58話
どこで聞いたんだったかな、と思い出してみると、あれだ。てるてる坊主さん達が2人来た時。そう。最初にてるてる坊主さんが来た時だ。
あの時、2人のうちの1人から聞いたんだったと思う。
たしかてるてる親分さんが『ヴメノスの魔導書を読み解いて異世界を解体した』って自慢してたっけ。
……ということは、この本は、異世界を解体する方法が書いてある本なのかな。
ぺらぺらっと読んでみると、色々とアブナイ魔法みたいなのがいっぱい載ってる本だった。
『異世界を解体する方法』もそうだし、『大軍勢を一気に全滅させる魔法』とか、『人間を意のままに操る魔法』とか、『人工精霊の製造法』とか『悪魔の呼び出し方』とか『対象の人間の下着を手に入れる禁断の魔術』とか。
……中々興味深いけれど、読むのはまた後にするとして、クロノスさんに運搬をお願いしておいた。
それから更にてるてる親分さんの部屋の捜索を続けて、宝石や魔石を押収。
他に魔法の本とかよく分からない書類とか、とりあえず目についた物は全部持って帰る。
王城の中を散々漁って、ダンジョンのお宝にできそうな物やお金になりそうな物、魔法に関係しそうな物、武器防具、食料消耗品その他……色々な物を回収してきた。
流石にお城はお城だった。
これで、次からダンジョンに設置するお宝には困らないと思う。
元々そんなに困ってなかったけれど。
……しかし、こうやって家探しするのは……なんだか、楽しいね。
ダンジョンに来る侵入者も、ダンジョンのお宝を探すとき、こんな気分なんだろうな。
ちょっと新鮮。
さて。
散々収穫して戻ってきたらもうなんだかすっかり疲れてしまって、すぐにでも寝てしまいたいぐらいだったのだけれど……その前に、今回手に入れたものの整理をしておく事にした。
整理ついでに、『王の迷宮』の50Fにアイテム倉庫を作ることにした。
……使った魂は合わせても10,000ポイントに満たないぐらいだけれど、一応、『テオスアーレ滅亡記念』みたいなかんじで。
武器庫、防具庫、衣類庫、宝物庫、食糧庫。
それぞれの部屋に大きな棚を幾つも用意して、道具の種類ごとに分別してしまっていくことにした。
……防具庫の一画は、ガイ君専用お着換え鎧スペースである。
ガイ君が特に気に入ったらしい鎧だけを選りすぐって集めておいた。
その内、適当に各ダンジョン内に分配して、ガイ君のスペアボディがいつでも使えるようにしておこうかな、と思う。
それから一応、『ヴメノスの魔導書』とかは、私の元々のダンジョンに持っていくことにした。
万一、テオスアーレの残党が『ヴメノスの魔導書』を探しに来たりした時のことを考えて。
……異世界を解体する方法が書かれた本だから、できればこんなものはもう焼いてしまうなり何なりして処分した方が良いのだろうけれど……まあ、隠しておけるなら、ギリギリまで処分せずにとっておくのもいいかな、と、思わなくもないし。
そう考えると、何かを隠しておくなら元々のダンジョンはぴったりだ。
……そもそもの知名度が低いから。
まあ、こういう時にはとても役に立つ。
アイテムの整理を終えたら、スキルの整理。
とはいっても、《泰然自若》《不撓不屈》といった、心の安定と能力の安定をサポートするスキルが新しく手に入ったくらいで、後は真新しい物も特になかった。
……つまり、ダブりがたくさん出たという事なので、クロノスさんが強くなった。
魔法はグランデムよりテオスアーレの方が優秀なのかな、唯一、《フォノンウェーブ》なる超音波系の魔法が手に入ったけれど、あとは今までに手に入ったもののダブりである。
……つまり、やっぱりダブりがたくさん出たという事で、クロノスさんが強くなった。
それから、一度死んで、悪魔によって蘇った人からはスキルオーブを得られないことが分かった。
悪魔と契約して人を生き返らせまくっても、スキルオーブが手に入るのは一度きり、ということだ。
なんとなく、スキルって魂にくっついてるものなんじゃないかな、という気がする。
一通り、ざっと整理を終えたら、もうさっさと寝てしまおう。
お腹を満たすため、果物と野菜を齧ったら、あとはもう寝る。いっぱい寝る。
……色々なことがあったし、色々なことをやった。知った事も、考えた事もいっぱいあった。
そして何より、頑張ったし疲れた。
嬉しいし達成感もあるけれど、やっぱり体の疲れはどうしようもない。
ひと段落したのだから、まずはしっかり眠るべきだろう。
「じゃあ、おやすみ」
今回ばかりはもう、さっさと寝て、明日からのグランデム侵攻に向けて、体調を整えることにしよう。
ガイ君に挨拶してから、ふかふかのベッド(結局テオスアーレ国王のために用意したのに一度も使用されなかった奴)に入ると、すぐに眠気が訪れた。
眠って、眠って、眠って、そして起きたらもう朝どころか昼、それも、太陽がこれから沈んでいく、という時刻だった。
……その分体が疲れていた、っていう事だから、むしろ良かったと思うけれど。
食料には困らない。
逆に、食料が多すぎて困るような状況だ。
とりあえず、王城にあった高級そうな果物、じっくり煮込まれていたスープ、焼きおきしてあったパン、熟成されたハム……といったもので朝食兼昼食。
私が食事している間、ガイ君は私の方を向いて待っているし、リリーは机の端っこを尺取虫のように這って遊んでいるし、ホークとピジョンとクロウはお互い空中で打ち合いしてるし、ボレアスは私のエプロン代わりになってくれてるし、ムツキ君は影から出てこないし。
……なんか、1人でご飯を食べているのは、少し寂しい気もする。
……これだけ食料があるのだから、いっそ、人間の食料を食べて生活するモンスターを作ってしまうのもいいかもしれない。
結局、特にモンスターの必要を感じなかったので、食卓にフルーティスライムを置いておいて、フルーツを食べていてもらう事にした。
そうするとなんとなく気が紛れる。
さて、楽しく美味しく食事を終えたら、早速、今後の事を考えよう。
今、グランデム兵達はまだ『魔銀の道』に到達していない。
つまり、グランデムの都に到着するまで、まだ1日以上かかる、という事。
私1人なら、『魔銀の道』から馬をとばして半日ぐらいなので、グランデム兵が『魔銀の道』に差し掛かった瞬間に移動を開始すれば、彼らよりずっと速く都へ到達できる。
つまり、グランデム兵達が『魔銀の道』に到達する直前までが、私に残された思考時間、という事になる。
……私はこれから、グランデムも滅ぼす。
当然だ。テオスアーレとの戦争と私のフレンドリーファイアで、グランデム兵はかなり減っている。
今回も、怪我人が大量に出ているし、死者も大量に出ている。
看病の必要はあるし、薬の在庫は尽きるだろうし、士気は下がってる。
……そういう状況だからこそ、すぐにグランデムへ追い打ちを掛けて、確実にここでもう1国、滅ぼしておきたいな、と思うのだ。
国を滅ぼす方法は分かった。
とりあえず、町を焼き払って、人を殺して、『国』が傾いてそのまま転覆するぐらい、変化させてやればいいのだ。破壊してやればいいのだ。
それだけで、国の精霊は死ぬ。
多分、国の精霊というものは、元々戦うものじゃないのだと思う。
国を見守って、のんびりしているだけ、というか。
……テオスアーレの精霊はたまたま、『民が蓄えていた魔力』があったから、ああいう風にテオスアーレ国王の体を使って戦えたわけだけれど。
つまり、精霊というものは……本当に、そのまんま、『国』なのだ。
国の破損度が精霊へのダメージ。国に一定以上ダメージが蓄積すれば、それは当然、精霊へのダメージになる。
ダメージが過ぎれば精霊は死ぬ。
それだけの事。
……私がやることは、『精霊を殺す』ことじゃなくて、『国を滅ぼす』ことなのだ、と考えた方が分かりやすい、かもしれない。
街を破壊するだけなら、簡単である。
今回やったみたいに、外壁に大砲なり火炎放射器なりを設置したダンジョンを建てて、それを使って町を攻撃すればいい。グランデムの都から少し離れた位置にダンジョンを作ったとしても、大砲の攻撃は都まで届くだろうし。
なんなら、街のど真ん中にダンジョンを作って、そこからゴーレム兵を大量に流せばいいかもしれない。
どちらにせよ、人を殺すのも町を壊すのも、『ダンジョンのエリア内で』と限定しなければ案外なんとでもなる。
精霊の魂と比較したら人間の魂なんて些末な物なので、いっそ人間は諦めて、最初から精霊一本釣りの方針でもいい。
……なんとなく貧乏性だから、できるだけは人間もダンジョンの敷地内で殺したいのだけれど。
……と、このように考えていくと、結局は1つの問題というか、1つの考えるべき事にぶつかることになるのだ。
すなわち、『次に作るダンジョン、どうしよう』と。




