表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
26/135

26話

 てるてる坊主の親分は、私に会ってちょっと戸惑っていたけれど、すぐに攻撃を開始してきた。

「っ、《ホーリースパークル》!」

 他のてるてる坊主達は魔法を撃つ前に大体仕留められたんだけれど、流石、親玉ともあると魔法を撃つのも速い。

 けれど、こっちを何人だと思ってる。私含めて8人というか8体だぞ。負ける気がしない。

 リビングアーマー君が導くように動いてくれるから、それに合わせてキラキラした魔法を避ける。

 そして、避けながらも攻撃を始める。

 てるてる親分の足元でトラバサミを作動させて、壁から矢を放つ。

「っ、《ラスターステップ》!《レイシャワー》!」

 すると、光の足場を作ってトラバサミを避けつつ、光の雨を降らせて矢を撃ち落とした。うん、この程度は他のてるてるさんもやってくれたよ。

「《グローバースト》!」

 うん、でも、攻撃に転じられるのはやっぱり親分ならではなのかな。

 いままでのてるてるさんは大体、攻撃に転じる前に終わっちゃってたから。

「《グロー……くっ、またかっ!」

 1発目の爆発みたいなのを避けたら、2発目が来る前に足元の剣山を作動。

 てるてるさんはそれを……なんと、飛びあがって避けた。おお、斬新。

「《レイシャワー》!《ラスターステップ》!」

 更に、空中に浮かんだ体を守るように、ちゃんと防御用の魔法も展開している。うーん、中々。

 でも、トラップはいくらでもある。

 しかも、そのうちのいくつかは毒入りだ。

 このてるてる親分さんがもう毒消しを使い切っちゃってるのは確認済み。

 どこかで一発、毒を当てられればこっちの勝ち。

 ……だったんだけれど、てるてる親分はやっぱり親分だったらしい。


「くっ、忌々しいトラップめ!……これなら、仕方あるまい……!全力で行かせてもらうぞ!《ラスターケージ》!」

 なんかそんなことを言ったと思ったら、部屋の中に光の板が展開されていく。

 床も、壁も、天井も、光の板によって覆われていく。

 やがて、光の板は部屋の中に一回り小さな部屋を生み出し、その中に私とてるてる親分さんを閉じ込めるような形になった。


 ただ、やっぱり大技っぽい分、消耗も激しいんだろう。

 元々かなり消耗していたてるてる親分さんは、肩で息をついている。

「ふふ、ふ……この光の檻は、誰にも破れないぞ……!そして!」

 だが、それでも相手はまあ、親分なのだ。一応。

「この光の檻は私の世界!私の統治する……私のための、戦場なのだ!」

 リビングアーマー君が動いて、私を動かす。

 合わせて光の床を蹴れば、さっきまで私が居たところに光の剣が突き出していた。


「形勢逆転、だなあ!」

 こちらはトラップを光の壁で遮られて発動できない。

 そして、相手は光の床からトラップもどきを発動してくる。

 成程、確かに、形勢逆転に見える、のかもしれない。

「魔物、の分際で、我らテオス、アーレ聖魔道団、にたてつく、から……ぬっ!?」

 だが、私には仲間がついているのだ。……身に着いている、ともいう。

 光の矢を避けて、そのまま光の壁を蹴る。

 追いついてきた槍から逃げるようにそのまま大きく飛んで、てるてる親分に斬りつける。

「なっ、なんという動き方をっ!《グリッター》!」

 魔法が飛んでくるけれど、あっさり避けてそのまま突っ込む。

「ぐあっ!」

 よし。

 魔法で多少軌道をずらされたけれど、それでもソウルソード2振の攻撃は見事、てるてる親分の肩口から胸までをばっさり斬り裂いた。




 しかし、驚くべきことに、それでもてるてる親分は死ななかった。すごい。

「ああ……ふふふ、まさか、奥の手を見せることになるとは、な!」

 見れば、切り傷の奥から光が溢れていて、バッサリいったはずの傷がアッサリぐらいにまで浅くなっていた。

 でも、何の能力か知らないけれど、あれは万能じゃないみたいだ。

 あくまで『致命傷を半分ぐらいまでにとどめてくれる』程度のものであるらしい。

 その証拠に、てるてる親分はすぐに光の防壁を展開すると、そこに隠れて薬を使った。

 ……多分『最高級薬』だと思う。見る見るうちに、傷が消えていった。すごい。『最高級薬』、すごい。

 そして、てるてる親分のすっかり傷が癒えると、光の防壁も消えた。

「私は光の御子!選ばれし者!……光が不滅であるように、私もまた、不滅なのだ!」

 ……ふむ。そっか。

 ならその不滅っぷりもうちょっと観察させてもらおう。中々興味深いから。




 それからもしぶとく、てるてる親分さんは生き残り続けた。

 私はというと、『バッサリをアッサリぐらいにする能力』と、『最高級薬と上級薬の効果の違い』を見たくて、そんなてるてる親分さんを放置することにした。

 だって、あの能力がスキルなら、このてるてる親分を殺した時に手に入る物なのだ。どんなスキルなのか把握しておきたい。

 それに、いざ自分が薬を使うとなった時のため、それぞれの薬の性能の差を見極めておくのは大切な事だと思う。

 けれど、これらの情報のために一々自分が負傷するのは馬鹿らしいし、折角ここでセルフ人体実験してくれているてるてる親分がいるのだから、利用しない手は無いと思うのだ。




 そうして幾度となく、薬の性能実験を見せてもらった頃、てるてる親分さんは積極的に攻撃に出るようになった。

 それは次第に激しく、自暴自棄なものになっていく。

「どうした、悪しき魔物め!かかってこないのか!」

「うん。もうちょっと」

 確かにてるてる親分さんは、ここまでしぶとく頑張った。

 けれどそれは、大量に物資を消耗しながらの生存である。

 そしてダンジョンである私は、知っているのだ。

 このてるてる親分が持っている薬が、もう無いことを。

「来ないならこちらから行くぞ!」

 そして、てるてる親分さんはとっておきの一撃を出してくれた。

「くらうがいい!《シャインストリーム》!」

 てるてる親分さんの手に、強い強い光が集まっていく。

 それこそ、周りが光の壁に囲まれていても、影ができる程に。

 ……そう。影ができた。


 てるてる親分さんの手を光源にして、影ができた。

 つまり、私の背後と、てるてる親分さんの背後に、影ができた、ということだ。

「これで、終わ……な、なんだーっ!?」

 てるてる親分の影からホロウシャドウ君が現れる。

 そして、てるてる親分の首に手を掛けると、そのまま背後へ引き倒した。

 てるてる親分さん渾身の一撃は、そのまま天井へと放たれて無駄撃ちに終わる。

 ホロウシャドウ君が私の服の影に戻ってきたのを確認したら、すかさず、てるてる親分に斬りつけた。




 +++++++++



 背後から何者かに倒された、と思ったら、もう《シャインストリーム》は不発してしまっていた。

 渾身の一撃を無駄にしたことにショックを受ける間もなく、私には刃が迫っていたのである。


 鋭い痛みが身を焼く。

 しかし、私には《天佑神助》がある。

 神に選ばれし私は、己の傷をある程度までの深さに留めることができるのだ。

 そして、その隙に回復薬を使えばいい。

 ……薬ももう底を尽きそうだが、だが、まだ残っている。まだ戦える。私は『上級薬』の瓶を取り出して、傷口に掛けた。

 そうだ。私は不滅。選ばれし者。

 私はこの悪しき魔物を討伐し、『世界のコア』を手に入れ、テオスアーレの繁栄を……。

 ……あれ?

 おかしい。

 薬が全く効かない。

 だが、薬はまだある。死んだ団員から回収した『上級薬』がまだあるはずだ。

 もう一本瓶を空けるが、それも同じように、傷を治すに至らなかった。

 ……回らない頭が、ふと、甘い香りに反応する。

 これは……まさか……!

「光ある限り闇もまたある、と、どこかのとっても偉い人は言いました」

 思い至った可能性に、体中の血が凍りついたような感覚を覚えた。

 しかし、実際には、塞がりきらない傷からは血液が流れ続けている。しかし、私は、この血を止めることができるのか?

「光の中に何かがあれば、それは必ず影を生むわけで」

 私に一歩一歩近づいてくる化け物から逃れようと、できるだけ急いで他の薬の瓶も開けるが、どれ1つとして働かなかった。

「つまり、光が統治できるものは『何もない世界』だけなんじゃないかと思うんだけれど、どうだろう」

 ただ、代わりに、どんどん甘い香りが濃くなっていく。

 それは、あの美しく残酷な迷路で嗅いだ香りで……。

 首筋に、化け物の剣がつきつけられて動けなくなる。

 ……ああ。

 薬の瓶に香油を詰めて持ち帰る許可など、出すのではなかった。

「ましてや、あなたは不滅なんかじゃなかったね」

「あ……あ……」

 じわり、と刃が首に食い込む。

「何か、言い残すことは?」

「て、テオスアーレよ、永遠、なれ……」

「そう。ならテオスアーレは滅ぼそう」

 特に喜びも憎しみも感じさせない声が、絶望的な内容を伴って降ってきた。

「ま、待」

「テオスアーレの中に、助けてあげたい誰かは居る?居るなら教えて」

 ……見上げるも、化け物は薄く微笑んでいるばかりで、真意が読めない。

「特にないならいいけれど」

 答えあぐねていると、首に刃がより深く食い込んだ。

「ま、待ってくれ!そ、それなら、陛下と……ストケシア姫を!」

「陛下?ストケシア姫?誰?」

「テオスアーレの……テオスアーレの、国王陛下と、その1人娘であられるストケシア姫を!どうか、あの方々だけは……!」

 化け物の気まぐれに縋るなど、愚かだと分かってはいたが……それでも、思わず縋ってしまった。

 テオスアーレがこの化け物によって蹂躙されたとしても、王さえ、生き残って下されば、テオスアーレは……。

 そして、ストケシア姫……ああ、あの麗しの姫君は、どうか、この化け物の手に掛かることなく、どうか……!

「そっか。じゃあ優先的に殺すね」

「え」

 ……だが、化け物は……そんな、事を言う。

「ま、待ってくれ。話が違う」

「あなたが滅ぼした世界が、あなたの世界を滅ぼすの。見てて。私、頑張るから」

 化け物は最後の最後まで私に絶望を与えて、そして。

「も、もしかしてっ、お前は、異世界の!?」

 剣が、引かれた。



 +++++++++




「お疲れ様ー!いえーい!」

 早速、分離した装備モンスター達と勝利のハイタッチ(ハイタッチの形になるのはリビングアーマー君とホロウシャドウ君だけだけど)をする。

 勝利の後は、もうこれが恒例だね。


「案外楽勝だったね」

 私の言葉を肯定するように、それぞれがカタカタひらひらぱたぱたガシャガシャ、と個性豊かに動く。

 特に、出番の多かったソウルソード達は満足げに見える。

 ……40人あまりと直接戦う、という事に緊張が無いわけじゃなかった。

 1対1で負けることは無くても、それが積み重なって私の消耗になった時、どうなるかが分からなかったからだ。

 でも、実際に戦ってみたら、私の体力は結構あった。

 装備モンスター達によって強化されているのか、40人余りと戦っても、そんなに疲れなかったように思う。少なくとも、肉体的には。


 そしてやっぱり、不意打ちは強い。

 相手は道を抜けた先に仲間が待ってると思って、油断し切って来る訳だから、そこにトラップを作動させれば結構当たる。

 トラップを回避されても、回避先を予測して動いて、直接攻撃しに行けばそれだけで大体勝てた。

 相手が魔法を使う暇さえ与えずに勝つことだってできた。

 そして、不意打ちじゃなくても、てるてる親分には十分余裕をもって勝てたと思う。

 ……自分の成長具合が、ちょっと嬉しい。


 80人のうち半分ぐらいはトラップで仕留めちゃったけれど、もう半分ぐらいは私達の手で殺せたし、これでより強くなれたということだ。

 それに、スキルもきっと、たくさん手に入る。

 さあ、検分の時間だ。

 楽しみだなあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ