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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
魔銀の道とグランデム城
44/135

44話

 グランデムの都で宿を取り、必要な事を宿の女将さんに聞いた。

 主な聞き込みは、王の人柄についてとダンジョンについて。

 王様の人柄については、民衆から『力強く野心的』みたいな評価らしい。人によっては嫌いだと思う、みたいな性格なんだとか。グランデム民には好評らしいけれど。

 ……そして、ダンジョンについては、『ここから山脈と反対方向に半日ぐらいの距離に1つある』みたいな話を聞けた。そこからは良質な金や金のお宝が採れるから、採掘しようとする者や、金のお宝狙いの冒険者がたくさん入るんだとか。

 ……とは言っても、今回は関係ないかな。

 私が欲しいダンジョンは『戦場』になるダンジョンだし、そのための山脈ぶち抜き型ダンジョンだし。

 ましてや、テオスアーレと反対方向にあるダンジョンなら、乗っ取ってもしかたない。山脈にあるダンジョンがあったら、そこを乗っ取るつもりでいたけれど、そうじゃないならどうでもいい。

 貯めこんでいる魂があるかもしれないから、一段落したらそこのダンジョンをやってる人を殺してみてもいいけれど、色々立て込んでる時にやらなくてもいいし。

 ……今回は、スルーの方針で行こう。




 1泊したら、朝の内からもう出かける。

 半分ぐらいは観光のつもりで、町をぶらぶら歩く。

 ……そして、城を眺めて感嘆のため息なんて漏らしながら、警備の具合や城の塀の高さを見ておく。

 いずれはここにストケシア姫を持ってくる事になる訳だから、特に門番が話の通じそうな人かはしっかり見ておいた。

 ……多分、話せば分かってくれる人だと思う。多分。

『力強く野心的』な王様を嫌わない人達が門番やってるんだろうから、『隣国のお姫様攫って来たんだけど要りますか?』みたいなことを持ちかけて駄目なわけがない、と思う。

 ここの国の人達がテオスアーレの惨状……兵士も冒険者もことごとくダンジョンにやられて戦力が弱っている状態を知って、ここぞとばかりに戦争のきっかけを探してるのは確かだろうし。




 それから町をぶらぶらして、馬を一頭借りた。

 これから山脈まで戻る訳だから、そこまでの脚が無いのはちょっとしんどい。

 それから更にぶらぶらして、町の様子を見た。

 具体的には、お姫様搬入ルートの下見をした。

 ……お姫様搬入直前に一回、お城の人とちゃんと話し合う予定だから、そこで搬入ルートを提示されるとは思う。けれど、それだって不確かなことがあるかもしれないし、いざという時の脱出経路も欲しい。

 結局、ダンジョンでもそうだけれど、『地の利』というものは馬鹿にできないのだと思う。

 知らない町で知らない道に入って袋小路、なんて、シャレにならない。


 ルート構築ができたら、早速借りた馬に乗って山脈へ向かう。

 あとは地図とにらめっこしたり、適当なところで《ラスターステップ》を出して高く登って辺りを見回したりしながら、ダンジョンの位置を決めていく。

 結局、山脈ダンジョンはテオスアーレの都とグランデムの都を直線で結んだ線上ではなくて、もう少しずれた位置に設置することにした。そうしないとなんだかわざとらしいから。




「緊張するね」

 装備しているガイ君やリリー他、装備モンスター達が見守る中、私は『迷宮の欠片』を手にして少しだけ緊張していた。

『王の迷宮』は意図せずして手に入ってしまったダンジョンだったから、これが実質初めての『私の意思で新しく手に入れるダンジョン』という事になる。

 ダンジョンを作る、自分の一部を作る、という事に、わくわくした感覚とどきどきする感覚が抑えられない。

「……じゃあ、蒔こうか」

 そして、皆で見守る中、山脈のてっぺんに『迷宮の欠片』を埋めた。




 途端、地面に薄青い光が生まれる。

 それは玉座の部屋にある魔法陣の形を描き、瞬く。

 あたりが薄青に染まると、一気に魔法陣は広がっていき……地面に吸い込まれて、消えた。

 ……私の中に、確かな『新たなダンジョンと成った』感覚を残して。


 案外呆気なくダンジョンができてしまったけれど、感覚としては呆気なくなんてない。

 一気に増えた情報量。これから決めなくてはいけない諸々の事。

 新たに増えた『私の一部』の情報とその管理のため、私はしばらく動けなくなってしまった。


 まず、この新たなダンジョンの情報。

 このダンジョンは、テオスアーレとグランデムの間に在る。

 ……正確には、ここは『国境』じゃない。

 何故かと言うと、この土地は『どちらの国も統治していない』場所だから。

 この世界って、国がみっちり綺麗に隙間なく収まってる訳じゃなくて、まっさらな地面の上にぽつぽつと国ができてる、みたいなかんじなんだと思う。

 だから、『誰のものでもない土地』が存在して、ここはそんな『誰のものでもない土地』なのだ。

 ……そして、この山脈は、ほとんど人の手が入った事が無い。

 余りにも険しくて、登ろうとする人は皆無。

 金銀が採れるわけでも無い。(全く無い訳じゃないんだけれど、金銀が出てくるまで掘るための労力が半端じゃないからコストに見合わない、ということらしい。)

 そして、魔物が出る。

 そう。私はこの山脈で初めて、ダンジョンの外の魔物を見た。

 イノシシみたいな魔物だったからイノシシだと思ったんだけれど、どうもイノシシじゃなくてイノシシ型魔物だったらしい。

 確かに、イノシシは普通、2mの高さがあったりはしない気がする。魔法も使わないだろう。死んだらただのイノシシとあんまり変わらないけれど。

 ……つまり、この山脈は、今までほとんど人が入らなかった場所なのだ。


 そして、このダンジョンの場所の情報が大体分かったところで、新たに決めること。

 まずは、ダンジョンの『玉座の部屋』の深さ。

『迷宮の欠片』でダンジョンを作ると、最初から魂を100,000ポイント分使える状態で始まる。

 つまり、ただ深くしていくだけならば、初期状態でも6FかB6Fに玉座の部屋を設置できる、ということになる。

 ……けれど、今回、そんなに深くしたり高くしたりする必要が無い。

 フロア設置以外にも魂を使いたいので、とりあえず4F~B3Fを設置。これで44,000ポイント分也。

 そして、4Fに玉座の部屋を設置。

 これはつまり、トンネルの上、山の中。

 ある意味、一番安全だと思う。




 次に、ダンジョンの広さおよび形を決めた。

 これももう決めてある。

 ダンジョンには、フロア面積の限界がある。

 具体的には、4平方キロメートル。正方形にするなら、2km四方で限界が来る。

 ……一方、この山脈の幅は、10kmを超える。

 つまり、1つのフロアだけでトンネルにしようとしたら、400m幅という、戦場として微妙な形になってしまうのだ。

 ましてや、1つのフロアでダンジョンを作ろうとしたら、『戦場』を作れなくなってしまう。

 トンネルづくりの一番の目的は、戦争を簡単にすること。

 そして、誰もが通る『通路』と共に『戦場』を提供することで、『通路』を利用する人達に殺し合いをしてもらい、魂を回収する、ということ。

 トンネルだけじゃ、片手落ちだ。あくまでも目的は魂の回収。魂の回収ができる場所が無いといけない。

 だからこのダンジョンには、複数のフロアを使ってトンネルをつくる。




 そして出来上がったダンジョンは、3FからB3Fまでを贅沢に利用したものになった。

 ……4Fはほとんど使っていない。あるのは玉座の部屋と、玉座の部屋を守るトラップぐらい。


 まず、山の両側、トンネルの両端に当たる部分に1Fと2Fと3Fを使った『戦場』を用意した。

 テオスアーレ側もグランデム側も、トンネルに入ろうとする相手へ斜面から奇襲を仕掛けるのに丁度いいと思うよ。

 トンネルへの入り口は、両側で高さが違う。

 グランデム側からの入り口は1F、テオスアーレ側からの入り口は3Fになっている。そうすることでどちらにもより広く『戦場』をとることができた。

 ……トンネルはB1FとB2FとB3Fを利用した。

 ここはただの通り道だから、地形はそんなに凝っていない。

 けれど一応、いくらかギミックを用意してある。

 人間同士がより争うような、そういうギミックを。




 ダンジョンが完成したのはその日の夜だった。

 ある程度は色々考えていたものの、実際に作るとなると勝手が違う。

 あれやこれや改造したり工夫したりするだけでも頭を使うし、何より、最初に『ダンジョンが増えた』、つまり『私の体の部分が増えた』ことによって情報整理が大変だったから、そのせいかもしれない。

 けれど、その分、良いダンジョンができたと思う。




 ダンジョンはできたけれど、認知度は低い。

 当たり前だ。今まで人が寄り付かなかった山脈にいきなりダンジョンができたって、人がそれにすぐ気が付くわけがない。

 ……最初のダンジョンで、ダンジョンが『目覚め』てすぐに侵入者が入ってきたのは、とんでもなくレアなケースだったのだと思う。

 その後に来たテロシャ村の人達だって、ダンジョンが『目覚め』たことに気付いたのは実際にダンジョンが『目覚め』てから数日経ってからだった。

 そもそも、最初のダンジョンは平地にあって、かつ、村からも近い立地条件だったから数日程度で見つかったけれど、元々人が寄り付かない山脈にダンジョンができたって、気づかれるまでにかなり掛かりそうだ。

 ……それもすぐに終わるけれど。




 鏡を通って一回『王の迷宮』に戻って、ストケシア姫を安心させた。

 もうすぐグランデムに連れていってあげるからね。

 そこでお姫様と一緒にご飯を作って食べた。

 お姫様は料理を作った事が無いという事だったから、折角だし、ということで一緒に作ってみたのだ。

 トマトと豆と野菜のスープ、オムレツ、小松菜のソテー……というメニューだったけれど、お姫様はとても苦戦していた。卵が割れない時点でお察しだ。なので、鍋をかき混ぜるとか、そういう係をやってもらう事で満足してもらった。……まさかここまでできないとは思わなかった。

 ちなみに、ストケシア姫は料理がそこそこ楽しかったらしい。

 そして、それ以上に「メイズさんの手料理!」と喜んでいた。よく分からない。


 翌朝、またトンネルダンジョンに戻る。

 ダンジョンができたので、鏡を通って往き来が楽にできるようになってとても楽。

 しかし、トンネルダンジョンからグランデムの都までは相変わらず馬である。

 どうせ借りた馬は返さなきゃいけないし、仕方ないね。


 そうして昼ごろグランデムの都に着いて、馬を返す。

 ……それから、私はお城へ向かった。

 手土産の魔石粉末入り人工宝石は持った。ストケシア姫が寝ている間に一房切り取った髪も持った。

 これでなんとか、王様に直接会って、「ストケシア姫いりませんか」とセールスを試みよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分になついてるお姫様を戦争起こすために売り飛ばす主人公....
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