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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
清流の洞穴とレイナモレ城
115/135

115話

 流石の私もちょっと混乱していると、オリヴァさん(仮)が勝手に色々零し始めた。

「あー……くそ、これが巡り合いの悲劇、って奴?俺もつくづく運が無いね……ってことはもしかして、俺が死んだのってラクトちゃん、関係ある?まさか俺、ラクトちゃんに殺されてたり?」

 あれっ、この人、『死んだ』のか。

 ということは、特に双子じゃない?今、この人、ゾンビ?

 いや、でもゾンビっぽくはないし、むしろ綺麗すぎるぐらいだし……分からないな。

「……っていうか、君、ラクトちゃん?偽物じゃないよな?」

「さあどうでしょう」

 一体こいつは誰なんだろう。

 私が頭の中をごちゃごちゃさせていると、オリヴァさん(仮)が1つ、ため息を吐いた。

「……まさか、恋に落ちた相手と戦わなきゃいけなくなるとは、思ってなかったなぁ……」

 ……いいや。

 とりあえず、オリヴァさん(仮)から(仮)を外そう。

 多分これ、オリヴァさんだ。オリヴァさんってことでいいや。

「けど、俺も女王様にお仕えする身だからな。……ここで、ラクトちゃんを止めなきゃいけない」

 女王様か。

 そういえばオリヴァさん、女王様が美人だとか言っていたけれど。

 ……話の流れから素直に考えれば、まあ、これらのダンジョンは、この国の女王様、っていう事になるのかな。

「一応聞いておくけど。ラクトちゃん、ここ、退いてくれる?」

「それはできませんね」

 ちなみに私はもう、この部屋のトラップを多分全て、《慧眼無双》で把握済みだ。

「……じゃあ、戦うしか、ない、か」

 オリヴァさんは頭痛を堪えるように頭を押さえて俯いて、しばらくそのままでいた。

 ここを狙って攻撃しても良かったのだけれど、まずは様子見でいこう。

 ……どう考えても、オリヴァさんがこのダンジョンのボス。

 このダンジョンの、いや、レイナモレ中のダンジョン全ての中での、最大戦力なのだろうから。


「俺は……」

 やがて、オリヴァさんが俯けた顔を、上げた。

「俺は、『オートマタ』。レイナモレ女王に作られた、このダンジョン最後のモンスターだ」


 その瞬間、部屋の入り口が閉鎖され、そして部屋の各部からコードのようなものが一気に伸びる。

「っ……」

 伸びたコードは全て、オリヴァさんの頸椎あたりに突き刺さった。

 コードが完全にオリヴァさんに繋がれると、オリヴァさんは一度身震いして……それから、右手を大きく振る。


 ……突如、部屋の中に光が走った。

 基板の回路のような、複雑な模様を描いた光が走り……床から、透明な筒がせりあがってオリヴァさんを内部に閉じ込めて守る。

 そしてもう一度光が走ると……部屋の中のトラップが、一斉に動き始めた。




 飛んでくるレーザービーム。壁から壁へ駆け巡る電流。床から青白い炎が吹き上がり、壁から現れた電極らしいものにはプラズマが走る。

 ……今まで見てきたトラップとは一線を画したトラップ群。

 それらが、完璧な連携を伴って襲い来る。

 トラップの位置は把握していた。どこから何が飛んでくるか、大体予想はついていた。

 ……けれど今や、トラップは全てがオリヴァさんの武装として動いていた。

 実際、動いていた。移動する、という意味でも。

 レーザービームを出す機構は機械仕掛けのアームによって位置を変えて、レーザービームの軌道を読みにくいものにしてきている。

 オリヴァさんの背後から伸びるアームにはそれぞれ、レーザーガンが数丁に火炎放射器、電流を発するよく分からない杖のようなもの……と、多種多様な武装に彩られている。

 それらが自由自在に動いて、攻撃してくるのだ。

 これはちょっと……厳しい。




 レーザーは見てから避けても間に合わない。

 だから、レーザーガンの動きには常に注意して、銃口がこちらを向いていないような状態にしておかなきゃいけない。

 そんな状態だから、他のトラップや攻撃をかわすのに苦労する。

 相手はとにかく、手数が多い。

 しかも、1人でそれら全てを動かしているのだから、当然、攻撃同士が競合したり、同士討ちしてくれたりすることも無い。

 完璧な連携をもってして繰り出される、多種多様な、強すぎる攻撃。

 出口は無く、逃げることもできない状態で、かつ、避けるのに手いっぱいな状況。

 奇跡のように生まれた隙をついて攻撃を仕掛けてみても、トラップも、トラップとオリヴァさんを繋ぐコードも、ダンジョンのオブジェクト判定らしく、全く攻撃が通らない。

 更に、オリヴァさんを守る透明な壁も、やはり同じように攻撃が通らない。

 なら、光なら通るかと思って《レイシャワー》で光線を降らせてみても、今度はたくさんのアームやトラップに相殺されてしまって通らない。

 ……ずるくない?




 こうして、私の劣勢は続いた。

 ひたすら逃げていられるならいいのだけれど、時々掠るから油断できない。怪我はすぐに春子さんが治してくれるからいいのだけれど。


 自分のダンジョンではない場所で戦うということは、視界が自分の分しかなく、感覚も自分の物でしかない、ということ。

 ダンジョン内の全てを把握できる状況とは、何もかもが違いすぎる。

 そう、ダンジョン。

 ……ある意味、今、私はダンジョンを相手にしているようなものだった。

 この部屋の全てのトラップはオリヴァさんの手足で、それらが完璧に連携して、私を追い詰めている。

 普段、私が侵入者相手にやっていることと同じだ。

 完璧なトラップの連携は、一万のモンスターにも勝ることがある。

 例えそれが落とし穴やギロチンといった簡単なトラップであっても。

 何故なら、『完璧な連携の取れた手数の多い攻撃』が強いから。

 ただモンスターを増やしただけじゃ、こうはいかない。

 トラップを1人が操作しているからこそ、トラップは緻密に動いて、侵入者に隙を与えず攻撃を繰り出し続けることができる。

 しかも、トラップは疲れ知らず。一方侵入者は疲れていくのだから、完全な操作さえ可能なら、トラップだけで侵入者を完封することだって可能だ。

 そう。ダンジョンは、そういうものなのだ。

 そういう強みを持っているのだ。それこそが、ダンジョンとしての力なのだ。

 ……けれど、オリヴァさんはダンジョンじゃない。


 オリヴァさんはあくまでモンスターであり、たまたま、この部屋に接続して、こうやってトラップを動かして戦える、というだけ。

 ならば。

 ならば……ダンジョンじゃない、なら。

 勝てる。

 だって私は、1人じゃない。




 +++++++++


 俺が何をしたってんだ。

 記憶がロストしてる分のどこかで、よっぽど悪い事でもしたのか。

 なんだって、よりによって、ラクトちゃんを、殺さなきゃいけなくなったんだ。




 どこか不思議な雰囲気の子だった。

 すごく綺麗だったから近づいた。

 話している内に結構抜けてることが分かった。話しているのは面白かった。それから、優しい子だとも思った。

 ……別に女王様のダンジョンを狙う侵入者だと思って近づいたわけじゃなかった。

 じゃあ、なんで近づいたのか、なんて言われたら……なんでだろうな。分からねえ。

 分からねえから、近づいて確かめたかったのかもしれねえな。




 目の前でラクトちゃんがひらひら踊るように動く。

 俺が放つ攻撃が、ラクトちゃんを追い詰めていく。

 ……ラクトちゃんは強かった。すげえ強い。

 少しでも隙を見せたら、すぐに俺の方へ攻撃を繰り出してきた。

 人間じゃねえな、って思った。

 それぐらい強くて……綺麗だった。

 戦ってるラクトちゃんは、今まで俺が見たどのラクトちゃんよりも綺麗だ。

 ……だがよ、俺は、オートマタで、女王様に作られたモンスターで、このダンジョンを守らなきゃいけない訳で。

 だから……ラクトちゃんが足をもつれさせた瞬間、光線銃で、ラクトちゃんを射抜いた。




 鎧を避けて脇腹を貫通した光線は、多分、ラクトちゃんの肉を焼いたんだろう。

 血はほとんど出なかった。

 ラクトちゃんが倒れる。

「オリヴァさんは面白い人ですね」なんて言ってた口がぱくぱく開いて、それきり、動かなくなる。

 制圧済みダンジョンを見に行く時、キラキラさせていた目が瞼に隠れて、見えなくなる。

 ……ラクトちゃんの体の下には、火を噴く罠がある。けれど、俺はそれを動かさなかった。

 動かせなかった。

 確かに俺は迷って、迷いがそのまま、罠の作動を妨げちまった。

 ……けれどそれも一瞬。

 床から吹き上がった炎が、ラクトちゃんを包んでいった。


 ……これは、俺が動かしたんじゃない。女王様が動かしたんだろう。

 激しい炎が俺の視界を灼く中、ラクトちゃんの姿はすっかり見えなくなって、そして、さらにそこに光線や雷が降り注いだ。

『どうした、オリヴァ。腑抜けたか』

 ぼんやりしていたら、女王様の声が聞こえた。

「いーや、大丈夫。……後は任せてくれていいよ」

『とてもそうは見えんぞ』

 女王様の声は冷たい。

 ……まあ、謀反、に近いよな。敵への攻撃を躊躇った、なんつうのは。

「……怒ってる?」

『何故そう思う』

 あー、怒ってる。怒ってるよ、これ。

『怒ってはおらん。……敵に容赦するような下僕に失望してはいるがな』

 あーあーあー、怒ってる。これ、怒ってるよ。

 ……これ、後でどうやってご機嫌とろうかな。

『オリヴァ。私が何のためにお前に『心』を与えたか、分かっているだろうな。お前の心は、人間を罠にかけるため、人間の心を把握して、人間の心を読むため、だ。決して、敵に容赦する為ではないはずだが?』

 ……そう、なんだよなあ。

 俺の心は、女王様に与えられた。

 本来、オートマタには備わっていないものを、女王様にわざわざ授けてもらった。

 まだ不完全らしいけど、それでも十分、人間のふりをできる程度の『心』を。

 『心』をもう少し緻密にするために、町に出て、人間に混じって生活できたのも楽しかった、と思う。

 『心』を与えられたことには感謝してる。……感謝してた。

 ……でも、でもさ。心なんて無ければ

『オリヴァ!後ろだ!』

 突然、女王様の焦った声が聞こえた……と思ったら、もう次の瞬間、俺の意識は途絶えた。

 最後に……炎に包まれていたはずのラクトちゃんが勢いよく、奥へ駆けていくのが、見えた気がした。


 +++++++++




 私は、1発の攻撃では絶対に死なない。

 てるてる親分さんが遺してくれた《天佑神助》のおかげで、致命傷が致命傷一歩手前になるからだ。

 その間に回復すれば、死なない。絶対に一撃死はしない。

 だから、レーザービームに当たりに行けた。

 綿密な計算なんてできやしない。

 けれど私は、そこそこ上手くやってのけた。

 ガイ君もボレアスもリリーも、春子さんも秋子もホークもピジョンもクロウも傷つけない位置を狙って、右の脇腹から左の脇腹にかけて、レーザービームで射貫かれた。

 倒れた位置も計算済み。

 火炎放射器の位置に倒れて、火が吹き上がると同時に、《気炎万丈》。

 炎を纏うことで、火炎放射器の炎から逃れる。

 火が激しく燃えて私の姿を隠したら、他の攻撃は全部、《ラスターケージ》で防いだ。

 周りが轟々燃えてたら、光の棺桶みたいなものが出ていたって分からないだろう、という判断。


 ……そしてとどめは、ムツキ君だ。

 オリヴァさんはオートマタ。

 ならば体の中のコードを適当にぶちぶちやってくれさえすれば、それだけで機能停止させられるんじゃないかな、と思って、ムツキ君にお願いしたのだ。

 そして結果は大成功。

 ムツキ君が今回のMVPだ。

 ……相手に私の切り札である装備モンスターの1つを知られてしまった、というのは痛いけれど、けど、これ以外にやりようがあったとも思えない。

 必要経費だと思って諦めよう。

 それに、どうせ女王様とやらだって、殺してしまえば同じことだし。




 そして私はひたすらひたすら、ダンジョンの奥に向かって走り続けた。

 道中のトラップは全部、《ラスターケージ》でごり押しして通った。

 ……そしてダンジョンの最奥、オレンジ色の魔法陣が見え、そして……。

 私は、最後のダンジョンの玉座に、着いたのだった。


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