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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
終わりのダンジョン
131/135

131話

 スコップ謹製ダンジョンは、ダンジョンでありながらダンジョンではない。

 だから、私は遠く離れながらにしてスコップ謹製ダンジョンの中の様子を窺い知ることはできない。

 ……どうしても、賭けになる。

 ロイトさん達が私の予想に反したスピードでダンジョンを攻略していけば、最悪、邪神と戦わずしてロイトさん達はダンジョンを出てきてしまう。

 そして、そうでなくても、バランスがとれなくなるだろう。


 理想的な状況としては、ダンジョンのエピテミア側からロイトさん達が入って、ダンジョンの都側から邪神が入る。

 そして、大体真ん中あたりでぶつかって、両者で戦ってくれればいい。

 丁度相討ちしてくれれば尚良い。

 相討ちに至らなかったとしても、私は最後に弱った勝者を殺せばいい。少なくとも、ただ邪神と真っ向から戦って勝つよりはずっと楽なはずだ。


 その為には、両者の消耗具合を調整する必要がある。

 ……ロイトさん達の強さも、邪神の強さもよく分からない状態なのがとても痛いのだけれど、そこは勘でどうにかするしかない。


 両者の消耗具合を調節するために、私はスコップ謹製ダンジョンを作った。

 スコップ謹製ダンジョンはダンジョンであってダンジョンでは無い。

 ……だから、『侵入者が侵入した後でも、ダンジョンの内装を変えることができる』。

 つまり、侵入者の消耗具合に応じてダンジョンのトラップを変えることで、邪神とロイトさん達の同士討ちを狙うことになる。




 多分、今のロイトさん達なら、放っておいてもトラップで死ぬようなことは無いだろう。

 先に邪神の誘導をしてしまおう。


 最初のダンジョンのエリア内に戻ると、途端に真っ黒いものがあふれ出して、私目がけてやってきた。

「あなたが邪神ですか」

 黒いものは靄のようでありながら、重く質量を持っているようにも見える。

 形が無いようなのに、私に襲い来る靄は、途中で剣や槍の形に変わった。

 光の反射なんて一切無い、そこだけ空間を切り取ったかのようにさえ見える黒。ミセリアの剣や槍と同じものだ。

 黒い靄の中央目がけて《シャインストリーム》を一発浴びせれば、多少、効いたらしい。

 靄は一度、霧散しかけたように見え、そこから急速に集まり、1つの人間の形を成した。

 ……尤も、色はさっきと同じ、光の反射のない黒だから、人の影がその場にあるようにしか見えないのだけれど。

「あなたが邪神ですね」

 声を掛けると、邪神は素早く剣や槍を生み、高速でそれを撃ち出してきた。

 しかし、それらはダンジョンエリア外に出た途端に速度を落とし、バラバラになって消えてしまう。

 それを見てか、邪神はなんとなく、不機嫌そうな仕草をして見せた。

 成程、多分、まだ復活は完全じゃないんだろう。

 ならば話は早い。

「ここからテオスアーレの……いや、『元』マリスフォールの都があった方へ行くと、ダンジョンがあります。あなたの力が唯一及ばないダンジョンが」

 邪神にそう話しかけると、邪神は明らかに反応した。表情も何も分からないのに、気配はとても強く伝わってくる。

 明らかに、機嫌を損ねている。

「そこに、あなたの恋人の腕の骨を持ってお待ちしております」

 言った瞬間、凄まじい速度でまた、大量の剣や槍が飛んできた。

 さっきよりも長い時間、ダンジョン外に留まっていたけれど、私に届く前に消えたり、私に払われたりして、それらは私を傷つけることは無かった。

「できるだけ、お早めにどうぞ。あまり遅いようなら、あなたの恋人の腕の骨で……出汁をとってスープにして、マリスフォールを滅ぼしたあのテオスアーレの騎士達に振る舞いますよ」

 最後にそう告げると、明らかに邪神が怒り狂った。

 それを背中に感じながら、私はジョーレム君に乗って、『王の迷宮』へ向かった。




 ちなみに、『ミセリアの左腕の骨』は、勿論、オリゾレッタの宝物庫にある。

 さて、これをどうやって回収するか、だけれど……ダンジョンの鏡を経由していくのは、危険だろう。

 行きはともかく、帰りはまずい。

『ミセリアの左腕の骨』を持ったまま、邪神のテリトリーを通るなんて、正気の沙汰じゃないから。

 ……ではどうするか、と言えば……。




 スコップ謹製ダンジョンに向かって、隠し通路からダンジョン内に入った。

 ダンジョンの調度真ん中あたりに到着すると、そこに待機していたモンスターの中から、水キメラドラゴンを選ぶ。

「ちょっと、取ってきてほしいものがあるんだけれど」


 指示を出せば、水キメラドラゴンはオリゾレッタへ飛んでいった。

 一応、ダンジョンエリア内には入らないように注意してある。

 水キメラドラゴンなら、水だから狭い所にも入れるし、ドラゴンだから、移動が速い。

 今まで狭い洞穴の中にしか居なかったからその速さを活かすことも無かったけれど、そんなことは気にもせず、水キメラドラゴンは空を猛スピードで飛んで去っていった。

 これで、しばらく待てばミセリアの骨が手に入る。




 さて。

 ロイトさん達が、あれから直接ダンジョンに来るかどうかも分からない。邪神の完全復活までどのくらいかかるかも分からない。

 けれど、ダンジョン内で1日分くらいなら、調製できるようにした。特に、ロイトさん達の方は、かなり細かく調整できるようになっている。ロイトさん達がどんなに強くなっても、彼らは人間だ。その分、邪神よりは、力のバランスや考え方が予想しやすいから、罠も作りやすかった。

 ……邪神の方は、ONかOFFか、みたいな単純な作りにしてある。調整も大雑把だ。最悪、調整が間にあわない可能性も考えている。

 つまり、あとは出たとこ勝負だ。

 一応、両者が両方ダンジョンに入ってしまえば、必ず両者はぶつかり合う。

 それだけでも十分、効果はあるはずだ。少なくとも、0から真っ向勝負で戦うよりはずっとマシ。

「じゃあ、よろしくね」

 ダンジョン内のゴーレムに指示を出して、彼らを彼らの持ち場へ配備する。

 ……このダンジョンは、私の手足のようには動かせない。

 けれど、私だけに動かせる、私だけのダンジョンだ。

 騎士にも邪神にも、私が勝つ。




 +++++++++


「ここ、か……?」

「だろうな」

 俺達の目の前には、ダンジョンの入り口があった。

 白い石の、すごくシンプルな門。奥に続いているのも、シンプルなトンネル。

 邪神が居るにしては、すごくシンプルなダンジョンだった。

「な、これ、邪神が居るにしてはシンプルすぎねえかな……」

「……ま、案外こんなもんなのかもしれないわよ。邪神なんてさ」

「ま、まあ、雰囲気、ありますよね……」

 メイズに再会した次の日。

 俺達は、メイズに教えられたダンジョンに来ていた。


「罠の可能性は捨てるなよ。相手は国を複数滅ぼしているんだからな」

「んなこと分かってるよ」

 ……ここに来ることになって、姫様から守りの術を施してもらった。

 その時、メイズの名前は出さずに、ただ『邪神を倒してくる』とだけ言った。

 姫様は聡明な方だから、なんか気づいてるかもしれないけど。

「姫様、大丈夫っすかね……」

「守りは固めてあるし、エピテミア周辺にはもうダンジョンが無い事は確認済みだ。心配するな。俺達は俺達の心配をしよう」

 万一、メイズが俺達をダンジョンに呼び込んで、その隙にエピテミアを叩く算段だったとしても対応できるように、俺達も万策を尽くしてきた。

 ……けれど、やっぱり姫様が心配なのは変わらない。

 姫様自身もきっと、俺達の心配をしてるんだろうな。

「はあ、邪神が出るか、悪魔が出るか……国を滅ぼした極悪人が出てくるか。楽しみよねえ?どいつが出てきてもぶっ殺してやるけど」

 ……多分、姫様はきっと、メイズの心配もしてる。

 姫様はお優しいから。だから、俺達はメイズの事、姫様に言わないようにしたんだけどな。

 ……なんで、こんな事、するんだろうな。メイズ。

 俺、どうしたらいいんだろうな。




 ダンジョンの中は、やっぱりシンプルなままだった。

「随分と、ダンジョンらしくないダンジョンだなあ……妙に温かみがあるように感じる」

「見てよこの壁。土掘りっぱなしたのをちょっとならして漆喰塗って固めただけみたいじゃない?」

「これも罠なんだろうか……?」

 床には石畳が敷き詰めてあったけれど、壁や天井は、漆喰で固めたようになっていた。

 それも、まっ平らじゃなくて、わざわざ塗り跡を残したようになっている。

 テオスアーレの都の家には、こういう外壁の家が多かったっけ。

「……ん?」

 そんなシンプルな通路を通っていたら、急にスファーが壁を見て、首を傾げた。

「どうした、スファー」

「いや、この壁……壊せそうだな、って思って」

 どうする?とアークダルに目配せすると、アークダルは頷いた。

「よし。壊してみよう。ただ、これ自体が罠の可能性もある。慎重に壊そう」


 慎重に壊す、となると、一番向いてるのはサイランだろう、という事になって、サイランが剣を構えた。

 サイランは狙いの正確さは俺達の中で一番だからな。

「じゃあ、壊すぞ。構えろ」

 俺達も武器を抜いて、いつでも戦えて、いつでも逃げられるように構える。

 そして、サイランが漆喰の壁を剣で突いて……。

「……っ!」

「これは……」

「……悪趣味にも、程が、あるわ……」

 漆喰の向こう側にあったのは……たくさんの、骨、だった。

 多分、人間の。


「この通路……一面、壊せそうなんですが……」

「嘘……じゃあ、この通路全部、骨……っ」

 気分が悪くなるのは仕方ないと思う。

 だって、この素朴な壁の向こう側が、全部、骨……。

「……先へ進もう」

 壁の骨へ、気休め程度に祈りを捧げてから、俺達は先へ進むことにした。




「……まさか」

「行き止まりかよ……」

 しかし、俺達の目の前で、道は塞がってしまった。

「どうする?他に道があったようには見えなかったが……」

「無いっすよお、道なんて。あったら俺、気づいてますし……あったのは、壊せる壁ぐらいで……」

 ……嫌な、予感がする。

「……ね、ねえ?もしかして、このダンジョンってさ……今までの、壊せる通路全部の、どこかに……隠し通路があった、って、ことなの……?」

 ……誰も、否定できなかった。


「……壁を順に破壊していこう。罠もあるかもしれない。慎重に……」

 俺達は、この性格の悪い仕掛けを解くため、ひたすら、壁の漆喰を剥いでは、その奥に大量の人骨があるのを見る羽目になった……。

 邪神なんて居そうにないダンジョンだと思ったけれど……間違いない。

 ここは、間違いなく邪神のダンジョンだろう。こんなに悪趣味なんだからな!

 くそったれ。


 +++++++++




 ぴか、と、手元のランプが決められたとおりに光った。

 ゴーレムからの信号だ。

 このランプは、ガラスのフィラメント繊維を通して光を伝える仕組みになっている。

 つまり、光ファイバー。

 これと『光石(小)』を使って、光を伝えて情報伝達できるようにした。

 ダンジョンの地下や、壁で区切られた隣の部屋には、それぞれゴーレム達の待機場所があって、彼らがこのダンジョンの仕掛けを逐一動かしている。

 今、ゴーレム達が動かしたのは、通路の『行き止まり』。

 金属板に土を塗ったものに人骨を固定して、土と漆喰で塗り固めたものを用意しておいて、必要に応じて通路の先に設置することで、ただの通路を『通路の壁を壊して隠し通路を探さなくてはいけない通路』にできる。

 ロイトさん達は、このダンジョンがダンジョンだと思っているから、先へ進むための仕掛けが必ずあると思っているし、仕掛けを解けば必ず進めると思っている。だから、大人しく壁の破壊に勤しんで、その後、元々用意しておいた隠し通路を見つけて次のエリアへ進むことだろう。

 このダンジョンはダンジョンじゃないから、別に、『100%攻略不可能』な設計にしてもいい。(勿論、破壊可能オブジェクトしかないダンジョンだから、それを作るのは不可能なのだけれど。)進めないと邪神と会わせられないから、当然、進めるようにできているけれど。

 ……進めるようにはできている。それは間違いない。

 でも、進めるか進めないかを決めるのは私自身だ。最悪、袋小路で答えの無い謎解きをさせてもいい。『解無し』に気付かれて破壊されたら元も子もないけれど、とにかく、時間を稼ぐ、という点では、それでも十分だ。

 ……邪神は、まだ来ない。

 偵察にやったブラッドバットが戻って来たら、また考えよう。

 ロイトさん達を足止めするトラップも、消耗させるトラップも、まだまだたくさんあるのだから。


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