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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
23/135

23話

 どうも、私のダンジョンは『テオスアーレ』という国の、『テロシャ村』という村の近くの森の中にあるらしい。

 なんとなく、今までの侵入者達の会話や、侵入者が情報を持ち帰ってからまた戻ってくるまでの時間、そして手元の地図からそこらへんが分かってきた。

 多分、『テオスアーレ』の首都からこのダンジョンまで、片道で1日半ぐらいかかるんじゃないかと思う。

 だから、てるてる坊主2号さんがお家に帰って、てるてるの大群を引き連れて帰ってくるまで、あと3日はかかるだろう、という訳である。


 その間、私はというと、手元に残っている魂194912ポイント分を消費することなく、のんびり畑を育て、のんびり人工宝石を育て、ご飯を食べて、リビングアーマー君達に戦闘訓練の相手になってもらって、寝てた。

 ……というわけじゃない。

 勿論、そんなかんじの生活だったけれど……地図とにらめっこしながら、今後の展望について考えていた。




 まず、このダンジョンはいずれ、『強者』しか来ないダンジョンになる。

 どうも、あのてるてる坊主さん達は結構お偉いさんらしい。

 多分、『テオスアーレ』の首都に戻ったら、その相当上層部にまで話が行きわたる、ぐらいの。

 ……ということは、『テオスアーレ』全土において、『テロシャ村の近くのダンジョンは、テオスアーレの兵士たちがことごとく殺されたダンジョンです』っていう認識が行きわたりかねない。

 そうなった時、『世界のコア』をそれでも狙いに来てくれるのは一体どのぐらいの人達だろうか。

 ……どう考えても、少ない。今回、てるてる坊主1号さんから色々聞いた中に、『世界のコアの存在は一般には知られていない』みたいなニュアンスがあったから、多分、普通の人達には『只の大きな宝石』に見えるんだろうし。


 人が少なくなる、っていうのも、でも、このケースならそう悪いことじゃない。

 つまり、少数精鋭が来てくれるって事で、それは即ち、人間1人当たりの魂単価が高くなるっていうことだし、強い人間ほどいい装備といいアイテムといいスキルを持っているはずだから、それを回収できるという事には大きな意義がある。

 ……けれど、効率よく稼げるか、というと、多分、違う。

 魂が1000ポイント分の価値しかない人が100人来ることも、魂が100000ポイント分の猛者が1人しか来ないことも、魂の回収率としては同じなのだ。

 だから、究極の理想は、『強い人も弱い人も大量に来て、全滅していくけれどそれでも人が来ることをやめないダンジョン』なんだけれど……当然、そんなダンジョンはあり得ない。


 強い人が来るダンジョンなら、今のままでいい。

 多分、これからも『テオスアーレ』の人達を皆殺しにし続けて国の上層部に喧嘩を売るようにし続ければ、いずれは国の精鋭をこっちに寄越さざるをえなくなっていく。彼らは『世界のコア』が好きみたいだから。

 ……けれど、どこかで絶対に、限界が来る。

 恐らく、どこかでダンジョンの攻略を諦める地点が来るはずだ。

 だって、『世界のコア』程度じゃ、ダンジョンを攻略しなくてはならない理由にするにはあまりにも薄すぎる。

 まさか、兵士を全滅させてまで得たいものだとも思わないだろうし。

『テオスアーレ』の人達の命を掌握できでもすればそれはまた話が別なのだけれど、ダンジョンを広げて『テオスアーレ』を掌握するのはフロア面積制限で不可能だし、私がダンジョンから出て戦いに行っていたら、ダンジョン外での殺害になるから、魂の回収はできない。


『強いダンジョン』で回収できない人は、『弱いダンジョン』で回収できる。

 しかし、これも微妙な話。

『全く危険が無いけれどお宝がある』ようなところにしか来ない人もいるだろうし、『時々人が死ぬけれどお宝がある』ようなところに入っていく人もいる。

 つまり、想定侵入者の強さに応じて、何段階ものダンジョンの脅威性を作り上げなくてはならない。

 ……できなくはない。けれど、効率が悪い。

 仮に、階層ごとに強さを変えたダンジョンにしたとしよう。

 でも、それってつまり、『人を殺せないダンジョン』になってしまうのだ。

 100人来ても1人しか殺せないんじゃ、意味がない。100人を殺してしまったら、次から来るのは0人になりかねない。


 人が帰ってこないことがそのまま、『ダンジョンの強さ』になってしまう。

 侵入者層を弱者層へ変えようとすると、効率が落ちる。

 ダンジョンの強さ(殺す割合)を下げるなら、侵入者の回転を速くしないと効率を上げられない。

 侵入者の回転を上げるには、侵入者を呼び寄せる何かが必要。そして、その何かが広く知れ渡っていることも。


 ……そう、考えていくと、どうしても、手詰まりになる。

 ダンジョンを階層ごとに分けても、棲み分けには限度がある。

 ……うん。限界がある。

 ダンジョン1つじゃ、やっぱり無理だ。


 ダンジョン、増やそう。




 ……ただし、魂が足りない。

 早く侵入者、来ないかなあ。




 今後の方針は、『第二のダンジョン』を作る為に魂を貯める事だ。

 ダンジョン1つを作るために必要な魂は、100万。

 今、魂は残り194912ポイント分だから、5倍近くまで貯めなくてはいけない。

 けれど、とりあえず次回、てるてる坊主さん達の大群が来てくれる予定だし、てるてる坊主さんの親玉がすぐ出てきてくれると思えないから、てるてる坊主さん達の大群の後も大群が来てくれるだろうし……予定は一応、立っているのだ。

 これから来る侵入者達の魂を貯めこめば、ひと段落着く頃には『第二のダンジョン』が出来上がるだろう。

 ……うん、ダンジョンごとに棲み分けすれば、色々な層の侵入者を幅広く殺せていいと思う。

 楽しみだなあ。




 一方、人工宝石。

 ベルヌーイ炉と匠ことソウルハンマーによって、順調に生産が進んでいた。

 畑の拡張と同時に、ベルヌーイ炉も増やしてしまったけれど、後悔はしていない。

 マグネシウムを入れてスピネルにしたり、そこにコバルトも入れてブルースピネルにしたり、色々混ぜてサファイアのカラーバリエーションを増やしたり。

 それから、酸化チタンでルチルの単結晶を作った。

 ダイアモンドの模造品として作られただけあって、なんだかとてもダイアモンドっぽい。ただし、ダイアモンドよりもなんかこう、虹色で……けばい、というか、禍々しい、というか。

 でも、やっぱりいろんな色があった方が何かと見場が良いもんね。これもありってことにしよう。

 ……とりあえず今、宝石は作ったら作っただけ貯めこんでいる状態だ。

 このダンジョンで使うよりは、『第二のダンジョン』で使った方が良い気がするから、使うのはもうちょっと待とう。

「どうもありがとうございます、匠。これからもよろしくお願いします、匠」

 なんとなく、匠に敬語で話してしまうのは何故だろう。




 そして、そろそろ畑の養分が欲しいな、と思い始めた頃、やっとてるてる坊主さん達が帰ってきた。

 お揃いのてるてる装束に身を包み、馬車に乗ってやってくる様子、まさにてるてる坊主の大群。

 その数、29人。

 ……てるてる坊主1号さんが言っていた、『テオスアーレ聖魔道団の一般団員』が全員出てきた、って事かな。

 多分、てるてる坊主団は、てるてる坊主1号さんが知らないだけで、もっといっぱいいるんだと思うんだけれど……それもいずれ、出てきてくれる、よね。多分。


 さて、てるてる坊主さん達に畑を肥やしてもらおう。




 +++++++++



「本当に世界のコアがあったんだな……!」

「初めて見るが、確かにこれは世界のコア!文献通りの魔力の波動を持っている!」

 仲間達は皆、床の下の『世界のコア』に夢中になっている。

「本当だっただろう!」

「ああ!素晴らしいな!でかしたぞ、クリス!」

 そしてなんといっても、この『世界のコア』の情報を持ち帰ったのは俺だ。

 皆が俺を口々に褒め称えた。

 ……そう。あのマリアード様までもが、俺に直々にお褒めの言葉を下さったのだ。

『よくやった。お前はテオスアーレ聖魔道団の誇りだ』と。

 そう言われたときの、俺の興奮ときたら、もう、天にも昇るような興奮具合だった。生きてきた中で、一番達成感を感じた。

 仲間が全員死んで、それでも1人、帰って来て良かったと心の底から思ったのだ。


 マリアード様は、俺に直々にお褒めの言葉を下さっただけでは無かった。

 なんと、ご命令まで下さったのだ。

 ……それは、『世界のコア』の回収任務。

 難しい任務であることは間違いない。あの第1警邏団が全滅したダンジョンなのだから。

 ……だが、俺には武器がある。

 マリアード様は、俺達に武器をお授け下さった。俺達、テオスアーレ聖魔道団の一般団員28名が、ダンジョン攻略を成し遂げられるように、と。

 それは、『星光の杖』というらしい。マリアード様が直々にお作りになったとか。

 肘から手首くらいまでの長さの柄は白銀。先端には、星飾りのような結晶がそのまま付けられている。簡素な作りではあるが、美しい杖だった。

 ……俺達は、いや、俺は期待されている。

 あのマリアード様に、期待されているのだ。

『星光の杖』を授かったのだ。失敗する訳にはいかない。

「さあ、皆、行くぞ!全ては我ら、テオスアーレの繁栄のために!」

 俺が号令を掛ければ、全員が「テオスアーレの繁栄のために!」と復唱する。

 高まる闘志を感じながら、俺はダンジョンの奥へ進んだ。




「ここで2手に分かれるんだ。俺は左に行く。お前達は右へ」

 俺以外の28人をバランスよく半分ずつに分けて、分岐のボタンを押す。

 俺達は分断されたが、ここまでは想定内だ。

「さあ、進もう」

 俺と14人の仲間たちは、左の道へ進んだ。


 ドアの奥にあった坂道を進み始めて、少し経った頃だろうか。

 急に、ゴトン、と、音が響いた。

「……ん?」

 音はやがて、大きくなってくる。

 そして、その中に仲間の悲鳴が混じったのを聞いて、俺は血の気が引く思いがした。

「に、逃げろー!」

 鉄球だ。鉄球だった。

 鉄球が俺達を後ろから追いかけてくる!

 あれに潰されたら、ひとたまりもなく死んでしまうだろう。


 俺達は必死に逃げた。

 何人かの仲間が、鉄球の犠牲になった。

 ……だが、坂道はやがて、終わりを告げる。

 俺達は逃避行の終わりを見て、最後の力を振り絞り、地面を蹴った。

 ……すると。

 ばいん。

 ……突如、床が跳ね上がった。

「えっ」

 跳ね飛ばされながら、俺は見た。

 床から現れたトラップを。

 俺と同時に跳ね飛ばされる仲間達を。

 俺達が坂道側へ飛ばされたことで、たたらを踏む他の仲間達を。

 ……そして。

 俺の頭に迫る、鉄球を。



 +++++++++




「……えっ、嘘、鉄球で全滅した……」

 ……てるてる坊主2号さんたち、2手に分かれたのだけれど……鉄球坂道ルートに入ったてるてるさん達、全員、鉄球で死んじゃった……。

 私はというと、てるてる坊主さん達を期待してB4Fで待機しているというのに。

 ……まあ、いいか。残り半分、迷路の方へ行ったてるてるさん達も居るのだし。




 だが、私の期待は裏切られた。

 迷路に入った残り半分のてるてるさん達も、迷路内のトラップで綺麗に全滅した。

「……え……」

 思わず、声が漏れる。

 期待していたのに。きっと魔法とかいっぱい使う人達で、とっても強いんだろうって、期待してたのに。

 B4Fでの直接戦闘を、心待ちにしていたのに。

 ……すごく、弱い!




 さて、てるてる坊主さん達はあっさり全滅してしまった。

 ……のだけれど、まだ、侵入者がいる。


 1F、ダンジョンの入り口の横に、ずっと待機している人が1人居るのだ。

 なんかこう、てるてるっていうよりは、『THE・隠密!』みたいな恰好した人が。

 ……それから気になるのは、てるてる坊主さん達が持っていた杖。

 みんな、お揃いの杖を持っていたのだけれど……私がこのダンジョンに来た時に一緒に来て勝手に死んでしまった、あの最初のてるてる坊主さんが持っていた杖。あの杖と、今回の杖とでデザインが大分違う。


 ……見張りのような人といい、怪しげな杖といい、あっさり全滅するような弱さなのに送り出されたという不思議な状態といい……。

 結論は、1つだ。

 成程、スパイか。


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