42話
さて、今回のリザルト。
今回手に入った魂は、772050ポイント分。
内訳で言ってしまえば、ロイトさんとアークダルさんが60000ポイント分、サイランさんが58000で、スファーさんが42000、ルジュワンさんが52000。この5人だけで272000ポイント。すごい。
残りは50人の兵士。彼らもまた、1人平均10000ポイント以上あったわけだ。その割には全員、あっさり片付いたけれど。
……この『魂量』って、純粋な強さじゃないんだろうな、きっと。ダンジョンでの戦いの向き不向きもあるし、それ以上に何か、別の条件がある気がする。
けど、まあいいや。
たくさん魂が手に入った。それで十分。考察はまた後でいい。
今は、質より量を考えるのが、一番効率が良いだろうから。
手に入った道具は大体いつも通り。
剣と鎧とマントと道具一式と薬。
長いダンジョンを見越してか、いくらか食料があったけれど、『王の迷宮』の中の畑や牧場だけで当面の食料は賄えるから、そんなに要らないし、そもそも先の803人殺害で食料は腐る程余っているから、やっぱり要らない。
アクセサリーもいくらか手に入ったけれど、魔石粉末入り人工宝石を作れるようになった以上、そんなに価値もない。
つまり、手に入った道具は『大したことが無かった』というようなものだ。
ある意味では、テオスアーレのお城の兵士の鎧やマントが手に入ったわけで、潜入とかの衣装だと思えばそれなりの価値はあるかもしれないけれど……そんなものを一々使うメリットも、今のところほとんど無いし。
ただ、ガイ君がまたお着換えしたから、鎧にはそういう意味での価値があったと思う。
具体的には、アークダルさんの鎧だ。
サイランさんの鎧と大分迷ってたみたいだけれど、最終的には強度でアークダルさんの鎧を選択していた。
最近はガイ君単品で使う事もめっきり無くなったから、別に鎧の強度は要らないのだけれどね。
……ただ、前回のお着換えの時のおしゃれプラチナ鎧も相当デザイン的に気に入っていたみたいだし、それはそれで取っておくことにした。ガイ君もおしゃれしたいお年頃なのかもしれないし、そこは配慮してあげたい。
今回の5人……ロイトさんとサイランさん、アークダルさんとスファーさんとルジュワンさんの5人の装備はそれぞれ、普通の兵士達のそうびから数ランク上の装備だった。
何かと利用価値がありそうなので、それらは全部取っておくことにする。
ガイ君がまた着替えたがらないとも限らないし。
「今回はガイ君に助けてもらったから。お礼にいくらでも着替えさせてあげるよ」
言ってみると、ガイ君はデザインの綺麗な鎧……前回のプラチナ鎧や、今回のルジュワンさんの鎧、派手めなロイトさんの鎧、さらには軽めのスファーさんの鎧なんかを持って部屋の隅へ行くと、そこに鎧を置いて戻ってきた。
そうして、あとには実用的な、というか、少々華美さが足りない鎧だけが残された。ある意味、プラチナ鎧と対称的。
「……ファッションショーは嫌い?」
聞いてみると、兜を横とも縦ともつかない方向へゆるり、と振った。
……そして、少々もじもじというか、居心地悪そうに身じろぎしたと思うと、プラチナ鎧の胸を指して、宝石飾りを示すと、それからアークダルさんの鎧の胸を叩いてみせてくれた。
……ちょっと意図が分からないけれど、とりあえずは、宝石飾りを移す、っていうことでいいのかな。
「着替えたくなったらまた言ってね」
宝石飾りを移して声を掛ける。
華美さが大分減った代わりに強度が大分上がったガイ君は、嬉しそうに頷いた。
さて、それから手に入ったものは、スキルかな。
50人の兵士達から得られたものは今までに得られたものの被りだから割愛。
けれど、5人の近衛からは相当いいものが手に入った。
《ファイアシュート》《フレイムピラー》《アトロシティミスト》といった、ロイトさんやサイランさんの魔法の他、《アイスランス》《インテンスタイフーン》《デモリションツイスター》《ダートバレット》《サンドアウェイカー》《ブラックベノム》《シャドウダンサー》……というような、立派な魔法が手に入った。
魔法はそれぞれ、風っぽいのはボレアス、水と地はリリー、火と闇はムツキ君……というかんじに分担。
さらに、《気炎万丈》《明鏡止水》《威風堂々》《捲土重来》《暗送秋波》というスキルも手に入れた。
《気炎万丈》は多分、ロイトさんが最後、火を纏って戦ってたあれだと思う。
《明鏡止水》は常に冷静に落ち着いていられるスキル。
《威風堂々》は味方の能力をわずかに底上げして、敵の能力をわずかに下げるもの。便利そう。
《捲土重来》は一度負けた相手に対して能力が上がるスキル。不便そう。
《暗送秋波》は相手を誘惑するというか、相手に良い印象を持たれるようになるパッシブ系スキル。
……ここ5つは迷ったけれど、全部私が習得した。
これから先、少し、この世界の人間に混ざって行動する羽目になりそうだし、そうなったら、私が使えた方が何かと便利だろうし。
さて、今回の戦いで、残りの魂は全部合わせて10093705ポイント分にまで増えた。遂に千万の壁を突破である。まだ足りないけど。
……けど、これを元手に、少し動かなくちゃいけないから、多分、数百万ポイント分は使っちゃうと思う。
具体的には、戦争の準備だ。
その日から、私は忙しくなった。
ストケシア姫に『あなたの近衛は納得して帰って行った』と嘘八百を並べていたところ、侵入者がやってきた。
そいつを殺したら、次の侵入者がやってきた。
そいつも殺したら、今度はどこかの貴族率いる軍団がやってきた。
……つまり、彼らは皆、『ストケシア姫を救い出し英雄となる』ために頑張っているらしかった。
翌々日ぐらいからはもっと忙しくなった。
理由は簡単。5人の近衛兵率いるお城の軍勢が全滅した、ということがそろそろはっきり分かってきてしまって、お城から『ストケシア姫を救い出した者には望む褒美を与える』みたいななりふり構わないお触れを出したかららしい。
来る侵入者のほとんどはアッサリ殺せるけれど、時々、そこそこ強いのが来る。
しかも、同時に複数のグループに侵入されると、『邪神の罠』が上手く働かない。
だから『9本の道』で私が片付けるしかなくなって疲れる。
疲れた。
それでも、来る侵入者を1人残らず殺していたら1週間しない内に侵入者はすっかり居なくなった。
腕に自信がある者は全員死んで、腕に自信が無い者は入るのを躊躇うようになったから。
ちなみに、6日間のリザルトは、魂2205380ポイント分。
足して残りは12303705ポイント分。中々儲かった。
ここまでくれば、あとはキメラドラゴン他、『王の迷宮』のモンスター達だけでなんとかできるだろう。
もうお留守番を任せる準備を始めよう。
元々のダンジョンでは、リビングドール姉妹にダンジョンを任せている。
同じにするとダンジョン同士の繋がりを見破られて面倒な事になりかねないので(主にトラップの仕組みのネタバレ的に)、ここではゴーレムをボスにしようと思う。
ただし普通のゴーレムでは無く、黒鋼でできている豪華な奴である。
このゴーレムの凄い所は、黒鋼の頑丈さだけじゃない。
内部に埋め込まれた『魔石粉末入り人工宝石』によって生まれたスピードだ。
どうも、『魔石粉末入り人工宝石』はモンスターに与えるとそのモンスターを強化してくれるらしい。
リリーをはじめとした装備モンスター達にも装備させているし、それによって強化されている実感もある。
……つまり、この『黒鋼と宝石のゴーレム』は、魔石粉末入り人工宝石によって強化された黒鋼のゴーレム、という事になる。
凄まじい巨体にもかかわらず、凄まじい速度で動くゴーレム。
繰り出される拳も魔法も、凄まじい威力を誇るゴーレム。
全体的に強すぎるゴーレム。
見た目も、土や泥や石のゴーレムとは大きく異なる、巨大な機械の兵士。歯車がチャームポイント。
……ボスとしては申し分ないよね。
この黒鋼の機械巨人ゴーレム(命名、クロノス)にもホロウシャドウ(命名、ウヅキ)を装備させた。
残念ながら、この巨体だとマントもネックレスも装備できないので、装備はここまでと相成ってしまったけれど、このままでも相当強いので心配ないと思う。
さて。
『王の迷宮』でもお留守番体勢が整った。
こうなればもう心配することなく、旅に出ることができる。
私はこれから、テオスアーレとグランデムで戦争を起こさせようと思っている。
そして、戦場になる位置にダンジョンを構えて、戦争で死んだ人の魂をうまく回収する。
最終的にはどちらかの国を滅ぼして、そこの『精霊』とやらの魂も回収したい。
……そのためにも、ダンジョンを幾つか作らなければならない。
戦場になるダンジョンを幾つか、そして、最後に国を滅ぼす時のためのダンジョン。
つまり、私は実際にその場所に行って、ダンジョンを作らなければならない。
予定しているのはグランデムとテオスアーレの間の土地だから、そのあたりまでは行かなくてはいけない。少し長い旅路になると思う。
……そして、ダンジョンを作って、準備万端となった暁には、テオスアーレとグランデムの間に戦争を起こす。
戦争が起きれば、たくさんの人が死ぬだろう。
ただ、国の間にダンジョンをいくつか構えていただけだとしても、相当な魂が入ってくるのではないかと思う。
……けれど、できれば、戦争をコントロールして、全ての人をダンジョンで死なせたいところだ。勿体ないから。
そこで私は考えた。
少し可哀相な気もするけれど、ストケシア姫にはグランデムに献上されてもらおう、と。




