117話
……さて。
今回のリザルト、というか……まあ、リザルト。
今回、手に入ったダンジョンは30個。29個のダンジョン+レイナモレ城。私が最初に拠点として作ったダンジョンを入れたら、31個になるか。
そして、それぞれのダンジョンから手に入った魂は、14,526,757ポイント分。
ほとんど使い切って空っぽになっているダンジョンもあったし、たっぷり魂が貯蓄されたままのダンジョンもあった。
最後のレイナモレ城は使い切れるだけ使い切ったのか、少ししか魂が残っていなかった。
それでも30のダンジョンからこれだけ手に入ったのだから、上出来だと思う。
ちなみに、オリヴァさんを還元したら、3,564,500ポイント分の魂が得られた。
やっぱり、張り込んで作られてたんだなあ、オリヴァさん。
……それから、もしかしたら、勘違い、かもしれないのだけれど。
オリヴァさんを還元する時、5段階に分かれて還元された。
1つは記憶……メモリ。
2つ目はバックアップレコーダー。
3つ目はコマンダーパッチ。戦略・戦闘関係のデータとか演算機能とかがついてたらしい。
4つ目は本体の還元。
……でも、5つ目が、分からなかった。他の物よりあっさり還元されてしまったので。
もしかしたら、私が気づかなかった付属パーツがあったのかもしれない。
けれど、なんとなく……還元したはずの感情面アップグレードパーツに似た何か、だったように、思うのだ。
……オートマタ、だから、そういうものが勝手に湧くとも思えないのだけれど……強いて言えば、メモリに刻まれていた記録から学習して、それらしいものを1つ捏ね上げた、ということ、なのかな。
それができる程の経験を積んだオートマタだったからこそ、還元してこの魂量だったのだろうし。
……まあ、儲かった、ぐらいに思っておこう。
「ね」
特に意味も無く、装備モンスター達へなんとなく声を漏らすと、背中からボレアスがぺらっ、と持ち上がって、マントの布の端っこが頭の上に乗っかった。
そのままふわふわ、と数度、頭の上で布が動いて、また、ボレアスは背中へ戻っていった。
……。
ね。
……お城の中の物品回収はまた後でいいか。
ひとまず、お城の中が無人である今のうちに、お城の改装を行って、侵入に備えておいた。
泥棒程度ならトラップだけであっさり撃退できるのが望ましい。
……なんというか、女王様の作ったトラップは、とても高価で威力の高いものが多いのだけれど……効果的か、と言われると、微妙な代物が多かった。
レーザービームで焼き殺さなくても、ごく浅い落とし穴で躓かせたところに矢を射かければそれだけで人を殺すことができる。
要は、組み合わせと、発動のタイミング次第、だと思う。
あるものはできるだけそのまま使って、他にコストの安い落とし穴やせり出す壁、跳ね上がる床……といったトラップを設置することで、改装は終了。
さて。
レイナモレのダンジョンエリアは広い。
レイナモレの要所要所を覆い尽くすダンジョン群は、まさに王国の名にふさわしい。
……つまりどういことかと言うと、『幸福の庭』のパノプティコンに人をせっせと収容して集めていたあれの……何十倍、下手すれば百倍以上もの人間が、ダンジョン内に居る、という、状況……なのだった。
これをそのまま滅ぼすのは少し勿体ない。
ホロウシャドウメーカーを設置しっぱなしておけば、相当数のホロウシャドウが生まれることだろう。
……しかし、一応、『女王が死んだ』のは確かなのだ。
城の中の騒ぎはまだ、城下へ伝わりきってはいない。民衆は城から上がった火の手を不安に思う事はあっても、まだ、国から逃げ出すレベルじゃない。
……でも、それも時間の問題だろう。
女王は死んだ。新たな何者かが支配者になるとしても、混乱は避けられない。
ましてや、『女王を殺した張本人』がどこに居るのか分からないような状況じゃ、皆が疑心暗鬼になって、碌に事が進まないだろうし。
そうなった時、レイナモレ国民たちはどうするだろうか。
……クーデターの余波を恐れて、逃げ出そうとしたり、するんじゃないだろうか。
ということで、レイナモレ全ダンジョン制圧後の私が次に行うべき事は、休憩ではなく、オリゾレッタへの様子見でもなく……壁を築くことだった。
ダンジョンの改造は、『改造個所を目撃している侵入者がまだダンジョンエリア内に留まっている場合』に不可能となる。
よって、王城近くの城下町に壁を築くことは不可能。
……しかし、この広大な土地にたくさんのダンジョンがある現状では、当然、そんなことはなんとでもなるのだ。
人が居ない時を見計らって、過疎地域から壁を築き始める。
……正確には、『壁トラップ』を地中に仕掛けていく。
作動させれば一気に壁がせりあがって、地上25mぐらいまでの高さになるような奴。
これを、ひたすらひたすら作って、人が移動して作れるようになったらそこにも作って……と繰り返し、なんとか、レイナモレの町や村を全て囲うような壁を2周作ることができた。
2周。
……壁の周りに人が集まったら、そこに人を閉じ込めて、一か所に集められるように、という算段。
人が逃げなければ魂も逃げないけれど、できれば一か所に集めておいた方が何かと便利だから、可能なら実行したい。
一通り、レイナモレの後片付けというか、整備が終わった。
これでまたしばらくは放っておいても大丈夫だろう。
仮に、民衆が騒いだとしても、彼らはもうダンジョンエリア外に出られないのだし、王城の中に侵入することも多分できない。
もし侵入されたら、その時はキメラドラゴン達がひねり潰してくれるだろうから、そんなに心配はしていない。
放っておいてよくなったので、改めて、休憩する。
「お疲れ様。いえーい」
装備モンスター達といつもの如くハイタッチ(だったりロータッチだったり)したら、ご飯を食べる。
やっと休憩。なんだかとても久しぶりにご飯を食べる気がする。
レイナモレ城の中にあった食事をそのまま食べているのだけれど、よく煮込まれたスープも、野菜のソテーも、赤み肉をトロトロに煮た奴も、とても美味しい。
そして何より、この国には森の恵みがたくさんある。その筆頭が果物。
瑞々しくて、濃い甘みと酸味が混じっていて、華やかな香りがはじけるような果物は、絶品。
……なのだけれど、そんな果物を食べながら、これをスライムにしたらいいのができる、と考えてしまった。
ちなみに春子さんは今回、果物に加えて、城内にあった薬草園から珍しい薬草を採ってきて一緒に食べている。
薬草を食べる春子さんは、相変わらず以上の輝きぶりだ。これには今後ますますの春子さんの強化が見込まれる。
今回もレーザーを受けた時の傷を治してもらったり、ダンジョン強行突破の度にできる些末な傷を治してもらったりしている。
春子さんのパワーアップはとても心強い。
レイナモレ城のふかふかベッドでゆっくり眠ったら、翌朝、城下が大分騒がしくなっていた。
王城で何かあったのに誰も城から出てこない。それはそれは不審に思われていることだろう。
でもいいや。放っておこう。
放っておいて、オリゾレッタへ戻ることにした。
さて、水質汚染は進んでいるだろうか。
『清流の洞穴』へ戻ると、『清流』っぷりが消えていた。
大分流れが淀んでいる。
……多分、ここの水を飲んだら食中毒になると思う。
その都合で、ダンジョン内も大分様相が変わっていた。
清流は濁流へと変わり、地系トラップはそのままに、よりヌメヌメ度を増してアスレチックの難易度が上がっている。
更に、流れる水は大体全部毒。飲むだけでなく、目や他の粘膜から入っても十分に危ない。水飛沫が上がる滝の攻撃力たるや。
そして何より、悪臭。
……腐臭、というか、まあ、物を腐らせて菌を繁殖させてそれを水に流しているのだから当然なのだけれど、とても、精神力を削られる。
こんなところ、侵入者が来たらすぐに帰りたくなると思う。
……というか、実際、何度か侵入者があった。
レイナモレ進行中にちょこっと来て帰っていったり、死んだりした侵入者が何人か居たのだ。
水源がこのダンジョンだから、川の水の様子がおかしくなってここを見に来たんだろう。
でも、当然ながら、このダンジョンは今や、難攻不落。かつての、妖精と地系トラップに気を付けていればいいダンジョンの面影はもうどこにも無い。いや、あの時点でも十分に難易度が高かったみたいだけれど。
……ということで、オリゾレッタのカドランの町の人達は、『清流の洞穴』をどうにかすることを諦めたらしい。
生活用水が川から豊富に採れる町だったのだから、当然、人々の生活は川を組み込んで成り立っていた。
元々無い川を作ったとしてもこうはならなかったかもしれないけれど、元々あったものを毒水の流れに変えたのだ。
当然、カドランの町の人達は困った。
そもそも、町の傍の川が汚水になっていたら悪臭がする。
そんなところに住んでいたい人なんて居ないから、身軽な人程さっさと、お引越しし始めた。
川の下流にあたる都ではまだそんなに大きな騒ぎになっていないけれど……きっと、都もじきに人が引っ越しはじめるだろう。
……そんなわけで、私がお屋敷を買ったアドラット周辺には、ちらほら、と、人が移り住んできている。
あとは適当に、水質汚染を増進しつつ待っていれば、アドラットにオリゾレッタの国の精霊が移ってくる。
そうなったら後はもう、オリゾレッタを滅ぼすだけ。
その時にはレイナモレも滅ぼそう。
それで多分……必要な魂が溜まる、と思う。
 




