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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
14/135

14話

 スライムは侵入者の持ち物だったみたいで、つまり、侵入者が死んだ今、所有権は私に移った。このスライムはこのダンジョンのアイテム兼モンスターみたいなかんじ。

 ……還元するのも勿体ないし、折角だからこのスライム、育ててみようかな。


 鑑定能力で見てみたら、スライムが内部に薬用成分を蓄えていることが分かった。

 多分、僅かに濁った薄緑色をしていることにも関係があるんだろう。ダンジョンで作れるスライムは無色透明だから。

 ……しかし、一体なんだってこのスライムはこんな不思議スライムになっているのだろう。

 侵入者に聞いてから殺せばよかったかな。まあ、後の祭りか。

「君はどうしてお薬スライムになっちゃったのかな」

 聞いてみても、やっぱりというか、スライムは戸惑うようにぷるぷるもぞもぞするばかりである。

 困った。本当に意思の疎通ができない。本当に困った。


 困った困った、とやっていたら、リビングアーマー君がもぞもぞし始めたので、もしや、と思って鎧を脱ぐ……というか、新しい鎧に合成してあげた。

 今回の合成先は、侵入者の団長さんの鎧だ。

『白銀の鎧』なる全身鎧は中々スタイリッシュで格好いい印象。合成してあげたら、リビングアーマー君もガントレットを握ったり閉じたりしながら嬉しげだ。新しい体を気に入ってくれたらしい。

 そして、リビングアーマー君は盾と剣とを装備すると、私の腕からスライムをそっと取り上げて、ダンジョンの奥へ向かって行った。

 スライムを運ぶリビングアーマー君の後にくっついていくと、リビングアーマー君は草地の部屋に入っていく。

 ……。

「育ちすぎ」

 そして、草地の部屋には育ちすぎた草地と育ちすぎた作物と育ちすぎた薬草畑と「草が食べても食べても無くならねえんだけど」というかんじの馬達があったわけなんだけれど、それは置いておいて……薬草畑へ向かうリビングアーマー君の後についていく。

 リビングアーマー君は草をかき分けながら(ある程度私が歩きやすいように、草を踏み折りながら歩いてくれているらしい)進んでいき、薬草畑へ到着すると……私の方を振り返った。

 そして、薬草の葉を摘むようなジェスチャーをしてみせる。

 ……薬草を摘んでいいかの許可、ってことかな。

「うん。摘んでいいよ」

 これだけわっさり育ってしまった薬草だ。別に数株摘んでくれたって構わない。

 答えると、リビングアーマー君は1つ頷いてから薬草の葉っぱを1枚摘んで、それをスライムに与えた。

 スライムは最初こそ戸惑っていたみたいだけれど、私が「食べないの?」と聞いてみたところ、薬草をもりもり食べ始めた。このスライムも私の許可を待っていたのかもしれない。

 ……しかし、スライムの食事風景って、すごく不思議。

 薬草がスライムの体に触れたところからするする溶けていって、スライムの体の中に緑の濁りが混ざっていく。

 そして、薬草がすっかり無くなる頃には、スライムの体の薄緑がほんの少し、濃くなったような、変わらないような。

「そっか、君の緑色は薬草を食べてたからなんだね」

 そしてきっとこのスライムは、体の中で薬用成分を濃縮してくれるのだろう。

 それを人間が使っていたに違いない。

 ……しかし、どうやって使うんだろう。


「君、どうやってお薬として使うの?」

 聞いてみた。

 ……そしたら、スライムが。

「わ」

 ぺいっ、と勢いよく跳ねて、リビングアーマー君の腕の中から私の腕の中に飛び込んできた。

 そして、私の腕の中でもぞもぞして……私の右手の擦り傷に向かって這いずっていった。

 多分、どこかで壁にでも擦ってしまった傷なんだろう。気づかなかったけれど。

 スライムは私の傷に被さるように陣取ると、そこで数度、ぷるぷる揺れた。

「……おおー」

 すると、私の傷がゆっくりゆっくり治っていく。

 ゆっくり、とはいっても、擦り傷が1分ちょっとで治るのだから、やっぱりファンタジックな速度ではある。

「そっか。君はこうやって使うものなんだね」

 一人で納得していると、リビングアーマー君が剣を抜いた。

 ……そして、スライムに向けて、ちょいちょい、と、斬るようなジェスチャーをする。

「……もしかして、本当は斬って使うものなの?」

 そういえば、侵入者は『ポーションスライム』じゃなくて、『スライムポーション』って言っていた気がする。

 ということは、このスライムはスライムじゃなくてポーション……お薬扱い、だったわけで……。

 リビングアーマー君は私の言葉に1つ頷いて見せてくれた。

 一方、スライムの様子を窺うと、スライムは向けられる刃に怯えるようにぷるぷるするばかりである。

 ……うん。なんだか可哀相になってきた。

「いいよ。別に斬らなくても小さな怪我なら治してくれるんだよね。なら斬らないでおこう」

 そう言うと、スライムはぴょん、と跳ねて、私の頭の上に乗った。多分、懐いてくれてるんだと思う。

 怪我を治すスライム。ある意味、自力で動いてくれる薬みたいなものだから、1匹置いておいてもいいよね。




 さて、スライムは良いけれど、次に気にしなきゃいけないのはこの草地の部屋だ。

 なんだってこんなに見事な育成っぷりを見せてくれちゃったんだろうか。

 柔らかな草は私の膝ぐらいまで伸びているし、植えておいた作物はすっかり育って収穫を待つばかりになっている。

 杏やミカンやオリーブの木も、なんだかいつの間にか大きくなって、たわわに実をつけるまでに至ってしまった。

 薬草に至っては、もう畑の範囲を超えて繁殖し始めた。元気だなあ。

 ……さすがに、ここまで育たれると……気持ち悪いを通り越して、いっそすがすがしいかもしれない。


 原因はなんとなくぼんやりと分かる。だって私の一部の中で起きた事だから。

 ……多分、原因は『経験値』なのだ。


 私が侵入者を殺した時、経験値は私に入る。

 リビングアーマー君が殺せば、経験値はリビングアーマー君に入る。

 私がリビングアーマー君を装備して殺した時は、私にもリビングアーマー君にも入る。

 ……では、トラップで殺した時、経験値はどこに入るのだろうか。

 答えは、『ダンジョンに』である。

 ただし、『ダンジョン』と言っても、人間の体を持つ私の方にではなく、私の一部たる『ダンジョン』の方に。

 つまり。

 ダンジョンのトラップで侵入者を殺すと、その分の経験値はダンジョンの中……現在の状況で言えば、草地の部屋の作物へと、経験値が注がれる、らしいのだ。多分。




 とりあえず、収穫を待つばかりの作物をこのまま放置しておくわけにもいかない。

 ということで、ダンジョン内の全モンスター総出で、作物の収穫を行う事になった。


 リビングアーマー君と私は、畑の作物……つまり、小松菜とジャガイモと大豆、そして茄子とピーマンとトマトを収穫する。

 ファントムマント1体とブラッドバット達は、果樹から杏とミカンとオリーブを収穫。

 ソウルソード2振とファントムマント1体は伸びに伸びてしまった草を刈って、ある程度すっきりさせてくれている。

 刈った草は乾して飼葉にする予定。……この育成速度で草が育つなら、干し草なんて無くてもよさそうだけれどね。

 ソウルナイフとデスネックレスは、薬草の収穫。薬草はまた傷薬や上級薬にする他、スライムのご飯として与えてみたり。

 ……スライムは小山のように積まれた薬草をもりもり食べている。どんどん体の緑が濃くなってるけれど、いいんだろうか。まあ、無理はしないでね、と言ってあるから多分大丈夫だと思う。




 そうして楽しく収穫を行って、たっぷりの作物を収穫できてしまった。

 大豆はそのまま乾しておけばいい。ジャガイモも日持ちする。ミカンもある程度は……ある程度はもつ、と思う。

 ……けど、トマトと茄子とピーマンと小松菜、そして杏とオリーブはなんとかしないと、腐らせてしまう。

 いや、最悪の場合は還元すれば僅かな魂としてダンジョンの糧になるのだけれど……折角の食材だ。腐らせてしまうのは勿体ない。

 だから、冷蔵庫……せめて、食糧庫が、欲しい。




 今回手に入った魂と持ち越した魂を合わせて、合計128532ポイント分。

 結局作りそびれているB3Fの分を9000ポイント、B3Fの改造に50000ポイントぐらい贅沢にとっておいたとしても、まだまだいっぱい余る。

 これからダンジョンを運営していくにあたって、やったら便利そうな仕掛けもいくつか思い当たるので……そのために、畑を一気に広くすることにした。スライムを見ていたらちょっと思いついてしまったことがあるのだ。

 そしてついでに、食糧庫とアイテム倉庫を作ろう。ついでに冷蔵庫というか、冷たい部屋も作ってしまおう。


 食糧庫の位置は、玉座の部屋と向かい合って左の方。草地の部屋の反対側、ということになる。

 食糧庫内部は木造の部屋の一室、というようなかんじにしてみた。『風石(小)』を置くことで、ある程度の風通りも確保。ここに大豆やジャガイモやミカンを保管する。

 そして食糧庫の奥に、ひんやりする部屋を設置。

 全体的に石造りでひんやり。それだけでなく、『氷石(小)』を置いて、ちゃんとひんやりさせている。いつまでもここに居るとちょっと肌寒くなってくる。

 そして、更に奥に、冷凍部屋を設置。

 部屋は1畳分ぐらいの広さに棚を付けただけなのに、作るのに魂2000ポイント分も使ってしまった。

 理由は簡単、『氷石(中)』を複数個置いてあるからだ。

 けれど、これで冷凍だってできるようになったわけだから、とりあえず、作物を無駄に腐らせることは無い……と思う。




 それから、草地の部屋を完全に畑にしてしまった。

 なので馬専用スペースをまた新たに作って、そっちを草地の部屋にすることにした。元・草地の部屋は、これからは畑の部屋だ。


 草地の部屋は馬が20頭ぐらい入っても広々としているぐらいの広さ。

 ……今回の14人も、案の定というか、馬で来ていた。

 とはいっても、馬は6頭。そこに馬車が付いていたから、これに乗ってきたんだろう。

 そして、この馬と馬車を全部回収する。

 ……前回、馬を手に入れても次からは還元しようと思ったけれど、これからは馬がちょっと必要になってきそうだから……念には念を入れて、ちょっと多めにストックしておきたい。

 馬も魂から作ろうとすると、1頭で3000ポイント分も消費したりする。何頭使うか分からない以上は安全策を取りたい。


 そして、畑の部屋には、新たに人参と玉ねぎを植えた。

 理由は簡単、日持ちするから。

 それから、果樹をもっとたくさん植えた。

 林檎とオレンジを新たに植えた他(日持ちするから)、オリーブを徹底的に増量。

 更に、薬草園を広げて薬草を株分けして植え直して……そして、もう1つ、別室を用意して、そこに畑を作った。

 ここに植えるものはこれから採りに行く。

 ……ダンジョン『1F』に生えている、『毒草』が目当てだ。




 ダンジョン1F……つまり、実質ダンジョンの外なわけだけれど、そこに生えている木や草はそんなに成長していなかった。

 多分、私の一部たるダンジョンも、ある程度は経験値の振り分けを考えてやっているんだろう。

 いきなり森がジャングルになったら流石によくない気がするし。

 森もある程度ダンジョンになった今、馬と馬車はダンジョンの回収機能で回収してしまえる。なので今回からリビングアーマー君の出番はない。

 ……のだけれど、『毒草』に関してはそうもいかない。

 全部回収して鑑定にかければすぐだけれど、そうすると森の草がいきなり無くなる、という不思議な事態になってしまう。

 なので、私が直接草の位置まで赴いて、鑑定しながら目当ての草だけ回収した方が何かと便利なのだ。


 森(ダンジョンの範囲内)を探索しながら、毒草を探す。

 鑑定機能は中々便利で、食用かそうでないか、薬用かそうでないか、毒草かそうでないか……様々な情報を見ることができる。

 少し探し回れば案の定、『毒草』にあたる植物を見つけることができた。

 数株群生していたので、根こそぎ全部貰っていってしまおう。




 さて、ダンジョンの隔離畑に戻ったら、回収した毒草を植え付ける。猛スピードで成長してくれたらいいな。

 ……多分、毒草からは毒が作れる。そうなれば、トラップの矢を毒矢にしたり、槍を毒槍にしたりできるはず。

 毒は魂から作ると中々なお値段になってしまうけれど、自給自足すれば節約になるし、何より、量が作れる。

 いずれはダンジョン内に毒の沼地を作りたい。毒の沼地第一歩のため、デスネックレスに《スプラッシュ》で毒草園に水まきをしてもらった。




 ここまでの改築に魂12000ポイント分を使ってしまったけれど、それでもまだ116532ポイント分余っている。

 さて、次はB3Fの増築と……その前に、油の精製、かな。

 そしてついでに、スライム君に聞いてみよう。

「ねえ、もしかして君って、油を食べていたら油スライムになる?」

 ……スライムは、ぷるん、と、頷くように跳ねた。

 よし。

 B3Fはガラスと油とスライムの迷路にしよう。


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