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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
魔銀の道とグランデム城
43/135

43話

 翌日、私はストケシア姫に「あなたを外出させるための準備をしてくる」と言ってからダンジョンを出た。

 ストケシア姫は「そろそろ外に出たい」と言い始めていたので、私の言葉に大いに喜んだ。

 一応、外に出せない理由として、「あなたを勝手にお城の外に出した以上、私は犯罪者だから外に出るには準備が要る」と言ってある。そう言って以来、ストケシア姫はそれ以上文句を言わなくなった。とってもやさしいね。

 ……ちなみに「外に出たい」とは言われても、「城に帰りたい」とは言われなかった。

 姫は元々、あんまりお城が好きじゃなかったのかもしれない。




 姫は放っておいて、私はグランデムに向けて旅を始めた。

 玉座の部屋の鏡を通って元々のダンジョンに戻って、また匠と打ち合わせ。

『邪神の罠』として宝石類を全部使ってしまったから、また作っておいてもらわないといけない。

 それから、モンスターの強化のため、魔石粉末入り人工宝石も量産してもらおう。

 その後、ルビアとサフィアのリビングドール姉妹に手伝ってもらいつつ、荷造りをする。

 このダンジョンからテオスアーレの都までは精々1日ちょっとの距離だけれど、グランデムまで行こうと思ったら3日4日じゃ足りない。

 向こうについた時点でダンジョンを作ってしまえば帰り道は鏡で一瞬だけれど、行きはそうもいかない。

 きちんと水や食料をある程度携帯していかないと、道中で死にかねない。

 ……本当にいざとなったら、その場で『迷宮の欠片』を使ってダンジョンを作って緊急避難することもできるけれど、1発100万魂である以上、そうそう使いたくはないし。


 最低限の食料や水や道具、そして旅人としておかしくない程度の恰好をしたら、準備完了。

 最後に、魂を100万ポイント分使って『迷宮の欠片』を作成した。

 内部に規則的な光が走る結晶のようなそれは、玉座の部屋に満ちる光の色と同じ薄青色をしている。

 ……『王の迷宮』に成った時も、薄黄色が薄青色になったっけ。

 ということは、もしかしたら私の色が薄青、なのかもしれないね。




 ルビアとサフィア他、モンスター達に見送られつつ、私は出発した。

 向かう先は、テロシャ村の方向。

 そのまま真っ直ぐ進めばその内、山脈に出くわす予定。

 山脈をエピテミア側にぐるりと迂回して更に進めば、その内グランデムに着く予定。

 ……なのだけれど、私の脚なら、山を登って超えた方が速いかもしれないよね。




 昼ごろテロシャ村に着いたので、ここで昼ご飯を食べていくことにした。

 前回ここに来た時のご飯も美味しかったし、今回も期待していいかな。


 村に入ると、『王の迷宮からストケシア姫を救った者には望む通りの褒美を与える』というお触れの紙が貼ってあった。

 ……これ、もしかして、私がストケシア姫を連れて城に行って「人間の魂1000人分ぐらいおーくれ」ってやったら、貰えるんだろうか。

 ……いや、駄目か。ストケシア姫を城に返したらロイトさんたちが死んだことがバレる。

 その時、姫が私の味方をしてくれるとは思えないし、姫の証言によって私がダンジョン側である事はすぐ分かってしまうだろうし、そうしたらその場でバトルかつ褒美はもらえない、という事になるだろう。嫌だなあ。

 やっぱりお姫様はグランデムへの献上品だね。


 テロシャ村の中は、案外活気づいていた。

 ただし、和やかな活気ではなく、粗野で荒々しい活気。冒険者達による活気だ。

 元々、冒険者や旅の商人の宿場町なわけだから、こういう人達が来ることはむしろ自然なのだけれど……数が、すごく多い。

「おい!酒はまだか!」

「そこのねーちゃん、こっち来いよ!一緒に飲もうぜ!」

 そして、品が無い。

 前来た時もこういう人は居たけれど、それ以上に品が無い。

 こっそり食堂のおばちゃんに聞いてみたら、どうも、『ストケシア姫を救って一旗揚げる』というアメリカンドリームならぬダンジョンドリームに釣られてきた冒険者達が、エピテミア方面から流れてきているんだとか。

 エピテミア、というと、都よりも治安が悪い、というぐらいの知識しかない。

 あと、魔法学校があるんだったか。でもあんまり関係ない。

 まあいいや。

 どうせここに居る人達全員まとめてかかっても、黒鋼ゴーレムのクロノスさんを倒すことはできないだろうから。


 今日のご飯は鹿肉のソテーと根菜のシチュー、それからパン。これで前回同様、銅貨7枚。とても美味しくて満足してしまった。

 あまりに美味しかったので、ついでにデザートの林檎のパイを注文してしまった。こっちも甘くて美味しくて幸せになれたので正解だったと思う。

 ……食べている間に話しかけてきたり、絡んできたりする人達が居たけれど、ちゃんと断って分かってもらった。

 分かってもらえなかったら暴力でお断りを伝えて分かってもらった。

 数人、暴力でお断りを伝えたら、それ以降は誰も近づいてこなかったので、ゆっくりデザートを楽しむことができた。

 満足。




 テロシャ村を出たら、そのまま真っ直ぐ山脈へ向かって馬を走らせる。

 平坦な草地はやがて荒れ地に代わり、そして目の前には険しい山がそびえ立ち、圧迫感すら感じさせるようになる。

 今からアレを登るのかと思うと気が滅入るけれど、仕方ない。

 戦場になるダンジョンの確保も必要だけれど、ストケシア姫の輸送のためのダンジョンも欲しい。となると、どうしても山の向こう側へ行ってみなければならない。

 ……私は覚悟を決めて、山登りを始めることにした。




 とは言っても、山肌を直に登っていく訳じゃない。

 ストケシア姫を攫った時と同じ要領だ。

 《ラスターステップ》で光の床を作って登っていく。それだけ。

 無茶な登り方だけれど、これが一番速いのだから仕方ない。登り終わったらゆっくり休めばいいよね。

 ……多分、リリーやボレアスやムツキ君の力が無かったら、途中で体力が切れていたと思う。


 そうして、太陽が沈む頃、ついに山のてっぺんに到達した。

 ……中々時間がかかってしまった。

 案の定というか、途中で疲れ果てて《ラスターステップ》を使えなくなってきてしまって、何度か休憩を挟んだりしたのだ。

 これは、旅人達が山を迂回して進む訳だ。

 山のてっぺんからは、テオスアーレもグランデムも見える。

 どちらも小さくだけれど、確かにぼんやりと見えるのだ。

 ……山脈に隔てられた2つの国は、山脈さえなければ、もっと近いのだろう。




 その日は山頂で夜を明かして、朝になってから下山を始めた。

 下山は落ちるだけだから、《ゲイルブレイド》等々の風系魔法で減速しながら落下して降りた。

 グランデムの都の方を見ながら降りた……というか、落ちたから、多少、距離も稼げたかな。


 馬は山のふもとに置いてきてしまったから、ここからは徒歩での移動という事になる。

 私はダンジョンだし、装備モンスターの力もあるから、常人よりはよっぽど速い歩きだけれど、それでも限界はある。

 結局、山脈をグランデム側に超えて荒れ地を抜けたあたりで1日が終わり、そこで野営。

 このあたりで『王の迷宮』に侵入者がたくさん一気に入ったのだけれど、クロノスさんは流石だった。

 何の問題も無かった。全員まとめて殺してた。私がトラップを動かす暇すらなかった。

 安泰。




 野営で夜を明かして、携帯食料を齧りながらまた歩き始める。

 昼頃にはグランデムの村であるリーデン村に到着できたので、そこで昼食。

 リーデン村では、『テオスアーレで騒動があったらしい』『姫君が攫われたとか』程度の情報が流れていたものの、平和。

 グランデムの冒険者はテオスアーレに行って『一旗揚げる』夢を語ったりもしていたけれど、半分以上は冗談みたいだ。

 まあ、グランデムとテオスアーレは仲が悪いからね。冒険者には関係ないとは言え、国交が正常じゃない以上はインフラ整備もされないわけで、つまり、国をまたぐ移動は冒険者にとっても楽じゃないのだ。


 ここでも声を掛けられたりしたけれど、こっちの人達は話したら大体分かってくれた。

 テオスアーレみたいに緊急事態というわけじゃないし、当然かもしれないけれど。




 リーデン村から乗合馬車に乗れば、夕方にはグランデムの都に着いた。

 やっぱり、インフラ整備は大事だと思う。

 グランデムはそのあたりを結構やる国らしく、リーデン村と都の間にはある程度の道が整備されていた。

 そこを馬車でガタガタ行くだけだから、中々に速いし快適。

 ……うん、インフラ整備って、やっぱり大事、だよね。




 グランデムの都は、テオスアーレとは雰囲気が大分違った。

 テオスアーレよりも厳格な作りをしているというか、もう少し雰囲気が硬派というか。

 テオスアーレの都と違って、都の中にダンジョンがあるようなものでも無いから、冒険者だってそんなにうろうろしていない。

 ただ、行商人の類は多いんだろう。

 整備された区画に露店を広げる行商人が多く見られた。

 まあ、これもインフラ整備のおかげ、という事なんだろうけれど。




 町を見ていたら、すっかり陽が沈んでしまった。

 宿を取って食事を摂ったら、旅路で見てきたことを思い返し始める。


 今回の旅路で思った事は、『どこが戦場になるか分からない』ということだった。

 山を越えるルートで進軍するとすれば、ルートは無限大だし、山を迂回するにしても、エピテミアの方から回るか、反対側から回ってくるか。

 進軍のルートが、グランデム、テオスアーレ共に、読めないのだ。

 どうせテオスアーレは防衛線になるだろうけれど、それにしたって、グランデムの動き方が分からないから、どこに兵を集めるかが分からない。

 つまり、私がダンジョンを作るべき位置がはっきりしないのだ。

 ……今のまま、なら。


 考えた。

 要は、進軍ルートが決まればいいのだ。

 或いは、そこを通る理由がはっきりすればいい。

 ……グランデムの都とテオスアーレの都は険しい山脈を隔ててはいるけれど、直線距離だとそんなに離れていない。山にトンネルなり道なりができるなりすれば、1日2日でテオスアーレとグランデムの都の間を行き来できるようになるかもしれない。

 そして、そのトンネル内が戦場としても有効な地形をしていれば、もしかしたら。

 ……どうやら、山を切り崩す事になりそうだ。


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― 新着の感想 ―
やんま!?
[気になる点] 薄青… はくじょうってことですかね
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