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33話

 それからまた旅路を急いで、私のダンジョンに戻ってきた。

 道中、『王の迷宮』さんの首にリリーを巻いて帰った。

 そうするとリリーは『王の迷宮』さんの体調だけに気を配れるし、『王の迷宮』さんが起きたらすぐに絞めて落とせる。

 何かと便利だった。




「ただいまー!」

 疲れも吹き飛んでしまったものだから、また徹夜乗馬(ガイ君との交代含む)で戻ってきてしまった。

 ダンジョンに入ってすぐ、ルビアとサフィアのリビングドール姉妹他、彼女らの装備モンスター達が出迎えてくれる。

「お土産に都のダンジョンさんを持って帰って来たよ」

 みんなに『王の迷宮』さんを見せると、静かに拍手が起こる。多分、喜んでくれていると思う。

「まずは殺そう。経験値がたくさん手に入る可能性があるから、皆で殺そう。実験実験」

 リリーをまた私自身の首に戻したら、気絶したままの『王の迷宮』さんを仰向けに寝かせて、クロウ君を『王の迷宮』さんの喉に突きつける。

 私の手にリビングドール姉妹が手を重ねる。勿論、リビングドール姉妹もフル装備済み。

「じゃ、いっせーの、せ」

 そして仲良く殺害。

 ……おや。

「これはなんかいいかんじ」

 なにやら、大幅にレベルアップした、予感。


 結果、私がLv20の大台に乗った他、ガイ君はLv46になり、刃物達はLv31になった。

 リビングドール姉妹はLv3だったのがLv23にまで上がったので、一気に頼れる存在に。

 それに伴って、他のモンスター達も皆、一気にレベルが上がった。

 これでもっと強くなれた。

 モンスター達もそれぞれ、自らの強化を喜んでいる。

 うん、お土産としては上々だと思う。




 では、今回(『王の迷宮』遠征)のリザルト。

『傷薬』3つ、『上級薬』5つ、『最高級薬』2つ。

 そこそこ上等なナイフが2つ、ドレスが1着、マント1枚、指輪7つ、腕輪5つ、首飾り4つ、耳飾り3組、足輪1つ、頭に装着するタイプの装飾品が4つ、ブローチ2つ、親指の爪より少し小さい宝石7つ。

 以上がダンジョンで手に入れてきたお宝の類だ。

 そして、『王の迷宮』さん1人。

 それに合わせて、『王の迷宮』さんが身に付けていた服1着と指輪1つ、ペンダントみたいなやつ1つと短剣1つも手に入った。

 また、手に入ったスキルオーブは《ファイアフライ》や《スプラッシュ》といった普通の魔法の他、《一家眷族》というスキルが手に入った。

 これが例の、『モンスターをテイムするスキル』なんだろう。

 ガイ君やリビングドール姉妹に与えてみてもいいかもしれないけれど、やっぱりここは私が取得することにした。

 もし今後、他所のダンジョンで良さそうなモンスターを見つけたら、粉を掛けてみよう。


 ……しかし。逆に言うと、それ以外のスキルが特になかった。

 戦争があって、そのおかげで魂が潤ったなら、それ相応にスキルオーブも手に入るはず……もしかして、そのスキルをモンスターに与えてしまった?それで、そのモンスターは私が『私のダンジョンではないダンジョンで殺した』ため、『私の手元にスキルオーブが残らなかった』?

 ……あり得る。

『王の迷宮』さんが死んで『王の迷宮』がどうなったのかも気になるし、一度、都に戻ってみた方がいいかもしれない。




 それから『王の迷宮』さんを殺すことで手に入った魂は、1867002ポイント分だった。

 ……ちょっと、桁がちがう気がする。

 今までに私が稼いだ魂分をあっさり超えてしまった。

 まあ……相手はダンジョンだったし、B50Fまである巨大ダンジョンだったし、でも『王の迷宮』さん自身は弱かったし、妥当なところ、なのかな。

 しかし、これで魂は残り2664902ポイント。

 ……新しいダンジョンが2つ作れてしまうレベルの魂だ。

 うん。これを元手に、『王の迷宮』さんが言っていた方法を使ってみようかな。




 手に入れたものの整理を行いつつ、戻ってきた一番の目的について、考えてみる。

 ……『私が持っている能力』って、なんだろう。


 どうも、『王の迷宮』さんはダンジョンに成った時から《一家眷族》を持っていたようだった。

 そして、他のダンジョンも同じように、ダンジョンに成った時、何らかの能力を手に入れられる、というような話しぶりであったように思う。

 だとすれば、私の能力は一体、なんだろう。

『王の迷宮』さんには咄嗟に『筋肉です』と言ったけれど、自分の体はそんなに変化していない。いっそゴリラレベルになればそれはそれで面白かったのだろうけれど、見てすぐにわかるような変化は特に無い。

 ……でも、ありえない話じゃない。

 筋肉量は変わっていないけれど、質が向上した、とかだったら、十分にあり得るかな、と思わないでも無いのだ。

 私は今、装備モンスターの力を借りて強化されている。だから、『王の迷宮』さんを担いで運ぶ事は勿論、そもそも剣を振り回したり人の首を折ったりすることだってできる。

 ……けれど、それが全て、装備モンスターによるものだと、断言できない。

 レベルアップもしているから余計に分からないけれど、私はこのダンジョンに成った時点で、ある程度身体が強化されたのかもしれない。

 少なくとも、それを否定する材料は無い。

 ……候補一、筋肉、と。


 他にあるとすれば、『モンスターを装備する』ことだろうか。

 他の人がやっているのを見た事は無いし、『王の迷宮』さんもやっていなかった。

 これも否定する材料は無い。誰かがやっていたら、否定できるかもしれないけれど。

 ……候補二、装備、と。


 もっと根本的な事を考えるとすると、死を恐れなくなったこと、とかかな。怪我することも、殺すことも特に躊躇しなくなった。

 これが私個人の特殊な変化なのか、ダンジョンに成ることで起きる一般的な変化なのかは分からない。

 もしかしたら、ダンジョン一切関係なく、単純に私がそう割り切っちゃっただけかもしれない。

 ダンジョンに来た時、とても疲れていたから。

 ……今も『どこか』……以前の私がもうちょっとその凹凸に振り回されていたはずのその『どこか』が疲れて死んでいるような感覚がある。

 いや、死んでいるから感覚が無いのか。或いは、死なないから、傷つかないから感覚が無い、のかもしれない。

 これが欠損なのか、強化なのか分からない。見えないものは見えないし、確かめようがない。

 だから私が作り替わった、ということじゃないとも言えないし、能力だとも言い切れないし、やっぱりよく分からないな。

 ……候補三、ノーライフ・メンタル、と。


 ……色々考えたけれど、どれも決定打にはならなかった。

 そもそも、自分に隠された能力があるならそれを知ることで強みになるけれど、自分が既に使っている能力が『実はそれ、隠された能力なんですよ』ってなっても、「ふーん」で終わりのようにも思う。

 そして私は、私のダンジョンに戻ってきても『隠された能力』を実感したりすることは特になかった。

 ……考えるだけ、無駄、って事かもしれない。




 結論も出てすっきりしたところで、もう一度都へ向かう事にした。

 睡眠が欲しい気もするけれど、それは後でもいいや。

『王の迷宮』さんが死んで、『王の迷宮』がどうなったか分からない以上、一刻も早く戻ったほうがいい。

 そして、あわよくば、私にとってより都合のいい方向へ転んだ方が良いのだから。




 馬は流石に交換した。

 私とガイ君は交代できるけれど、馬は交代できないから。

 そしてまた、テオスアーレの都に向かって馬を駆る。

 ……都は今、どうなっているだろうか。




 それからまた1日ちょっとの強行軍で都へ到着。流石にそろそろ疲れたかもしれない。

 帰る前には一泊していこう。


 テオスアーレの都について、真っ直ぐ『王の迷宮』に向かう。

 ……が、びっくりするぐらい、何事も無く、入った時と同じ様子だった。

 ダンジョンから出てきて成果を見せ合っている冒険者達。

 ダンジョンの中に意気揚々と入っていく冒険者達。

 異変は無い。

 このダンジョンの主が死んだというのに、全く異変が無い。

 ……気になるから、ちょっと最奥を見てこよう。




 B30Fには、またキメラドラゴンが陣取っていた。

 多分、ダンジョンで回収したモンスターの死体を合成してキメラドラゴンにするまでの行程を全自動で行えるように設定したりしてあったんだと思う。

 キメラドラゴンに「退いて」って言ったら退いてくれたので、先へ進む。


 B31F以降も、居るボスはみんなキメラドラゴンだった。

 そしてやっぱり「退いて」って言ったら退いてくれたので、あっさり先へ進める。

 所が、B43F以降になると、キメラドラゴンどころか、ボスモンスターが居ないフロアが続くようになった。

 ……モンスター切れのようだ。




 B50Fまですすんで、玉座の間に戻ってきた。

 部屋の中は出ていった時と変わっていない。

 ……いや、少し変わったか。砂時計型オブジェの中身……つまり、『魂』が減っている。

 成程、ダンジョンの本体というか、ダンジョンの一部というか、ダンジョンの主というか、そういう存在であった『王の迷宮』さんが死んだから、『王の迷宮』は貯蓄されていた魂を消費してこのダンジョンを維持しているんだろう。

 ……その魂すら尽きたら、多分、私のダンジョンに私が来る前みたいに……休眠状態になるんじゃないかな。

 ということは、このダンジョンは、休眠一歩手前のダンジョン、という事になる。

 生憎、冒険者たちは気づいていないみたいだけれど。

 ……なら、今の内、か。


 薄黄色の光の中、私は部屋の奥へ進む。

 部屋の奥にあるのは、立派な玉座。

 私のダンジョンのものと形は違うけれど、私のダンジョンのものと同様に、最上級の品質を備えているのだろう。

 玉座の背に触れると、ほんの少し、辺りが緑みがかった。

 ……やっぱり、そうだ。

 思わず綻ぶ顔はそのままに、私は玉座に腰を下ろした。


 途端、私が広がる。

『王の迷宮』が私を取り込んで、私が『王の迷宮』を取り込んでいく。

 私の感覚は『王の迷宮』と同化し、『王の迷宮』は私の手足となる。

 慌ただしく組み替えられていく感覚は、これで2度目だ。

 1度目……私のダンジョンの玉座に座った時ほどの知識の氾濫は無かったけれど、『王の迷宮』としての知識が大量に流れ込んでくる。


 ……このダンジョンは1F~B50Fまでの51階層。

 トラップはB50Fにあるものだけ。

 モンスターメーカーの類は全部で9種類。

 スライム、ビッグワーム、ブラッドバット、スケルトン、アーマードアント、ゾンビ、ゴーレム、キメラドラゴン、ガーゴイル。

 他のモンスターは素材から作られたり、ダンジョンの外からテイムされてきたもの。

 B50Fにある『魔石坑』や『宝石坑』は全部で20。それぞれから1日に2回回収できる成長速度。

 畑もあるし、家畜もいる。

 このダンジョンを訪れる冒険者は、1日平均のべ550人前後。そして、侵入者のもたらす魔力によりダンジョンが動く。

 このダンジョンに蓄えられた魂は、ポイントにして820700ポイント……。


 ……このダンジョンの情報だけでも、十分頭がいっぱいになった。

 1度目よりは大分マシだけれど、それでも結構堪えるものがある。

 でも、それ以上に、手に入ったものは大きい。


 玉座の背に体を預けながら、ゆっくり目を開けば、そこには薄青色の光に包まれた空間があった。

 さっきまで薄黄色をしていた床の魔法陣は薄青に染まり、薄黄色を湛えていた砂時計型オブジェは薄青色を湛えている。

 ……これで『王の迷宮』は、私に成った。




 私の元々のダンジョンだけでなく、『王の迷宮』にも成った私が最初にこの『王の迷宮』で最初にやることは、『現状維持』にしようと思う。


 いつまでもこの『王の迷宮』をこのままにしておくつもりはない。

 このままじゃ、効率が悪すぎる。

 人を殺さなくても『だらだら生きる』ことはできる。けれど、『世界を取り戻す』事はできない。

 だから、どこかで一気に人を殺す事になると思うのだけれど……そのためにも、今は『現状維持』だ。

 ダンジョンの中身が変わってしまったと、気づかれないようにする。

 しばらくはそれだけでいい。


 ……戦争を起こせば、魂は一気に稼げる。これはいい。

 けれど、今すぐ戦争を起こしても、『無駄が多い』。

 戦争で死んだ魂を回収できるのは、ダンジョンのエリア内でだけ。

 余程限られた範囲の中だけで戦争をしてもらうならまだしも、そうでなければ……かなり、無駄が出る。それはもったいない。

『王の迷宮』が、『マリスフォール』という国が『テオスアーレ』に滅ぼされた時にたくさん稼げたのは、『マリスフォール』の城の近くに『王の迷宮』があり、『マリスフォール』が陥落目前の状態……つまり、城を攻められ、陥落を待つのみになっていたから、だと思う。

 ……どうにかして戦争を起こすにしても、きっかけは必要だ。

 そして、戦場となる場所も必要だ。

 ……それらを用意するには、もう少しだけ時間がかかる。




 そして何より、『戦争を起こす』のと似たような……それでいてもっとコンパクトで、回収効率が良くて、このダンジョンを有効利用できる魂回収方法を思いついてしまったから。

 ……てるてる親分さんとの約束もあるから、丁度いい。

 とりあえず、『ストケシア姫の誘拐』を近い目標にしようと思う。


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