59話
次のダンジョンに求めたいのは、『精霊の魂を回収する』ことと、『グランデムを滅ぼす』こと。
この2つが満たせるなら、最悪、人間の魂は諦めてもいい。
だって精霊の魂、1体分で5千万とかあるんだもん。どう考えても効率が段違いだ。
……と、いきたいところなのだけれど、そうもいかなさそうなことが分かってきた。
『精霊の魂を回収する』ことと『グランデムを滅ぼす』ことはつまり、『精霊の魂を回収できる状態で精霊を殺す』ということになる。
しかし、この2つの条件を満たす場合、大きな問題があった。
『グランデムを滅ぼす』だけなら、簡単。
人を殺して町を焼けばいいという事が今回分かったので、それに倣って、グランデムも同様に、適当に火をかけるなり、グランデムの都にダンジョンを作って大砲で撃ちまくったり、ゴーレム兵で殺していったりすればいい。方法はいくらでもある。
が、問題は『精霊の魂の回収』。
そう。
『精霊の魂はどこにあるのか』ということが、問題なのだ。
……今回は、テオスアーレの精霊が魔力を使ってテオスアーレ国王に憑りついてくれたから、とても居場所が分かりやすかった。
当然、ダンジョン内で殺したのだから、ダンジョンで魂を回収できたわけだ。
……しかし、本来なら精霊とは、実体のないもの、らしい。
なら……そんなものを、一体どうやって、魂を回収できる場所で殺せばいいんだろうか。
餅は餅屋だと思って、この世界の『精霊』について、調べることにした。
今まで、人に聞こうにも、うっかりボロを出しそうだったから何も聞けなかった。
でも今は違う。
……人に聞けないのは変わらないけれど、なんと、テオスアーレのお城にある大きな大きな図書室が、私1人の貸し切り状態なのだ。
これは利用しない手は無いよね。
ということで、私はテオスアーレの城にまた戻ってきた。
数体のゴーレム兵と一緒に来たから、警戒も万全。
図書室の中を探して、精霊について書いてありそうな本をひたすら選んで、荷物持ち用のゴーレム兵に渡していく。
子供向けの絵本みたいなものから、学術書みたいな本まで、幅広く選んでいく。
どうせ、私はこの世界の知識が子供ほどにも無いのだから、この際、絵本でもなんでも読んでおいた方が良いだろう。
選ぶだけ選んだら、ゴーレム兵と本と一緒に『王の迷宮』に戻って、本を読む。
最初は絵本を読んで、この世界の精霊観を手に入れ、それからもう少し大人向けの書籍に手を出していく。
……ただ、こう、ページを捲りさえすれば、頭に内容が入ってくるので(体じゃなくてダンジョンの目を使えば、瞬間的な理解が簡単にできる)、本を読む、というよりはページを捲る、という作業になってしまったけれど。
……そうして、数時間後、私は大体、この世界の『精霊』についての知識を得ることができた。
多分、この世界の『精霊』は、土着信仰の対象なんだと思う。
このあたりはストケシア姫からなんとなく分かっていた通り。
『お天道様が見ている』みたいな感覚で、『精霊様が見ている』。
何か良い事があると『精霊様のご加護』だし、作物が実れば『精霊様のおかげ』。
そんなかんじに、精霊信仰みたいなものが根付いているらしい。
ここまでが、絵本等々から得られた知識。
そして、学術書とか、魔術書とか、例の『ヴメノスの魔導書』とかから得られた知識は、また少し違う。
まず、学術書。
精霊は、対象(国だったり森だったり湖だったり)と共に生まれて、対象と共に生きる存在。対象を守り、繁栄させるのが役割なんだとか。
そして精霊は、憑りついている対象が滅ぶ時、一緒に滅ぶらしい。
……うん、ここまでは大体分かっているからいい。
問題は、魔術書。
精霊の力を人間側から頼んで借りる時、精霊を呼ぶ必要があるのだそうだ。
収穫祭で祭壇を作って作物を供えて、次の豊作を祈るのも、『精霊を呼ぶ』ことなんだとか。
他にも、森の精霊の力を借りて、特別な魔法を使うとか、そういう魔術についても触れてあった。
……そして重要な情報。
『森の精霊は木の多い所、国の精霊は人の多い所に居る』と。
そして、『精霊の居る所には精霊の力が満ちる』と。
後には、だから村で収穫祭をやる時は村の中央の広場でお祭りをやって『村の精霊』にお祈りするんだとか、森の精霊が居る木は成長が速いんだとか、そういう話が続くけれど、それはどうでもいい。
成程。つまり、国の精霊を探そうと思ったら、国の中で一番人が多い所に行けばいいわけだ。
そして最後に、『ヴメノスの魔導書』。
この本には、『人工精霊の作り方』なんていうものが載っていたのだけれど、その項に、ついでのように『精霊の捕まえ方』が載っていた。
すなわち、『精霊の力が及んでいる範囲全体が、精霊の範囲であり、範囲内でならどこででも精霊を捕らえることができる』と。
そこで魔法を色々やったり、精霊と力比べしたり(ここで普通は勝てないから精霊を捕まえるのは無理だ、という結論だった)して、精霊を捕らえる……みたいな内容が続いているけれど、それはやっぱりどうでもいい。
精霊って、多分、サイズがとても大きいんだ。というか、概念みたいなものらしいし、実体が無いわけだから、サイズというのもおかしな話なのだけれど。
……まあ、つまり、精霊の魂を回収する条件があるとすれば、『国の中で一番人が集まっている町の、精霊の力が及ぶ範囲内にダンジョンを構えた状態で、人を一定数以上殺す』ということになるだろうか。
さて。
精霊についての知識は結構たくさん得られた。
……ということで、私は、単純に言ってしまえば、グランデムの都のすぐそばにダンジョンを作ればいいわけなのだけれど……。
ダンジョンを作るには、条件がある。あるのだ。
ダンジョンを作る条件。
それは、『迷宮の欠片』を地面に埋めること……なのだけれど、その『地面』にも一応、ダンジョンにするための条件がある。
それは、『その地面が誰のものでも無いか、自分のものである』ことだ。
『王の迷宮』は多分、『王の迷宮』ができてからテオスアーレの都ができたのだろうから、それはまあいい。テオスアーレが滅ぼしたというマリスフォールなる国の人がダンジョンに成ったのかもしれないし、マリスフォールができる前から『王の迷宮』があったのかもしれないし。
……そして、『魔銀の道』も、問題なかった。
グランデムとテオスアーレの中間、しかも、人が誰も入る事の無い険しい山脈の頂点だ。誰のものでもない土地なのは当然。
が。
……グランデムの都、となると、少し、難しいのだった。
まず、この世界には『誰のものでもない』土地がとても多い。
街と街の間も、結構『誰のものでもない』判定になる。
つまり、土地が誰のものであるか、という問いには、『土地の権利を持っている人』では無く、『土地の世話をしている人』という事になるんじゃないだろうか。
……ということなので、まあ、ダンジョンを作るにしても、よっぽど町の近くというのでもなければ、町の外すぐ傍にダンジョンを作る事も可能なのだ。
ただ、当然だけれど、『精霊を殺して魂を回収できる範囲内』に、となると、かなり難しくなってくるのだ。
成程、これは、国の精霊が滅多に殺せない訳だ。
そもそも、国の精霊の魂を回収できる場所に魂を回収するためのダンジョンを設置できないわけだから、これは本当に、『精霊から魂を回収する』のが難しい、という事になる。
1体5千万も納得。
けれど私はあきらめない。
私は1か所だけ、グランデムの都の中に、ダンジョンを作れる場所の心当たりがあるのだ。
『ラビ下級武官』に与えられた部屋。
あの場所は、私のものだ。




