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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
魔銀の道とグランデム城
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49話

グランデムの城に戻った私達は、とりあえず負傷者(薬が足りなくなって怪我を治せないままの人や、薬をわざわざ使う程でも無かった軽傷の人)の治療に追われた。

死者の弔いは後回しで、とにかく生きている人のために、ひたすら働くことになった。

……そう。一応、私はともかく、他のグランデム兵は、手放しに喜べる、という状況でも無いわけだ。

かなりの人が死んでいるから。


死者は、トンネルダンジョンでの死者だけではなかった。

クレイガル周辺へ配備された中級武官や下級武官率いる軍勢が、テオスアーレの軍勢とぶつかり、そこである程度の死傷者が出ていたらしい。

クレイガルの方へ向けたテオスアーレの軍勢は、陽動だったのだろう。

普通は国境山脈にダンジョンができて、そこが通り道になって、そこからテオスアーレ兵が来るなんて思わないから。

ただ、今回はそれが裏目に出てしまい……テオスアーレは、最早戦力をほとんど使い果たしてしまった、ということになる。


「……嘘だろ。なんで死んだんだよ……一緒に武勲を上げて中級武官を目指そうって、言ってたじゃねえかよ……」

死体の切れ端を前に泣き崩れる人が居たり。

「息子さんは立派に戦って、グランデムの礎となったのです。どうか、どうか気を落とさず、胸を張って……」

押し掛けた遺族らしい人に説明している人が居たり。

まあ、あまり気分のいいものではないので、私は治療の手伝いを一通り終えた後は部屋にこもってパンの残りを齧ることにした。

多少硬くなってしまったけれど、十分美味しい。

もっと硬くなってしまったらオニオングラタンスープみたいにして食べても美味しいかもしれない。

前回同様、窓辺に小鳥が寄って来て分け前を要求しだしたので、割と気前よく分けてやりながら、私もゆっくりおやつを楽しむ事にした。




パンを齧って眠って、ゆっくり目を覚ましたら、もうグランデムの城の中は沈んではいるものの大分落ち着いていた。

やっぱり人間、一度眠ると落ち着くものらしい。

一通り城内を見て回って散歩して戻ると、部屋の前にウォルクさんが居た。

「……ラビ、起きているか?……ラビ、もし起きているなら返事だけでもしてくれないか?」

「はい」

ウォルクさんがあまりにも熱心に部屋の扉を叩いて声を掛けているので、少々おかしく思いながらも横から声を掛ける。

「っ!……ああ、起きて、いたのか」

そして、声を掛けた途端、びくりと肩を震わせたのがますます面白くて、少し笑ってしまった。

ウォルクさんは私の様子を見て、安心したような笑みを見せた。

「……大丈夫そうだな」

「ご心配をおかけしたようで」

この様子を見る限り、テオスアーレ軍との戦闘に『巻き込まれた』私を心配して来てくれたんだろう。

「ああ。……ラビの部隊はまだ被害が少なかった方だと聞いているが、それでも」

「ええ。私以外に生きのこったのは2人だけだったようです」

答えると、ウォルクさんは痛ましげな表情を浮かべて、「そうか……」とだけ言った。

「……でも、彼らの死を無駄にするわけにはいきませんから」

私の部隊はまだ、生き残りが多かった方である。

1人しか残らないなんてザラ、むしろ、1人も残らない部隊の方が珍しくないような有様。

武官も死んだし、雑兵も死んだ。たくさん死んだ。

そんな状況だから落ち着いたとは言っても城の士気は下がっているし、全体的に沈鬱な雰囲気が漂っているのは確かなのだ。

だからこそ、その中でむしろ『落ち込んでいないふりをする』というふりをすることが、自然だと考えた。

実際、ウォルクさんの反応を見る限り、それは上手くいっているのだろう。


ウォルクさんはそれから二言三言話した後、「次の作戦まではまだ猶予がある。しっかり休め」と言って、部屋に戻っていった。

言われなくてもしっかり休む。




その日の夕方、士気を上げるためか、『ミスリルの武具の入手』が発表された。

ミスリルの武具、という点も勿論なのだけれど、それに加えてテオスアーレから奪い取った、ということも士気を上げる要因になったらしい。

徐々にまた、城の中は『打倒テオスアーレ』に燃え始めた。


そして翌朝。

当然、ミスリルの武具は上級武官達の間で分配された、と連絡が入った。正直どうでもいい。

どうでもよくない情報は、その後の情報。

『テオスアーレへ直接攻め込む』という、素晴らしい作戦の通達だった。




一応、会議は行われたのだけれど、会議というよりは作戦通達、と言った方が正確だったと思う。

既に決定したことを皆で共有するだけ。とても簡単。

……テオスアーレの都へは、ストケシア姫を連れていく。

目的は単純に、『盾』だ。

ストケシア姫に危害を加えられたくなかったら攻撃するな、という牽制。とても便利。

ストケシア姫を盾にしながら城下を進んで、ストケシア姫を盾にしながら城に侵入する予定。

あとは、テオスアーレ国王を討ち取りながら残りと戦えばいいだろう、という。

ちなみに、国王を討ち取ってしまえば、少なくとも民衆は降伏してくるはずだ、ということだ。

つまりこれは、姫の盾を使って最小限の犠牲で、かつ最短でテオスアーレを陥落させる、という、とても分かりやすい作戦だ。

部隊の配置等々も隙無く決めてあり、もうどこにも意見したり反対したりする要素が無い。というか、内容を変えさせられる程の致命的なミスは無いように見える。

……ただ。

ここに来て、少し不安なのだけれど。

一応、テオスアーレは亡きてるてる親分さん達の居た国である。

だから……そういう、『悪魔』とかを召喚するような魔法があっても、おかしくは無いんじゃないか、と思う。




『王の迷宮』さんは言っていた。

テオスアーレがマリスフォールを倒すとき、悪魔も死んで上手く魂を回収できた、と。

……ということは、逆に、戦場には悪魔が現れてもおかしくない、と言えるのではないだろうか。

勿論『悪魔を召喚する』なんて、真っ当な魔法じゃないんだろうけれど……そんなものはてるてる親分さん達が居れば(居たから)何とかなってしまう気もするし。

悪魔とやらがどの程度強いのかは知らないけれど、まあ、悪魔だし、相当に強いんだろう。

ということは、グランデムの兵士達では太刀打ちできないかもしれない。そうなった時、テオスアーレを滅ぼすには材料が足りなくなってしまう。

……ただし、チャンスでもある。

悪魔を殺せば多大な魂を回収できるのだというならば、当然、私は悪魔を殺すように頑張らなければいけない。


つまり、私はここで……『王の迷宮』をまたしても改造しておく必要がある、ということになる。


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