではない。
突如、俺の周りに居たゴールドゴーレム達が動き出すと、俺に向かって、その拳を振り上げたのだった。
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鉄球ゴロゴロリターンズの出番は無かったし、トラップの出番もほとんど無かった。
けれど、新しく作ったゴーレム……金で作った、侵入者側のゴーレムに可能な限り似せて作ったゴーレムは、とても役に立ったね。
「お疲れ様。いえーい」
ダンジョンは、ダンジョン内でなら、自分のものを自分のものだって把握しておける。
けれど、自分のダンジョンの中から出てしまえば、もうそれは只の『メタ知識のある魔物使い』と何ら変わりが無い。
モンスターを、自分の意志で動かせなくなる。
私はこれを、テオスアーレとグランデムの戦争の中で知った。
だから、今回、襲いに来た人も、そうなんじゃないかな、と思ったのだ。
つまり、『見た目が似ていたら敵と味方の区別がつかない』のではないか、と。
……実際、つかなかったみたいだ。
だから今、この人はゴールドゴーレム(私の味方の方)の攻撃を受けて昏倒してしまっているのだし。
さて。
とりあえず、これでダンジョン防衛はひとまず成功、と言っていいかな。
けれど、もう1仕事ある。
……ダンジョンの同業者は少ないから、聞きたいことを聞きたいだけ聞いておかないと。
『王の迷宮』さんの時も、それで結構後悔したのだし。




