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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
魔銀の道とグランデム城
45/135

45話

 王城の前の門まで進めば、自然と門番が進み出てきた。

「ここはグランデム城。国王陛下のおわす城です。ご用件は?」

 一見、友好的な笑みを浮かべているものの、その裏には確かな警戒心を感じられる。当然だね。ここで警戒されなかったらちょっとびっくりする。

「国王陛下とお話をしたい」

「……陛下と?」

 単刀直入にこちらの希望を言えば、警戒はあからさまなものになった。

「陛下にとって悪い話ではない。強者たるグランデムが矮小なるテオスアーレを『正しく』滅ぼすための『道具』を手に入れてきた」

『矮小なるテオスアーレ』と言えば、多少、警戒が緩んだかもしれない。

 グランデム人は全員割と好戦的なんだと思う。町で聞く会話にも、「早くあのテオスアーレを滅ぼしてやりたい」とか、「テオスアーレが持っている土地を使えば云々」とか、そういうのがたくさんあったし。

「……『道具』とは一体何だ」

「それは陛下に直接申し上げる。極秘なのだ」

 門番は不信感と好奇心が混じり合った表情でそう聞いてきたけれど、ここは突っぱねる。

 下手にストケシア姫を所有していることを知られたら、グランデムにプレゼントする前に盗まれたりするかもしれないし。

 ……なので、ここは代わりに別の物を出す。

「ただ何も出さずに取り次いでほしいというつもりは無い。こちらの宝石を国王陛下に」

「これは……!」

 渡した魔石粉末入り人工宝石(魔石粉末割合0.75%)は大粒のルビー。

 下っ端の兵士だったとしても、価値は十分に分かるはず。

「国王陛下とお会いするまでに多少時間がかかってもいい。だが、こちらも忙しい身。1日以内に返事は欲しい。明日の昼、またここに来る。それまでに国王陛下にお伺いを立てておいてほしい」

「わ、わかった」

 結局、とりあえずこの場は退いて、明日もう一度来ることにした。

 宝石を貰った以上は、話を聞くくらいはしてくれると思うけれど。




 一日、町を巡って武器や防具を見て回って、それから宿を取って眠る。

 そうして翌日の昼になってからもう一度、門番さんに会いに行った。

「昨日、宝石を献上した者だが」

「ああ、話は聞いている。入るが良い。陛下がお待ちだ」

 ……そして、すんなりとお城の中に入れてもらう事ができた。

 王様ともお話できるらしい。

 賄賂の力ってすごいね。


 グランデムのお城は、半分ぐらい要塞だった。

 華やかな印象よりも、質実剛健な印象を受ける。

 窓の格子は飾りに見えて、実質、敵の侵入を阻む作りになっているし、塀の飾り穴はそのままアロースリットとして使うんだろうし。

 そして全体的に、無駄な装飾は少なかった。

 テオスアーレのお城より好みかもしれない。

「この先で国王陛下がお待ちだ。くれぐれも失礼の無いように」

 そして、臙脂色の絨毯の上を歩いた先、ついに王様と対面することになった。

 指示に従って、片膝をついて頭を下げた体勢で待機すると、やがてファンファーレと共に重厚な扉が開かれる。

「面を上げよ」

 張りのある声に指示されて顔を上げる。

 視線の先には、玉座に座る壮年の男性が居た。




 この人がグランデムの王様、なんだろう。多分。

 ただ……王様の割には、服の上からでも鍛えた筋肉が分かるし、帯刀してるし。

 ちょっと想像と違った。なんだか想像よりも大分つよそう。

「ほう。かように若く美しい娘が『かの』宝石を持ってきたとはな。面白い」

 王様は私を見てにやりと笑うと、傍にいた人に宝石を出させた。昨日私が持ってきたやつだ。

「この宝石が何を意味するか、グランデムにも伝わっているぞ。……これは『王の迷宮』で採れるようになったと評判の、極上の魔石であろう?」

「はい。私はこの石を『王の迷宮』へ1人で潜り、その先にて発見致しました」

 答えると、グランデム王は満足そうにうなずいた。

「中々粋な強さの証明だな。気に入った。……話とやらを聞いてやろう」

 それはよかった。

「では、人払いを」

「……何?」

「この場に残すのは最低限の護衛だけにして下さい。あまり多くの人の耳に入れられないお話です」

 気に入った、って言うからこのぐらいは聞いてもらえるかな、と思ったけれど、やっぱりちょっと難しいかな。

 ……と、思ったのだけれど。

「分かった。下がれ。護衛なぞ要らん」

「し、しかし陛下」

「余の強さを信じられぬと?」

 結局、王様は部屋の中の全ての人達を外に出してしまって、私と2人きりになってしまった。

 ……成程。

 この王様は、伊達にムキムキじゃないんだね。

 或いは、そういうパフォーマンスなだけで、実際は天井裏に忍者が隠れてたりするのかもしれないけれど。


「……して、話とはなんだ」

 この際、忍者が居たらそれはそれでいいや、と思って話すことにする。

「陛下は『王の迷宮』の異変をご存知ですか」

 切り出せば、グランデム王は難しい顔をしながら頷いた。

「突如、冒険者800人余りを皆殺しにし、挙句、ストケシア・テオスアーレを攫って内に隠しているらしいな」

 グランデム内でも冒険者が何人か『王の迷宮で一旗揚げよう』みたいな話をしていたから、王様に話が伝わっていてもおかしくない。

 敵国とは言っても、冒険者の中には国境お構いなしに冒険したりしている人もいるみたいだし。

「ええ。『王の迷宮』にはストケシア・テオスアーレが捕らえられていました」

「……『いた』?それではまるで」

「そして今、ストケシア・テオスアーレは『王の迷宮』に居ません」

 グランデム王が私の話の行く末を見て、目を見開いた。

「ストケシア・テオスアーレは今、私の手の内にあります」




 私が言い切れば、グランデム王は目を見開いたまま、『信じられない』というような……つまり、『信じてしまっている』顔をしている。

「……それは」

「殺してやることも考えました」

 まずは、味方であることをアピール。

「テオスアーレは私の敵ですから。しかし、ただ殺すだけでは惜しいと思いました」

 私の台詞をグランデム王がどう受け取ったかは分からない。

 けれど、少しは信用してくれているんじゃないかな、と思う。

「そこで、テオスアーレを根本から滅ぼし得るグランデムにストケシア・テオスアーレを献上することで、テオスアーレ滅亡に向けて力添えをしようと考えました。……いかがでしょうか」

「……つまり、余が望めば、そなたはストケシア・テオスアーレを連れて来る、ということか」

「はい。3日程頂きますが」

 グランデム王は、一頻り何か考えるようなそぶりを見せた。

 実際、考えているんだと思う。

 敵国のお姫様なんて、そうそう手に入る物じゃない。

 手に入れた後の使い方だって無限大だ。

 どう使うか、何に使うか、いつ使うか。そういったことを考えて、それから更に、『私が要求するであろう対価』にも目を向けつつ……『ストケシア姫を貰うかどうか』を決めているんだろう。

 そうして、グランデム王はしばらく考え……閉じていた目を開くと、真っ直ぐ私を見て、問うてきた。

「……まどろこしいのは性に合わぬ。率直に聞こう。そなたの望みはなんだ」

 とても正直な人だ。ありがたい。

「テオスアーレの滅亡。……そして、あわよくば、私自らが軍を指揮して、テオスアーレの者共を皆殺しにしたいと考えています」

 私が半分ぐらい正直に答えると、グランデム王は満足げに頷いた。




「分かった。ならば、ストケシア・テオスアーレを連れてくるがいい。護衛が要るなら付き添わせるが」

「いいえ、結構です。身軽な方が何かと行動しやすいので」

「そうか。なら無理にとは言わぬ。……ストケシア・テオスアーレを連れてきた暁には、正式にそなたをグランデムの武官として取り立てることにしよう!」

 太っ腹である。

「ありがとうございます」

 これで私が武官になって、軍を率いられるようになったら、テオスアーレ軍と上手くぶつけて、楽に魂を回収……あ、率いた軍の人数によっては、全員殺して私も死んだふりしてとんずらもアリか。なんにせよ、魂の効率回収が望めると思う。

 楽しみだなあ。


「ところで、そなた、名を何と言う」

 わくわくしていたら、そんなことを聞かれた。

 ……『メイズ』でもいいんだけれど、それをやったらテオスアーレ側のスパイを疑われる可能性もあるかもしれない。

 どうせ愛着のある名前でも無いし、偽名はさっさと変えてしまった方が良いかもしれない。

 そして、準備のいい私は既に偽名を考えてある。さもないと前回のようなことになりそうだし。

「ラビ、とお呼び下さい」

 つまり、言うまでも無く『LABYRINTH』、迷宮、である。

 完璧。




 それからお城を辞して、すぐにトンネルダンジョンに戻る。

 戻ったらそこで、『ギミック』から収穫するものを収穫して、鏡を通って『王の迷宮』へ。

 ……そこで私は、ストケシア姫を連れて……いかない。

 その前に、やることがあるのだ。




「こんにちは」

「こんにちは……あっ、あなたは!」

 訪れたのは、『王の迷宮』前の宝石店。

 入れば、以前の鑑定でお世話になっていた女性がすぐ気づいて駆け寄ってきた。

「お久しぶりです!ああ、あなたがテオスアーレを離れてから、ここも大変なことに……!」

「話は聞いています。……お姫様もおいたわしいことです。ご無事だといいのですが」

 そこから、適当に話を合わせて雑談し。

「ところで、今日は何のご用件でしょうか?また買い取りいたしますか?」

「ええ。……でも、ここで買い取ってもらえるものかどうか。よく分からなくて」

 言いながら、私は荷物袋を漁り、『それ』を取り出す。

「グランデムとの境に在る山脈にできたダンジョンから持ち帰ったものです」

 カウンターに置けば、宝石店の女性はそれを見て……驚いたような声を上げた。

「これは、ミスリルでは!?」


 それから、宝石店の女性が熱くミスリルについて語ってくれるのを聞いた。

 曰く、軽く硬く美しく、装飾品は勿論、武具に使っても最高のものができるのだとか。

 ミスリルの剣を達人が使えば、鋼の剣すら斬り飛ばすのだという。

 つまり、ミスリルの武装はそのまま、人の武力となるのだ。

「このミスリルは、高価なものなのですか」

「はい、当然です!……ミスリルの武具があれば、『王の迷宮』の攻略だってできるかもしれません……!」

 それから、私は宝石店の女性に、『ならば国王陛下に収めてくれ』とミスリル塊と、トンネルダンジョンの位置を記した地図を渡した。

 お代は緊急時だから後でいい、という好条件で。

 早速、宝石店の女性は宝石店オーナーと一緒に王城へ向かって行った。




 これで、テオスアーレでの仕事は終了。

 あとはストケシア姫を連れていくだけ。

 ……今後のタイミングによっては、ミスリル採掘に勤しむテオスアーレ民とグランデム軍が、うまく衝突すると思う。


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