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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
清流の洞穴とレイナモレ城
105/135

105話

 オリゾレッタは放っておいて、早速『元・グランデム城』へ向かう。

 ……金鉱ダンジョンはまだ私じゃないから、一番レイナモレに近いダンジョンがここになってしまう。

 金鉱ダンジョンはこのままにしておくにしても、早く次のダンジョンを作らないと、移動が面倒だね。




 ジョーレム君を『清流の洞穴』の最奥に連れてくるのが一番大変だったけれど、なんとかそれができたら、『元・グランデム城』からジョーレム君に乗って、まずは金鉱ダンジョンの様子を見に行く。

 案の定、もう金鉱ダンジョンに成っている人が居たので、収穫。

 一度『元・グランデム城』に戻ってから、金鉱ダンジョンさんを殺害。

 手に入った魂は560,321ポイント分也。

 ……前回の金鉱ダンジョンさんが500,200ポイント分だったことを考えると、やっぱりダンジョン歴が長くなるとそれ相応に得られる魂も増えていく、ということだろうか。




 気を取り直して、レイナモレへ。

 向かう方向は金鉱ダンジョンの方だから、道は大体さっきと同じ。

 ……『ダンジョンの位置を探す魔法』を使って近くのダンジョンを探しながら進んでもいいかと思ったのだけれど、今はとにかく、できる限り速くレイナモレ近辺のダンジョンを確保して『清流の洞穴』との通路を作りたかったので、道中でのダンジョン探しはパス。

 なにせジョーレム君は動きが速すぎる。

 香炉を燻らせながら進もうにも、煙が凄い勢いで後方へ流れていってしまうのでダンジョンを探しながら移動する、という事ができないのだ。

 仕方がないから、レイナモレまで到達した時点で、レイナモレ近辺で『ダンジョンの位置を探す魔法』を使おうと思う。




 レイナモレまでの道を進む間に、『静かなる塔』に侵入者があった。

 が、予想していた『恋歌の館』さんではなく、ごくごく普通の人だった。セイクリアナ近辺に居た冒険者の生き残りらしい。

 けれど、入り口に入ってすぐ、箱迷路を移動されて出口を失い、戦意喪失。

 その後、動いた感覚を元に、出口があった方の扉を不用意に開けて火炎放射を浴びて重傷。

 そして次の箱に入って、出口があった方に向かって進み、やっぱりまた不用意に扉を開けて金属線で首を切断されて死亡。

 ……こんなに不注意な人が居るとは……。

 出番が無かったダイス君は、箱の外側で大層暇そうな顔をしていた。

 クロノスさんにはチェス盤や本があるけれどダイス君には暇つぶしが無いから、今度何かプレゼントしてあげようかな。

 ダイス君、方向音痴だけれど馬鹿ではないし、知的な暇つぶしでも大丈夫だろう。

 今度本人に聞いて決めよう。




 そうこうしながら、『元・グランデム城』から1泊2日。

 私が寝ている間にもジョーレム君がせっせと距離を稼ぎ、遂にレイナモレ近辺へ到着した。




 レイナモレは、女王が収める国。

 森に囲まれた辺境の国で、国民は森の恵みを受けて暮らしている。薬を作るのも得意らしい。

 それから、他国との争いを好まない国でもあるらしい。

 ……つまり、割と閉鎖的な国、なのだろう。


 馬車状態に擬態したジョーレム君で進むと、やがて、クオッレ村というらしい村に到着した。

 が、村の人達の様子は今までの村とは大分違う。

 どことなく余所者に冷たいような空気があって、居心地が悪い。

 食堂に入ってウェイトレスさんに近くのダンジョンについて聞いてみても、「知りません」の一点張り。

 これはひどい。


 仕方ないから夜になってからできるだけ賑やかな酒場に行って、お酒が入っている人に聞いてみることにした。

 ……のだけれど。

「ここは子供の来る所じゃないぞ」

「子供じゃないです」

「子供じゃなかったとしても若い女が1人で来る所じゃない」

 駄目だった。

 お店の人に門前払いされたら流石にこれ以上粘る気にもなれない。

 さて、これはもう諦めて、ダンジョン探索魔法に頼るか、と思ったところ。

「あーあーあー。悪いな。この子は俺のツレだ」

 後ろからやってきた人が、私の肩に手を置いてそんなことを言った。

「おい、オリヴァ」

「いいじゃねえか。な?」

 そしてお店の人としばらく見つめあって……。

「……ったく。お前、いつか身を滅ぼすぞ」

 お店の人はため息をつきながらも、ドアを開けてくれた。


「……ってことで綺麗なお嬢さん。一杯俺に付き合ってもらうぜ?」

 そして後ろから来た人……多分、オリヴァさん、というのであろう若い男の人は、私にウインクしてみせたのだった。

 ……。

 これは幸運なのか不運なのか、ちょっと判断がつかない。




 何はともあれ、とりあえず酒場に入った。

 なんとなく、周りに居る人からじろじろ見られている気がするけれどもう今更だから気にしないことにしよう。

 壁際の小さなテーブル席に案内されて、オリヴァさんと向かい合って座る。

「あ、俺、いつもの。お嬢さんは?」

 そして注文。

 ……うん。

「ミルクでも貰えますか」

 下手にお酒を頼まれたら困るので。

 ……酒場でこんな注文したら『舐めてんのか小娘』とか言われるかな、と若干覚悟していたけれど、案外普通に注文は受理された。

 そして、なんだかちょっとお酒が入っているらしい甘いホットミルクが運ばれてきた。

 おいしい。


「さて。じゃ、お嬢さん。改めましてこんばんは。悪いね、付き合ってもらっちまって」

 そして一口ホットミルクを飲んだところで、オリヴァさんが話しかけてきた。

 ちなみに、オリヴァさんは蜂蜜色をしたお酒を飲んでいた。別にオリヴァさんだけが原因じゃないんだけど、酒場だけあって全体的にお酒臭い。

「いえ。あのままだったら門前払いだったので」

「ま、それもそうだ。……どうにもこの村は他所の人に厳しくてね。悪く思わないでくれよ」

 じゃあなんでこの人はこんなにフレンドリーなんだろうね。

「で、そろそろお嬢さんのお名前を聞きたいんだけど、いい?あ、俺はオリヴァ。よろしく」

「ラクトです」

 牛乳です。

「そっか。ラクトちゃんね。よろしく」

 牛乳です。


「……で、ラクトちゃんは何しにこんなとこに来たの?まさか本当にミルク飲みに来たわけでもないんだろ?」

 牛乳が牛乳飲みに来るって中々面白い字面なのだけれど、それは置いておこう。

「この辺りの人に聞きたいことがあったんですけれど、昼間にご飯処の人に聞いてもご存じなかったので」

「あー……宿の隣の飯屋?あそこ、特に頑固なんだよなぁ……ま、成程。それでラクトちゃんは酒場に来てそれを聞こうとした、って訳か」

「はい。……オリヴァさんはご存じありませんか。この辺りにダンジョンが無いか」

 そう尋ねてみると、オリヴァさんはちらり、と私の腰のあたりを見た。

 ……まあ、つまり、ホークとピジョン、だろう。

「あー……そっか、ラクトちゃん、恰好でなんとなく思ってたけど、冒険者なわけね。それで、ダンジョンで稼ぎに来た、と」

「はい」

 何か問題でも?とばかりに普通に相槌を打つと、オリヴァさんはなんとも言えない顔をした。

「ならこの国は駄目だぜ、ラクトちゃん。この国には冒険者が稼げるダンジョンなんて無いからな」

 ……えっ。

「この国のダンジョンは全部、制圧済みなんだよ」

 ……ええっ。




「制圧、済み」

 なんだろう。

 十分にあり得る事だし、この世界の人類にとってはそれが一番安全なのだけれど……ここに来て、そう来るか。

「そーそー。だから、冒険者は来るだけ無駄、ってこと。……ま、俺も1年ぐらい前にここに流れ着いてきた冒険者だったんだけどね」

 成程。オリヴァさん自身も余所者なのか。道理で。

「あ、でも目的はダンジョンじゃなくてこの国の女王様だったか。すげえ美人だって聞いたから……あ、やきもち焼いた?」

「餅」

「……あーうん、なんでもないや。ええとね、ま、とにかく、ダンジョンを探検しに来たんなら無駄足だったね、ってこと」

 成程、それは……どうなんだろう。

 制圧されている、ということは、逆に言えば『簡単に乗っ取れる』ということにもなるかもしれない。

 ……一度制圧されたダンジョンを乗っ取ってなんとかする、というのも難しい気はするけれど。


 しかし、オリヴァさんが1年前にここに来た、というなら、『1年ここに居る』という事になる。

 なら、ダンジョンの代わりになるようなものでもあるんだろうか。

「……でも、冒険者が定住するだけのお仕事がここには代わりにある、ということですよね?」

「あ。うん。ま、それもダンジョン絡みなんだけどね。制圧済みダンジョンの警備員って奴。ダンジョンの中に魔物が入ったらそのまま魔物の巣になっちまったりするから、そういうのを防ぐ仕事。……ま、給料は悪くねーんだけど、暇な仕事だよなあ」

 うーん、警備員が居るとなると、乗っ取るのも何かと面倒な気がする。

 ……さて、どうしたものか。




「……で、今度は俺の方の目的なんだけどさ。ラクトちゃんはダンジョンについて聞くのが目的だったわけだろ?で、俺はというと、そんなラクトちゃんとお話したいなー、ってのが目的で」

「はあ」

「もう少し、付き合ってくんない?……正直さ、一目惚れなんだけど」

 ……さて、こっちもどうしたものか。


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