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31話

 他所のダンジョンに入るのは初めてだけれど、なんでこう、こんなに、こう……トラップが、無いの?

 ここ以外のダンジョンもそうなんだろうか。それとも、ここだけが特別なんだろうか。

 ……謎だ。なんで、トラップが無いんだろう。


 トラップが無いのは1Fだけかと思ったら、そんなことは無かった。

 1Fでは適当にスライム達には退いてもらって(「ちょっと退いて」って言ったらするする退いてくれた)、さっさとB1Fに進んだけれど、そこも、スケルトンやなんかのモンスターが居るばっかりで、全然トラップが無かった。

 ……私の目に見えてないだけかと思って、相当頑張って探したんだけれど、無かった。


 B2Fにもトラップは無かった。

 B3Fにもトラップは無かった。

 延々と進んでいく内に、冒険者の数もまばらになって来る。B10Fを超えたあたりから、1階層に居る冒険者の数は1パーティ未満、ぐらいになってきた。

 でも、トラップは全然無い。

 それから、B10Fを過ぎたあたりから、「退いて」って言ってもモンスターが退いてくれなくなってきた。

 でも「退け」って言ったら退いてくれるのも居るので、できるだけ戦わずに進むように心がけた。

 ……特に、B10Fからはリビングアーマーが何体か居て、そいつらを斬るのは、なんとなく嫌だったので。

 尤も、気にしているのは私だけで、当のリビングアーマー君は割とやる気だったんだけれど、こう、なんとなく。


 それから、B10Fには面白いものもあった。

『転移陣』である。




「なんだろね、これ」

 光り輝く魔法陣みたいな、直径1.5mぐらいの円があったので、上に乗ってみた。

 すると、視界が光に包まれ、次の瞬間、私は1Fに戻ってきていたのである。

 ……どうやらこれは、『お帰りはこちらから』用の『転移陣』、らしい。

 勿論、一方通行。

 ……また1FからB10Fまで下りる羽目になった。


 そこから更に進むにつれ、『どうやら転移陣はB10F以降、5Fごとにあるらしい』という事が分かってきた。

 ……冒険者に優しいダンジョンだなあ。




 B30Fまで来た。

 とは言っても、割とさくさく進めている感覚。

 やっぱり、うちの装備モンスター達は強い。

 それに、トラップの無いフィールドで戦うんだから、相手のモンスターだけに集中できるし。

 こっちがトラップ使いたい時は、《ラスターケージ》で光の部屋を作って、疑似トラップ部屋にできるし。

 ということで、B30Fに居た『キメラドラゴン』もあっさり撃破。

『キメラドラゴン』はなんだかいろんなモンスターを継ぎ接ぎしてドラゴンっぽくしたかんじのモンスター。確か、魂10000ポイント分もあれば作れたはず。

 でも、ホロウシャドウと同コストの割には弱い印象だった。真っ向から戦うからかな。

 うちのホロウシャドウ達は真っ向から戦ったりしないもんね。

 ということで、さっくりB31Fへ進む事にした。




 B31F以降になって、モンスターの毛色が変わってきた。なんというか、強くなってきた。

 隊列を組んで弓を撃ってくるスケルトンとか、スケルトンの割にかなり強かった。

 ホロウシャドウ・ムツキ君がちょっと行って後ろから殴って隊列乱したところに魔法ぶちまけながら斬りこんだらあっさり突破できたけれど。

 それから、ここまでにも宝箱はいくらかあったけれど、B31F以降になったらより質の良いお宝が出てくるようになった。

 今までは精々『上級薬』とか、小さい石のついた指輪とか、短剣とかそういうレベルだったのだけれど、B31Fでは、星空みたいな不思議な布地で仕立ててあるドレスが出てきた。

 多分、相当不思議な代物なんじゃないかと思う。この世界でも相応の価値のあるものだろう。

 ……うん、つまり、ここからが本番、って事なのかな。




 それからも、モンスター重点ダンジョンが続いた。

 スケルトンが隊列を組んできたみたいに、ゴーレムとアーマードアントで挟み撃ちにしてきたりとか、ガーゴイルが一斉に3体襲い掛かってくるとかはあったけれど、それも特に問題にならなかった。

 ここまで進んで一番思うのはトラップの少なさ、モンスターの多さ。

 そして次に思うのは、道の広さだった。

 多分、モンスターで戦う事をメインにしているからだと思うのだけれど、モンスターが戦いやすいように地形を広くとっているのだ。特に、ゴーレムなんて、ある程度広い場所じゃないとまともに戦えない。ドラゴン類も然り。

 けれどそれって、冒険者の戦いやすい場所、でもあるんだと思う。

 実際、戦いやすい。《ラスターステップ》で部分的に光の床を作って、それをそのまんま床トラップとして使ったりすれば、正直、私のダンジョンの中より戦いやすい。

 ……ただ、その代わりというか、B30Fを過ぎてから、『モンスターを倒さないと通れない場所』が出てきた。

 つまり、キメラドラゴンとか、アーマードクイーンアントとか、メガゴーレムとか。

 そういう、一定以上の強さのモンスターをそのフロアの『ボス』としているかのように配置して、そのモンスターが死なないと扉が開かないような仕組みにしてあるのだ。

 ……つまり、まあ、最初から分かっている通り、このダンジョンはモンスター重点ダンジョンである。

 そして……このダンジョン、採算取れてるのかな。ダンジョンやってる身としては、とても、とても、心配である。

 潰すけど。




 それからB39Fぐらいで私のダンジョンにはぐれ冒険者みたいなのが来たけれど、お一人様だったのでB1Fの分岐に入る前にリビングドール姉妹が魔法で仕留めた模様。よって私の出番は無し。

 その間、意識があっちとこっちとで分断されて危ないかな、と思ったけれど、私の体の方は装備モンスター達が動かしてくれるから、あんまり問題なかった。

 少なくとも、回避行動ぐらいなら我らがリビングアーマー・ガイ君がやってくれるので、私の意識が飛んでいても大丈夫。


 ……それから道中で一回、モンスターを殺した後、試しにそのままフロアに残り続けた。

 こう、思ったのだ。

 そのフロアの『ボス』を倒して、安心して休憩しているところで罠に嵌める、とか、そういう仕組みなんじゃないか、と。

 ……しかし、一向にその気配は無い。

 休憩して、夜食か朝ごはんか分からない軽食をとっても、全く何もない。


 さらに気になったので、『階段を上る』事ができるかどうか、試してみた。

 つまり、一度入ったら戻れないような仕組みなんじゃないか、と思ったのだ。

 ……が、それも無し。

 普通に戻れる。


 ……こうなってくると、いよいよこのダンジョンの目的が分からなくなってきた。

 少なくともこのダンジョン、『魂を集める』事が目的じゃ、なさそうだ。




 そうこうしている内に、B49Fまで到達。

 ……そこには、とてもたくさんのモンスターが居た。


 多分、ここで最後、なんじゃないかな、と思う。ダンジョンの勘。

 つまり、ここのモンスターを全滅させれば最深部、ということ、なんじゃないだろうか。

 うん、頑張ろう。


 とりあえず最初に、《ラスターケージ》を発動。

 範囲を適当に絞って、たくさんいるモンスターの内の一部と私達だけを光の檻の中に閉じ込める。

 戦い方の基本は、分断。

 そして、自分の土俵で戦う事。

 インスタント・トラップ部屋な《ラスターケージ》はとっても便利な魔法だ。この両方を一度にできる。

 ……ただし、これを使うとちょっと疲れてしまうので、使いどころには注意。


 分断して、《ラスターケージ》でトラップを作って、斬って、魔法ぶちまけて、殺す。

 大体それだけだ。特別な事は何もしない。

 けれど、モンスターを装備して、皆に力を借りている私は、強い。

 それだけで殺せる。勝てる。

 ……いや、多分、私の強さ云々の前に、モンスターが弱いのだ。

 生まれたてほやほや、みたいな。

 ……まあ、今までのダンジョンの構造を見ると、それも当然か、と思う。

 だって、モンスターを殺さないと先に進めない、という事は、先に進む侵入者が居た場合、100%モンスターは死ぬのだ。

 モンスターのレベルが上がって、モンスターが育って強くなっても、『殺されることが前提』なのだ。

 これは、どう考えても、効率が……効率が、すごく、悪い。

 ……このダンジョンの目的は何なんだろう。

 モンスターは『○○メーカー』の類(私のダンジョンにあるスライムメーカー然り)を使わない限り、魂を使って作るしかないはず。

 という事は、少なくともこのダンジョン、どこかでどうにかして誰かを殺しているのか、『○○メーカー』の類を手に入れるだけの魂を先に回収して、それからこういうダンジョン運営に入ったのか……或いは、モンスターを生み出す、他の方法を持っているか、という事になるのだけれど。




 B49Fのモンスターも倒し終わって、扉が開いた。

 ……するとそこには、大きな宝箱。

 当然、トラップの確認をしっかり行った上で何も無かったので、開けてみた。

「……わあ」

 すると、中には丁寧に絹が敷かれていて、その上にすごく綺麗な装飾品が一揃い輝いていた。

 指輪が2つ、腕輪が2つ、首飾り1つ、耳飾り1組、それと、冠……ティアラ?ええと……頭輪。うん、頭輪が1つ。

 道中で出てきたお宝とは一線を画す質の良さなんじゃないか、と思う。あまり目が利く方じゃないけれど、そのぐらいは分かる。

 とても綺麗な装飾品だけれど、トラップとかでは、なさそう。

 デスネックレスみたいにモンスターの可能性もあるから警戒したけれど、それに関しても装備モンスターからGOサインが出たので、これらは布にくるんで鞄にしまって持って帰ることにした。




 さて。

 このダンジョン、いかにもここが終点です、という顔をしているけれど、そんなわけはない、と思う。

 ここにも居る気がするのだ。私と同じように、ダンジョンと成った、誰か、何かが。


 宝箱の横には、『お帰りはこちらから』と言わんばかりに転移陣がある。けれど、帰るつもりはない。

 辺りを見回しても、下り階段は無い。『最深部到達を讃える』って書いてあるプレートがあるだけだ。そのプレートにも仕掛けは無い。

 ……なら、ここか。

 宝箱をずりずり動かすと、その下に穴が現れた。

 地下へ続く穴だ。




 警戒しながら穴を下りる。念のため、《ラスターステップ》を使いながら下りた。

 ……するとそこの廊下で初めて、トラップが現れたのである。

 それは肉眼では見えないけれど、《慧眼無双》で見て分かるトラップ。

 床を踏んだら天井から何か……多分、超強力な毒物とかが降ってくるタイプのトラップだ。

 更に、そのトラップを抜けた先には壁から矢を射出する機構があったり(見慣れてるからすぐわかった)、マグマ入りの落とし穴があったり。

 ……うーん、まさか、ここでやっと冒険者を殺す仕組み、なんだろうか。

 いや、でもここまであからさまだとちょっと。

 これも何かの罠なんだろうか。

 ……うん、いいや。もう下手な勘繰りはやめよう。相手のダンジョン運営の目的はなんとなく分かってしまったし。

 それに、私だってダンジョンだ。こういう時、『相手がどういう事を考えてこれを設置したか』はよく分かる。

 つまり、このダンジョンの主は、『私を止めるため、新しくトラップを設置した』のだろう。

 なら話は早い。

 私はできる限り速く、ここを突破すべきだ。

 相手がそれを望まないのだから。




 はじめに、《フリーズ》で床と壁と天井を全部凍らせてもらった。

 それだけで床から飛び出る槍とか、天井から降る毒物とか、壁から射出される矢とかは封じられる。

 次に、《ヘイル》で雹を振らせてもらって、凍りきっていないトラップを探す。

 ……尤も、それで動くトラップは無かったけれど。

 続いて《オブシディアンウォール》で、やっぱり作動するトラップを探す。

 それでもトラップが作動する気配は無かった。任意作動になってるならここまでで作動しなくてもおかしくないから、警戒は続ける。

 もう一度フリーズしてから《オブシディアンウォール》で壁や床や天井を覆う。これでトラップは多分大丈夫。

 最後に、《ラスターケージ》で罠のある廊下全部を覆い、ついでに脱出経路も確保。3重構造だから多分大丈夫。

 そうして石橋を何度も叩くようにしてから……突撃。

 3重の壁の向こうでトラップがガタガタいう音が聞こえるけれど、問題ない。

 準備は慎重に、けれど、そこを抜ける時は素早く。

 ……そうして、新たに魔法を展開したりしつつ廊下を進み、進んで、進んだ先に……。

「見つけた」

 思わず、笑みがこぼれる。

 私の視線の先で、ひ、と息を呑む音とも声ともつかない音が小さく響く。

「ねえ、ちょっといいですか」

 床には薄黄色の魔法陣。壁には鏡。正面には玉座があって、その横には、薄黄色の何かが入っている砂時計のようなオブジェ。

「聞きたいことが、あるんです」

 私のダンジョンとしての感覚が告げる。『目の前のこいつはダンジョンだ』と。

 ……さて、ダンジョンって、殺したらどのぐらいの魂が手に入るだろうか。


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