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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
魔銀の道とグランデム城
52/135

52話

 私は『王の迷宮』の8Fで、テオスアーレ国王やその腹心の部下たちと一緒に、テオスアーレの都にグランデム軍がやってくるのを見ていた。

「遂に来ましたね」

「……民が無事だといいが」

 逃げれば話は別だけれど、多分無理だと思う。

 どうせグランデム軍はストケシア姫を先頭に掲げて(掲げる用の台というか棒というか、そういうものがちゃんと用意してあった)来ているのだろうし、民衆はどうせ抵抗できまい。

 そして、無抵抗の民衆を見逃すほど、グランデム兵は大人しくない。

 逃げる民衆の背中に斬りつけるぐらいのことはやるだろう。

 ……折角だから、ダンジョンの敷地内でやってほしいんだけれど、まあ、ある程度は仕方ないか。

「兵士達が『王の迷宮』までグランデムの連中を誘導してきたら、その時が我らテオスアーレ反撃の時です」

「その時は頼むぞ、メイズよ」

「はい」

 どうせ『頼む』なんて思っていないくせに、テオスアーレ国王はそういう事を言う。

 最後には死んでもらうから、別に構わないけれど。




 テオスアーレ国王、最初の最初は、グランデム軍を一気に焼き払う魔法を使う予定だったらしい。

 ……抵抗もさせず、広範囲を一気に焼き払う、という禁断・究極・最強の魔法があるらしいのだ。どうも。

 ただし当然、それを使うためにはコストが要る。

『魔力』だ。

 ……そう。テオスアーレには、私の居た世界を壊した時に得た膨大な『魔力』が蓄えられている。

 だから、それを使ってグランデム軍がテオスアーレへ近づく前に焼き払ってしまえ、と。そう計画していたらしい。


 しかし、事情が変わってしまって、それができなくなった。

 ……『魔力を制御する手段の欠如』。『禁断の魔法の術式の喪失』。『術者不足』。

 そういった色々な事情で、結局、禁断で究極で最強な魔法は使えなくなってしまったらしい。

 同じように、とても強い守りの魔法も使えなくなってしまったし、とても強い武具の制作もできなくなってしまったんだとか。

 原因は、てるてる軍団である。

 ……言うまでもない。

 テオスアーレで秘密裏に禁じられた魔法を研究していたらしい彼らが全滅したのだ。

 そう。全滅。一体誰の仕業だろうね。酷いことをするものだ。(すっとぼけてみるのもたまには楽しい)

 そのせいで折角手に入れた魔力も宝の持ち腐れ、使える人が居なくて、本来なら十分に期待できた戦力が丸ごと欠けてしまったような状態になってしまった。

 ……そこで更に、ストケシア姫を誘拐されたり、『王の迷宮』に城の戦力を削られたり、ストケシア姫がグランデムの手に渡ってしまったり、グランデムへこっそり向かった兵士達が何故か待ち伏せしていたグランデム兵に全滅させられたり……とあったものだから、テオスアーレ側はたまったものではない。


 ……だから、もういっそ悪魔を召喚するか、という話に、なっていたらしい。

 悪魔に魂を売り渡すよりは『王の迷宮』に賭けて、それから私を殺せばいいか、という結論になったから取りやめになったらしいけれど。

(どうやら、悪魔召喚はコスト云々もだけれど、道徳的、宗教的に使いたくない、という代物らしい。やっぱりこの世界の人としても、『魂を売り渡す』のは怖いみたいだ。)

 けれど、悪魔召喚自体は、『やり方さえ分かっていれば』あとはほんの少し魔術の心得と覚悟が必要なだけ、王もできる、みたいな話だったから……。

 ……まあ、追いつめられたらきっと、やってくれるよね、悪魔召喚。




 グランデム兵の勢いは凄まじかった。

 都の入り口をほとんどラグ無しに入って来て、そのままストケシア姫を盾に、王城へ向かって進んでいく。

 ……が、彼らも途中で気づいたらしい。

 王城にはテオスアーレの旗印が無く、代わりに、見た事の無いダンジョンに、テオスアーレの御旗が翻っている、という事に。


 それから、グランデムの軍の中でどういうやりとりがあったかは分からない。

 けれど、民衆が逃げていく方向、テオスアーレの兵がやってくる方向、そういったものから、本拠地はなんとなく分かるはず。

 そして、『王の迷宮』の武装を見れば、もっとちゃんと分かるはず。(テオスアーレには8階建てなんていう建物は他にないから、少し開けた場所からなら『王の迷宮』がとてもよく見えるし)

 ……しかし、彼らはそんな情報ではなく……何か、道具を掲げ、なにやら方向を決めて……進み始めた。

『王の迷宮』の方へ、と。

 あれ、なんだろう。




 グランデム兵が迷いなくテオスアーレ国王を目指してくる理由も分かったところで、そろそろ反撃に移る。

 グランデム兵達の先頭はもう、『王の迷宮』の敷地内に足を踏み入れているのだから。


 ダンジョンのトラップを一気に作動させる。

 ……勿論、ここでのトラップは、大砲や毒矢といった防衛用設備のことだけれど。

 大砲が動き、照準を合わせ、弾を吐き出す。

「っ!危ない!伏せろ!」

 グランデムの人達は気づいたけれど、もう遅い。

 テオスアーレ兵が『操作』すると、大砲が火を吹いた。

 飛んだ大砲の弾は着弾と同時に爆発し、それだけで数人のグランデム兵を殺すことに成功する。

 毒矢も数人に当たり、彼らをじわじわと毒で弱らせていく。当たり所が悪ければ当然死ぬ。

 ……ちなみに、これは当然、テオスアーレ兵が動かしている訳じゃない。

 一応、操作方法、みたいなものを研究させておいたけれど、そんなものは一切合切無視して、私が全部動かしている。

 テオスアーレ兵達は自分が大砲や毒矢や火炎放射器を操作していると思っているけれども。


 あとは、適当に『ピンチ』になるように、かつ、ストケシア姫には当てないように、主に後方を中心に、大砲と毒矢でグランデム兵を切り崩していく。

 流石の兵器。グランデム兵もこれには対処できないらしく、案外あっさり死んでいく。

「何故だ!?このような要塞の情報は無かったはずだぞ!」

「まさか、1夜にして生まれたというのか!?」

「いや……ここは……ここは、『王の迷宮』だったはずだ!」

 続いて、混乱するグランデム兵の背後に、ゴーレム兵を配備。

「ゴーレム、だと……!?」

 ゴーレムはグランデムの人達にも好評なようだ。可愛いでしょう。うちのゴーレム達。

「おのれテオスアーレ!悪魔に魂を売ったか!」

 売ってくれるなら買うけれど、残念ながら売ってもらったわけじゃない。

 というか、私は悪魔じゃない。

「くそ、撤退を……!」

「だ、駄目です、退路を断たれました……」

 ゴーレム軍にじりじりと詰め寄られたグランデム軍の判断は早かった。

「進むぞ!内部に入れば弾も矢も飛んでは来ない!」

 進むことで、罠を回避すること。

 しかしそう見えても実際は、より深く罠にはまっていくこと。

 むしろ、彼ら自身が罠となること。

 彼らの判断はそういうものだ。




『王の迷宮』内部へ向かうグランデム兵達を狙って、大砲や毒矢が放たれる……事は無かった。

 だって私が出さなかったから。

「あ、あれっ?」

「おかしいぞ、こうすれば動いたはず……間違えたか?」

 しかし、テオスアーレ兵達は、自分達が操作していたはずの兵器の不調の原因に気付く訳もない。

 難しい操作機構みたいなものを作っておいたのが幸いしたか、それを確認しながら慌てるだけ。

 ……グランデム兵は、突然止んだ兵器の雨を少々訝りながらも、奥へ奥へと進んでいった。




 内部に入ったグランデム兵達は、ひたすら先へ先へと進んだ。

 ある程度進んだら、私はテオスアーレ国王の元を離れて階下へ降りておく。

 そこには王を守るためのゴーレムと、人間のテオスアーレ兵達がしっかり待機していた。

 これならきっと、グランデム兵達も突破できまい。

 ……私が何もしなければ、の話だけれど。




 グランデム兵達は、あっさりと空っぽの1、2Fを抜け、それから空っぽに見える3、4Fも抜けた。

 数人のテオスアーレ兵が居ない訳では無かったけれど、その程度なら何の問題も無く殺せる程度にグランデム兵は強かったし。

 哀れ、テオスアーレ兵。


 そして、グランデム兵達は……民間人の避難場所、5、6Fに到達した。


 何が起きたかは、言うまでも無い。

 大虐殺である。

 民間人は逃げ場も無く、ひたすら全員死んでいく。

 むしろグランデム兵に立ち向かおう、とする民間人も居たけれど、逆効果でしかなかった。だって、ストケシア姫という盾がいるから。


 さて、あとはこのフロアをグランデム兵が抜けたところで、ゴーレム兵を使ってテオスアーレ兵を殺して、王の御前にグランデム兵をお通しすればいい。

 ……そう、思っていたのだけれど。

「ああああああああああああああああ!」

 ストケシア姫が、目の前の大虐殺を見て何も思わない訳がなかった。

 ……ただし、精々発狂するくらいかな、という私の予想は大きく外れることになった。

「もう嫌……もう嫌……!もうなんでもいい!助けてくれるならなんでもいい!悪魔だっていい!……『我が望みを叶えよ!我が望みを叶えよ!我が望みを叶えよ!神に、背きし者!我が名はストケシア・テオスアーレ!魂を汝に捧ぐ者!』」

 ストケシア姫がそう叫んだかと思うと……ストケシア姫が一瞬輝き、そして、あたりにはどろり、と深い闇が凝り固まり始める。

『我を呼ぶのはお前か』

「え、ええ!そうよ!私がストケシア・テオスアーレ!……あなた、が、悪魔……よね?」

 ストケシア姫が恐る恐る、というように答えると、闇が笑った。

『如何にも』

 そして、一気に闇が晴れる。

『我は悪魔だ。お前の望みを叶えてやろう』

 そこに居たのは、人間と獣を組み合わせたような、二足歩行の、禍々しい生物。

 成程、これが悪魔か。

 ……ストケシア姫が呼び出すのは、しかも、ここで呼び出すのは、ちょっと……いや、かなり予想外だったけれど。


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