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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
終わりのダンジョン
127/135

127話

 目の前の人は、『ミセリア・マリスフォール』である事を否定しなかった。

 だから多分、この人は『ミセリア・マリスフォール』なんだろう。

 でも、この人は「久しぶりね、私」と言った。

 ……疑問が顔に出ていたらしい。

「知らないのは当然。あなたは私と初対面だから」

 ミセリアさんはそう言って、また笑う。

「……私は、あなたと初対面。……なら、あなたは?私とは、一方的な知り合い?」

「そう」

 薄青の光に照らされて、ミセリアさんは両手を広げた。

 旧友か、我が子か、恋人か。そういった誰かにそうするように。

「私はあなたを良く知っている。だって、あなたは私の一部なのだから」




 なんとなく、察しがついた。

 オリゾレッタにあった、『コルムナの絵本』。あそこには確か、魂を分ける魔法について書いてあったはずだから。

 ……勿論、察しがついたからと言って、納得がいったわけではない。

 当然だけれど、私には『ミセリア・マリスフォールの一部である』、或いは、『ミセリア・マリスフォールの魂の一部を持っている』なんて自覚は無い。

「不思議に思わなかった?あなたの世界が消えた時、あなただけが残った事を」

 特に思わなかった、と言えば嘘になる。

 考えても無駄だから考えなかった、と言えば、近いかもしれない。

 ……なんとなく、『世界のコア』が何かしたんだろう、位に思っていたのだ。思いたかったのかもしれないけれど。

「それから、この世界に来て、順応が速かったと思った事は?ダンジョンの使い方がすぐに分かったのも、文字の読み書きも」

 それについては考えた事があったけれど、ダンジョンに成ったせいだと思っていたから、特に不思議に思っていたわけでもない。

「そして何より、人間を殺しても壊れない自分については?」

 それこそ、今更だ。

 私はダンジョンに成って、変わった部分があるとは思っている。

 でも、それこそ、考えたってどうしようもないことだ。私はもう変わってる。だからもう考えても答えは出ない。

「それらの理由は簡単。あなたが、私の魂の片割れが異世界に芽吹いて生まれた存在だから。魂に刻まれた記憶を辿って、必要な情報を得ていたから。あなたの魂は、元々この世界の……私のものだから」

 なので、そんなことを言われても今更だったし、特に何が変わる訳でもないのだった。




「あなたに聞きたいことがある」

「どうぞ?」

 けれど、私はとりあえず、聞いておかなければいけないことがある。

 薄く笑顔を浮かべたままのミセリアさんに、問う。

「私の世界は?或いは、集めた魂は?」

 さっきの幻覚は、所詮幻覚だった。本物じゃない。

 だとすれば……答えは、自然と2つに絞られる。

 そして、答えは。

「勿論、邪神様復活の贄にさせてもらったわ。だから私も出てこられた。どうもありがとう」


「じゃあ、もう1つ」

「まだあるの?」

 答えがそっちだったら、次に聞く事は、決まっている。

「あなたを殺せば、さぞ大量の魂が、手に入るんでしょうね?」




「流石、私の魂の片割れね」

 特に構えることなく立っていたミセリアさんに向かって、ガイ君が走る。

 私はガイ君に体を任せて、代わりに魔法の準備。

 そして、ホークとピジョンが迫った瞬間……ミセリア・マリスフォールは暗い光の奔流に包まれて、刃を弾いた。

「私も丁度、あなたを殺して、魂を1つに戻したいと思っていたの!」

 暗い光が収まった時、そこからミセリア・マリスフォールが飛び出してきた。




 剣同士がぶつかる。

 ミセリア・マリスフォールはいつの間にか、真っ黒すぎるくらいに真っ黒な剣を持っていた。

 黒すぎて、剣がある場所だけ、空間が切り取られでもしたように見える。

「強くなったのね、私」

「私はあなたじゃない」

 ミセリア・マリスフォールよりも、私の方が力は強いみたいだった。

 私にはガイ君を初めとして、装備モンスターがついているから。

「魔物を装備するなんて、よく考えたものだと思うわ。異世界の発想?」

「さあ」

 ……けれど、相手は、私の切り札の1つであった、装備モンスターについて知っている。

 その上で、対策してこない訳が無い、と思うのだけれど。




 場所を移動しながら、私達は戦っていた。

 玉座の部屋に相手を置いておきたくなかったから、できるだけ、玉座から離れるように誘導した。

 ……玉座に座った相手のその隙を狙って殺すことも考えたけれど、それはあまりにもリスキーだから。

 玉座の部屋の前、最後のバトルフィールドになる場所まで到達したら、思う存分、広い場所で戦える。

 あとは、相手が存在を知っているトラップを、どの程度使えるか、だけれど。


 ……不意に、私の体が勝手に動くような、奇妙な感覚があった。

 それと同時に、ほとんど反射のようにして、私はその場所から飛びのく。

 すると、私の体……ダンジョンが勝手に動き、さっきまで私が居た場所にはギロチンが落ちてきていた。

「あなたの魂は私のもの。あなたのダンジョンは、私のものでもある」

 ……こんなの、ちょっと、ずるくない?




 トラップの位置は分かっているし、トラップが動く時には私にも分かるから、避けることに苦労は無い。

 けれど、いくら場所が分かっていても、当たったら致命傷を負いかねないことに変わりはないし……トラップだけでは無くて、ミセリア・マリスフォールの攻撃も避けなくてはいけないのだから、トラップが私の行動を制限していることに変わりはない。

 ……この戦法がどのくらい有効かは、私がよく知っている。

 今まで散々、私自身がやってきた戦法だから。

「逃げるだけ?まさか、これで終わりじゃ……っ」

 だから勿論、相手の不意の突き方も知っている。

 逃げて逃げて逃げて……そこで、ミセリア・マリスフォールの傍のトラップを動かす。

 ミセリア・マリスフォールに動かせるからって、私が動かせなくなった訳じゃない。

 このダンジョンは依然として私のままだし、私はダンジョンのままだ。

 ミセリアはトラップを避けながら私が繰り出した剣は身を捻って避けて、同時に私を狙って矢を放ってきた。

 ……相手もそう簡単に、一本取らせてはくれないらしい。

 私は矢を防ぐように伸びあがる床を出して盾にして、今度はミセリアの足下に大鎌を出す。

 ミセリアは跳ね上がる床を使って加速しながら私に向かって剣を振り、同時に私の足下から槍を突き出す。

 時には魔法が飛ぶし、時には剣が交わることもある。

 けれど、とにかく規模が大きい。

 1人と1人が戦っているのに、その1人と1人は同じダンジョンであり、1つの感覚を共有している。

 私達は1人と1人でありながら、1つのダンジョンでもある。

 多分、私の魂が云々、というのも、この奇妙な感覚に貢献しているんだと思う。




 ……こんな調子で、一進一退を繰り返し続けた。

 そんな折。

「そろそろ、ね」

 ふと、体の奥で何かが重くなったような感覚が走る。

 ……そして、私は予感だけで、《ラスターケージ》を張った。

 直後に、光の壁には黒すぎる程に黒い槍が数本、ぶつかって止まっていた。

「邪神様の力は徐々に戻ってきている」

 《ラスターケージ》を解除すれば、槍がすぐにでも刺さるだろう。

「邪神様の力は強くなっていく。時間が経てば経つほど、ね」

 ミセリアの言葉を肯定するように、黒い槍はより力を増して、光の壁にぶつかり続けてくる。

 この黒い槍が、邪神の力、という事なのかな。

 そして、時間経過で強くなっていく、と。

 やっぱり、ずるい。




 槍は問答無用でとんでくる。

 とにかく、空間を切り取ったように黒いものだから、距離感が掴めない。

 避けるのにも苦労して、少し掠ったりもした。その度に春子さんがガイ君の下を通ってきては治してくれたけれど。

 ……しかも、時間経過とともに、少しずつ、少しずつだけれど……槍の速度が、上がってきている。

 実際、避けるのに苦労するようになってきた。

 トラップでもなく、魔法でもない。

 そんなこの謎の槍……邪神の力、とやらは、とにかく読みづらかった。

 ダンジョンとしての感覚では何故か捉えられず、私の目や、装備モンスター達の感覚でしか反応できない。

 これは少し、予想外だったかもしれない。


 ……ここで私は2つの選択肢を持っている。

 1つは、ここでこのまま戦い続けること。

 もう1つは、このダンジョンを出て、スコップ謹製ダンジョンへ戦場を移すこと。

 ……多分、後者の方が、勝率が高いだろう。

 ここでこのまま戦っていても、私の地の利は無い。

 けれど……ミセリア・マリスフォールの後ろに居るのは、邪神、じゃないだろうか。

 そして私は、きっと……邪神を、殺さなくちゃいけなくなる。

 その時のために、スコップ謹製ダンジョンはとっておいたほうが良いだろう。

 ……でも……。




 私は、考えた。

 考えて、ダンジョンを出ることにした。

 目指す先は……エピテミア。

 ストケシア姫の、新しい国が生まれようとしている、そこへ。


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