57話
満身創痍のグランデム上級武官と、元気いっぱいの私。
そしてここはダンジョン。
勝敗なんて考えるまでもない。
一応、6Fにはトラップが少なめという欠点があった。
なのでとにかく、彼らの優しさが足を引っ張るように、と、気を遣って戦った。
ほとんど死にかけで、自力で全く動けないような人はもう皆諦めてるから放っておく。
でも、片腕が折れただけとか、剣で戦うのは難しくても魔法で戦えたり、そもそも、ちゃんと帰れば生きられるような人は、積極的に狙っていった。
『助けようか諦めようか迷う』ことで、比較的元気な人の動きも鈍る。
そこをトラップや魔法で狙えば、割と楽に攻撃が決まった。
そしてまあ、基本的には意図して手加減しなければ、攻撃が当たった相手は死ぬから。
そして、そんなに労せずして、グランデム上級武官達を始末することに成功した。
ロイトさん達に感謝だね。
……それからしばらくして、グランデムの中級・下級武官達の生き残りの中でも割と元気な人達が街から戻って来て、塔の中の様子を見に来た。
上級武官達の死体は適当に片付けておいた。ダンジョンの中で死んだ人の死体が勝手に無くなる、という話は有名だから、死体が無くても特段驚かれない。
「嘘……上級武官達が、全員……?」
あ、シーニュさん、生きてたんだ。
多少は傷や武具の破損が見られるけれど、問題ない程度。五体満足、しっかり生きて、かなり元気な部類だ。すごいね。
「これは……テオスアーレが滅びた事は分かったが……しかし、これでは……はは、手放しに喜ぶことも、できない、な……」
ウォルクさんは腕を折ったらしく、もう戦える状態じゃない。
それでも生きのこっているのだからまあ、いい方かな。
「でも、私達はグランデムへ、勝利を報告しなければいけないわ。……私達は勝ったのですもの」
シーニュさんがそう言うと、他の兵士達もそれぞれ頷いて、しみじみと、犠牲と勝利を噛みしめるのだった。
さて、ここでシーニュさんやウォルクさん他、比較的元気なグランデム兵達を殺してしまうのもいいかもしれない。
……でも、そうしない。
何故なら、ここで元気な人達が死んでしまうと、怪我人は自力で帰れず、ここで死ぬことになるからだ。
軍があった時、1割死ぬのと1割負傷するのだと、後者の方が軍にとって打撃が大きいのだ、と聞いたことがある。
死ねばもうそれきり。諦めもつく。
でも、負傷している人は、そうもいかない。助けてしまう。
だから、1割の負傷者のために、残り9割の中から負傷者の世話をする人を出す必要が出てくる。
その結果、死亡より負傷の方が、より『戦えない人員』を生むのだ、と。
……うん、尤もだ。
だから今回はそれでいこうと思う。
負傷者をグランデムの城に持ち帰ってもらって、治すために薬を使いこんで、世話の人員を割いてもらって……そうしているところを、全滅させればいい。
シーニュさんとウォルクさん他、グランデム兵達がぞろぞろと帰って行くのを見送りながら、今回のリザルトを確認しよう。
さて。
今回手に入った魂。
……65,641,028。
ろくせんごひゃくろくじゅうよんまん、せんにじゅうはち。
……六千万。
六千万。
ろくせんまん。
頭が固まってた。思考が停止してた。
いきなり大きい数字を見てしまうと、もう、頭が上手に働かなくなってしまう。
うん、びっくりした。とてもびっくりした。
精霊さんを倒した時に、感覚で「膨大な魂だなあ」とは思ったけれど、ここまで膨大だとは思わなかった。
……今までちまちま稼いでいたのが馬鹿みたいである。
手に入ったアイテムの類はもう、多すぎるから分けるのは後にする。
食料いっぱい。衣類掃いて捨てる程。薬は少ないけれど、武具はとにかくとてもたくさん。
……グランデムの上級武官達を全滅させたことにより、ミスリルの武具も手に入った。
これはつまり、『魔銀の道』でテオスアーレに持っていかれてしまったミスリルが武具になり、テオスアーレ兵を殺したグランデム兵が奪い取り、そしてそのグランデム兵がダンジョンで死んだ、というサイクルにより……大体全部、私の手元に戻ってきたことになる。エコだね。
スキルオーブも多すぎるから、整理はまた後で。
……ただ、気になることがあるとすれば……1つだけ。
『悪魔を召喚する魔法』のスキルが無いこと、だろうか。
……なので私は、アイテムの整理より先に、テオスアーレ城家宅捜索を行う事にした。
『悪魔を召喚する魔法』についてなのだけれど、王様の話を盗み聞いた感覚では、『やり方さえ知っていれば誰でも悪魔を呼べる』みたいなかんじだったから、そもそもスキル(技能)が要らないものである可能性が高い。
……しかし、だとするとなおさら、『どこでやり方を知るのか』という問題になる。
どうせ、あれだとおもう。
てるてる軍団の本拠地みたいなものがきっと、この城の中のどこかに在るんだと思う。
ということで、城の中にゴーレム達(全員負傷は魔鋼継ぎ足しによって治療済み)と一緒に入る。
尚、クロノスさんは城門でお留守番だ。
何故かって、大きすぎて城の中に入れないから。
入り口で引っかかって入れないと分かった時、クロノスさん、ちょっとしょんぼりしていた。
クロノスさんをお留守番に置いていくことを決めた時も、なんだか寂しげに手を振っていた。
……何かお土産を持ってきてあげよう。
時々、生き残った人が居たので、そういう人は捕まえてダンジョンのエリア内まで運搬。そこでクロノスさんが張り切って殺してくれた。
このあたりの雑務のためにゴーレム軍団を連れてきたようなものなので、人海戦術でどんどん城の中を綺麗にしていく。
……お城には前にも入った事はあるけれど、こうして自由に歩いてみると改めて、お城だなあ、というかんじがする。
ふかふかの絨毯、重厚なタペストリー。階段の手すりは豪奢な彫刻がびっしりと施されているし、壁に掛けられた燭台は1つ1つが繊細な意匠のものだ。
このあたりを全部回収するのは難しいので、特に大切そうな物、特に気に入った物だけをゴーレムに持たせて城の外まで運んでもらう。
そこまで運べば、あとはクロノスさんが巨体を生かして一気に運搬してくれるから、ダンジョンのエリア内まで来たところで回収機能を使って回収すればいい。
うん、便利。
そうして城の中を探索する事3時間ほど。
ダンジョンとしての勘を頼りに、隠し扉を3つ程抜けた先。
……ついに、それらしい部屋を私は見つけた。
「ちょっとわくわくする部屋だね」
ゴーレム達も、どことなくうきうきしている気がする。
……その部屋は、とても面白い部屋だった。
棚一杯に、不思議なものが並んでいる。
水晶細工みたいな花の鉢植え。
金の鳥籠の中で鳴く、銀細工の小鳥。
光る鉱石を収めたランプ。
透き通った玉が嵌っている、地球儀みたいなオブジェ。
綺麗な細工の小瓶に入った色とりどりの液体。
……そういう、見ていて中々楽しいものが、たくさんある部屋だったのだ。
床には魔法陣。壁にはスペアらしい杖が何本か掛けてある。
多分ここ、てるてる親分さんの部屋、なんじゃないかな。
部屋の中を探していく。
『悪魔召喚』の鍵になりそうなものがあれば、くまなくチェックする。
……だって、悪魔って、1体でも魂100万ポイント分ぐらい入ってしまうのだ。
これは、積極的に殺したい。
でも、殺そうにも、そもそも悪魔が居なければ殺せない。
だからこそ、『悪魔召喚』の方法を探して、それを人間の一部に流布して、悪魔を呼ばせて……そして、殺す。
悪魔の強さからするとあまりやりたくない気もするのだけれど、今のところでは、時間と手に入る魂とを考えた時、多分悪魔召喚からの悪魔殺しが一番速い気がする。
……という事で、『悪魔召喚』の情報を探していたわけなのだけれど。
「怪しげな本発見」
ベッドの下の隠し扉の先に、怪しげな本を見つけた。
真っ黒い絹張りの装丁に、真っ白な模様とタイトルがデザインされている。
タイトルには、『ヴメノスの魔導書』とあった。
……なんか、聞いたことある名前のような気がする。




