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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
22/135

22話

 とりあえず、てるてる坊主2号さんだっていつまでもは気絶しててくれないだろうから、さっさと起こしに行こう。

 ……一応、着替えてから行こうかな。




 適当に女性ものの服に着替えたら、リビングアーマー君を装備から外して、一緒に鉄球坂道の上に向かう。

 リビングアーマー君はあれだ。『私のテイムモンスター』っていう設定だ。これなら相手に警戒されず、『あなたは帰るんですね。私達は奥へ進みます。お気をつけてお帰り下さい』ができるから怪しまれない。

 ちなみに、私が居ない間にてるてる坊主2号さんが起きて、勝手に坂道に進んで勝手に死んだりすると勿体ないので、もうさっさとシャッターを元の状態にしてしまってある。

 こうしておけば、1人ぼっちのてるてる坊主2号さんは帰ることができても進むことはできないから。

 ……そして、潰れた脚はもう治してある。治さないまま放っておいたら死にそうだったので。

 でも、起こすにあたって、今回の侵入者の死体から貰ってきた上級薬を頭にぶっかけさせてもらった。


「……ん……?」

「あ、気づきましたか?」

 顔に冷水(薬なんだけれどね)をぶっかけられたてるてる坊主2号さんが起きたので、声を掛ける。

「……ここは……?」

「ダンジョンの中です。入ってみたらあなたが倒れていたので」

 てるてる坊主2号さんは不思議そうにあたりを見回して、私を見て……突如、起き上がった。

「そ、そうだ、バリアンは!?他の第1警邏団の連中は!?」

 死んだよ、とは言えないので、誤魔化そう。

「ここに倒れていたのはあなただけでしたが……あ、まだ動かないで。怪我が酷かったんですよ?休んでいてください」

 お水です、と、水の入った革袋を渡した。

 これは鉄球で潰れた人から回収できた奴だ。

「あ、ああ……」

 てるてる坊主2号さん、何の疑問も持たずに水を飲んでいる。

 仲間の持ち物に無頓着な人で良かった。革袋なんてそう特徴のあるデザインじゃないからかもしれないけれど。


「落ち着きましたか?」

「ああ、もう、大丈夫だ……まだ、記憶がぼんやりしているけれど……」

 それから、特に私が聞いたでも無いのに、てるてる坊主2号さんは話し始めた。

「……ダンジョンに入って、世界……いや、強力な魔石を確認して、それから……その後、どうなったかが……」

 あれ、鉄球の事は覚えてないのか。ならより一層好都合。

「あなたの脚は……その、薬を使うまで、見るのも痛々しいような有様でした」

 薬が無かったら確実に死んでたと思う。

「え、あ、薬を」

「はい。すぐに処置しなければ危ない状態だったので」

 それは申し訳ない、と、てるてる坊主2号さんが言うけれど、先行投資みたいなものだから気にしないでほしい。どうせあなたの仲間の死体から回収したものだし。


 さて、処置も終わったなら早くこのてるてる坊主2号をお家へ帰さねば。

「ところで、あなたはどうしますか?お話だと仲間が居るとのことでしたが……?」

 ここでてるてる坊主さん、先へ進むドアにシャッターが閉まっていることに気付く。

「あれ、おかしいな、このシャッターを開けたはず、なんだが……そこで、2手に分断されて……?」

 不思議がってるけれど、鉄球が頭ごちんの記憶は抜けているらしいので安心。仮に抜けてなくても、鉄球の情報ぐらいあげてもいいよ。

「どうしますか?恐らくここの仕掛けは2つのボタンを押せば2手に分断されて、代わりに先へ進めるようになる仕掛けなのでしょう。私とテイムモンスターのリビングアーマーがいれば、あなたも奥へ進めますが……あなたは奥にまだ、進むおつもりですか?」

「い……いえ!戻ります。戻って、報告、報告を……」

 聞いてみたら、てるてる坊主2号さんはおどおどとしながらそう答えた。もう帰りたくて帰りたくてしょうがないかんじだ。

 よし。




 そうして、てるてる坊主2号さんは慣れない様子で馬に乗って去っていった。

 私達は「私達は奥へ進んでみますね」と押し切ってダンジョンに残った。

 私が先に攻略して『世界のコア』を取得しちゃうかも、と焦ってくれるだろうから、「目的はモンスター狩りだから、そんなに奥に行くつもりはない。入り口付近の部屋から見えた宝石にまで到達する自信は流石に無い」と言って安心させておいた。

 この世界でモンスター狩りが行われる習慣があるか分からなかったから賭けだったけれど、てるてる坊主2号さんの反応を見る限りではよくある事らしい。

 多分、『身の程を弁えた冒険者』みたいな認識をしてもらえたんじゃないかな。

 ……あとは、てるてる坊主2号さんがお家に帰って、もっとたくさんの人を連れてきてくれるのを待つだけだ。




「お疲れ様ー。いえーい」

 玉座の部屋に戻って、装備モンスター達とハイタッチする。

 今回も頑張った。

 装備として頑張ってくれたのは勿論だし、ホロウシャドウ君は迷路の中で侵入者の足を引っ張って罠に掛ける仕事をしてくれた。

 また、油スライム達は油迷路で侵入者を転ばせる働きを存分にしてくれた。彼らのおかげで侵入者が油まみれになって、B2Fで火を付けやすかったのが本日の発見。

 B3Fのトラップって、火のトラップと相性がいいんだな。

 B4Fの9本の道の道中に火のトラップを導入しようかな。




 今回のリザルト。

 手に入った魂は、19人分で175500ポイント分。

 残っていた魂と合わせて、264701ポイント分。

 もうこの程度じゃ驚かないよ。驚いてない。


 そして、今回を以って私はLv14になった。やったね。

 ちなみに、リビングアーマー君はLv27、ソウルソード達はLv15、ソウルナイフはLv16、デスネックレスはLv14、ファントムマントの私が装備してる方はLv17、そっちじゃない方はLv6、ホロウシャドウはLv8になった。

 今回のおかげで、私が装備していなかったモンスターにも経験値がちょこっと入ることが分かったけれど、それ以上に、私の成長速度の遅さがよく分かった。悲しい。


 手に入ったアイテムは大体省略。

 鎧も剣も、リビングアーマー君やソウルソード、ソウルナイフ達のお気に召さなかったらしい。なんでだろ。

 マントの類もあったんだけれど、こっちもファントムマント達のお気に召さなかった様子。

 薬は使われちゃったからあんまり回収できず。

 装飾品や宝石の類が多かったから、これでデスネックレスの強化だけしておいた。

 ……デスネックレスが大いに喜んだから、まあ、いいか。




 そして死体を還元したら、とりあえず……まずは、B4Fの改良だけ、ささっとしてしまおう。


 B4Fにまで到達する人は、『滅茶苦茶強い』か、『滅茶苦茶数が多い』かのどちらかだと思う。

 そして、B4Fはどちらかと言えば、『滅茶苦茶数が多い』を対処するフロアだ。

 一度に9人ずつ、しかもその9人も時間差でしか先に到達できない、そこを殺す。

 とても私にとって都合がいいのだけれど、侵入者から見れば明らかに罠だ。

 B1Fの分岐のこともあるし、わざわざかかってくれる相手がいるかどうか怪しい。

 ……だから、もう少し『罠にかかる感』を減らそうと思う。

 具体的には、チュートリアルを設けようと思う。




 9本の道の入り口それぞれに、『1』と書いたプレートをくっつけた。

 これは、『同時に1人しか入れません』の合図。

 9本の道の手前のB4F待合室のさらに手前に、また9本の道のような道をまた9本作った。

 その9本の道には、『5』と書いてある。

 これは、『同時に5人しか入れません』の合図。

 そして当然ながら、『5』の道の先、つまりB4F待合室には、スイッチレバーを設置。これを引けば『5』の道の入り口が開くから、また新しく侵入者が入ってこられる、ということになる。

 ……つまり、チュートリアルである。

『こういう仕組みで入り口と出口の開閉が行われています』という事を明らかにするためのチュートリアルである。

 そして、仕組みを明らかにすることで、1人ずつに分断されることへの恐怖感を無くし、ついでに『罠にかかっている』のではなく、『先へ進んでいる』と錯覚してもらうための、チュートリアルである。

 分断されても、一度、無事に合流できてしまえば、次もそうだと錯覚しやすい。

 ついでに、それぞれの道にごく簡単なトラップを幾つか仕掛けた。

 凶悪なのは最後の『1』の道だけにしておく。そこまでは死なれない方が(つまり、相手に帰る理由を与えない方が)大事。


『5』の道の前にもちょっとサウナなだけの待合室を作り、さらにその手前には『25』の道も9本作った。『25』の道の手前はやはり待合室で、更にその手前はB3Fと繋ぐための階段だ。

 ……流石に同時に225人以上も侵入者が来る事は無いと思うけれど、チュートリアルということで。


 ……こうしてチュートリアルを挟むことで、大人数にも対応できるダンジョンにできた、と思う。

 少なくとも、不本意に侵入者を帰してしまう事にはなりにくいんじゃないかな。




 B4Fの改装を行って、魂は残り243262ポイント。

 これを使って、今度は1Fのフロア拡張を行う。


 今、1F……つまり、実質、ダンジョンの外の森に当たる部分は、ダンジョンの入り口を中心にして500m×500m程度の広さしかない。

 これをもっと広くすれば、もっと早くから侵入者の察知ができる。森の毒草や薬草の採取も簡単になるし、もしかしたら、わりあい近くにあるという村までダンジョンにできるかもしれない。

 そうなればいいことづくめだろう。


 ということで、一気に10km四方ぐらいにしてやろうか、と思ったのだけれど……そうはいかないらしかった。

 まず、コスト不足。

 10km四方の拡張となると、魂100万ポイントぐらいを消費してしまう事になるらしい。

 そして、そうでなくても、拡張制限に引っかかるみたいだ。

 ……どうも、このダンジョン、ある一定以上の広さにはできないらしい。

 広さを増やしたかったら立体構造にするしかない、という事なんだろう。

 滅茶苦茶にダンジョン面積を広くして、いっそ人間の村までダンジョンの領域内にしてやろうか、とも思ったけれど、それができないなら無理に広くする必要も無い。

 ということで、限界ギリギリの2km四方にまで拡張して、魂37500ポイント分を消費した。

 これで残り、魂205762ポイント分。




 続いて、B5F……の前に、畑エリアの拡張を行う事にした。

 目的は、『香油』である。


 ここまで来たら、ダンジョン自体の戦力はもうそんなに強化しなくていいと思う。

 少なくとも、B4Fの9本の扉でも私が対処できない相手をどうにかするアイデアが今、思いつかない。

 ……というか、1人ずつに分断された相手を殺せない自信がない。

 リビングアーマー君をはじめとした装備モンスターの皆がいるし、レベルも上がったし。

 なので、これからのダンジョン強化はできるだけ、『相手を引き返させない』ものにしていきたい。




 今回、B3Fの途中で侵入者達が引き返しても大丈夫だったのは、私がB1Fの坂道の上に居たからだ。

 そう。迷路のルートに分かれた組が私とB2Fのトラップ部屋で出会わなかったのは、私が坂道ルートの上に居たから。

 何故そんなところに居たかと言うと、勿論、てるてる坊主2号さんの様子を見に行っていたのだ。

 トラップの全貌を見ずに気絶して生き残ってくれていれば、帰すのに丁度いい。

 なので、てるてる坊主2号さんの傷の具合や、そもそもの生死を確認して、とりあえず、潰れた脚を治しておいてあげた。

 ついでに迷路を逆走して、リビングアーマー君と協力してシャッターを開けておいてからB2Fトラップ部屋に戻って来て、そのままB3Fに向かって侵入者を追いかけようと思っていたら侵入者達が逆走してきたので、そのまま迎え撃った。

 ……勿論、相手が引き返したり引き返さなかったりまちまちでも対処の使用はあるけれど、奥へ奥へとちゃんと進んでもらった方がよっぽど効率よく侵入者を殺せると思う。

 少なくとも、B3F前で引き返してB2Fで戦う場合と、B3Fを抜けてB4Fで戦う場合とじゃ、消耗度が大きく違うだろうし。




 なので、B3Fを『引き返したくないもの』にしよう。


 まずは香油、かな。

 てるてる坊主1号さんが言ってたけれど、この世界にも香油はあるらしい。そして、やっぱり儀式とかに使うものだとか。

 ……そうでなくても、ただの油がいっぱいの迷路よりは、香油いっぱいの迷路の方が違和感が無いだろうし。


 香油の作り方は、いくつかある。

 まずは、そのまま絞る方法。

 オレンジの皮とかからは、圧搾だけで精油ができるはず。

 それから、油に香りを移す方法。

 加熱で香りが壊れるような……薔薇とかの香りの精油を作る時はこっち。

 それから、水蒸気で分留する方法、かな。

 圧力を掛けながら水と一緒に煮て、その水蒸気を冷却して液体に戻すと、そこに精油が混じってる水が溜まるはず。

 ……あとは溶剤で精油を溶かして、溶剤だけ飛ばす、っていう方法があるかな。


 多分、薬草を延々と食べているお薬スライムの中に薬草の精油が溜まってないことを考えると、ある程度以下の油はスライムも消化しちゃうんだろう。

 ……と考えると、とりあえず、圧搾だけでいいようなものはスライムに食べてもらって油にしてもらって、他の材料は溶剤抽出なり水蒸気蒸留なりして、スライムに分離してもらうか……或いは、迷路の油の中に花をばら撒いてそのまま抽出してもいいかな。




 さて、早速、畑に香油の原料を植えていこう。

 成長速度と油の取れる効率を考えるとミントが最速のような気もするのだけれど、ミントの香りってどうにも集中力を高めてしまいそうなので……どちらかといえば、侵入者にはリラックスおよび集中力ガタ落ち状態になってもらいたいから、ミントはやめよう。

 集中力を落とす香り、と言っても、私にそういう知識はあんまり無い。

 なので、無い知識を振り絞って考えた結果、畑を1部屋増やして、そこに白檀を植えた。イランイランノキも植えた。ベルガモットも植えた。

 それから、さらに畑を拡張して別に1部屋作って、ラベンダーとジャスミンと薔薇を植えた。品種はよく分からないから香りがよさそうな奴を頑張って選んだ。

 ……選考基準は簡単だ。

 入浴剤だのハンドクリームだのの『香料』の内訳として数度目にした事があるものの中から、ことさら、『頭がすっきりする』匂いの物を取り除いていった結果残ったのがここら辺だったのだ。

 多分、そんなに外れてはない、と思う。


 けれど、柑橘類であるベルガモットはともかく、花類は相当な量が必要な気がする。

 なんだっけ、薔薇100輪で精油1mlだっけ。効率悪すぎやしないだろうか。

 でも、効率よく香油の原料にできそうな柑橘類やミントだけで香油を作ってしまったら、すっきり爽やかシトラスミントの迷路になってしまって非常によろしくない。

 やっぱり、あの迷路を集中力低下のための迷路にするには、甘ったるい匂いのする花の精油を使わねばならないだろう。

 ……次に来る侵入者達の殺し方が決まってしまったなあ。


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