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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
終わりのダンジョン
124/135

124話

 町の範囲に入ったら、上空で王を殺して、さらなる上空へ放る。

 そこに向かって《フレイムピラー》を放って合図する。本当に《フレイムピラー》は便利だ。攻撃にも牽制にも合図にもなる。

 ……火の手を確認したモンスター達がこれで動き出すだろう。

 空には、塩素の入った瓶を持ったガーゴイルやブラッドバット達が一斉に飛び立った。

 アドラットの町を包囲した強化ゴーレム達は、これから包囲網を絞っていく。

 強化ゴーレム達も、塩素の入ったタンクと、タンクから繋がるホースを持っている。

 包囲して、人を逃がさず、町の中で死なせる。

 これでオリゾレッタの国の精霊も無事、殺せるはずだ。




 ゴーレム達は塩素を浴びても痛くもかゆくも無いのだけれど、ブラッドバット達は塩素が苦手なようだ。

 塩素は重いから、地上に溜まる。塩素を投擲したブラッドバット達には上空を通って元の場所まで戻るように指示した。

 ……それから、ダイス君。

 ダイス君は目が大きい分、やっぱり塩素が苦手らしい。

 なので、ダイス君には専用のゴーグルとガスマスクを支給した。

 ……ダイス君のゴーグルは、体操座りした私が入れるぐらいのサイズだった。やっぱりダイス君の目は大きい。




 塩素を頑張って作った甲斐があった。

 町の外周から徐々に流れ込んでくる塩素に、町の人々は最初こそ不審げな顔をするだけだったけれど……徐々に、吐き気や頭痛を訴えたり、目や口内の不快感を訴えたりし始め、そしてその内、倒れる人も出てきた。

 そして、口元を押さえながら高所へ避難すると良い、という事が浸透し始めた頃には、もう町の中心部にまでゴーレム達が包囲網を縮めていたし、そうなればもう、あとはゴーレム達がチームワークを活かして存分に人を殺していってくれた。

 戦える人は戦っていたけれど、元々、塩素の中での戦闘だ。

 塩素関係なしに戦えるゴーレムと、塩素に気を付けながら戦わなければいけない人間とでは、ハンデがありすぎる。

 そして、そんなこと抜きにしたって、ゴーレム達は十分強い。

 常に1対多数に持ち込んで、各個撃破。

 戦い方も上手になっていたゴーレム達は、順調にアドラットの町を侵攻していった。




 ……そしてその間、私はアドラットのお屋敷ダンジョンに居た。

 残念ながら、私は塩素に弱い。人間だから仕方ない。

 けれど、ゴーレム達は強いから、心配することも無いだろう。

 締めきって、窓や扉の隙間を濡れた布で目張りしたお屋敷ダンジョンの中、私は砂時計型オブジェを見つめ続けた。




 そうして、どれくらい待っただろうか。

 突然、砂時計型オブジェに、膨大な量の魂が流れ込んできた。

「おー」

 これで、オリゾレッタの国の精霊の魂も手に入った、ということだろう。

 なんだかとてもあっさりと終わってしまったけれど、準備に時間が掛かっただけのことはあった、ということかな。


 ゴーグルをつけて、ガスマスクは付けずに、濡れた布を口元に当てて代用して、窓を開ける。

 そして窓からまた《フレイムピラー》を放ち、合図した。

 するとあちこちの空からガーゴイルが飛んできて、町の各所に降りたつと、そこでバサバサバサバサ羽ばたきはじめた。

 ……何をしているかと言えば、塩素の撤去。


 それから、強化ゴーレムの背中に居るファントムマント達もパタパタパタパタやりはじめ、クロノスさんとダイス君が巨大なうちわを持ってばさばさ町を扇ぎ、徐々に街から塩素が消えていった。

 撤去が簡単なのも塩素の良い所。

 そして、塩素があらかた薄まったら、私も町に出て、生き残っている人達を皆、お屋敷ダンジョンの敷地内へ連れてきた。

 簡単に回収できる魂と経験値は回収するに限る。




 さて、今回のリザルト。

 今回手に入った魂は、53,001,025ポイント分。

 例の如く、精霊1体分と、回収できた民衆の分と。

 今回の侵攻は、時間こそかかったけれど、その分労力はとても少なく済んだと思う。

 レイナモレの方と並行して進めてよかった。


 あとは、レイナモレを滅ぼせば必要な魂が溜まる。

 レイナモレもは如何せん範囲が広いから、今回みたいに塩素で何とかするのは難しいのだろうけれど、レイナモレはその土地のほとんどがダンジョンだ。いくらでもやり様があるだろう。




 ……ちなみに、後になってから『実は、私が殺した国王は偽物だった』という事が判明したのだけれど、これで逆に『国王を殺さなくても国は滅ぶ』という事も分かった。




 オリゾレッタの都、オリゾレッタの城は、相変わらずの汚さだった。

 汚したのは私なのだけれど。

 後で『濁流の洞穴』は『清流の洞穴』に戻しておこうかな。


 黄色ブドウ球菌たっぷりの培地があちこちにこびりついた町を歩いて、オリゾレッタの城の中に入る。

 目的は勿論、宝物庫や書庫。

 少しでも『邪神』についての情報を集める為だ。




 オリゾレッタの書庫には、特にそれらしいものが無かった。

 禁書棚、みたいなものが無かったから、別の所に隠してあるのかもしれない。

 ……ということで、先に宝物庫を探してみた。


 宝物庫は、他の王国と同じように、宝物で溢れていた。

 金銀財宝は当たり前。

 他に、珍しい武具や綺麗なドレス、不思議な薬の瓶……と、様々なものが保管されていた。

 ……そしてその中の鎧が、ガイ君のお気に召したらしい。

 綺麗な鎧だけれど、多分、この綺麗さは綺麗に作ろうとして生まれた綺麗さじゃないんだろうな、というかんじの鎧。

 鎧は、少し落ち着いた色の金属でできている。やや暗めの銀灰色。光の加減によっては、ブルーグレイに光っても見える。

 形はすっきりしていて、案外軽そう。

 余分なパーツも余分な飾りも無く、本当にただ、綺麗な金属を鍛えただけ、というような鎧だ。

「これがいいの?」

 聞くと、ガイ君はがしゃがしゃ、と肯定するように揺れた。

 確かに、強そうな鎧だと思う。それに、ガイ君のお気に召したのなら、これにしない理由も無い。

 鎧は持ち帰って、ガイ君と合成し直すことになった。

「じゃあ、帰ったらこっちに取り換えようか」

 そう言えば、ガイ君は嬉し気にがしゃ、と揺れて……それから、私の腕ごと、鎧を少し動かした。

 動いた私の手は、鎧の胸……ガイ君の胸を飾っている宝石飾りに触れた。

「……そうだね。この鎧、シンプルだから、こういう飾りもあった方がいいよね。こっちも着け直そうか」

 ガイ君は今度こそ、心底嬉しそうにがしゃがしゃ揺れた。




 宝物庫の奥を調べると、最奥にあった本棚が隠し扉になっていて、その奥に禁書棚や、何やらオカルティックなものがたくさんならんでいた。

 お札のようなものを貼ってある箱とか。(不幸の箱、と書いてあった。)

 鎖でぐるぐる巻きにされた、真っ黒な剣とか。(魔剣、と書いてあった。)

 水晶のようなものの中に入っている、人間の左腕の骨とか。(封印すべき者の骨、と書いてあった。)

 明らかに血液みたいなものが入った瓶とか。(邪悪なる悪魔の血液、と書いてあった。)

 ……そんなオカルティックな物の奥にひっそりと、禁書の棚があった。

 禁書の棚の中には、当然のように仰々しいタイトルの本が並び、時々、タイトルの無い真っ黒な本が並び……そして、それらの中にぽつん、と、1つ、あまりにも場違いな本が紛れ込んでいる。

 1冊、サイズが違うために棚からはみ出していることもそうだし、何より、その薄さとタイトルと……絵が、どう見ても『禁書』らしくない。

 唯一『禁書』らしい所があるとすれば、その古さぐらいだろうか。

 タイトルは、『お姫様の冒険』。

 ……どう見ても、絵本だった。


 絵本とはいえ、禁書らしいから中身を読んだ。

 ……絵本そのものの中身としては、『あるお姫様が冒険して巨悪と戦い、国を救って王子様と結ばれる』という、ファンタジックながらもそこそこ大人しい内容だった。

 しかし、絵本の中身、ではなく……その中に書かれていた、血文字。

『ウィアの歴史書』のように、ページの中に唐突に書き込まれている赤い文字には、全く大人しくない内容が書いてあった。

『人間の血を溶岩に変える魔法』。

『自分の血を邪神に捧げ、代わりに邪神の力を体内に流し入れることで邪神の力を顕現する魔法』。

『毒を持つ生き物のありとあらゆる毒を凝縮して1滴の猛毒を作る魔法』。

『自分の骨の一部を邪神に捧げることによって、自分の魂を分け、魂の片割れを持つ別の人間を生みだす魔法』。

『人間の肉100人分を邪神に捧げて、理想通りの人造人間を作る魔法』。

 ……成程、禁書になる訳だ。

 大体全部、物騒な魔法だった。

 中には『人間の白骨死体から花を咲かせる魔法』という、物騒なのかメルヘンなのか分からない魔法もあったけれど。

 そして、それらの中に1つ、気になる魔法があった。

『我らが一族のみが読むことができる文字を記す魔法』。

 ……どうやら、関係者以外には何も見えないけれど、関係者には『血で文字が記してあるように見える』らしい。


 それって、この絵本に書いてある、これのことかな?


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