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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
24/135

24話

 スパイらしき人は、ダンジョン入り口の傍でガラス板みたいなものを覗き込んでいる。

 板の中には、星の結晶を薄切りにしたようなものが入っていて……その結晶の薄切りが、てるてる大群の持っていた杖の先っぽについている結晶と、形が一緒なのである。

 ……そして、スパイの覗く板には、ダンジョンの中の様子が映されていた。

 成程、てるてる大群の杖は、カメラみたいな役割を果たすものなんだろう。杖から送られてくる映像を、外のスパイの持ってる板で見られる、と。

 ふむ。




 まずは、杖を1本だけ残して全部還元した。

 てるてる大群も、死体はほとんど還元、装備は杖1本以外全部回収。

 そして、1本だけ残した杖の傍に、てるてる坊主さんの腕だけ回収せずに残しておいた。

 まるで『回収し損ねた』みたいに。


 スパイの様子を見てみると、最初、杖を1本残して還元した時は焦っていたらしいけれど、杖が1本残って、更にその横にてるてるさんの腕が取り残されているのを確認したらしい。

 それですっかり『何かの事故で杖が1本回収し損なわれた』と思ったらしいスパイは、残り1本の杖から送られてくる映像にしっかり注目し始めた。

「じゃあ、ブラッドバット君達、ちょっと行ってきてくれるかな」

 頃合いを見計らって、ブラッドバット達を杖の回収に向かわせる。

 そのままブラッドバット君には、『道案内』をしてもらう予定だ。




 ブラッドバット達が杖と腕をなんとか咥えて、迷路の中をぱたぱた戻ってくる。

 ……そして、ブラッドバット君が『B2FとB1Fを行ったり来たりしないといけない迷路』の中の1つの階段……つまり、単なる道中でしかない階段に差し掛かった瞬間、杖の結晶部分をブラッドバット君達の中に隠してもらった。

 スパイを観察すると、急に血の映像しか映らなくなった板に怒りをぶつけていた。ごめんね。すぐ戻すね。

 ブラッドバット君達が階段を下りきったら……そこで、回収。

 杖と腕を回収して迷路の出口に置く。そのままブラッドバット君には血だまりになってもらって、やっぱり回収して迷路の出口へ。

 ……つまり、スパイさんの目には、『階段を下りたら出口に着いた』ように見える。

 スパイさんが間違った情報を手に入れたところで、ブラッドバット君達はB2Fのトラップ部屋を何事も無く通過。

 その後、B3Fに入る前に、腕を還元してから杖を還元して終了。


 ……さて、スパイさんは何か、ダンジョンマップみたいなものを書いていたらしいけれど、そのダンジョンマップ、実物の迷路よりも大分簡略化されてるよ。

 大事にマップを持ち帰って、迷路は短くて簡単なつもりでまた戻って来て、実物の長さを見た時に驚いてほしい。




 スパイさんにほとんど役に立たないダンジョンマップを持って帰ってもらったら、これにて侵入者もおしまい。

 次回への布石も打ったところで、今回のリザルト。

 まず、てるてる坊主さん達から手に入った魂は84320ポイント分。

 ……少ない。

 しかし、還元した杖から手に入った魂が29000あるから、合わせて113320ポイント分。

 貯蓄分と合わせて、残り279232ポイント分。

 これは貯蓄に回して、ダンジョンの改築は1か所だけに留める予定。


 手に入ったアイテムはあんまりすごくない。

 てるてるローブとてるてるマントがいっぱい。

 護身用らしいナイフが8本。

 上級薬29個。

 杖は還元しちゃったから無し。

 スキルオーブも無し。……てるてる坊主さん達、魔法、使えないのか……。そういえば、最初に事故死したてるてる坊主さんからもスキルオーブは出なかった。

 うん、案外てるてる坊主さん達は、弱い。私、学んだ。

 一方、装飾品の類が結構たくさんあった。これはそこそこの収穫かな。

 特に、地金が金でも銀でもなく、プラチナの奴がいくつかあって、それを使えばデスネックレスがまた強化できるのだ。

 ……でも、付いている宝石は全部、このダンジョンで作ってる人工宝石の方がずっと綺麗だし、大きい。ふふん。




 回収できた魂はそんなにすごくなかったけれど、一応、畑の肥料にはなったらしい。

 畑では、スライム達が花や木の採集作業に追われていた。

 たくさん種類がある事が幸いした、というかんじなのだけれど、1つ1つの種類の成長はそこまで速くない。少なくとも、オリーブの雨が降っていたあの時よりは、ずっとゆっくり。

 だから、咲きかけ~咲きたての花を摘むことができているみたいだし、ベルガモットの実も青いうちに回収できているみたいだ。

 スライムが木に登って実や花をもいでいる(実と枝の間を食べることで実を切り離しているらしい)のは、なんとも牧歌的でいじらしい風景だ。かわいい。

 逆に、リビングアーマー君と私が白檀を根っこごと収穫しているのは、多分、あんまり牧歌的じゃない。でも自分は自分じゃ見えないからあんまり関係ない。




 花や実や木の収穫が終わったら、それぞれから油をとろう。

 ……なんだか私、油をとってばかりのような気がする。なんでだろう。


 ベルガモットは皮を剥いて、皮だけ水スライム達に与える。

 皮を剥くのはソウルソード達とソウルナイフの仕事。

 剥くときにベルガモットの皮の油胞がどうしても壊れるから、たちまち部屋の中が甘く爽やかな香りでいっぱいになってしまった。

 ……なんだか勿体ない気がするので、ベルガモット皮むき会場をB3Fの鏡迷路に移した。


 同じ理由で、白檀の水蒸気蒸留も鏡迷路に入る手前のスペースで行った。

 水蒸気を作る鍋部分と、精油を抽出するためのパーツ、そして、水蒸気を冷却して液体に戻す冷却管を作ったら、早速稼働させる。

 ホロウシャドウ君の《フレアフロア》とデスネックレスの《スプラッシュ》があるから、水蒸気には困らない。とても便利。

 ……こっちも案の定というか、稼働させ始めたら抽出原料の香りでいっぱいになってきた。

 甘ったるくて、爽やかなようで重くて甘ったるい。

 つまり、集中力が落ちる。……成功、ということだから素直に喜ぼう。わーい。


 スライムがベルガモットの皮を食べ、ホロウシャドウ君とデスネックレスが水蒸気蒸留の動力となってくれている間、私はダンジョン1Fで薔薇、ジャスミン、ラベンダー、イランイランの花から油を溶剤抽出していた。

 だって絶対に溶剤抽出が速いし効率が良い。水蒸気蒸留なんてこれ以上やってられるか。デスネックレスとホロウシャドウ君の負担にもなってしまうし、なら、溶剤抽出でも抽出できそうな物は溶剤抽出してしまうに限る。

 やり方は簡単だ。花を全部、大きな大きな釜にがさがさ入れて、石油エーテルをじゃばじゃば入れる。

 ぐりぐりかき混ぜて放っておく。

 あとは、花を回収してから溶剤を飛ばせば……。

 ……溶剤を飛ばせば、いいんだけれど。

 いいんだけれど、よく考えたら加熱して飛ばしたら精油まで飛んでしまうし、減圧蒸留する設備は流石に作れそうにない。

 ……さて、どうしよう。


 考えた結果、石油エーテルスライム達に頑張ってもらう事にした。

 水スライムが薬草の中の水に溶け込んだ薬草の成分を濃縮していたわけだから、石油エーテルスライムは石油エーテルの中に溶け込んだ精油成分を濃縮してくれるはずだ。多分。


 ……結論から言うと、上手くいった。

 石油エーテルスライム達は精油in石油エーテルの釜の中に浮かびながらちびちびと石油エーテルを飲み干していき、次第に体の色を濃い赤紫色へと変えていった。ちなみに色の原因は大体薔薇とラベンダー。

 あとは、赤紫になった石油エーテルスライムを石油エーテルと合成して、ただの石油エーテルスライムと、赤紫色の濃い精油入り石油エーテルとに分離する。

 そして、出来上がった液体をまた石油エーテルスライム達にちびちびやってもらう。

 さらに石油エーテルと石油エーテルスライムを合成して、分離して、飲んでもらって、濃縮して、合成して、分離して、濃縮して……。

 ……そうして、ベルガモットの皮が剥き終わり、白檀の水蒸気蒸留が終わったころには、なんとか精油が出来上がっていた。

 石油エーテルが残留してるけれど、あまりにも花の匂いが強すぎて石油エーテルの匂いは気にならないし、香油をがぶがぶ飲む訳でも無いから大丈夫だと思う。多分。


 そして、ベルガモットの皮は圧搾で精油を取ろうと思ったのだけれど、石油エーテルスライム達が『まだやれるぜ!』みたいな顔(スライムに顔は無いんだけれど)をしていたので、こちらも石油エーテルによる溶剤抽出で抽出。

 ……スライムに足を向けて寝られない。




 さて、出来上がった精油を早速、迷路の油へ流していく。

 途端、B3F中に濃く漂う甘い香り。

 頭が重くなって眠くなってくるような、そんなかんじの香りだ。

 ……これは、効果的な気がする。

 よく分からない油が迷路に流してあるよりは、香油が流してあった方が説得力があるし、何より、この香りが侵入者の集中力を奪うと思う。

 この濃い香りの中にずっと居たら、間違いなく頭が痛くなる。うん、間違いない。




 ……こうして、このダンジョンも遂に、完成した。少なくとも、現段階では完成と言っていいと思う。

 B2Fまでで戦力を分断しつつ、相手の消耗と死亡を狙う。

 B2Fを抜けてしまう相手は、B3Fでとことん消耗させて、B4Fで1人ずつ迎え撃つ。

 これ以上このダンジョンを強化することがあるとすれば、それは私自身の強化だろう。

 つまり、私のレベルアップ。

 これからきっとやってくるであろうてるてる団の親玉を、私自身の手で殺すという事だ。


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