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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
終わりのダンジョン
133/135

133話

 邪神とロイトさん達の戦いは、どんどん加速していった。

 ……それを見ながら、彼らと直接戦わなくてよかった、と思う。

 ロイトさん達が纏っている光みたいなものがどうも、邪神の力を半減させているらしい。

 最初、邪神が一気に黒い霧のようなものを吹きつけたのだけれど、黒い霧はロイトさん達の纏う光に弾かれて、ロイトさん達に害を与えることは無かった。

 それ以降、邪神は忌々しげにちまちま攻撃を繰り出すばかりになった。それだって、魔法が瞬時に数発飛んでくるような、常軌を逸脱した状態ではあるのだけれど。

 ……そして一方で、ロイトさん達もまた、邪神に有効打を入れられないままでいた。

 腐っても邪神、ということなのかな。

 邪神に攻撃を加えても、邪神に効いているようには見えない。

 この様子じゃ、さっきの粉塵爆発も水酸化ナトリウムも、ダメージになっていないかもしれない。

 ロイトさん達も、消耗は精々疲労程度だから、バランスという点では丁度良かったのかもしれないけれど。


 そして私は、ひたすら隠れて準備だけはしっかりしながら、こっそりと戦況をのぞき見し続けていた。

 今この状態で、ロイトさん達と邪神が戦う中に入ったら、怪しい以外の何物でもない。

 ロイトさん達からは敵対される、邪神とは元々敵対している。

 つまり、両者から攻撃されるだろう。

 ……そうなったら流石に生きていられる自信が無い。

 完全復活した邪神のよく分からない力と、パワーアップしたロイトさん達のよく分からない力のぶつかり合いだ。

 ここはダンジョンじゃないから、両者の分析もおちおちできやしない。

 危険だ。とにかく、危険すぎる。できればこのまま隠れて、相手の相討ちを待っていたい。

 でも、見ていないといけない。

 どうせ、完全に相討ちなんてしてくれっこないのだ。

 だから、私は『相手の不意を突いて殺す』必要があるだろうその時のため、様子は窺い続けていなければ。

 ……どんな相手だって、完全な不意を突けば、必ず殺せる。

 正々堂々戦わなければ、必ず、どこかに勝機はある。

 私はそう考えている。

 ……だから、この、よく分からない力同士のぶつかり合いを見て、私の勝機を探すしかない。




「はっ……中々やるじゃねえか!」

「だが所詮は邪神だ。一度女神様のお力の前に敗れたお前を再度倒す事など、造作も無い!」

 のぞき見しながら、盗み聞きもする。

 ……ロイトさん達は5人居るから、騒がしい。

 発される言葉のそれぞれは、5人が連携するためのものだったり、お互いを鼓舞し合うものだったり、邪神を煽るものだったり、色々だ。

 一方で、邪神は全く喋らなかった。

 私相手でも全く喋らなかったし、そういうものなのかもしれないけれど。




 ロイトさん達と邪神は拮抗しているように見えた。

 しかし、それはロイトさん達の時間稼ぎ、だったのかもしれない。

「準備できました!」

 スファーさんが、岩の階段を作り、ロイトさんを高みへ運ぶ。

「行け、ロイト!」

 アークダルさんが、風で、更にロイトさんを高くまで持ち上げる。

「ほぉら、アンタは動くんじゃないわよ!」

「ロイト、頼んだぞ!」

 そして、ルジュワンさんとサイランさんが、それぞれの魔法で邪神の動きを止めた。

 多分、邪神も、動きを止められていたのはほんの1秒程度だっただろう。

 でも、それで十分だったのだ。

「くらえ……《竜攘虎搏》っ!」

 ロイトさんは邪神の真上で、炎の龍となった。

 そのまま邪神へと急降下しながら、剣を振るい……邪神とロイトさんを、火柱が飲み込む。

 そして、白熱。




 ……そして当然、そんな攻撃にダンジョンが耐えられるわけもなく、ダンジョンは見事、破壊された。


 天井が吹き飛んだ。当然、ロイトさん達の斜め上に居た私も、被害にあった。

 ダンジョンが瓦礫となって、私を押しつぶさんと降り注ぐ。

 咄嗟に《ラスターケージ》をこっそり使って、押しつぶされることは回避した。

 直後に、《オブシディアンウォール》に切り替えて、光でこちらの居場所が分かるような事は避けた。

 ……周囲の様子が分からない。

「秋子」

 小さな声で秋子を呼ぶと、秋子は血液の流れとなって、するり、と瓦礫の隙間から出ていった。

 ……そして、すぐに戻ってきた。

 戻ってきた秋子は、私の太腿の上にやってきて、そこからぐーっ、と伸びて、足首あたりで止まって、そこからもう一度、ぐーっ、と伸びて太腿へ帰ってきた。

 ……瓦礫の厚さはこのくらいらしい。

 とりあえず、ロイトさん達と邪神がどうなったか見ないことには、私も動きようがない。

 このままここに居て、瓦礫ごと吹き飛ばされるのは御免だ。


 秋子の情報を元に、瓦礫を退かしたり避けたり組み直したりしながら、急いで外部の情報を探る。

 ……誰かがしゃべっている声は聞こえるのだけれど、誰の声なのかは分からない。

 《グランドラクト》で瓦礫を一部分だけ砂に変えて、《サンドアウェイカー》で砂を退かす。

 瓦礫を退かす都度、《オブシディアンウォール》を更新して、瓦礫が崩れないように気を付けながら。

 ……私がここに居ることが、誰にもばれない方がいい。

 果たして、さっきのロイトさんの一撃で、勝負はついたのか、それとも、まだ続いているのか。




 瓦礫をまた1つ退かし終えたところで、光が見えた。

 すかさず光の先……瓦礫の向こう側を見ると……そこには、予想外の光景が広がっていた。

「女神か。所詮、自ら戦う事もできぬ、矮小なる存在よ。そしてその女神の力を受けた貴様らとて、所詮は木偶人形に過ぎぬ」

 そこに居たのは、見た事の無い、黒づくめの男性が1人。

 それから……その人の周りで膝をつき、或いは倒れ伏したロイトさん達だった。




「貴様らは知らなかったようだが」

 黒い髪に黒い瞳、そして黒い服の男性は、倒れたロイトさんに近づいた。

「世界は元々、我らのものであった」

 そして、ロイトさんの手が踏みにじられる。

「っ……!」

 痛みと憎悪に歪むロイトさんの表情を見て、黒い男性は面白そうに笑った。

「元々は貴様ら、女神共こそが侵略者であったのだ」

「そんなはずは……っ、ぐ、ぐあああああああああ!」

 ロイトさんの肩に、真っ黒いレイピアが突き刺さり、ロイトさんが絶叫した。

「ロイトっ……ぐっ……!」

 仲間を助けに向かおうとしたアークダルさんは、黒い短剣で片目を抉られる。

 それから立て続けに、残り3人も腕や脚をやられて、動けなくなった。

 ……ロイトさん達を包む光は、そのままだ。なのに、黒い武器は、易々とロイトさん達を傷つけている。

 つまり……黒い男性……邪神が、ロイトさん達の謎パワーを上回る謎パワーを使っている、ということだろう。


「あの世で女神に伝えろ。……この世界は、貴様が邪神と呼んだ『真の創造主』の手に戻った、とな!」

 そして、邪神はそう言うと、足元のロイトさんに向けて、真っ黒い大剣を出現させ……。




「お探しのものはこちらでは?」

 ……大剣は、ロイトさんに突き刺さる前に、止まった。

 邪神が、私を見る。

 オリゾレッタにあった時の姿そのまま、お札のようなもので封印された包みを掲げて、私は瓦礫の中から出た。

「……それは」

「あなたの恋人の腕の骨ですよ」

「……貴様……!」

 邪神は怒りを露わにして、私を睨みつけてきた。

 私はそれに、ミセリアっぽく笑って応えてあげた。




 邪神は、予想以上に強かった。

 第二形態になって、本気を出した、ということなんだろう。

 この状態じゃ、とてもじゃないけれど、私が戦って勝てそうにない。

 でも、邪神はここで殺さなきゃいけない。

 私の世界を取り戻す為に、邪神をとりあえず、殺さなきゃいけない。

 その後のことは……ミセリアの記憶が、知っている。今はただ、邪神を殺せばいい。


 ……だから、今、ここでロイトさん達を殺されちゃいけない。

 恐らく、ロイトさん達が唯一、邪神を殺し得る武器になる。

 ロイトさん達に殺されないなら、ロイトさん達をすぐに殺す必要は無い。殺す必要がある時に、後から殺したって間に合う。

 だから……。

「しっかりなさい」

 セイクリアナの宝物庫で拾ったのに、今まで使う必要も無かったし、使った事も無かった《霖雨蒼生》を、やっとここで使う。

 癒しの雨が降り注ぎ、ロイトさん達の傷を癒していった。

「あなた達は邪神を倒して、ストケシア姫の元へ帰るのでしょう」

「……メイズ……!」

 ホークとピジョンが手に飛び込んでくる。

 ボレアスとムツキ君が、魔法の相殺に向けて構える。

 リリーとモンちゃんは、攻撃に向けて、魔法の準備を始めた。

 クロウは隠れて、ロイトさん達に注意を向ける。

 春子さんと秋子は私の太腿で、回復と応急処置の為に身構える。

 そしてガイ君は、私の左腕を補って余りある力を、私に貸してくれている。

「助太刀します」

 私は、邪神を殺すため、とりあえずロイトさん側につく。


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