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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
12/135

12話

 +++++++++



「ゼランディオ団長、あれでしょうか」

 副団長のストラリアが指す先には、虚ろに白い祭壇があった。

「間違いないな。……ダンジョンだ」

 中からは恐ろしいほどに、『何の気配も無い』。

 ダンジョンである以上は中からモンスターの生命の気配がしてもいいはずなのに、息遣いの1つすら感じなかった。

 まるで、恐ろしい生物が眠っているように。

 ……強い生物であるほど、敵に襲われることが無いから悠々と眠っていられる、と、学生時代、教官に教えられたようにも思う。

「……ケヴィも、ここで死んだっていうのか」

 見れば、ノーリが茫然とダンジョンの方を見ていた。

「まだ、ヘンブレン達が死んだとは限らないだろう。ヘンブレン達は強い。きっと大丈夫だ」

 確か、ケヴィというのは、エピテミアの魔道学校でノーリと同期だった魔法使いだったはずだ。

 非常に優秀な魔法使いだったと聞いていたが。……このダンジョンは、エピテミア魔道学校の首席ですら死ぬような仕掛けがある、ということか。

 ……ノーリを励ましたものの、俺自身、ヘンブレン達の死を疑ってはいなかった。

 ヘンブレン達はテロシャ村で依頼を受けて森に入ってから、帰ってこなかったらしい。

 あの真面目な男が、依頼を放り出して逃げるとも思えない。……ならば、死んだのだろう。


「どうしますか、ゼランディオ団長。このダンジョンは私達の手に負える代物でしょうか」

 ストラリアの問いに、俺は少しばかり迷った。

 ……ヘンブレン達が死んだのだ。このダンジョンの脅威は、相当なものだろう。

 しかし、俺達とて、伊達にテオスアーレ第3警邏団をやっている訳では無い。

 ヘンブレン達のパーティにはケヴィ以外、魔法使いが居なかった。だが、俺達にはノーリの他、ストラリア、クィス、ユーリリナ、と、多くの魔法使いが居る。そして、それぞれが実戦仕込みの優秀な魔法使いだ。

 ……戦力に不足は無い、と思う。

 少なくとも、入ってから駄目そうなら逃げる、という程度の事はできるはずだ。

 どうせテオスアーレへ戻るなら、少しでも情報を手土産にしたい。……さもないと、第1警邏団の連中に手柄を全部持っていかれてしまうだろうからな。

「進もう。ただし、途中で危険だと思ったら撤退するぞ」

 そして、俺が下した決断に意見を言う団員も居なかった。




 ダンジョンに入ってすぐの壁には、数式が書いてあった。

 当然、『解無し』だということはすぐに分かったため、その後に続くどこかで何かの仕掛けがあったとしても、動じずに済みそうだ。

 ……そう。折角導き出せた『解無し』だったが、それを使う箇所がどこにも見当たらなかった。

 1つ目の部屋と2つ目の部屋はドアなどで区切られているわけでもなく、ただ漫然と繋がり……そして、分岐点を俺達に示す。

「2つのドア、2つのボタン……ここで俺達を分断しようってことですよね」

「でも、さっきの『解無し』が引っかかるわね……」

 さっきの壁の数式が、まさか何の意味も無い物だとも思えない。ということは……。

「この先で、ということか」

 ……まだ、入り口も入り口、序盤も序盤だ。

 ここで引き返しても何の成果も得られない。

「よし、なら2手に分かれるしかあるまい。ルチア、クィス、ロスタ、タンダル、ヴェラ、ユーリリナは俺に続いて左へ進む。ノーリ、オルタス、パリナ、ウパラ、ワーダンテ、キセナーはストラリアと共に右へ進め」

 魔法使いと戦士と射手をバランスよく配分して2つの班に分ける。いつも、団を2つに分ける時にはこの組み合わせだ。チームワークも問題ないだろう。

「ストラリア、右は頼んだぞ」

「はい。ゼランディオ団長も、お気をつけて」

 班に分かれてボタンを押すと、俺達の間に壁が現れ、案の定、俺達は2つに分断された。

 だが、予想通りだった以上、動揺することも無い。

「では、これよりテオスアーレ第3警邏団ゼランディオ班はダンジョン攻略を行う!」

 皆を奮い立たせるように宣言すれば、応、と、応える声が勇ましく響く。

 ……そうして、俺達は恐れず、しかし油断せずに、左側のドアを開けて進んだ。




「下り坂、か」

 最後尾をロスタに任せて、俺は先頭を行く。

 しかし、警戒した割にドアの先には何も無かった。

 ただ、長い下り坂が続いているだけ。

 ……当然、トラップがある可能性もある。十分に注意していこう。


 そうして、注意していたのがむしろ、良くなかったのだ。

 安全を確認しながらゆっくりと坂道を下り始めて少しした頃、突如、重い音と振動、衝撃。

 そして。

「ロスタ!」

 悲鳴を上げる間もなく、落ちてきた鉄球に潰された仲間。

「団長!先へ!転がってきます!」

「くそっ、クィス!ユーリリナ!魔法でなんとかならないか!」

「無理です、団長!風で押し返せる重さじゃない!逃げるしかありません!」

「こちらもです、炎でなんとかできるものではありません!」

 仲間の体を轢き潰しながらゆっくりと、しかし確かに転がり落ちてくる鉄球。

 ……この通路は狭い。壁に張り付いても、鉄球をやり過ごすことはできない。クィスやユーリリナの魔法で止めることもできない。

 そうなれば、当然、この通路をひたすら駆け下りて鉄球から逃げるしかないのだ。

 まるで、今まで慎重にトラップを警戒していた俺を嘲笑うような仕掛けのように思える。

「あっ、団長っ」

 そして、ひたすら走る俺達の背後で、後ろを走っていたヴェラがバランスを崩して転倒した。

 ……だが、助けることはできない。

 次第に勾配を急にしていく坂道。転がり続ける鉄球は当然加速し、俺達を追い立てる。

 こうなってしまっては、転んだ仲間を見殺しにすることしかできない。さもなくば、他の仲間や俺自身が死ぬことになるのだから。

 ……唇を噛みながら、走る。走る、走る。

 全力で走っても尚、どんどん距離を詰めてくる鉄球に恐れすら抱きながら……走って、走って、ひたすら坂を駆け下りた。


 そして、ついに悪夢は終わる。

「出口だ!警戒しろよ!」

 坂道が水平な床になり、その先に明りが見える。

 これでついに、鉄球に追い立てられることも無くなる。

 俺は出口からすぐ右手に折れるように曲がって、後続の仲間たちのために場所を空けて……そう、思っていた。

 そうしようと、したのだ。

「すきありー」

 緊迫した状況に似つかわしくないのんびりした声と共に、俺の目の前に鋭く刃が突き出された。

「なっ」

 のんびりした声と鋭い攻撃。相反する2つの要素と、鉄球に追いかけられている焦り、そして、出口に到達したという気の緩み……それらが、俺の行動を阻害した。

 剣を抜こうとしたが、間に合わなかった。

 ただ、なんとか体を捻って致命傷を避ける。

 喉を狙った容赦のない一撃は、首に僅かな切り傷を作っていくに留まった。

 ……だが、それこそが、悪夢の始まりだったのだ。


「団長っ」

 そう。俺の後ろには、俺に続いて坂を駆け下りてきた団員達。

 そして、転がり落ちてくる鉄球。

 ……俺がたたらを踏んだせいで、後続の団員が咄嗟に動けなくなってしまったのだ。

「うわあああっ!」

「きゃあ!」

 さらに、そんな俺達に追い打ちをかけるかの如く、床に穴が開く。

 タンダルがそこへ、ユーリリナを巻き添えに落ちてしまう。

 ……ごく浅い落とし穴は2人をその場に転倒させるような形にし……直後、その2人を鉄球が押しつぶして通り過ぎていった。

 鉄球が壁にぶつかって消えると同時に、今度は矢が放たれる。

 クィスとルチアはなんとか矢を避けたが、今度は避けた先に落ちてきたギロチンの刃の餌食になってしまった。

 まるで、俺達の動きを全て読んでいたかのような……いや、実際そうなんだろう。俺達はまんまと敵の謀略に嵌まってしまったのだ。

「く……く、そ、《ツイスター》……!」

 クィスが死に際に1つ、魔法を遺していったが、それも……。

「キャタラクト、だっけ」

 あっさりと打ち出された高度な水魔法によって、簡単に打ち消されてしまったのだった。

 ……最後に1人、残された俺にできることはそう多くない。

 剣を抜いて、構える。

 ……俺は1人ででもこのダンジョンを脱出し、テオスアーレにダンジョンの危険性を報告する。仲間の死を無駄にしない。

 その為に俺は、目の前の女魔法剣士を倒さねばならない。




 俺が剣を構えるや否や、目の前の女はふわり、と動いた。

 その、あまりにもゆったりとした動きの直後、鋭すぎるまでの一撃が俺の首のすぐ横を掠めていった。

「くっ……!」

 だが、今度はちゃんと剣がある。盾も使う余裕がある。

 剣と盾とで女の剣を弾き、流し、なんとか防御に徹しつつ、女の隙を探る。

 ……だが、女の動き方はどうにも不自然なのだ。

 ふわふわしているのに、要所要所で速すぎる。

 隙のように見えた瞬間があったと思ったら、次の瞬間には髪の一房を斬り飛ばされている。

 今や、見た事の無い流儀の剣術によって、俺は完璧に翻弄されていた。

 そう。俺は、女の剣だけに集中しすぎたのだ。

 ……いや、集中せざるを得なかった。集中しなかったならば、間違いなく俺は女の剣によって死んでいただろう。

 だが、それだけでは足りなかったのだ。


 不意に、女が横へ動いた。

 すい、と、何かに引かれるように女が動いた直後、俺の足元から槍が突き出した。

「ぐあっ!」

 咄嗟に避け損なった俺は、右太腿を槍に貫かれてしまった。

 ……そう。ここはダンジョンだったのだ。この部屋の無数のトラップを、警戒しなくてはいけなかった。

 右太腿に感じる熱い痛みが俺の頭に伝わる頃、もう、女は俺の眼前に迫ってきていた。

 剣を、振りかぶって。



 +++++++++




 鉄球の方から来てくれた人達7人を仕留めて、感無量。

 そう。これこれ。こういうことがしたかったのだ。

 ……前回は、左側に分かれてくれたのが1人だけだったから、どうにも鉄球トラップの有用性を感じにくかった。

 けれど、今回は人数が多かった分、トラップが綺麗に決まったと思う。

 人数が多いと身動きがとりにくい。身動きがとりにくければ、その分トラップを当てやすい。相手がパニック状態なら尚更。

 そして、トラップで直接仕留められなくても、次のトラップや私の攻撃で仕留めればいい。

 ……私の攻撃は、リビングアーマー君やソウルソード、ソウルナイフ達、そしてデスネックレスとファントムマントに支えられて、とても強力なものになっている。

 恐らく、今回の侵入者の中で一番強かったのであろう団長さんすらあっさり倒せてしまう程に。

「ありがとうね」

 装備しているモンスター達にお礼を言うと、それぞれがカタカタしたり、ひらひらしたり、ぱたぱたしたりして応えてくれた。




 ……そうこうしている間にも、右へ進んだ残り7人が迷路を攻略していく。

 流石に手慣れているというか、攻略に危なげなところが無い。まだ序盤だから、疲労も少ないだろうし、焦りも少ないからだろうけれど。

 ……けれど、もし、7人が欠けることなくここに到達してしまうと、流石にちょっと辛い。

 7人同時にこの部屋で相手取るのは……最初の不意打ちでまとめて2人ぐらい殺せたとしても、残りは5人、しかも、多分その中に魔法使いや射手を含むから……危ない橋はあんまり渡りたくないな。

 けれど、迷路の中のトラップは基本的にはオートマティック作動だ。私が迷路の中の侵入者にできることは無い。

 ……だからと言って、このまま侵入者が死んでくれるのを待つのも馬鹿らしいだろう。

「先手必勝で行こうか」

 私の武器は、装備モンスター達の力だけじゃない。

 ダンジョンとしての視覚、感覚……迷路の構造を完璧に把握していることも、私の武器になる。

 だからきっと……迷路の中で戦えば、この部屋で戦うよりも有利に戦えるはずだ。


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― 新着の感想 ―
迷路で血溜まり達の暗躍を期待していただけに、ちょっと残念。
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