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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
清流の洞穴とレイナモレ城
114/135

114話

 ダーツの旅で選んだダンジョンを制圧して、さらにそこから3つ、立て続けにダンジョンを制圧した。

 ……自分でも、この速さが異常な事ぐらい分かっている。

 ならば何故この速度が出せているか、と言えば、ひとえに相手の手抜きのおかげだ。

 ……というか、相手がもう、多くのダンジョンを諦めているような状態になっているからだ。


 多分、相手は本当に、準備に力を注いでいるんだろう。

 耐えて、耐えて、耐えて……そして最後に近いどこかで、私を迎え撃とうとしている。

 いくつかのダンジョンを諦めることで、準備する時間を稼いでいる。

 ……どちらにせよ、私は相手からダンジョンを削ぎ落して、相手の機動力を減らし、相手の兵力を減らし、私の領地を増やしていく。

 最終的に、相手は私を殺せば勝ち。

 私は精霊を殺して、魂を回収できれば勝ち。

 ゴールは変わらない。

 あとはお互い、ゴールの位置をより自分に近づけられるように足掻くだけ。




 レイナモレには、城を含めて30のダンジョンがある。

 レイナモレのほぼ全域がダンジョンのエリア内、というわけにはいかないけれど、城の周りや町や村の周り、町を繋ぐ街道……といった主要な場所にはことごとくダンジョンがある。

『制圧済みダンジョン』の数よりもよっぽど多いわけだけれど、それもそのはず、30のダンジョンはその多くが人々に認知されておらず、ひっそりと、入り口が隠されて存在しているのだから。


 ……それが分かったのは、4つ目のダンジョンを乗っ取った時点でだった。

 乗っ取られまいと抗う相手と戦ううちに、ふと、相手のダンジョンの位置や個数の情報が私の中に流れ込んできたのだ。

 ずるっ、と流れ込んできたそれに驚く間もなく、相手の抵抗が消え、それと同時に、私の中へ流れ込んできた情報も止まった。

 ……成程。

 ダンジョンを複数持っているダンジョンがダンジョンを乗っ取られるとき、こうなるのか。




 多分。

 多分、ダンジョンを複数持っているダンジョンは、ダンジョンの内の1つを乗っ取られそうになっている時、2つの選択を迫られる。

 1つは、ダンジョンを切り離して……つまり、諦めて、相手に明け渡すこと。

 そしてもう1つは、徹底的に抗い抜くこと。


 前者のリスクは、当然だけれどダンジョンを確実に奪われる、ということだ。

 けれどその代わり、『自分の情報を持っていかれる』ことは無い。

 ……逆に、徹底的に抵抗しようとすると、『乗っ取られそうになっているダンジョン以外のダンジョン』の情報……そしていくところまでいけば、きっと、他のダンジョンそのものすら、奪われてしまう。

『切り離さないまま抗う』ということは、そういうことだ。

 当然、リスクは大きい。下手したら、自分の全てを奪われかねない。

 ……でも、抗っている間、全てを奪われるまでは、自分を奪おうとする相手を『無防備なまま』玉座に拘束できる、ということでもある。

 私はガイ君や他の装備モンスター達が守ってくれるから、安心して玉座に座って、相手との精神的な戦いを行っているわけだけれど……そうでなかったら、『無防備なまま』玉座に拘束される、なんて、そんな恐ろしいことは無い。

 だって、その間に殺されてしまう。

 そして殺されてしまえば、それまでに何を奪ったかなんて、全くの無意味でしかないのだから。


 つまり。

 ダンジョンはダンジョンを奪われるとき、『ドロップアウトする』か、『賭け続ける』かのどちらかを選べるのだ。

 ドロップアウトすればそれまで。

 賭け続ければ、リスクは増えていくけれど、どんでん返しも狙える。

 ……多分、そういうことなのだ。




 多分、今回の情報漏れは、相手が『切り時を間違えた』故に起きた事故みたいなものだったんだろう。

 相手も相当疲れてるんだろうなあ、と思わざるを得ない。お疲れ様です。でも侵略する。


 そして現在、レイナモレの30のダンジョンの内、6つが私のものになっている。

 じわじわ、と、外側からダンジョンを増やしていくスタイル。

 ……なのだけれど、相手が疲れてきたのと同様に、私も流石に疲れてきた。

 なんといっても、本日ずっと戦いっぱなし。

 ダンジョンに成ってどんどん強くなって、体力も増大している、とはいえ……疲れた。

 眠い。

 ……。よし。




 新しく手に入れたダンジョンをそれぞれ防衛用に改造したら、内部に残っていたモンスター達を集めて、小さめのキメラドラゴンを大量に作って、命令。

「ちょっとダンジョンに攻撃しておいで。危なくなったらすぐに戻っておいで。ちょっかい掛けて、『攻略するぞ!』と思わせておいて『やっぱり攻略しない!』ってやってくればいいから」

 そして私は寝る。




 春子さんをアイマスクにしながら眠って(寝ている間は春子さんの光り輝き具合は収まる)、8時間ぐらいしたらガイ君が起こしてくれた。

 起きたら早速、キメラドラゴン達がちょっかいを出しに行ったダンジョンへ向かう。

 尚、キメラドラゴン達はちょっかい出したら逃げて、また別のダンジョンにちょっかい出して逃げて……を繰り返して、疲れたら帰ってくる、みたいなことをしていたらしい。マーベラス。

 さて、一晩中ちょっかいを出され続けていた相手ダンジョンはというと、相当疲弊している印象だった。

 特に、ダンジョンの中のモンスター達が。

 ちょっと殴ったらすぐ死ぬようなへろへろ具合のモンスター達を薙ぎ倒して、翌日は合計8つのダンジョンを乗っ取ることに成功。

 ……この内の1つのダンジョンが、クオッレ村をダンジョンエリア内に含むダンジョンだった。

 なので、ホロウシャドウメーカーを『幸福の庭』からこっちへお引越しさせて、ホロウシャドウの生産を行う事にした。

 クオッレ村は村だからそんなに規模が大きくない。人もそんなに居る訳じゃないけれど、まあ、人が0になった『幸福の庭』よりはずっと速くホロウシャドウができる。

 ホロウシャドウメーカーから、新たにホロウシャドウが出てくるようになったのを見届けてから、私はまたキメラドラゴン達にちょっかいをお願いして、次なるダンジョンの攻略に勤しむために寝ることにした。おやすみなさい。




 ……こうして、最初の日から4日もすれば、城を含めてダンジョンも残り2つ、つまり城以外のダンジョンはラスト1つ、というところまで来た。

 ラスト3になったあたりで、いきなりダンジョンのトラップ具合が増したのだけれど、まあ、そんなに問題なく制圧できた。

 ……トラップ具合は増しているのに、モンスター具合は増していない、というところがやっぱり、『一点集中』を予感させる。

 城を除けば最後のダンジョン。油断せずに行こう。




 睡眠をとって、ご飯も食べて、万全の体調で、いつも通りの装備モンスター達と一緒に、最後のダンジョンに臨む。

 最後のダンジョンは城の傍にある。

 私は一つ呼吸をしてから、ダンジョンへ足を踏み入れた。




 ダンジョンに入った直後、ダンジョンの入り口が閉じた。

 ……ちょっと調べたけれど、開きそうにない。

 多分、ここを閉じて、どこか別の場所を開いたんだろう。私が『幸福の庭』でやったのと同じことだ。

 でも問題ない。

 どうせこのダンジョンも奪ってしまえば、閉じ込められるも何もあったものじゃないのだから。


 今までのダンジョンとは大分違うな、と思わされたのは、B1Fのトラップ群を抜けて、B2Fに入ったところでだった。


 部屋の中に入ると、部屋の入り口が閉じた。

 そして、部屋の中には……。

「いっぱいいる」

 たくさんのモンスター達が勢揃いして、私を待ち構えていたのだった。

 ざっと見ただけでも、ワルキューレ、ドラゴン、ケルベロス、クイーンアント、メガゴーレム……と、かなり強いモンスターがいっぱい。

 《慧眼無双》で見てみたら、トラップもいっぱいだった。

 ……さて。

 これをどうやって切り抜けようかな。




 強い敵がたくさん居て、こちらが1人(1人じゃなくて装備モンスターが居るのだけれど)だった場合、どうするべきか。

 ……一番いいのは当然、『同士討ち』だ。

 《慧眼無双》でトラップは見えていた。

 私自身がトラップを仕掛ける側なわけだから、ある程度見当をつけて《慧眼無双》を使える。それが精度の上昇に繋がっているらしい。

 ……だから、安心して、トラップを作動させられる。


 部屋の真ん中に向かって走れば、ワルキューレが魔法を放ち、メガゴーレムがその巨大な腕を伸ばし……それぞれが攻撃を繰り出してくる。

 私はそれらの攻撃が私に集中したのを見計らって、足元のトラップをわざと踏んだ。

 途端、天井からはギロチンが降ってくる。

 見えている物を避けるのはそんなに難しくない。

 私はギロチンを避けるため、バックステップで敵から距離をとった。

 すると当然、メガゴーレムは腕を伸ばして、私を捕まえようとしてくる。

 しかし私とメガゴーレムの間には、ギロチンが降ってくる。

 ……ギロチンの刃が、メガゴーレムの腕に深く食い込んだ。


 一回それをやったら、もうトラップはオートマティックじゃなくてマニュアル操作にされてしまったらしく、モンスターを誤射しそうになったらキャンセルされるようになった。

 ……尤も、それでも何回か、トラップで敵モンスターを攻撃させることには成功したけれど。

 トラップが効率よく使えなくなったら、今度はモンスター同士の同士討ちだ。

 一番やりやすいのは、魔法の誘導。

 これだけたくさんの敵が居るのだ。

 飛んでくる魔法も、避ける方向を工夫すれば簡単に同士討ちの材料にできる。


 魔法を誘導していたら、敵はその内魔法を使わず、物理的な攻撃ばかり仕掛けてくるようになった。

 ……けれどこれが一番、同士討ちをやりやすい環境。

 混戦状態になっていれば、『避ける』ことに成功しさえすれば、後は誰か、私じゃない敵モンスターにぶつかる。

 結果、弱いモンスター達は同士討ちである程度減らすことができた。

 やったね。




 とはいっても、相手も学習する。

 その内、それぞれのモンスターも『賢い戦い方』が分かってきたらしく、場のゆずり方が巧くなってしまった。

 こうなるともう、同士討ちは見込めない。

 仕方がないから、至って真面目に戦う事にする。

 ……《ラスターケージ》で区切りながら、1体ずつ。




 1対1に持ち込めば、かなり楽に戦えた。

 ……とは言っても、『比較的』楽だった、というだけに過ぎない。

 ワルキューレやケルベロスはまだしも、ドラゴン相手の時は結構大変だった。

 かなり久しぶりに負傷を負うことになったのだから、ドラゴンはやっぱり相当強い、ということなんだろう。

 ちなみに負傷は《天佑神助》のおかげで致命傷にはならなかったし、春子さんがすぐに治してくれたので、そんなに問題にはならなかった。

 ……疲れはしたけれど、概ね、問題ないレベル。


 こうして部屋の中のモンスターを全て片付けたら、すこし休憩してからすぐまた、ダンジョンの奥へと進む。

 先でもモンスターやトラップが出たけれど、概ねそんなに苦労せず、苦労したとしてもそんなに問題も無く、私はダンジョンを進んでいった。

 大体はモンスターが主戦力で、トラップは添え物、といったかんじだったのがまた楽でよかった。

『清流の洞穴』みたいに地系トラップがあると結構厄介なのだけれど、相手モンスターが戦いにくくならないように、という配慮なのか、バトルフィールドが奇抜な造形になっていることも無かったし、何かと進むのが楽なダンジョンではあったと思う。




 そうして、恐らく、私はダンジョンの最深部へ近づいたのだ。

 ……B5F、最後の部屋の中に入ると、そこには。

「……え……あ、ああー……侵入者、って……ラクトちゃん、だった、のか」

 私が殺したはずのオリヴァさんが居た。

 ……あれっ、双子とかかな?


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