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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
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2話

 とりあえず、やることとできることを確認しよう。

 こんがらがった頭と心を整頓するために一番いいのは、目標を見つけて、その目標に至る道筋を見つけることだから。




 まず、ダンジョンたる私ができることは、大体3つである。


 1つ目は、『魂』を使って新たな物を作りだすこと。

 モンスターもトラップも、大体はこれで作れる。

 ダンジョンの改装にも『魂』が必要。

 ……つまり、お金を使って物を買うようなものだ。

 ちなみに『魂』は、ダンジョン内で人が死ぬと自動的に回収されて、この部屋の砂時計型オブジェに溜まる。

 砂時計型オブジェには目盛りもついていて、魂がどの程度入っているかが分かる親切設計。メスシリンダーとかビーカーとか思い出すかんじ。


 2つ目は、道具を組み合わせて、新たな道具にすること。

 例えば、『世界のコア』に『魂』を組み合わせて『世界』にするのも、この能力によるものだ。

 他には……あ、てるてる坊主さんの着ている服を別のデザインの服に変えたり、単なる布に変えたりすることもできそうだ。

 多分、てるてる坊主さんのナイフも新たな武器やトラップに作りかえることができるだろう。


 そして3つ目は、道具を還元して『魂』にすること。

 つまり、要らないものはお金に換金できる、っていうことかもしれない。

 ゴミを片付けるのにも使うことになるだろう。例えば、てるてる坊主さんの死体とか。




 そして、以上3つの能力に付随して、いくつかの能力がまた使える。


 まず、鑑定能力。

 ダンジョン内で手に入れたものを見ることで、そのアイテムの性能を調べたり、そのアイテムから何を作れるかを調べたりすることができる。


 次に、回収能力。

 ダンジョン内に落ちた物を還元するだけじゃなくて、回収して指定した場所に集めることもできそうなかんじ。

 触りたくないアイテムの回収とかに便利だと思う。還元しない場合の人間の死体とか。


 そして、把握能力。

 ダンジョン内の出来事は、全部見えるし聞こえる。

 今やダンジョンは私の一部なのだから、当然といえば当然なのだけれど……しばらく、この感覚にはなれないかもしれない。




 大体以上で、ダンジョンとしての私が得た能力は終わりである。

 これから私はこれらの能力を駆使して……ダンジョンを経営して、最終的には、私の元居た世界を取り戻すのだ。


 そう。目標は至って単純シンプル

 元居た世界を取り戻す。

 その為に、魂を集める。

 さらにそのために、このダンジョンで、人を殺す。


 ……人を殺すことに躊躇が無いのか、と言えば、多分、NOなんだと思う。

 けれど、私はやる気でいる。

 ダンジョンに成ったことで思考が変わっているのかもしれないし、それを否定する材料は無いけれど……でも、多分、そうでなくても私はやると思う。

 大切なものを取り戻すために、別に大切じゃないものを犠牲にする。利には適ってると思う。

 私がこの世界の人を殺すことで、私の世界を取り戻せるのなら、そのぐらいやってやろうと思う。

 それに……この世界の人間達は、私達の事をそういう『しょうがない』ものとして見ていたのだ。

 自分達の欲のために私達の世界を滅ぼして、罪悪感を感じていない様子だった。

 あれを見てしまったら……この世界の人を殺す躊躇なんて、どこかに吹っ飛んでしまう。


 ……つまり、私は決意をした。

 このダンジョンを自分の一部として、このダンジョンで人を殺して、自分の居た世界を取り戻すのだ、という決意を。




 さて、目標が定まって、それに至る道筋が幾通りか見えたところで、すっかり私は元気になっていた。

 だって、全てを失ったと思ったら、失ったものを取り戻す手段が見つかってしまったのだ。そりゃ、一気に元気になる。

 まるで、オセロの駒が一斉にひっくり返ったが如く。或いは、星少年のおとっつぁんがちゃぶ台をひっくり返したが如く。

 あれ、前者はともかく後者は大惨事な気がする。まあいいか、どちらも似たようなものよ。


 早速、元気になったところで、これからダンジョンをどう組み替えていくか考えて、早速実行に移さねば。




 まずはダンジョンを増築して、トラップやモンスターを設置して……ああ、人間をおびき寄せるためのお宝とかも要るのかもしれない。

 じゃないと、殺そうにも人が来なくて閑古鳥ダンジョンになってしまう。それは避けたい。

 ……さて、では、限られた資産の中でそれらを実現できるのか、早速、魂残量と相談してみよう。




 硝子より透き通って淡く光る素材でできた砂時計型オブジェの中には、液体とも気体ともつかない、薄青に輝くものが溜まっていた。

 これが魂、なんだろう。多分。

 さて、では、今ある魂を確認しよう。

 ……目盛りを読む。

 1、10……うん、読めた。

 12。

 12である。

 今、このダンジョンの資産である魂は、12ポイント分だけ溜まっている。

 これがどの程度の価値なのか、簡単に説明しよう。

 ……『スライム1.2匹分』である。

 ちなみに、スケルトンは魂100ポイント分。

 トラップである落とし穴は、一番小さい奴で50ポイント。

 ……つまり。

 このダンジョン、早速詰んでいるのであった。

 スライム1匹で何をどうしろっていうんだよ!




 ……何故、このダンジョンはこんなに極貧状態なのか。

 理由は2つある。


 1つに、このダンジョンは私が来るまで休眠状態にあった。

 つまり、魂0の素寒貧状態であったのだ。

 しかし、その後私は不慮の事故からてるてる坊主さんを殺し、その魂はこのダンジョンに吸収された。

 人間の魂は最低でも、1つで1000ポイント分ぐらいにはなる。

 なのになぜ、今12ポイント分しか残っていないのか。

 ……こちらの答えも簡単である。

 このダンジョンの起動に、ほとんど使っちゃったのだ。


 てるてる坊主さんが死んで得られたのが1052ポイント。

 私がダンジョンと成るのに使ったのが1000ポイント。

 ダンジョンの壁を動かして、向こう側の空間につなげるのに使ったのが40ポイント。

 ……これにて、残り12ポイントである。

 せ、世知辛い。

 まさか異世界に来てまで、こんな貧しい思いをしなくてはならないとは……。




 ……いや、まだだ。まだ終わらんよ。

 まだ、このダンジョンの資産は終わっていない。

 魂は確かに12ポイントという、子供のお小遣いレベルの量しか無い。

 けれど、固定資産や現物はあるじゃないか。そうだ。何故気づかなかったのだろう。

 そう。このダンジョン、この1部屋だけじゃないのだ。




 さっき私が壁をいじって向こう側の空間に繋げたことで、ダンジョンは広くなっていた。

 多分、元々このダンジョンの一部だったものが、ダンジョン休眠につきダンジョンから切り離されていたんだろう。

 さて、気になるその広さ、というのが……12畳の部屋、3つ直列繋ぎ。


 まず、入り口がある。これは地上に出ているものだ。つまり、ここってB1Fなんだけれど。

 ……そして、入り口から入ってB1Fに下りてきて、ドアがあって、12畳間ぐらいのサイズの石造りの部屋がある。

 そして次にドアがあって、100mぐらいの廊下があって、ドアがあってその次にまた、12畳間の石造りの部屋がある。

 更にドアがあって100mぐらいの廊下があって、ドアがあって、そこにまたまた、石造りの12畳間。

 ……その3つ目の12畳間の奥が、この玉座の間に繋がっている。そういう作りである。

 その間、トラップ一切無し。

 迷路とかも無し。

 一直線。潔いまでの一直線である。

 ……これは本当にダンジョンなんだろうか。もっと迷路とか立体交差とかトラップとかつり天井とかがあって、浪漫がある作りをしているべきじゃないんだろうか。

 なんで12畳間を串団子の如く3つ並べただけのものをダンジョンと呼ばねばならないのだ。

 解せぬ!




 ……駄目だ。これは駄目だ。障害物1つまともに無いダンジョンなんてダンジョンとしてどうかと思う。

 魂が手に入り次第、改築したいところだ。

 ……そして、最後の望み。

 つまり、てるてる坊主さんの死体から、アイテムをはぎ取る仕事である。




 仕事は一瞬で終わった。

 ダンジョンの回収能力を使えば一瞬で回収できて、かつ、アイテムを仕分けることができるのだ。とても便利。

 ……そうでもなきゃ、てるてる坊主さんから服を剥いで素っ裸にする作業を行わなければならなかったのだ。ああ、とても便利。あってよかった回収能力。


 さて、回収能力のありがたさをしみじみ感じたところで、アイテムの検分に入ろう。


 まず、フード付きのマント。

 てるてる坊主さんがてるてる坊主たる所以であるこの服、私にはちょっと大きい。

 けれど、布は丈夫そうないいものを使っている。私が着られるように作り替えれば十分使えそうだ。


 次に、ローブ……っていうんだろうか、ずるずるしたワンピースみたいな服。

 うん、こっちこそ、作り替えて私が使えそうなかんじ。

 そしてこれは鑑定能力の結果、防具として多少の効果があることが分かった。

 まだ慣れていないせいか、細かい数字とかは分からないけれど……只の布の服を5枚重ねて着るぐらいの効果はあるんじゃないかな。どうせなら早めに着替えておいた方が良いかもしれない。


 そして、杖。

 てるてる坊主さん達が地面に変な魔法陣みたいなの描くときに使ってた奴だ。

 武器としては使いづらそうだけれど、杖の先端に嵌っている石が、『魔石』らしい。

 これを使えば、『魔力の湧き水』とか『魔鋼』とかが作れるみたいだけれど、今ここには水も鉄も無いからそれはパス。

 モンスターにするにしても、『リビングドール』とか『リビングメイル』を作る時に使えるらしいけど、ドールもメイルも無いから、リビング部分になる『魔石』だけがあっても駄目。

 トラップを作る時に『魔石』を組み込むと効果の高いトラップを作れたりするらしいけれど、そもそもその基になるトラップを作る魂は無い。

 ……これはしばらくお蔵入りかな。


 それから、ナイフ。

 てるてる坊主さんが自分で自分に刺して死んじゃった奴だ。

 これは『魔鋼』とかがあれば強化できるみたいだけれど、今は単純に、このままこの形で武器として使うのが一番だろう。

 一応、ダンジョンマスターと言えども、護身用の武器ぐらいは持っていた方が良いだろうから。


 ……他にも、『薬草』とか『キャンディー』とかも見つかったけれど、それらも加工するには量が足りなかったり、他の材料が足りなかったり、魂が足りなかったりするのでとりあえずパス。

 そして、最後に残ったのが……死体、である。


 そう。てるてる坊主さんの死体。

 きっと、これがあればゾンビとか作れるに違いない。

 骨にすればスケルトンか。

 はてさて、これをどう加工してやろうか……と、思ったら。

『聖印を有する為加工不可』。

 ……何のことかと思って死体を検分すると、背中の肩甲骨のあたりに焼き印がいれてあった。こわいよ。せめて刺青とかにしておこうよ。

 この模様が『聖印』なのだろう。そして、これがついている死体はゾンビにしたりスケルトンにしたりできない!

 ……人間の肉を食べる趣味も無いので、死体は大人しく還元することにした。

 魂ポイントにして50ポイント分になった。中々やるじゃないか死体。




 ……さて。

 以上で、ダンジョンの資産整理は終了である。

 もう一度確認しよう。

 今、このダンジョンに在るのは、魂62ポイント分。

 12畳3部屋直列繋ぎとこの玉座の間。

 ナイフと杖と服とその他諸々。

 以上である!

 ……これは、酷い。




 この状態で何をどうすればいいんだろうか。

 アイテム類を全て還元すれば、一応100ポイントはギリギリ超えそうなかんじもするけれど、それで生み出せるのはスケルトン1匹である。

 つまり、叩けば折れる戦士である。そいつ1匹にダンジョンとも言えないダンジョンの警護を任せるのはいくらなんでも不安すぎる。

 ……しかし、今の62ポイントで設置できるのは1個50ポイントの落とし穴(小)か、1匹10ポイントのスライム6匹である。

 あとは、日用品とかそういうものか。1斤8ポイントの食パンとか、1本10ポイントのスコップとか、1組100ポイントのせんべい布団……ああ、布団はだめか……。

 この極貧状態、脱出するためには人の魂を得る必要がある。

 つまり、人を殺す必要がある訳だ。

 しかし、人を殺す設備を整える魂が無い。

 その魂は人を殺すことで得られるわけで……極貧無限ループである。こわい。




 もういっそ、スコップでダンジョンを掘って自力で広げてやるか、なんて思っていたら……それすら許されない状況になってしまった。

 ダンジョンとしての私の感覚が、告げる。

『侵入者3名が入場』。

 ……お金がないなら、せめて、時間は欲しかった……。


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