11話
さて、仲間も増えて一気に強くなった(主に私が)けれど、まだ私の強化フェイズは終了していない。
ということで、早速次の強化に入っていこうと思う。
1つはダンジョンの改築。
そしてもう1つはスキルの振り分けだ。
先にスキルの振り分けからやってしまおう。
今回手に入ったスキルは《疾風怒濤》《一刀両断》《スプラッシュ》《キャタラクト》《フリーズ》の5つ。
このうち《一刀両断》は既に私が習得済みだ。
だから、《一刀両断》は迷わずリビングアーマー君行きかな。ソウルソードのどっちかに習得させておいてもいい気もするけれど、どうせソウルソードはしばらく私の装備になるから……うん、やっぱりリビングアーマー君に習得させよう。
それから、《スプラッシュ》《キャタラクト》《フリーズ》とかのスキル。
……これは多分、いわゆる『魔法』という奴のような気がする。
ならば、ならば、だ。
……『魔力:ほとんどない』の私が習得するのは、どうなんだろうか。
いや、もしかしたらレベルアップのおかげで私も魔法をバンバン使えるようになっているかもしれない。
一応、確認しておこう。
そして、装備を外して私単品でのステータスを確認したらこうなった。
種族:ダンジョン
体力:可
魔力:不可
攻撃:優
知力:良
敏捷:優
防御:可
魅力:良
……わかんないよ!
なんで前回と表記が違うんだろう。全然比較できない。
しかし、これでステータスの確認が全くもってアテにならない事はよく分かった。それから、『魔力:不可』も分かった。そうかそうか。私は魔法を使えないか。
……なら、私が魔法を習得するのは、どう考えても効率が悪いな。
それから、仲間たちのステータスを確認していった。
……全部、ステータスの表記がばらばらだったからほとんど当てにならないけれど、それでも『魔力:どんなもんだい』だったデスネックレスに魔法を習得させることにした。
デスネックレスなら、他の装備との競合も無いし、武装にも見えないからずっと着けていられる。
いわば、これからほとんど私の一部のような状態になるのだから、デスネックレスにスキルを習得させていくのは案外いいアイデアかもしれない。
これからは是非、私の首を飾りながら魔法をバンバン使ってほしい。
そして、《疾風怒濤》。最後に残ったスキルだけれど……これは迷ったけれど、リビングアーマー君に習得してもらった。
《疾風怒濤》は、素早く何度も剣を繰り出すスキルだ。
一撃必殺、というよりは、このスキルから次の一撃必殺に繋げるようなスキルだから、明らかに不意打ち向きの技じゃない。
なら、不意打ちじゃない戦いをより多くすることになるであろうリビングアーマー君が習得するべきだと思ったのだ。
多分、この考えも悪くないだろう。
そうして、それぞれのモンスターにスキルを習得させた。
リビングアーマー君はスキルオーブの溶け込んだガントレットの手のひらを見つめながら、不思議そうに握ったり開いたり。
デスネックレスはネックレスの端っこをぱたぱたさせたり、くねくねしたりしながら……多分、喜んでるんじゃないかな、多分……。
……新しいモンスターを生み出して、分かった事がある。
リビングアーマー君って、兜が無くても、とっても……意思疎通しやすかったんだな、という事だ。
意思疎通できているのかいないのか微妙なラインのデスネックレスを首に飾る。いつ侵入者があるかも分からないから、装備はきっちり整えておいた方が良い。
特に、今後、デスネックレスを外すことは滅多にないんじゃないかな。
装備されるとき、デスネックレスはちょっぴりはしゃぐみたいにぱたぱた動くのだけれど、一度装備されてからはとても大人しく、立派に『ネックレス』の役割を果たしてくれるのだ。
これはファントムマントも同じことで、マントとして使おうとすれば、ちゃんとマントのふりをしてくれる。
無生物モンスター系の矜持みたいなものなのかもしれない。よく分からないけれど。
ソウルソード2振は……割と大人しいかんじがする。逆に、ソウルナイフはそんなに大人しくない。鞘を太腿に括りつけたら急にカタカタうるさくなった。しばらくしたら収まったけれど。
……うーん、大人しいのも、マントやネックレスのふりをしてくれるのも、カタカタいうのも、このモンスターたちの個性、なのかもしれない……。
うん、わかんない。
さて、スキルの振り分けも終わったところで、早速ダンジョンの改築に入ろうと思う。
残っている魂は21692ポイント分。
これを使って、B3Fと1Fを作ろう。
フロア増築に必要な魂の計算式は、フロアの階層数の二乗×1000ポイント分。
……しかし、今回1Fを作るにあたって、『フロアの階層数』が『絶対値』であることが判明した。
そう。つまり、1Fを作るのに必要な魂は、1000ポイント分だけ。
これは、作らざるを得ないよ。
しかし、1F……つまり、地上階にオブジェクトを設置する訳じゃない。
少なくともこれからしばらくの間は、ダンジョンは地下に限るつもりだ。
では、何故1Fを作るのか、と言ったら……索敵のため、である。
私はダンジョン内のすべてのことが分かる。見えるし聞こえる。
……なら、ダンジョンの範囲を広げていけば、その分、私が把握できる範囲は広がる、ということなのだ。
1F、つまり地上に、私が把握できる範囲を広げる。なんなら、このダンジョンがある森いっぱいぐらいを、その範囲にしてしまう。
……そうすれば、ダンジョンに向かってくる敵が分かる。当然、事前の情報があればそれはその分、私に有利に働く。
と、そういうことなのだ。
魂1000ポイントで1Fを作って、5000ポイント分ぐらい範囲を広げる。
すると、ダンジョンを中心に500m四方ぐらいの知覚範囲が広がった。
よし、これでしばらくは大丈夫。
少なくとも、ダンジョンの改築中に敵が襲ってくる、とか、そういうことにはならないで済む、と思う。
そして、早速だけれど、新たに知覚できるようになった範囲に反応があった。
そう、馬である。馬が居ることが分かったのである。……冒険者5人組のものらしい。
……馬、って、多分、そんなに安いものじゃ、ないよね。
最悪、このダンジョン内で還元してもいいんだし……。
「リビングアーマー君、外の馬、お願いできる?」
前回同様、『なかなかやりよる』リビングアーマー君に頼んで、馬を馬部屋に連れていってもらおう。
リビングアーマー君にお願いすると、がしゃ、と頷いて、ダンジョンの外へ出ていった。
ダンジョンの外(外とは言ってもダンジョンの領域ではあるんだけれど)の様子は分かるから、リビングアーマー君を1人にしても安心。やっぱり領域を広げて良かった。
リビングアーマー君が馬を連れて来る間に、草地の部屋を大きくした。流石に、馬6頭になったらこれじゃ狭い。
根っこごと持ってきた薬草を植えて薬草園も作りたいし、畑も拡張してしまおう。折角だから、果樹も植えてみよう。ダンジョン内の育成速度なら、果樹からもそこそこ実が採れるんじゃないだろうか。
うきうきしながら草地の部屋を拡張して、学校の校庭ぐらいの広さにしてしまった。
泉を拡張したり、ちょっと川の流れを作ってみたり、馬が良く休めるように枯草の山を作ったり……とやっている内に、リビングアーマー君が5頭の馬を連れて戻ってきた。
馬達はやっぱり戸惑っていたけれど、床から生茂る草を食み、泉の水を飲み、とやっている内にこの部屋に慣れたらしい。
こうして、ダンジョンの中に馬が6頭闊歩する牧歌的な眺めが誕生した。
……流石に、次からは馬が手に入っても逃がすなり還元するなりしよう。
草地の一画を新たに耕して、薬草を植えた。
さっきの冒険者5人組は、『薬草』と『傷薬』と『上級薬』を持っていたけれど……『上級薬』は1つだけ、ケヴィさんの懐に大事にしまわれていただけだったみたいだ。多分、気軽に使える薬じゃないんだろう。
……ということは、きっと、『上級薬』は高級なお薬なんだ。
ならきっと……十分に、『ダンジョンに眠るお宝』として機能してくれるだろう。ダンジョンで薬を配るのはあんまりよく無い気もするけれど。
それから、畑に新しく茄子とピーマンとトマトを植えて、杏とミカンとオリーブの樹も植えた。
オリーブは油目当て。油が大量に手に入る様になったらやりたいトラップがあるから。
その他は単純に食料だ。今回の冒険者5人組みたいに食料を一切持ってきてくれない侵入者もいるわけだし、自給自足できるところではどんどん自給自足していこうと思う。
馬の世話と畑の世話をしていたけれど、侵入者は来ない。
暇に飽かせて、地上へ薬草摘みに出て見たけれど、侵入者は来ない。
薬草をたっぷり摘んで持ち帰って、『傷薬』や『上級薬』を作っても、やっぱり侵入者は来ない。
折角だから、ということで、冒険者5人組の死体から血を抜いて『ブラッドバット』を生み出してみても侵入者は来ない。
ブラッドバットたちが部屋の隅っこに集まって血の池になっているのを見て、作るモンスターを間違えたか、とちょっと後悔しつつも、侵入者は来ない。
……そして、玉座でファントムマントにくるまって眠って、起きて、お腹が空いたな、なんて思って、畑に行ってみたらすっかり大きくなった小松菜が揺れていたので収穫して、ところで調理器具が無いぞ、ということに気付いて、鍋と『火石(小)』を生み出して、小松菜を茹でてひたすら食べて、そこでやっと『塩が欲しい』ということに気付いて……。
そんなころになって、やっと、次の侵入者達がやってきたのだった。
「今回は結構人数が多そうだね」
侵入者達は揃いの鎧を身に付け、規則正しく行進してくる。
多分、姿が見えなくなった冒険者5人組の捜索とか、そんなかんじなんだろう。
ダンジョンへ迫りくる侵入者達、その数、14人。
……結構、一気に増えたなあ。




