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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
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6話

 《一点突破》という光の球。

 これはどうやら、『スキルオーブ』というものらしかった。


『スキルオーブ』。中に『スキル』を封じた玉である。

 消耗品扱いのようだから、多分、使えるのは一度きりだ。

 でも、これを使えば使用者は『スキル』を身に付けることができる。

 これを使えば私もさっきの剣士のような斬撃を繰り出せるようになるのだろう。

 ……けれど、ここは悩みどころだと思う。

 つまり、私が使うか、リビングアーマーが使うか、の2択で。




 リビングアーマーが剣士にとどめを刺したので、経験値はリビングアーマーに入ったらしい。

 リビングアーマーはLv4に上がっていた。

 ……早速抜かされた。後から来たのに追い抜かれた。

 これは、リビングアーマーのLvが上がりやすいということなのか、それとも、さっきの剣士がとても強かったという事なのか、はてさて。

 理由はともかく、リビングアーマーはLv4になった。強くなったのだ。

 ここに更に、《一点突破》のスキルを与えたら、もっとリビングアーマーは強くなるだろう。

 ……けれど、《一点突破》のメリットを考えると、私が習得した方が良い気もするのだ。


 《一点突破》は、その名の通り、一点に集中した攻撃を行うスキルだ。逆に言うと、ただそれだけ。多分、スキルの中でも割と初歩的なものなんじゃないかな。

『攻撃』と『敏捷』が少し上昇して、集中した場所に強い攻撃を行う。

 ただし、少し『防御』が下がる。

 出が速く、隙が小さい。

 ちなみに、さっきの剣士がやっていたみたいに、わざわざスキル名を叫ぶ必要はない。

 ……考えれば考える程、不意打ちに向いている攻撃に思える。

 なら、今回みたいな不意打ちの仕方を今後もする可能性を考えて、私が《一点突破》を習得するべきんじゃないだろうか。

 リビングアーマーは見た目だけで警戒心を与えるけれど、私はそうでもないみたいだし、なら、私の攻撃手段を補った方が良いか。

 リビングアーマーは今回手に入った鎧と剣で強化できそうだし。




 ということで、私は掌の上にスキルオーブを乗せた。

「《一点突破》」

 そしてスキル名を呟けば、スキルオーブは手の上で弾けて光となってとろけて、私の手から吸い込まれて行った。

 ……何かが変わった実感があまりない。

 試してみようにも、試し切りするようなものも無いし、そんなものを作る魂の余剰も無い。

 ……次に侵入者が来たら使ってみよう。




 それから、剣士の持っていた食料を食べる。

 干し肉と乾燥パン、そして水、という粗末な食事だったけれど、とても美味しく感じた。

 不思議なもので、食べる前はそんなに空腹を感じなかったのに、いざ食べ始めてみたら、凄まじい空腹感に襲われたのだ。

 食料はすぐ、私の胃の中へ消えてしまった。

 ……そういえば、随分長く食事を摂っていなかった気がする。

 このダンジョンに来てからどのぐらいの時間が経っていたんだろう。

 時計とか、設置した方が良いだろうか。


 そういえば、これから食事のことも考えなきゃいけないのか。私自身が生きていくためのことなんて、全然考えてなかった。

 とりあえず、寝床は玉座でいいか。案外ふかふかだし、眠れないことも無いと思う。いずれは布団を手に入れるかもしれないけれど。

 ……となると、問題になるのは食事か。

 多分、今後もやってくるであろう侵入者たちは、食料を携帯していることが多いと思われる。

 だから、コンスタントに侵入者を呼び込んでコンスタントに殺せれば、食料供給ラインにならなくもない、と思う。

 ……けれど、どう考えても不安定だし、栄養も偏りそうな気がする。

 ちなみに、魂を消費すれば真っ当な食事も作れない事は無い。

 けれどどうにも、コストが高くつく。

 食パンやご飯なら魂10ポイント未満でも手に入るけれど、肉や野菜は1つでも魂50ポイント100ポイントがザラになってくる。

 魂を使って物を作るにあたって、『嗜好品』はとてもコストが高い。肉や野菜は半分ぐらい『嗜好品』の扱いなんだろう。そうなるとどうしてもコストが高くて、食料を魂で作って食べる気になれないのだ。

 せめて、消耗品じゃ無ければいいのだけれど。……無限肉湧き機、とか、無いだろうか。無いな。残念。

 まあいいか、食料はとりあえず、後で考えよう。今は割と満腹だし……。




 食事が終わったら、続いてリビングアーマーの強化だ。

 剣も鎧も手に入ったのだから、これで強化してあげよう。鉄の鎧は胸部を綺麗に裂かれてしまっているから、どっちにしろ交換しなくてはいけないし。


 剣士の使っていた鎧は鍛えられた鉄……つまり、鋼の重厚なものだった。

 パーツの数だけで言うと、リビングアーマーの元々の鉄鎧より少ないのだけれど、重量は同じかそれ以上。これは防御力の大幅な上昇が見込めるだろう。

 ただ、脚部や腕部の保護パーツは無かったので、それは元々の鉄鎧のパーツを使い回そうと思う。

 これからも使えるパーツは使い回した方がいいだろう。




 リビングアーマーと鋼の鎧を合成して、『リビング・鋼の鎧』を生み出した。

 床には鉄鎧の余りのパーツが散乱している。

 それから、合成してから思い至って、慌ててリビングアーマーのLvを確認。

 ……も、ちゃんとLvは4のままだった。

 成程、モンスターをこういう風に合成したりしても、Lvはそのまま引き継げる、という事なのだろう。

 良かった、これでうっかりまたLv1に戻っていたら、非常に勿体ないことになっていた。

 危ない危ない。


「斧と剣だとどっちが良い?」

 生まれ変わったばかりのリビングアーマーに、今まで装備していた片手斧と、今回手に入れた鋼の剣と、一応スコップも見せてみる。

 リビングアーマーは少し迷ってから、鋼の剣を手に取った。やっぱりスコップは不人気。なんでだろう、こんなに使い勝手が良いのに。


 リビングアーマーは右手に鋼の剣を握ると、数度振って、調子を確かめた様子。

 数度、型のようなものをやってみせてくれた。

 垂直に剣を振って、風を切る鋭い音を鳴らし、半歩足を後ろにずらして、剣を横に構える。多分、防御の姿勢なんだろう。

 続いて、大きく踏み出しながら剣を横凪ぎに振い、そして、剣を返しながら左手を前に出し……。

 ……そこで、ぴたり、と動くのを止めてしまった。

 ゆるゆると姿勢を戻すと、少し物足りなさげに左手を握ったり開いたりしている。

 左手……あ。

 もしかして、盾、が欲しいんだろうか。


「盾と兜、どっちを優先したい?」

 試しに聞いてみると、リビングアーマーは左手を振ってみせてくれた。なんだかうれしそうに見える。

 そうか、盾か。盾が欲しかったのか。

 戦い方に精彩を欠いたのはもしかしたら、盾が無かったからかもしれない。きっと、あるのとないのとでは戦い方が大きく違うのだろうから。

「気づかなくてごめんね」

 なら、早速盾を与えなければ。

 魂は潤沢にあるし、少し奮発してみてもいいだろう。

 ……作成できるものの中から手ごろな物を探してみる。

 盾は鎧と比べてコストが低い。少し素材を奮発しても、そんなに大きなコストにはならない。

 それに、ここでわざわざケチる必要も無いだろう。

 そう思って、『黒鋼の盾』を選択。

『鋼の盾』が魂400ポイント分なのに対して、『黒鋼の盾』は魂700ポイント分。

 その分の性能と、リビングアーマー君の活躍に期待しよう。


 玉座に座って『黒鋼の盾』を作成。

 魔法陣の上から拾い上げて、そわそわしているリビングアーマー君に渡してあげる。

 リビングアーマーは恐る恐る、というように盾を両腕で受け取ると、それを左手に装着した。

 それから右手に剣を持つと、また数度、動きを確認し始めた。

 鋭く速い剣の動きに、重く静かな盾の動きが合わさってとても強そうに見える。中々いいんじゃないだろうか。

 一通り動いて満足したのか、リビングアーマーは、がしゃ、と動いて、お辞儀のような動きをして見せてくれた。

 どうやらこのリビングアーマーは礼儀正しい奴のようである。




 さて、次に他の道具の整理を、と思ったところで、私の耳……ダンジョンとしての聴覚に、聞き慣れない音を感じた。

 ひひん、ぶるる。

 ……そんなかんじの音と、息遣い。時々、ひづめの音。

「そういえばさっきの人、『馬で来てる』って、言ってたっけ」

 どうやら、戦果はまだあったみたいだ。




 早速、ダンジョンの入り口にまで向かう。念のため、リビングアーマーと一緒に。

「……うわ、眩し」

 思わず声に漏れてしまう程、外は眩しかった。

 そこは、森の中だった。

 木漏れ日は柔らかく、下草の緑を鮮やかに染め上げている。

 上空には木々の葉が生い茂り、風が吹くたびに葉擦れの音を立てていた。

 ……つまり、森の中で木々に程よく遮られた光は、多分、そんなに明るすぎはしない。

 けれど、しばらく薄暗いダンジョンの中に篭っていた私の目には、少々眩しすぎるぐらいの明るさではあった。


 少し目が慣れれば、明るさも苦ではなくなる。

 ダンジョンの入り口を囲う祭壇の下に、馬が一頭、木に繋がれているのが見える。

 馬に近づこうと、祭壇を降りた瞬間、自分の中でなにかが切り替わるような不思議な感覚を覚えて思わず立ち止まった。

 ……よくよく自分の中の感覚を分析してみると、『ダンジョン』の感覚と『私』の感覚が切り離されたのだ、という事が分かった。

 ダンジョン内の事は相変わらず見えるし聞こえるけれど、少し遠くなった。

 中の落とし穴を作動させたりすることも問題なくできるけれど、やっぱり少し感覚が違う。

 試しに、もう一度祭壇の上に戻ると、また感覚が元に戻った。

 そしてまた祭壇の下に下りて、違う感覚を確かめる。

 ……2種類の別のゲーム機のコントローラーを触り比べているような感覚、に近いかもしれない。

 そうか、ダンジョンから出るとこうなるんだ。早めに試しておけてよかったと思おう。


 思いがけず新たな情報をもたらしてくれた馬に感謝しつつ、早速、馬を木に繋ぐ綱を解いてやろうと馬に近づく。

「ぶるるっ!」

 ところが、馬は私が近づくとひどく警戒する。

 ……自分の主人を殺した相手が分かるのかもしれない。

 どうしようか。これじゃあ、ダンジョンの中に連れ帰ることも難しそうだ。

 かといって、このまま馬を放っておいたら、剣士がここで死んだという手掛かりになってしまう。

 それはあんまり嬉しくない気がする。

 いずれはこのダンジョンを大いに警戒してもらって、討伐体をバンバン派遣してもらいたいけれど、今はその時じゃない。

 人を呼び込むのはもう少し後だ。

 野良の冒険者やはぐれ剣士でもう少しダンジョンを整えてから、人を呼び込みたい。

 ……なら仕方ない、馬はここでなんとか殺すしかないか。

 諦めつつ、その役はリビングアーマーに任せることにして(スコップで馬を殺すのはちょっと難しい気がした)、リビングアーマーに場所を譲る。

 ……すると、リビングアーマーは少し意外な行動に出た。

 馬に近づいたリビングアーマーは、剣を抜かなかった。

 そして、無手のまま馬に近づき……暴れる馬をなだめるように馬の鼻のあたりに触れた。

 ……そうしてしばらくすると、馬はすっかり落ち着いてしまったのである。


 馬の手綱を取ってこちらに向き直るリビングアーマーに小さく拍手を送りつつ、馬を誘導してダンジョンに引き入れてもらった。

 ……こやつ、中々やりよる。




 馬をダンジョン内に入れてしまった以上、馬の居住スペースを作らなくてはならない。

 魂は残り4061ポイント分ある。

 今回はこれで馬のスペースを作ろう。


 ついでにダンジョンの大規模な改築も行いたい、と思ったが、それはちょっと断念した。

 まず、フロアを増やそうと思ったのだ。ダンジョンが立体構造になれば、その分できることも増える。

 迷路を作るにしたって、平面よりは立体の方が難しくなるだろうし……いずれ、人を殺すために集めることを考えて、作りたい構造がありはするのだ。

 ……しかし、B2Fの増築に必要な魂は4000ポイント。B3Fは9000ポイント。

 多分、階層の数の二乗に1000を掛けた値になってるんだと思う。

 ……となると、今の段階だとまだ、新しいフロアには手が出せない。

 剣士の死体を還元しても、残りの魂で他の設備を整えられるとは思えない。

 仕方ないから、今回はポイントを持ち越して、次回、フロアの増築をしようと思う。




 今回の改築は簡単なものになった。本当に馬の部屋を作るだけ。

 3番目の部屋から玉座の間までの通路にわき道を作って、馬用の部屋を作った。

 馬が住むことを考えて、その部屋の中だけ床が草地。室内に草地があると不思議な感じがする。

 それから、明るさを保てるように『光石(小)』なる不思議な石をいくつか壁や天井に埋め込んだ。

 さらに、空気の入れ替えができるように『風石(小)』なる不思議な石をやっぱりいくつか壁や天井に埋め込む。

 草地の草は適当に生えてくるみたいだから、馬の餌は当面、この床でいいとして……湧き水を作るための泉を設置する。

 これも水を湧かせる『水石(小)』なる不思議な石を使って設置。

 本来は多分、これらの『~石』の類はダンジョンの仕掛けとして使うものなのだろう。

 これらの石1つで出せる風や水の量は多くないから、ダンジョンに使うには到底コストが足りないけれど……いつかは水責めの部屋とか、作ってみたいな、と思わないでも無い。


 ……こうしている内に、ダンジョンの中とは思えない草地ができてしまった。

 牧歌的な眺めだ。耕したら畑にできそうなかんじ。

 それこそ、スコップが本来の意味で役に立ちそうな。

 ……あれ、いや、もしかして……もしかしたら、できるのかな。

 畑。

 そして、自給自足。

 食費の軽減。

 ……できたら、とてもいいと思う。




 少し気になったので、玉座の間に戻って作れるものを探してみる。

 すると、案外たくさんのものが見つかってしまった。

 林檎の木、小松菜の種、ミントの苗……。

 成程、こういうものを使えばダンジョンの中で自給自足できる、ということなのか。

 草地の部屋の床もそうだけれど、どうも、ダンジョンの中において植物は非常によく育つらしいので(多分死んだ人間の魂の破片とか吸ってすくすく育つんだと思う)、自給自足もそう遠い目標じゃないかもしれない。


 早速、草地の部屋の中の一画を畳3畳分ぐらい耕して、作物を植えた。

 とりあえず、小松菜とジャガイモと大豆。

 手のかからない作物2つと、タンパク質だ。

 小松菜の種は一袋で魂10ポイント分、ジャガイモの種イモは10個で魂50ポイント分、大豆は一袋で魂50ポイント分だった。

 これが育てば元は取れると思う。

 あとは、ダンジョンの力に期待、というところかな。

 ……そういえば、畑仕事において、初めてスコップがそれらしい用途で使われた。なんだか感慨深い。




 畑を柵で囲って、草地の部屋の入り口に扉を付けたら、馬を連れてくる。

「今日からここが君の住処だよ」

 馬は室内の草地に戸惑った様子だったけれど、そんなに居心地は悪くないらしい。

 発見当初からは考えられないぐらいにすっかり大人しくなって、草地の上をのんびり歩いている。

 ……いつかはこの馬を使って、『都』とやらに行くことになるかもしれない。

 その時まで、この馬にはしっかり元気でいてもらわなくては。




 馬のための部屋を作って、ついでに畑を作ったら魂が残り2970ポイントにまで減ってしまった。

 けれど、これで食糧問題が多少安定すると思えば、そんなに悪くない……と思う。

 ダンジョンの強化にしても、リビングアーマーを大幅に強化できたし、私も『スキル』で強化した。

 あとは、3番目の部屋の落とし穴があれば、数人程度の侵入者なら、現状でも何とかなると思う。

 ……あとはフロア増築分の魂が貯まるまで、侵入者を殺すだけだ。

 早く来ないかな、侵入者。


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― 新着の感想 ―
淡々と進んでいるが、これが読みやすくてクセになる
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