101話
弱点にばっちり決まる魔法を使って、ばっちりダークネスを爆発四散させた。
四散した闇は、溢れて止まない《シャインストリーム》に焼かれて、次々消えていく。
逃げようとする闇の欠片も追いかけて焼き払っていけば、ついにダークネスはすっかり消え失せてしまった。
「じゃあ、後片付けだね」
残るは、ダークスケルトンがいっぱい居るだけ。
部屋の中もすっかり明るくなってしまったし、これなら問題なく戦えるでしょう。
ガイ君に任せてみたら、思っていたよりもずっと速く終わってしまった。
私はただ《オブシディアンウォール》で防御するくらいだった。
……防具であるガイ君が攻撃役に回って、本来攻撃する役目の私が防御に回ったら、思いのほかいいかんじだったのだ。
これは、中々。
ガイ君もどこか満足げだし、私も満足。
すっかりモンスターが居なくなったB4Fを進む。
トラップには気を付けていたけれど、そのほとんどが黒塗りの矢や黒塗りの大鎌、ちょこっと落とし穴、程度だったから、避けるのも簡単だった。
明るくなってしまえば、黒塗りの罠は目立つだけだからね。
時々、生まれてすぐ参戦しました、といった様子のモンスターを《グロウバースト》で焼き払ったりしながら、奥へ奥へと進んでいく。
そして、最奥へ辿り着くと……そこには、見覚えのある人が居た。
「くそ、遂にここまで来たか……!」
闇を纏いながらこちらを睨んでくるのは、フェアリーランタン売りのお兄さんだった。
……ということは、地上部分に、B4Fへの近道があったんだろう。失敗した。探せばよかった。
内心しょんぼりしつつも、フェアリーランタン売りのお兄さん改め『常闇の洞窟』さんに一気に近づいて、ホークを突き出した。
「っ、いきなりかっ!」
ところが、ホークの刀身は、『常闇の洞窟』さんをすり抜けるようにして突き抜けてしまった。
まるで、霞か何かを突いたような気分。
「だが、俺だって伊達にダンジョンやってねえんだよ!」
体を貫いたはずのホークをものともせずに、『常闇の洞窟』さんは私から距離をとった。
そして、何やら集中したかと思うと、『常闇の洞窟』さんの背後に闇が渦巻く。
「くらえ!《百鬼夜……!」
何かされたら面倒なので、《グロウバースト》で焼き払った。
『常闇の洞窟』さんには、とにかく、てるてる親分さん達から手に入った光系の魔法が有効だった。
《シャインストリーム》然り、《グロウバースト》然り。
《ラスターステップ》にもよくお世話になるし、本当にてるてる親分さんには感謝してもしきれない。
……ということで、光魔法にとても弱かったらしい『常闇の洞窟』さんは、《グロウバースト》で必殺技をキャンセルされて、そのまま大ダメージを受けてくれた。
あとは、ホークとピジョン……いや、ピジョンだけで斬って、瀕死の重傷にしたら拘束して、薬を掛けて治して、《ラスターケージ》に入れてお持ち帰り。
抜け道を見つけてそこから外に出て、人目に付かない内にジョーレム君に乗りこんだらさっさと『静かなる塔』へ戻る。
今回は『静かなる塔』さんの時みたいに、ダンジョンを奪ってから殺す、なんていうことはしないようにしなければ。
そこからまた2日程の行程をかけて、無事、『静かなる塔』へ帰ってきた。
「ダイスくーん、ただいまー!」
声を掛けながらダンジョンとして指示を出すと、ダイス君が内側で動いて、最上階の大窓を開けてくれた。
私は『常闇の洞窟』さんを抱えながら、《ラスターステップ》で階段を作り、最上階まで上がって、ダイス君が開けてくれた窓から中に入った。
「ただいま。お土産だよ」
ダイス君に『常闇の洞窟』さんを見せると、首を傾げていた。
まあ、ダイス君はまだ、ダンジョンのモンスターになって日が浅いから、『お土産』の意味も分からないんだろう。
「少し話を聞いたら、一緒に強くなろうね」
が、そう言ってみると、よく分からないらしいながらも、にこにこしながら頷いてくれるダイス君だった。
『常闇の洞窟』さんをしっかりと《ラスターケージ》で拘束する。
いつもなら、《ラスターケージ》は自分と敵とを光の部屋に閉じ込めて使うのだけれど、今回はもっと小さく、かつ2重に作る。
……まず、『常闇の洞窟』さんの手首と足首と首だけが光の部屋の外に出ているような状態にしたら、続いて、手首と足首も覆うように2つ目の光の部屋を重ねる。
多分、これで大丈夫。
駄目でも相手が死ぬだけだから多分大丈夫。
「もしもし」
『常闇の洞窟』さんを起こすと、『常闇の洞窟』さんはしばらく視線を彷徨わせた後、はっとしたように私を見た。
「お前っ……!」
しかし、それ以上何を喋るでもなく、私を睨んで黙り込んでしまった。
賢い。
「あなたに聞きたいのは3つ。答えたくなかったら答えなくてもいいけれど、その時は3つの質問が終わった時点で殺すからそのつもりでどうぞ」
ピジョンの刃先をちらつかせると、『常闇の洞窟』さんの表情がこわばった。
……さっき、分かった事だけれど。
ホークでは、『常闇の洞窟』さんを斬ることができなかった。でも、ピジョンでは斬れた。
刃の色等々から考察するに、多分、ホークは闇の、ピジョンは光の力を持った剣なんじゃないか、と思う。
色も丁度、それっぽい。
……そこを踏まえて、後でもう一度、ホークとピジョンに今の体のままでいいか聞いてみよう。
「では、1つ目。邪神様復活に必要なものを教えてください」
一応駄目元で、『様』をつけたりして聞いてみたのだけれど、『常闇の洞窟』さんは不審げに私を見るばかりだった。
「……誰が、言うかよ」
駄目だった。
「そうですか。では、2つ目。『静かなる塔』さんはどこに居ますか?」
仕方ないので、ちょっとカマをかけてみた。
「んだと!そんなの、お前が殺しっ……」
……成程。
『常闇の洞窟』さんははっとしたように口を閉ざしたけれど、もう遅い。
つまり、彼らの間には緻密な連絡網があった、ということか……或いは、『常闇の洞窟』さんは、どこかのタイミングで私が『静かなる塔』さんを殺したのだろう、という状況を見た事になる。
ちょっと迂闊だったかもしれない。
「一応聞いておきますが、このことは『恋歌の館』さんもご存知ですか?」
こちらも聞いておきたかったけれど、『常闇の洞窟』さんはだんまりであった。
うーん、芳しくない。
「では、最後に。……もしかして、邪神様復活の手段は、2種類以上、あるのでは?」
「……は?」
「何かご存知ですか」
流石の『常闇の洞窟』さんも、これには反応してくれた。
「……何か、知ってるのか」
「実は、マリスフォール王家の女性と思しき誰かが残した手記を見つけました」
これです、と、『ウィアの歴史書』を見せ、裏表紙の見開きに掛かれた『マリスフォール王家に栄光あれ』の文字を見せた。
「色々と調べた結果、これはセイクリアナ王家に嫁いだ、『ウィア』という女性のものだと分かっています。残念ながら、いつの時代のお方かは分かっていませんが」
『常闇の洞窟』さんは、じっと私の様子を窺っている。
……興味は引けた、のかな?
「そしてこの手記には、邪神様を復活させる方法が記してあるのですが……『静かなる塔』さんから聞いた話とはどうにも違う。ですから、私はあなた達を疑っています。……あなた達は邪神様を復活させる、と言って私達を欺きながら、邪神様の復活を阻止しようとする邪教徒なのでは、と」
「……疑うってんなら、そっちの情報を寄越せよ。そしたら俺の持ってる情報と照合してやる」
『常闇の洞窟』さんは、喋り始めてくれた。
情報を漏らしてくれている訳じゃないけれど、ただ黙っていられるよりはずっといい。前進前進。
「立場を分かっていないようですね。私はいつでもあなたを殺せますし、あなたを殺してもなんら困りません」
そこからしばらく、またお互いに黙り続けた。
腹の探り合い、というか、なんというか。
私は『常闇の洞窟』さんの狙いが分からないし、『常闇の洞窟』さんは私の真意も、私が持っているという『ウィアの歴史書』の中身も分からない。
……お互い、譲歩することなく、黙り続けて、そして。
「……俺が集めることになっていたのは、100万の配下と邪神様の武器だ」
ついに、喋った。
「配下と、武器」
「配下は魔物をひたすら召喚して……武器は、闇の剣を作って奉納することになっていた」
……うーん。
これだけだと、本当によく分からない。
「その担当はどのようにして決めたのですか?何故、あなたが武器を?」
「適材適所、ってことだ」
……お互い、喋りたくないから一向に話が進まない。
仕方ない。こちらが喋ろう。
どうせ相手は殺すからいいや。
「……私が手に入れた情報では、邪神様復活に必要なものは人間の魂である、とありました。骨も武器も必要だとは記述がありません。そちらの情報源は本当に正しかったのですか?」
「なんだと?俺達は邪神様に直接お話を伺ってるんだ!間違う訳が無い!」
えっ、邪神って喋るの?
「それは、いつ、どこで」
「俺は『常闇の洞窟』の中に居た。『静かなる塔』と『恋歌の館』はその時はまだダンジョンを持っていなかったが、やはり同時に聞いたらしい」
……それは。それは、まさか。
「頭の中に、声が響いてきたんだ。『我が忠実なる僕よ』と、呼びかけてきて……」
……。
すごく、オカルト。
それから、『常闇の洞窟』さんの話は続いたけれど、面倒になってきたので途中で殺した。
ダイス君も一緒に殺したので、一緒にまた強くなれた。
やったね。
今回、『常闇の洞窟』さんから手に入れた魂は、2,310,034ポイント分。
今までのダンジョンの中で一番魂が多かった。
やっぱり、『常闇の洞窟』さんはそこそこ強かった、っていうことなんだろうか。
『常闇の洞窟』さんは、気になる事を言っていた。
それは、『武器と配下』を作っていた、という事だ。
……それが、邪神復活のためになるのだろうか?だとしたら、『ウィアの歴史書』の内容と食い違うのだけれど。
或いは、配下と武器を用意することが、『魂を捧げること』になるんだろうか?
なんか……なんだか、少し……分かりそうな気がする。
いいや。あとは、『恋歌の館』さんからもお話を聞ければ、その時またはっきりするだろう。
さて。
今度はまた、『常闇の洞窟』へとんぼ返り。
2日かけてまた戻って来たら、見つけておいた隠し通路から中に入って、玉座の部屋の玉座に座る。
暗い紫色の魔法陣が薄青に染まり、また1つ、私であるダンジョンが増えた。
『常闇の洞窟』の中には、やはりと言うべきか、妖精の待機室があった。
草地の部屋の中に花畑があり、そこで妖精たちが遊んでいた。
この妖精たちは『常闇の洞窟』の罠の一環だったんだろう。
私の時みたいに、いきなり光を消すだけでも効果的だし、ガラス越しに魔法で攻撃でもしてこられたら、かなり厄介だったと思う。混戦状態になっていれば、尚更対処できない。
もし妖精を全く疑わずにいたら、妖精が原因だと気づかないままやられていたかもしれない。
ある意味、とても恐ろしいトラップだった。
他のモンスターはあまりいなかった。私が大分片付けてしまったし。
しかし、その代わりに不思議な剣のようなものを見つけた。
闇が凝り固まってできたような漆黒の剣は、とても綺麗で、飾り物にも見える。
全く光を反射しない、全ての光を吸収するような黒さの刀身がまた何とも、現代アートみたいに見えさえするのだ。
「ああ、そうだ。ホークとピジョン、体はこのままでいいの?こっちに変える?」
一応、この不思議な剣を前に、ホークとピジョンに聞いてみたのだけれど、2本とも今の体がとても気に入っているらしかったので、無理強いはしなかった。
この剣は飾っておこう。
さて。
これで無事、『常闇の洞窟』も私となって、私は『元・グランデム城』から『常闇の洞窟』まで、一瞬で移動できることになった。
レイナモレとオリゾレッタの都は、それぞれのダンジョンから同じぐらいの距離かな。
……2か所同時攻略も、夢じゃないかもしれない。
早速、明日になったら出発しよう。
 




