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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
清流の洞穴とレイナモレ城
110/135

110話

 急降下。

 風を切って落下。

 敵モンスターが湧き出る隠し通路に向かって、一直線。

 咄嗟にダンジョンさんが指示を出したのか、モンスター達が一斉に上を向いた。

 でも遅い。

 《アトロシティミスト》で敵の目をごまかして、その間に《ツイスター》で着陸。

 すぐに《フレアフロア》で足止めしたら、敵が湧き出るダンジョン入り口(出口?)へ突っ込む。

 当たるを幸いにホークとピジョンを振り回して敵を振り切りながら、ダンジョンの入り口へ入ったら……《オブシディアンウォール》で入り口を塞いで足止め。これで少しは持つはず。

 ……あとは、スピード重視で突き進むだけ。

 相手が対処できない内に。




 ダンジョンの中は前に見た時と同じような……つまり、少し整えられた石材とシンプルな洞窟、といった風情だった。

 ただし、迷路めいて入り組んだ通路になっている。成程、時間稼ぎか。気持ちはわかる。

 こんな迷路で時間を食っている訳にはいかないので、壁の向こう壁の中如何を問わずに手当たり次第《フレイムピラー》を使って、できた(であろう)影にムツキ君を派遣。

 ……ほどなくして、ムツキ君が正解ルートを見つけてきてくれたのでその通りにGO。

 ということで、問題なく迷路を突破。

 多分これが一番速いと思う。




 迷路の先に進んだら、モンスターがたくさん出てきた。

 とは言っても、後から後から、部屋の奥からモンスターがせっせとやって来ているかんじ。

 集合が間にあってないんだね。陽動の甲斐があった、ということかな。


 集合が間にあっていない、統率がとれていないモンスターを斬り捨てて、部屋の奥へ走る。

 モンスターが攻撃してくるのを《フリーズ》や《ラスターステップ》で防ぎながら、ひたすら奥へ、奥へ。

 モンスターを殺すことが目的じゃないから、モンスターは足止めするだけでいい。

 帰ることは考えていないから、退路を確保する必要は無い。

 ひたすら奥へ奥へ、先へ先へ進む。

 ……道は分かる。

 モンスターが湧いてくる方向。

 そこに、ダンジョン同士を繋ぐ壁掛け鏡がある。

 ……そしてそこに、玉座もある。

 このダンジョン自身が座るための。




 モンスターの激流を逆流していく内に、急ごしらえらしい罠がたくさん襲い掛かってきた。

 強酸のシャワーも溶岩の池も、大体は《ラスターケージ》で自分自身を閉じ込めて回避できた。本当にこれ便利。

 時々、強酸のシャワーを斜めに出した《ラスターステップ》で流して、後ろから追ってくる敵に掛けたりもしつつ、先に進む。

 ……魔法を使えば使う程、集中力は落ちていく。体力というか、精神力が消耗する。

 けれどその程度のコストで速く先へ進めるのなら、そのコストは支払うべきだ。

 惜しみなく《ラスターケージ》で半無敵化しながら、罠を避けつつ(それでも結構引っかかって作動させつつ)、先を急いだ。




 罠を抜けて、迷路を抜けて(迷路こそ、モンスターが来る方向を目指せばいいのだから簡単だった)、モンスターをあしらいながら駆け抜けて……ついに、最奥一歩手前に到着。

「ふん、だらしのない連中だ。たかが敵1人にてこずるとは」

 そこに居たのは、綺麗な女の人。

 私と同じような恰好……つまり、剣に鎧にマント、という恰好をしている。剣は1本で盾があるのが相違点か。

「まあ、ここまで来られた手腕は評価してやってもいい。貴様、名を何という」

「ギウニウです」

「……本当にそんな名なのか?……まあいい、ギウニウ。私の名はオルキデア。この迷宮を守る、誇り高きワルキューレ!」

 綺麗な女の人改め、ワルキューレの……初めて見る生ワルキューレの、オルキデアさん。

 ワルキューレなんだから、魂100万ポイント分の強さはある、っていうこと、だよね。気を付けなければ。

 オルキデアさんは、しっかりと私を見ながら、剣を抜いて、構えた。

「ワルキューレは強き者、勇気ある者へ敬意を払う。それは私とて同じこと。さあ剣を抜け、ギウニウ!私はお前に敬意を持って戦おう。そして敬意を持って、お前を冥府へと導いてやる!」

 ……オルキデアさんの言葉に、少し考えて、考えて……そして結論を出す。

 私は、剣を抜いた。

「では、いざ尋常に!」

 そして次の瞬間、私は《気炎万丈》……ロイトさんから手に入れた、体に炎を纏うスキルを発動させる。

「じゃあ、勝負」

 オルキデアさんは多少驚いたような顔をしたけれど、次の瞬間にはもう好戦的な笑みを浮かべて、襲い掛かってきた。


 なので、逃げた。




「なっ!?」

「あばよとっつぁん」

 襲い掛かってきたオルキデアさんとすれ違いざまに剣を合わせる……と見せかけて、そのまま部屋の奥へ走る。

「ま、待て!貴様!貴様ああああ!」

「待ちません」

 全身に炎を纏いながら、逃げる逃げる。

 オルキデアさんが追いかけてくるので、《フリーズ》で足場やオルキデアさんの足を狙って凍らせて妨害しながら逃げる。

 ……ただし、相手もワルキューレ。

 オルキデアさんは剣と魔法なら剣に偏ったワルキューレなんだろう。

 つまり、武闘派。

 ……とっても足が速かった。

「待てと言っているだろうが!」

 ガイ君が私を引っ張って動くのに合わせて、私の腕も動く。

 そして次の瞬間、ホークとピジョンがオルキデアさんの剣を受け止めていた。

 ホークとピジョンから伝わる衝撃も、ガイ君が合わせて動く動き方も、このワルキューレが強い事を教えてくれる。

 けれど、私だって弱くは無い。

 伊達にワルキューレを偽称したりしていないのだ。

 第二撃が来る前に《気炎万丈》の出力を上げて、おまけに《フレイムピラー》。

「くっ!だが、この程度で勝てると思うなよ!」

 炎に包まれたオルキデアさんは、しかし、火柱を斬り裂いて攻撃に転じてくる。

 私はそれをまた受けて、今度はつばぜり合いに持ち込む。

「力比べ、という事か。だが、甘いな!」

 が、0距離で居たのもほんの数秒。

 直後、また剣は離れて、そして私の死角から巧みに突き出される。

 勿論、ガイ君やムツキ君が見ているので、完全な死角ではない。

 だから、オルキデアさんの剣を見切って、そこに《フレイムピラー》を当てることもできる。

 私はひたすら部屋の奥へ奥へと逃げながら、オルキデアさんに炎をぶつけていった。


 ……この状況、何がまずいって、相手の時間稼ぎを許してしまっているところ。

 私は敵が体勢を立て直す前にこのダンジョンを奪いたい。

 敵は当然、その前に体勢を立て直して、私を排除したいと考えているはず。

 だから私の選択肢は2つ。

 オルキデアさんをさっさと倒すか、或いは……逃げる。

 しかし、逃げてもこの通り追ってくる。このまま玉座の部屋に到着できたとしても、その後……このダンジョンに成るまでの間に殺されてしまいそうだ。

 ……なら、先に動こう。

 できる限り速く、敵を殺してしまうのが一番いい。


 走っていると、通路の先に、オレンジ色の光が見えた。

 ……多分、玉座の部屋の魔法陣の光だ。

「いつまで逃げるつもりだ!」

 そして丁度、オルキデアさんも追いついてきた。

 いい加減、《フレイムピラー》や《フレアフロア》、《ファイアフライ》、そして《気炎万丈》によって、オルキデアさんは焦げたり焼けたりしているが、流石のワルキューレ、その程度では死なないらしい。

 ……まあ、『ワルキューレは』。


 振り帰ってオルキデアさんと向き合い、《フレイムピラー》。

「何度同じことをしても無駄だ!」

 それでもしつこく、何度もオルキデアさんを狙って……いや、オルキデアさんの剣を狙って、魔法を撃つ。

 ……そして。

 最後に、《アイスランス》で氷の大槍を出現させて……それで、オルキデアさんの剣と打ち合う。

 剣と氷の槍が交錯する。

 氷の槍は剣を少々凍り付かせるが、そこまでで折れ砕けてしまった。

 ……でも問題ない。

 再び、剣を振ってきたオルキデアさんに向けて、ホークとピジョンで応戦した。


 瞬間、オルキデアさんの剣が、折れ飛んだ。




「なっ」

 動揺したワルキューレの隙をついて致命傷を与えるのは、そう難しくなかった。

 ピジョンがオルキデアさんの首を斬り飛ばして、無事、この戦いを制することができたのだった。

 ……散々加熱しては常温に戻って、を繰り返して歪んだ剣が、また急激に加熱されて、それから急激に冷却される。

 当然、歪みはますます酷くなるし、金属自体が弱くもなる。弱い部分があれば、そこから折れる。

 相手が魔法型のワルキューレじゃなくてよかったな、と思いつつ、私は更に奥へ進み……遂に、玉座の部屋へと脚を踏み入れた。




 玉座の部屋では、オレンジ色の魔法陣が輝き、玉座や壁掛け鏡、砂時計型オブジェ等々を照らしていた。

 壁掛け鏡からは絶えずモンスターが現れている。

 ……大物さえ来なければ、このままごり押しできてしまうだろう。

 逆に、ここで延々と待っていたら、レイナモレのダンジョン王国側のモンスターは増えていく一方だし、そうなれば私は目的を遂行することが難しくなるのだ。

 だから、理論上はとにかく最速で事を済ませるのが理想的で……つまり、思い切るのが一番いい。




「よろしくね」

 装備モンスター達に声を掛けておいてから、私は玉座に座った。

 途端、激しい抵抗の感覚を味わうことになる。

 こんなにも、すんなりいかないとは。

 ……これじゃあ、私がここのダンジョンに成るまで、このダンジョンを抑え込むまでに、相当な時間がかかってしまう。

 もうダンジョン入り口の《オブシディアンウォール》は解除されてしまっているし、敵モンスターが湧き放題の壁掛け鏡もまた、その向こう側にモンスターが押し寄せてきている所だろうし。

 だから、時間は無いし、敵は絶対にここに来るし、私はダンジョンに成る為に無防備になる。

 ……でも、大丈夫だ。

 私は玉座に深く座り直す。

 今のダンジョンを追い出して、自分が新しくこのダンジョンに成るべく……頭というか、感覚というか、そういう何かを動かして、ダンジョンを塗り替えていく。


 まだダンジョンが書き換え終わらない内に、玉座の部屋にはモンスターが何体も居るような状態になってしまっていた。

 ……それを見て、私が動いた。

 いや、私では無い。

 ……私の、装備モンスター達が、無防備な私を守るべく、戦ってくれる。

 だから私は集中しよう。

 全てはダンジョン王国の一画を崩し落とし、自分の物にして、いずれはこの国のダンジョン全てを塗り替える為。

 私は最速でこのダンジョンを書き換える。


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