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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
20/135

20話

 多分、作るのが一番楽なのはルビーとサファイアだな、と思う。

 確かコランダムは高温にするだけで溶けるし、冷やすだけで結晶になる。

 当然ながら超高温じゃないと溶けないし、ごくごくゆっくりじゃないと綺麗な大きい結晶にならないけれど。


 人工コランダムを作る事を考えて、2つのやり方があるかな、と思う。

 1つは、コストの低い屑コランダムを溶かして冷やして結晶化させる方法。

 もう1つは、コランダムの原料である酸化アルミニウムに、クロムや鉄を入れる方法。

 とりあえず原料が簡単に手に入る方でやりたい。


 砂のような細かいルビーは、大きなルビーの結晶を作れる分ぐらいの少量で魂1000ポイント分ぐらい。

 ダンジョンにおいても、『大きくなればなるほど宝石の値段は跳ね上がっていく』の法則は健在らしい。

 一方、酸化アルミニウムは、どーんと1kgで魂2000ポイント分ぐらい。

 ……圧倒的に、原料の方が安い。勿論、ここにクロムとか入れなきゃいけないけれど、それを入れてもコストが大きく変わることは無いだろうし。

 そして多分、原料から作った方が不純物の少ない綺麗な宝石を作れるんじゃないだろうか。

 ……どうせ、炉は作らなきゃいけないもんね。熔かすなら同じかな。

 ということで、酸化アルミニウム粉末1kgを作成した。

 それから酸化クロム100gを魂1000ポイントで作成。ちょっと酸化クロムは高かった。

 ……さて、もしかしたらここに還元剤とかも、いるんだろうか。

 或いは、溶融剤が無いと溶けないとか、あるんだろうか。

 ……溶かしてから考えよう。


 どうせ材料はたくさんある。行き当たりばったり、手探り上等で行こうと思う。

 続いて、炉を作ろう。

 ……私の記憶が正しければ、多分、一番速く大きい結晶を作れるのはベルヌーイ法、だったと思う。

 溶かした酸化アルミニウムとクロムを少しずつ上から垂らして、支持棒の上に結晶を作っていく方法。

 とりあえず、このダンジョンにおいては『劫火石(小)』(魂4000ポイント分也)を使う事で熱源の確保はできそうなので、後は、上から試料を落とす仕組みと、下で溶けた試料を受け止める支持棒、その支持棒を少しずつ下に下げていく仕組みを作ればいいのかな。




 炉をどこに作ろうか考えた結果、とりあえずB2Fに作ることにした。

 勿論、トラップ部屋の奥じゃなくて、B4Fからぐるっと回ってこないといけない位置……つまり、玉座の部屋や草地の部屋があるエリアから1階層下に部屋を作って、そこに炉を作ることにした。

 炉が溶けていたら話にならないから、炉は2000℃でも溶けない素材で作る必要がある。なら、一体何なら2000℃でも溶けないのか、と考えたら、答えは簡単だった。

『ダンジョン』は溶けない。

 ダンジョン内オブジェクトは基本的に破壊されない。当然、床や壁は破壊されない。

 なので、床から伸ばす形で炉を作ってみた。

 ……念のため、セラミックスで作ってみた。多分大丈夫だと思う。

 試料を落とす仕組みは、ベルヌーイ法そのままにハンマーでたたいて振動させて落とす、という方法をとる。

 そのためにソウルハンマーなるモンスターを作った。

 指示すればその通りに動いてくれるからとても便利。いっそ、炉もリビング炉にできればいいんだけれど。

 支持棒も炉本体と同じくセラミックスで作った。石みたいなものだからコストもかなり低いし、これなら何度でも挑戦できる。

 支持棒を下げる仕組みは、伸びあがる床の応用で作った。一度伸びてから元に戻るまで、のんびりのんびりするように設定すればいい。

 そして最後に炉の内部に『劫火石(小)』を設置して、ベルヌーイ炉(仮)の完成である。




 早速稼働させてみよう。

 酸化アルミニウムと酸化クロムの配合は……とりあえず酸化アルミニウム99%に酸化クロム1%の割合でいいか。駄目ならまた変えてみよう。

 のんびり降りる床に支持棒をセットしたら、炉の一番上から試料を入れる。

 ソウルハンマーにお願いして炉のてっぺんをちょっとずつ叩いてもらうようにして、後は待つだけだ。

 ……意外と待ち時間が長いね。




 待ち時間の間に、B4Fの改良を行った。

 B4Fは、いわば、B2Fのトラップ部屋の、大人数対応版にする。

 基本的にこのダンジョンは、侵入者と私が戦うことで侵入者を殺す仕組みになっている。

 鉄球から逃げてきた侵入者を新たな罠に掛けて動きを封じ、殺す。迷路の中で疲弊した侵入者の不意を突いて、殺す。

 そういう仕組みだから、基本的にトラップは侵入者の消耗と分散だけできればいいのである。

 むしろトラップで相手を殺してしまうと、その分畑が肥えるだけなのでちょっと勿体ない。(前回はまた別だけれど。)

 B3Fは、B2Fのトラップ部屋に到達するまでに侵入者がほとんど消耗しなかった場合のために作った。

 つまり、鉄球ゴロゴロから逃げてきた侵入者が50人とか居たら、流石にB2Fのトラップ部屋だけで殺しきれないから、その時はB2Fで殺せるだけ殺した後にB3Fの迷路に引き込んで、相手の消耗と不意打ちのチャンスを手に入れる、という事になる。

 B3FとB4Fは、B2Fまでで効率の良い殺しができない場合に使うフロア……つまり、とても強い侵入者や、とても多い侵入者に対応するためのフロアなのだ。


 B3Fは、まんべんなくすべての侵入者を消耗させるためのフロアだ。正直、ここで殺そうとはあんまり思っていない。

 B2Fを突破してきた侵入者なら、油で滑って体力と精神力を消耗したとしても、見えない落とし穴程度で死にはしないだろう。多分。いや、死んでもいいのだけれど。

 ……ただ、B3Fには隠し通路や隠し扉が多いから、不意打ちで殺すにはいい場所だ。

 B1F2Fの右ルートの迷路でやったみたいに、ここでも侵入者を殺すチャンスはある。




 けれどあくまで、B3Fは消耗を狙うフロア。

 だからB4Fでは、消耗した相手を確実に仕留めていく必要がある。

 B4Fのバトルフィールドの手前に、待合室と9本の道を作った。

 9本の道はそれぞれ、誰かが入った時点で入り口のシャッターが閉まるようになっている。

 また、出口のドアもやはり、出た時点で封鎖されるようになっている。

 つまり、同時に1人ずつしか攻略できない道が9本ある、という事だ。

 9本の道はそれぞれ攻略に掛かる時間が違う。1本目の道は、入って何もない部屋を3つ抜ければゴール。

 でも、9本目の道はぬかるみの道を延々と移動しなければならない。

 この攻略時間の差で侵入者を分断するのはさっきと同じ。

 そして、9本の道の先に在るのはバトルフィールド。1人ずつに分断された侵入者を殺すための装置である。

 ちなみに、バトルフィールドの奥の部屋にはスイッチレバーが9つあり、それを引くとそれぞれの出入り口のロックが解除される。

 ……ただしどの道も、ロックが解除されるのは1度きり。

 次の侵入者が入ってくるにしても、入り口から入れるのはまた1人ずつだ。

 それぞれの道はB2Fのように『ボタンを押さないと先へ進めない』仕組みになっていないから、お一人様でも攻略可能。


 ただし、逆に言えば同時に合計9人までしか攻略できない訳だから、10人以上の侵入者の団体が到達してしまった場合、待っていなきゃいけない人が出てきてしまう。

 その人達はB3Fの消耗を回復してしまう訳だし、また、待ちわびて帰ってしまうかもしれない。

 そうならないように、『火石(極小)』を待合室に多数配置した。

 これで、9本の道手前の待合室はサウナ状態。待っている相手の消耗を狙える。

 ……そして、それだけだとやっぱり帰られてしまいそうなので、ここに1つ、お宝を設置したいな、と思うのだ。

 パズルを解かないと開かないケースの中に、お宝を設置する。

 お宝を手に入れようと思えば、待合室に留まっているしかない。

 帰られることもないし、サウナ状態で体力を消耗させることもできる。

 ……ついでに遅効性の毒入りの泉を設置しておこうかな、とも思ったのだけれど、《慧眼無双》みたいなスキルを持っている人が居たら見破られそうだし、そうなると警戒されてしまうから、やっぱりやめておいた。




 さて、B4Fも大方できたところで、そろそろ人工ルビーができたかもしれない。

 炉の中の『劫火石(小)』の火を止めて、しばらくそのまま放置する。

 ある程度冷めたら炉を開けて、中の支持棒と……その先にくっついている赤い塊を取り出した。




 完全に赤い塊が冷めるまで待ってから、支持棒を回収して消す。

 ……そして、その赤い塊を観察すると……。

「……ルビーっぽい」

 中に細かな泡が少々入ってしまっているけれど、かなりルビーっぽい代物ができた。


 念のため一度焼き直して歪みを直す。(本当に直ってるのか分からないけれど、一応)

 そして、満を持して人工ルビーっぽい赤い塊を、合成機能の応用でカットし、研磨して……。

「完成!」

 親指の爪4つ分までの大きさは得られなかったけれど、それでも2cm×3cmぐらいのサイズのルビーが2つとれた。

 内部の泡もごく細かいものが少量だし、初めてにしては奇跡的なまでに綺麗な人工ルビーができたと思う。

 これは、今後の生産も期待できる。

「今後もよろしくお願いします、匠」

 とりあえず、人工ルビー制作MVPであるソウルハンマーにお礼を言っておいた。

 ソウルハンマーは『まかせとけ!』と言うかのように、ぴょこん、とハンマーの頭を振って見せてくれた。




 早速、リビングアーマー君に合成した。

 白銀の鎧に金の模様、そして赤いルビー。中々かっこよくなったと思う。

「どう?」

 聞いてみると、リビングアーマー君は嬉しそうに頷いて、それから畏まった礼をして見せてくれた。リビングアーマー君なりのお礼らしい。

「これからもよろしくね、リビングアーマー君」

 私の言葉に胸を張るリビングアーマー君の胸に、赤いルビーがきらり、と輝いた。


 ちなみに、もう1つのルビーは保管することにした。

 もし、リビングアーマー君が先の貴族のように鎧のルビーを砕いてしまった時、すぐに直してあげられるように。




 それから折角なので、ベルヌーイ炉を隣にもう1つ増設した。

 そして、そっちにはクロムの代わりに鉄とチタンを加える。

 こうすると青いサファイアができる、んじゃないかな。

 ……綺麗な色が出るまで、配合を変えながら何度か試してみようと思う。




 それから4日ぐらい、暇な時間が続いた。

 途中で1回、野良冒険者みたいな人が4人来たけれど、全員あっさり殺せてしまった。

 その人達からスキルは得られなかったし、得られた魂も4人で24000ポイント分だったし、前回や前々回の人達よりずっと弱かったみたいだ。

 ……たまにこういう野良冒険者が来る程度のスピードじゃ、魂の回収に何年あっても足りない。

 やっぱり、もっと大規模にダンジョンの宣伝をした方が良いんだろうか。




 そして、暇5日目になった時、遂に変化があった。

「あ、来た」

 森の中を進んでくるのは、揃いの鎧の一団。

 その数なんと、20名。またちょっと増えた。

 ……けれど、人数よりも、気になることがあった。

 20人の中に2人だけ、鎧を着ていない人が居たのだ。

 そしてその人達は……私と同じ服を着ていた。


 つまり、あの日、私の世界を壊したてるてる坊主集団と同じ服を、だ。


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