112話
すごく私っぽい見た目のゴーレムが5体。私を入れれば6体。
……私と2体のゴーレムは西(一番初めに拠点を作った方)から、もう2体のゴーレムは南(今回ダンジョンを乗っ取った方)から進軍する。
そして最後の1体は離れたところで如何にも本物っぽく状況を見守っていて、頃合いになったら如何にも本物っぽく突撃する。
……ダンジョン相手に戦うのだから、このぐらいのお茶目さは必要だろう。
ということで、早速進軍。
善は急げ。
私の準備が整っていないのは、同時に相手の準備が整っていないことにもなる。
特に、相手は防衛側、私は侵略側。
準備が整っていなくて困るのはどちらかと言えば相手だし、多少はごり押しで何とかしてしまうつもりでいる。
……さて、相手はどんな防衛を行ってくるんだろうか。
+++++++++
「……増えよった」
「ふ、フルーレッタ様?増えたとは、一体」
「あの化け物が、だ……」
ダンジョンの領域内に、侵入者があった、と感覚が告げる。
そしてよくよく観察してみれば、それはつい先ほど、私から私の一部を奪い取っていった、あの化け物だったのだ。
ゴーレムの軍を引き連れて突撃してくる様子は、いかにも勇ましいが。
「1、2、3……全部で5、か……」
その化け物が、5体も居る。
単騎でダンジョンを突破したあの化け物が、5体も居るのだ。
これが全て、先ほどの化け物同様の強さを持つなら、脅威以外の何物でもない。
……全て、本物なら、な。
「化けの皮を剥いでやろうではないか」
あの強さの魔物が、そうそう生み出せるわけも無い。
恐らく、この5体の化け物は先ほどと同じ、陽動に過ぎぬのだろう。確認できるまで油断するつもりは毛頭無いが。
「ダンジョンの領域外、できるだけ視界の利く場所……そういった所をフェアリーに索敵させる」
5体の内に本物が居るのか、それとも、この5体全てが陽動なのか。
……索敵の結果次第で、それもじき、分かる事だろう。
そうこうしている内に、魔物の群れはダンジョンの入り口へ到達した。
地下へと続く階段を下り……そして。
「まあ、そうやすやすと入れてやるつもりも無いがな?」
そこで、魔物の群れは立ち止まった。
ダンジョンの入り口を塞ぐのは、溶岩の滝。
私は私を防衛するのだ。真っ当に戦ってやる必要も無い。
この溶岩の滝の向こうには強酸の池。さらに奥には油が流れる上り坂。さらにその奥からは火の玉が飛んでくる。
このほかのダンジョンでも、溶岩が猛毒の汚泥になったり、強酸の池が底なしの沼になったり、という違いはあれど、おおよそがこのような仕掛けになっている。
つまり、侵入者をはなからダンジョンの中へ入れないような仕掛けだ。
「さあ、どうする。侵入者共よ」
溶岩の滝の前で途方に暮れたように立ち尽くすゴーレム達の姿に、多少、鬱憤が晴れる思いがした。
+++++++++
さて困った。
私の目の前には溶岩がだばーっ、と流れている。躊躇が無い。これ、一体どのぐらいコストがかかっているんだろう。
とてもじゃないけれど、私のダンジョンではこんなハイコストな仕掛け、使いたくない。
……溶岩の向こう側は見えないけれど、どうせ、隙を招じぬ二段構え三段構え四段構え、ぐらいにはなっているんだろう、と思われる。
ただ突破するだけなら、《ラスターケージ》で安全にごり押しできるけれど、そうすると私のダミーを作った意味が無くなってしまう。
……うん。
ここはもう、正面突破でいこう。
ダンジョンは基本的に、出入り口が無い構造にできない。
今まで、私もそうしてきた。
何故か、と言われれば……息が詰まって死んでしまうから、という感覚に近い、のかもしれない。半分ぐらい本能みたいなものだから、とりたてて理由を意識したことも無いのだけれど。
ダンジョンはダンジョン自身の手では密閉できない。ダンジョンの入り口を塞いだら、塞いだ壁は必ず破壊可能オブジェクトになる。
100%突破不可能なダンジョンは、基本的に作れないのだ。
だから、侵入者を通したくないダンジョンが目指すべきダンジョンは、突破率が『限りなく0%に近い』ダンジョン。
……よって。
このダンジョンの、この溶岩の滝も。
こうしてダンジョンとして形を成している以上、突破できない訳ではないし、破壊できない訳でもないのだ。
ダミーゴーレムと一緒に仲良く3体並んでから、《ゲイルブレイド》を全力で使う。ボレアスも一緒に使えば、溶岩が風の刃で斬り裂かれて、一瞬、向こう側が見えた。
……向こう側に、何かの池があった。それから、上り坂。
成程。私もダンジョンだから、相手が何をしたいのかは大体分かる。多分、池は毒とかそういう奴だろう。
どうしようかな、と少し考えて、結論を出した。
溶岩ぐらい、気にせず通ろう。
とりあえず、ゴーレムはともかく、ファントムマントは溶岩で燃える。
だから各ゴーレムのファントムマントを全部回収して、それを私と2体のダミーゴーレムが持ち、一斉に溶岩をくぐることにした。
私達のファントムマントはダミー偽装の都合上外せないので、私達が通る時は、《ラスターステップ》をごく小さく出して溶岩の流れを変え、《フリーズ》で適宜冷やして固めながら、ささっ、と通った。
通ったらすぐに謎の液体の池があったので、ここには《オブシディアンウォール》で蓋をする。
その次にすぐ上り坂があったけれど、とりあえずはここで待機。
外で待つ他のゴーレム達に合図すると、彼らはのしのし歩いて、溶岩をくぐってやってきた。
……溶岩は意外と、温度が低い。
精々1200℃ぐらいみたいだから、黒鋼やミスリルのゴーレムがそうそう融けるわけがないのだ。
ぞろぞろ一列に並んで溶岩の滝をくぐってくるゴーレム達は、溶岩を浴びるにしてもほんの一瞬。
……つまり、全く問題ない範囲。
結局、溶岩の中を気にせず通ってきたゴーレム達は、全員無事、溶岩の滝の内側へ入ってこられたのだった。
その後、登り坂はまた《オブシディアンウォール》で階段を作って、そこを上っていくことにした。
どうせ何か仕掛けてあったんだろうから、これでいい。
階段を上った先で、壁から火の玉が飛んできたのだけれど、これも問題なく対処。何か別のトラップに引っかかっている時ならまだしも、全くなんの問題も無く階段を上っていただけの状態なら普通に避けられる火の玉だった。
……さて。これで一段落、かな。
その先でも、やっぱり同じようなトラップがたくさんあった。
溶岩はそんなに怖くないのだけれど、強酸は少し怖い。
それから、強酸や溶岩の池がたくさんある場所でいきなり襲い掛かってくるモンスターも中々に怖い。
それでもそこそこ安全かつスピーディに進み、ダンジョン内の敵モンスターを殺し、トラップを避けたり壊したりしながら進んだ。
中でも面白かったのが、『なぞかけ扉』。
出題されたクイズの答えが鍵になって開く扉だ。
……これが、『解無し』のクイズを発してきた。
『解無し』なら、扉を開く鍵は無い。
つまり、扉を開くことはできない、ということ。
……しかし、ダンジョンは閉鎖できない。100%進めない道をつくることはできないのだ。
なので、いつぞやの私みたいだなあ、と思いつつ、扉を破壊して先に進んだ。
『解無し』の正しい解き方は殴る事だ。
一度、モンスターの大軍が大部屋で待ち構えるシーンもあったけれど、全く何の問題も無く突破できてしまった。
ゴーレム達もすっかり強くなっている、ということだろう。
部屋の奥から橙色の光が漏れているのを見て、さて、これでここのダンジョンも終わりかな、と思ったら、何やら私のダンジョンの方にも侵入者が確認された。
アーマードアントが列を成して、私の西のダンジョン、初めの拠点の中へ入っていく。
……成程。攻めるのと守るのとをお互い同時にやる、ということだろうか。
奪ったばかりの南のダンジョンではなくて、相手のダンジョンエリア外にあるはずの西のダンジョンを狙っていくあたりが正に、『相手もダンジョン』というかんじ。
相手にとって不足なし。
お出迎えされながらお出迎えするのは変な気分だけれど、攻守両方、どちらも私がしっかりやってみせよう。
+++++++++
「……成程な。ゴーレムなら溶岩では駄目か」
ダンジョン入り口の罠を全て乗り越えられてしまった。
そしてそれを皮切りに、ダンジョン内の罠は悉く破られ、魔物たちも殺され、数を減らしてしまった。
こちら側も、相手のダンジョンを発見し、そちらを襲っているが、それも果たして、上手くいくか。
「……メーラ」
「はっ」
……もし、今回の攻防も駄目だった時の為、保険を掛けておくこととしよう。
「オリヴァを呼べ。アレを使うぞ」
しかし。
「……連絡が無いのです。ダンジョン内にも、居ないのですよね?」
「……は?」
相手はことごとく、私の上を行くらしかった。
+++++++++




