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38話

 さて、今回のリザルトだ。

 今回殺した侵入者は、全部で803人。

 そして手に入った魂は6336053ポイント分。

 元々『王の迷宮』にあった分と足すと、残り7156753ポイント分。

 私の元々のダンジョンとも合わせると、残り9821655ポイント分。

 新しいダンジョンが9つも作れてしまう。これはすばらしい。そんなに作る予定は今のところないけれど。

 ないけれど……いずれ戦争を起こすなら、戦場を広くとっておいた方が、勿体なくない、とも思う。うん、その時にまた考えよう。

 今回は『信用』を魂に変換したようなものだから、2回使える技じゃないけれど、それでもこの稼げっぷりはとても気持ちが良い。

 特に、これだけの人数を一気に殺すとなると、相手が勝手にパニックに陥ってくれるのが楽で良かった。

 そこにトラップを発動させていけばいいのだから、とても楽な仕事だったと思う。




 手に入った道具やスキルを検分するのも面倒になる程だけれど……とりあえず、ガイ君のお気に召した鎧があった。

『白金の鎧』である。どこかの貴族が装備していた奴。

 総プラチナ。総プラチナだ。とても高そう。

 ガイ君のためにこの全身鎧に胸の宝石飾りを移し直して、ガイ君と合成。

 ガイ君はなんだか嬉しそうにしている。

 ……最近は専ら、ガイ君は私の装備になっているけれど、たまには分離しておいてもいいかもしれないね。


 スキルオーブは、大体が《一点突破》か《一刀両断》。1つ2つ《電光石火》や《力戦奮闘》が混ざるぐらい。

 あとは、ダブりにダブっている魔法系か。

 やっぱり、魔法を使える人は少ないんだと思う。

 てるてる軍団はちょっと異常だったんだな、と思わされる程度には、魔法のスキルオーブが少なかった。


 新しいスキルは、《快刀乱麻》が2つ、《堅城鉄壁》が1つ、《先手必勝》が2つ、《行雲流水》が1つ手に入った。

 《快刀乱麻》は対象をすっぱり斬るスキル。若干、対複数相手向き。これはホークとピジョンに与えた。

 《堅城鉄壁》は防御を高めるスキル。なので迷わずガイ君行き。

 《先手必勝》は自分が先制した時に強くなれるスキル。少し迷ったけれど、ムツキ君と私に投与。

 《行雲流水》は防御向きの剣技のスキル、なんだと思う。受け流す技。これは相当迷ったけれど、ガイ君行きにした。ホークとピジョンにあげてもいいのだけれど、剣を使うのはガイ君だから。


 他に《電光石火》をクロウとボレアスが、《力戦奮闘》を私が習得した。

 残りの余りに余った《一点突破》とか《一刀両断》とかは、余っていた魔法のスキルオーブと一緒に、ガーゴイルやキメラドラゴンの強化に使った。

 ……流石に、50階層もあるダンジョンを私と装備モンスターだけで動かすのは無理がある。それ相応にモンスターを利用していかないといけない。




 それからやっと、1FからB30Fまでの改装を行う事ができた。


 1Fはちょっと吹き抜けと飾りがある以外、至って普通の部屋。ここはあくまでもエントランスホール。スケルトンとゴーレムとガーゴイルの軍勢が襲い掛かってくるだけ。

 統率されていない烏合の衆ならまだしも、お姫様を助けに来る軍隊が負けるとは思えない。ここはモンスターの大軍を倒して安心して先に進んでもらう所だ。

 どうせ、スケルトン用の骨は803人分手に入っているし、石でも代用できる。

 ゴーレムもガーゴイルも石や土をそれぞれのメーカーに放り込めばできるし、石や土は『破壊可能』にしたフロアの壁を延々と削っていけば延々と手に入るから、材料には困らない。ちなみに、壁を掘って土や石を生み出す労働力は土や石からできているゴーレムが担当。

『幾ら殺してもらっても構わないモンスター』を使うのは初めてだけれど、『油断』や『慣れ』というトラップの一環だと思えば、そう悪い物でも無いと思う。


 続くB1FからB12Fまでは、『謎解き迷路』、というかんじ。トラップ一切無し。

 けれど、フロア毎に簡単な謎解きがある。ブロック動かしてスイッチ作動させたり、2つのボタンを同時に押してドアを開けたり、燭台に火を付けてドアを開けたり、簡単な暗号を解いてパスワードを割り出したりするだけの簡単な奴。

 それから、多少モンスターが出てくるけれど、メーカーで大量生産できるスケルトンやビッグワームやゴーレムぐらいなもの。

 ここらへんはもう、『討伐しながら進んでください』というかんじ。元手ほぼ0だから、やられても痛手にならない。

 ただ、相手を適度に消耗させつつ、『冒険している』感覚を生み出させ、『簡単に進みすぎている』感覚を消すためだけにモンスターを使う。


 B1Fは薔薇庭園。草地の床の上に薔薇の生垣で迷路を作った。お洒落。

 ちなみに、お姫様の部屋はこのフロア。ただし、B49Fの奥にある転移陣で移動しないと部屋の中に辿りつけないようになっている。

 私の元々のダンジョンで『世界のコア』を最初の部屋から見るだけ見えるようにした時と同じかんじ。

 B2Fは風の迷路。少々向かい風が強い以外、特に何も無い。

 B3Fは岩の迷路。少々歩きにくい以外、特に何もない。

 B4Fは氷の迷路。滑って転んだら楽しい。

 B5Fは水の迷路。通路内には足首ぐらいまでの水が湛えられている。

 B6Fは火の迷路。火の壁や熱い床がある。見えている火に突っ込んでいく人は居ないだろうから、ダメージソースとしての期待は特にしてない。

 B7Fはまたオーソドックスなかんじ。

 B8Fはまた花園迷路。今度の生垣はロイヤルジャスミン。お洒落。……薔薇もそうだけれど、精油用の栽培と兼ねてる。

 B9Fはまた風の迷路で、B10Fはまた岩の迷路。B11Fは氷、B12Fは水の迷路。

 ここまでは全部、相手を適度に疲れさせ、また、過度に油断させるため。

 B5Fで警戒して、B5Fが終わったB6Fでまた警戒しても、B7Fまでその警戒が持つかは怪しい。B8Fともなれば、また微妙だと思う。

 そしてB10Fが終わって、B12Fにもなれば……侵入者は迷路や迷路の謎解きに慣れてしまう。



 そして、B13Fは、また火の迷路。致死トラップも無い。でも、ここがターニングポイントだ。

 B13Fでは今までの『簡単な謎解き』の延長のようなふりをして、侵入者を5つに分断する。詳しくは省く。

 その後、B14Fで侵入者達を同士討ちさせて、B15Fまでには侵入者の3分の1は削る。

 相手の統率はB15Fまでで完全に乱れる予定なので、B16Fで侵入者をある程度分断しつつ、人数の少ない所から着実に、キメラドラゴンやガーゴイルの数の暴力によって仕留めていく。

 ……そして、B30Fまでに不意打ちでもう数人殺して、B30Fで私の元々のダンジョンにある『9本の道』をやって、残った侵入者を片付ける。

 それで駄目だったら、撤退しながらB31F以降のトラップ迷路で着実に片付けていく。

 最終的には、B49Fのトラップ部屋で戦う、という事になるけれど……多分、B30Fまでで片付くんじゃないかな、と思う。

 結構、B13FからB15Fまでが厳しいと思うから。




 ちなみに、迷路の謎解き関係の仕掛けやトラップは、全部オートマティックに設定してあるので、私が居なくても最悪、キメラドラゴンやガーゴイル達によって侵入者を撃退できるようにしてある。

 今はとりあえず、お姫様を助けに来る人達を迎え撃てばいいけれど、その内、このダンジョンも役目の大半を終える事になるだろうから、その時にも問題なく稼働できるように設計した。

 ……だから、早く、このダンジョンとしての役目を、果たさなくては。




 改装が終わったので、お姫様を引っ張りに行く。

 ダンジョンとしての目でお姫様を放り込んだ部屋の様子を見ると、お姫様はもう起きているようだった。

 ……ちょっと面倒だけれど、仕方ない。

 外から鍵を開けて、お姫様の部屋に入る。

「あっ、メイズ様、あの、ここは……?」

 特にお菓子に手を付けた訳でも無く、ストケシア姫は白い床に座り込んでおろおろしていた。

「『王の迷宮』の中」

「えっ、あの、ダンジョン、の中ですか?」

「そう」

 ストケシア姫は害意が無さそう、というか、そもそも状況を理解していないらしかった。

「な、何故ダンジョンに……?」

「私が連れてきたから」

「……ええと、メイズ様。何故、メイズ様は私をダンジョンへ連れてきて下さったのでしょうか……?」

 ……どうも、ストケシア姫は『攫われた』という意識が無さそうだ。

 ここで現実を教えてあげるのもいいだろう。

 でも、下手して自害されたら何かと面倒だ。ストケシア姫のゾンビを作ってもいいけれど、絶対腐るから日持ちしないし。

 ということで、適当な事をいって煙に巻くことにした。

「ダンジョンの話を聞きたいって言ってたから」

「……え」

「聞くより見た方が速いでしょう」

 ストケシア姫は目を見開いて、すっかり固まってしまっている。

「なんだかあなたは、お城の外に興味があるようだったから」

 そして、私がそう言うや否や、お姫様の紫の双眸から、大粒の水晶の如き涙が、零れ落ちた。

 ……えっ。

「……私、私、メイズ様のお話をお伺いして……女性で、1人で、なのにとても強いあなたのお話を、お伺いして、憧れたんです」

 ……えっ。

「実際にお会いして、その、助けていただいて、益々、そう思いました。とってもお綺麗で、なのに、お強くて……素敵な方だって、思いました。でも、でも……それと同時に、私もメイズ様のように生きられたら良かったのに、って、そうも憧れたんです」

 ……えっ。

「メイズ様からお話をお聞きしたいなんて我儘を言ったのも、自分ができないことをあなたのお話で聞いて、それで……私もメイズ様みたいだったら、って、想像するためだったんです。私、あなたに私を重ねてみたかった」

 ……えっ。

「だって、だって!お城の外に出るなんて、自由に生きるなんて、私、一生できないのだもの!」

 ……えっ、ああ……うん。




 それから、感極まったらしいストケシア姫が泣き止むまで、数分かかった。

 ……なんか、こう、色々、予想と違ったけど……まあいいや。むしろ、これは良かったと思おう。

 下手に自害されるよりは、騙して大人しくしておいてもらった方がいいだろうから。


「泣いたら喉が渇かない?これ、飲むといい」

 まだ涙が顔に残るストケシア姫に、飲み物の瓶を勧めた。中身はジュース。

「これは……?」

「飲み物。口に合うかは分からないけれど、『お城の外の』飲み物だよ。こっちは『お城の外の』お菓子」

 飲み物の栓を抜いて、瓶ごと渡すと、ストケシア姫はしばし、茫然と固まり……それから、意を決したように瓶に口をつけ、中身を呷り始めた。

「……んっ、ぷは……」

 そして、瓶の中身を5分の1程減らしたところで瓶から口を離し、息をつく。

 ……そして、至極楽しそうに笑うのだった。

「私、とってもお行儀が悪いこと、しちゃった!」

 と。




 終始嬉しそうなお姫様にお菓子と飲み物を与え終えたら、今後の話を少しした。

 考えながら、ゆっくり、だけど。


 まず、ストケシア姫に提案した。しばらくこのダンジョンに居て、少しぐらいお城の人達を困らせてやれ、と。

 お姫様は大層悩んでいた。

 けれど、私が「あなたの周りの人はあなたの気持ちに気付くべきだし、そのためには一回距離を置くことも必要」という訳の分からない理論で言い包めたら言い包まったのでゲームセット。


 それから、「しばらくの間、ダンジョンであなたを匿う」と申し出て、ついでに「あなたを探しに来る人が居たら話して帰ってもらう」とも申し出た。

 それから一応、私はこのダンジョンを管理している者だ、と教えた。だからこのダンジョンのモンスターは私の言う事を聞くし、ここに居ればストケシア姫は安全だとも教えた。ここを話さないと、今一つ話が成立しないので。

 ストケシア姫は当然、びっくりしていた。けれど、「メイズ様はどこか不思議なかんじのする方ですもの、ダンジョンの精霊様だったと聞いても、納得してしまいます」と斜め上の反応を返してくれた。

 なんだ精霊って。精霊が居るなら殺して魂回収したいよ。

 ……後で聞いてみたら、『国にも村にも大なり小なり精霊が居てそこを管理している』という信仰がこの世界にある事が分かった。だから、『ダンジョンにも精霊が居てもおかしくない』と思った、とも。

 もしかしたら、世界にあるダンジョンの内いくつかは、その信仰に乗っかって『精霊』として人間と交流していたりするのかもしれない。私には関係の無い話だけれど。




 さて、ストケシア姫のプチ家出に加担する協定を結んだところで、ストケシア姫をお部屋に案内した。

 ストケシア姫のお部屋はB1F、薔薇の生垣の迷路のフロアだ。

 B1Fの中央にストケシア姫の部屋がある。

 簡素なベッドに机と椅子。そして、小さいけれどお風呂とトイレも隅の方に設置してある。

 退屈しないように本を数冊用意してあるし、「お手紙を書いてもいいかもね」ということで、紙とペンも与えておいた。

 部屋の中にも薔薇の鉢植えがあったりと、かなり生活に配慮した設計になっている、と思う。

 ……B49Fへの転移陣へ繋がるドアに外から鍵がかけられている事と、部屋の1面が丸ごとガラス張りな事以外は。


 全面ガラス張りにしてあげても良かったのだけれど、それだと多分落ち着かないと思うので、ガラス張りは1面だけにしておいた。

 侵入者はここからストケシア姫のお姿を確認できる、という事になる。

 そして、全面ガラス窓の1面を含めて、部屋の外観は全体的に、『牢屋』のようにしてある。

 部屋の中に居るストケシア姫はただのお部屋だが、侵入者にはストケシア姫が牢屋に囚われているように見えるはずだ。多分、囚われのお姫様を助けようと、闘志が燃えてくれることだろう。


 ストケシア姫には、「もし必要な物があったら、この子に言ってくれれば大体持ってきてくれると思う」と言って、紅色スライムを2匹、部屋に置いてきてあげた。

 紅色スライムはお姫様の小間使い兼、監視役。

 ドアのスライム専用出入り口から出入りして、お姫様に食料供給を行ったり、暇つぶしの道具を運んだりしてくれる。

 食料は803人の犠牲者たちが貢いだり遺したりしていってくれたから、あり余る程ある。問題ない。

 ……そして、紅色スライム達はお姫様を監視する。むしろ、こっちが大事な仕事。

 外に出ようとしたら(出られないように扉には鍵がかけてあるけれど)止めてくれるし、自殺しようとしたら止めてくれる。

 万一、お姫様が死にかけたら、部屋に常備してある『最高級薬』で回復させてくれる手筈。

 これで、ストケシア姫の命は、このダンジョンの手に完全に握られた事になる訳だ。




 ストケシア姫に「ちょっと出かけてくるね」と言い残してから、私は1Fの入り口をふさいでいた壁を退かした。

 そして、代わりに、ダンジョンの入り口の外に石板を建てる。

『ストケシア姫は『王の迷宮』に囚われている。取り戻すならば力づくで取り戻してみよ』と。


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