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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
10/135

10話

 意図は単純だった。

 ただ、リビングアーマー君を助けるための緊急回避の手段として、『合成』を思いついただけ。

 あくまでこれは緊急回避であって、戦略じゃなかった。

 リビングアーマー君が助かればそれでよかった。その後のことなんて、何も考えちゃいなかったのだ。

 ……けれど、『合成』は思わぬ結果をもたらした。


 床にリビングアーマー君だったものが散らばる。

 バラバラになった鎧のパーツが、更に剣戟で凹み、切れ飛び、破壊されていく。

 ……けれど、私は自分の肩や胸を覆う皮鎧に、確かな意思を感じていた。

 そして、そのリビングアーマー君自身の意思が『私を強化している』という事も、また。


「1匹は仕留めたな。残りは……」

 そして、ヘンブレンさんとケヴィさんが私に向き直るや否や、2人の攻撃が飛んでくる。

 けれど、その前に私はその場を離脱していた。

 凍り付いたブーツと床の間に寸分違わずスコップを刺して氷の拘束を解き、バックステップで大きく距離をとる。

 ……ありえない程に体が軽く、言う事を聞いた。

 氷を壊す強さと、ブーツと床の間を的確に刺す精密さを伴ってスコップを操れる。

 たった一歩のバックステップで、十分な距離を取れる。

 そして。

「お前は人間か?……なら、何のためにこんな……うわっ!」

 たった一歩の踏み切りで侵入者に肉薄できる。

「《一点突破》!」

 そして、スコップの切っ先を鎧と鎧のつなぎ目に正確に打ち込むことができる。

「がっ……な、んだ、と」

 そして、打ち込んだスコップで侵入者の腹を刺し貫き、そのまま背骨を破壊することだって、できる。

 ……スコップを引き抜くと、ヘンブレンさんがその場に崩れ落ち、血だまりに沈んだ。




「ヘンブレン……嘘、だろ」

「っ、《キャタラクト》!」

 続いて、大滝を生み出して壁にしたケヴィさんへと体が向かう。

 大滝の直前で、トラップを作動。

 伸びあがる床が私をのせたまま伸びあがった。

 勿論、そのまま天井に叩きつけられて潰れて死ぬつもりじゃない。このダンジョンは私の手足。そして、このダンジョンに在るトラップも同じこと。

 伸びあがる床を自らの足にして、高さを得る。

「う、上から!?」

 そしてそのまま飛び降りて、大滝の壁の内側に入り込み、ケヴィさんに向かって急降下。

「くそ、《スプラ……っ!」

 私を迎え撃とうと、また宙に水玉を浮かべたケヴィさんを見て、慌てずにケヴィさんの足元のトラップを作動。

 私に集中していたケヴィさんは足元に現れた落とし穴への対処が遅れた。

 そしてそのままバランスを崩したケヴィさんに向かって、私は落ちていく。

 スコップの切っ先を下向けて。

 ……落下の勢いをそのまま乗せたスコップの切っ先は、易々とケヴィさんの胸に潜りこんだ。




 +++++++++



 仲間たちが死んでいく。

 俺はというと、足を拘束され、腕を斬り落とされて……なんとかナイフを投げて加勢したが、ナイフを投げ終わっちまったら、もう俺にできることは無い。

 あとはただ途方もない無力感を感じながら、仲間の死を見ていることしかできなかった。


 ……はじめは良かった。

 ミサに駆けよっちまった俺が罠にかかっただけで、ヘンブレンとケヴィには何の問題も無かった。

 俺が投げたナイフを起点にしてリビングアーマーを仕留めさえしたのだから、確かに、戦況はこちらに有利だったはずだ。

 だが……リビングアーマーを倒した直後から、人間の女の動きが目に見えて素早く、力強くなった。

 ……恐らく、人間の女はそこで本気を出したんだろう。

 女の攻撃の前に易々とヘンブレンが倒れた。

 あのヘンブレンが、だ。

 そしてその直後、ケヴィすら魔法が間に合わずに殺された。

 ……まるで現実味がない。

 テオスアーレでも指折りの冒険者である俺達が、こうもあっさり死んでしまうなんて。

 女がケヴィの体からスコップを引き抜いたときに跳ねた血が、俺の近くまで飛んできた。

 そして、女も、また、俺に向かって近づいてくる。

 ありふれた皮のブーツが床を打つ音が死神の足音に聞こえる。

 俺は思わず、傍のミサ……僅かに温もりを残すだけとなった亡骸を片腕で抱き寄せた。

 ああ、何が一番現実味がないって、ミサの死だ。なんで……くそ、どうして俺達が、ミサが、こんな目に。

「なあ、おい」

 失血のせいか霞む視界に、俺達を殺した人間の女を捉える。

「お前、人間、だろうが」

 視界の中、女が動きを止めた。

 ……俺の言葉の続きを律儀に待っているらしい。

「なんで……こんなこと、できるんだよ。人間を殺すことに、罪悪感は、ねえのか」

 声を絞り出して問いを投げかけると、女は……首を傾げて、『何を言っているんだ』とでも言うように、さらりと答えた。

「あるよ。当然。罪悪感ぐらいあるよ」

「なら、なんで」

「でも、罪悪感があっても肉を食べることをやめないでしょう?肉を殺す罪悪感なんて、一々考えて躊躇したりしないでしょう?」

 さも当然、というように、女はそう言った。

 ……それは、いっそ……。

「……狂ってる」

 こいつが感じている罪悪感は、俺達が人間を殺すときに感じる罪悪感じゃない。

 俺達が正義や偽悪や大義名分で押し殺しているものじゃない。それとは全く異なる……もっと冷たくて、異質なものだ。

 ……そうか。こいつにとって、人間は家畜に等しいのか。

 そしてこいつ自身、そのことに何の疑問も抱いていない。

 こいつは、まるで……本当に死神か何かのようだ。


 慄く俺を見て、女はまた、首を傾げた。『何を言っているんだ』とでも言いたげに。

「あなたたちだって、同じ癖に」

 そして、女はそう呟き……それが、俺が最後に聞いた言葉になった。



 +++++++++




 最後の1人をスコップで刺し殺した。

 ……これで、やっと、冒険者5人組を全滅させることができた。

 力が抜けて、床にへたり込む。

「リビングアーマー君、大丈夫?」

 しかし、へたっている訳にもいかない。リビングアーマー君の安否が心配だ。

 確認のために皮鎧を脱ごうとしたら、皮鎧が身じろぎした。

 ……まるで、脱がれたくない、とでも言うように。

「……しばらく、このままの方が良い?」

 そう試しに聞いてみると、皮鎧がすっかり大人しくなった。

 ……ふむ。

 もしかしたら、私が装備している状態の方が回復が早いのかもしれない。

 リビングアーマー君を装備した私の身体能力がいきなり向上した時のように。




 間違いなく消耗しているリビングアーマー君を装備している以上、あんまり動くのもどうかと思うので、大人しくリザルトの確認だけしておこう。


 今回手に入った魂は、なんと、40392ポイント分。

 流石、命の危険を感じさせられただけのことはある。うん、これはすごい。

 特に、ヘンブレンさんは1人で10000を超えてたから本当に強かったんだと思う。

 ……今更ながら、達成感!




 手に入った道具も今回はすごい。

 片手剣が3本。(ミサさんは二刀流の剣士だった)

 大ぶりなナイフが2本。

 杖が一本。

 ちなみに、矢はあったけれど弓は潰れちゃったので回収できなかった。

 ……そして、立派な全身鎧が1つ。

 女性用の軽い鎧が1つ。

 さらに軽い鎧が2つ。イルファさんとジャスさんのやつだ。

 そして、ずるずるした服が1着。

 ……その他、マントや指輪やピアスや服や下着やブーツや手袋、ベルトや袋やそういったこまごましたもの。

 薬草が3つ。傷薬が4つ。上級薬が1つ。

 銀貨が8枚、銅貨が12枚、鉄貨が4枚。

 そしてなんと。

 ……食料は、無し。

 多分、近くの村に滞在していたみたいだから、そこに大きな荷物は置いてきたんだろう。多分、食料もそこに。……なんてこった。

 ……食料が無いのは辛いけれど、手に入って良かったものが1つあった。

 そう。それは、地図である。


 地図はこの近辺のものなんだろう。

『テオスアーレ』という大都市を中心に、いくつかの町や村の名前が書きこまれている。

 ……多分、この地図の範囲の外側にもまだ、世界が広がっているんだろうけれど。

 でも、これでとりあえず『テオスアーレ』近辺の事は分かるようになった。

 これから侵入者の会話を盗み聞いて、その都度この地図で確認していこう。

 ……なんと言っても、私のダンジョンがこの地図のどこにあるのかすら、分からない状態だから……。




 道具の整理も終わったあたりで、リビングアーマー君が多少元気になったらしい。

 とりあえずリビングアーマー君を脱いだら、今後の戦力配置について考え直そう。

 ダンジョンの設備を強化したのだから、次に強化すべきはその中身……モンスター、という事になるだろう。


 とりあえず言えることは、『手数がある程度無いと駄目』だという事。

 今回痛感したのは何より、手数の足りなさだった。

 今回の冒険者5人組が帰ってこなかったとなれば、もっと強い冒険者が呼ばれてくるのだろう。

 そう。相手はこれからどんどん強くなっていくはず。

 ……その時、ダンジョン内のトラップだけじゃ、きっと手が足りなくなる。

 だから、今の内からモンスターを増やして、ある程度強くしておかなければいけないのだ。


 今までモンスターをリビングアーマー君以外増やさなかったのは、魂のコスト削減のためだけじゃない。

 そう。経験値の分散を防ぐためだった。

 経験値は侵入者にとどめを刺した時に手に入る。

 だから、モンスターの数を増やしすぎると、弱いモンスターがたくさんいる状態になってしまうのだ。

 ……けれど、その問題とも今日でお別れかもしれない。

 今回、私はLv8に、リビングアーマー君はLv10に、それぞれレベルアップしている。




 リビングアーマー君は今回、誰かにとどめを刺したか。

 答えは、否である。

 ……射手はトラップ。女剣士のとどめは私だった。

 その後の3人に関しても、とどめは私。

 では、何故リビングアーマー君のLvは一気に上がったのか。

 ……ここで1つの仮定が浮かび上がる。

『モンスターを装備したモンスターが侵入者を倒した場合、経験値はモンスターにも装備されたモンスターにも入るのではないか』と。

 ……そして多分、それは正解なのだ。

 ダンジョンとしての私の勘がそう告げている。

 間違いない。モンスターを装備して戦えば経験値は両者に入る。

 最高だ。最高である。


 更に、モンスターがモンスターを装備するメリットは他にもある。

 そう、私がリビングアーマー君を装備した時に発揮された、異常なまでの身体能力。

 あれは間違いなく、リビングアーマー君を装備したことによって生まれたものだった。

 モンスターがモンスターを装備することで、経験値と身体能力その他諸々、二重の意味でモンスターの強化につながる訳だ。

 弱いモンスターが弱いモンスターを装備すれば、ちょっと強いモンスター1体と同じぐらいの強さを期待できる。

 そして、ちょっと強い私がちょっと強いリビングアーマー君を装備すれば、かなり強いモンスターになれるのだ。

 ……これを利用しない手は、無いよね。




 この時点で、新たに作るモンスターの方向性はほぼ決まってしまった。

 新たなモンスターの基準はただ1つ。

『私が装備できるか否か』。ただそれだけである。




 リビングアーマー君に「君の剣、モンスターにしていい?」と聞いてみたら、明らかに嫌がられた。

「じゃあ盾」と聞いたら、もっと嫌がられた。

 ……仕方ない、リビングアーマー君の装備は今まで通り保管するとしよう。リビングアーマー君単体で戦う事もまだまだあるだろうし。

 モンスターにするのは、別の装備にしようね。




 そうして、新たなモンスターが生まれた。

 1体目と2体目は、『ソウルソード』。魂の剣、というよりは、魂が宿った剣、というかんじ。

 この剣はミサさんの剣2振をそのまんま使って『ソウルソード』にさせてもらった。

 使った魂、3000ポイント分×2で6000ポイント也。


 3体目は『ソウルナイフ』。ソウルソードのナイフバージョンも作れそうだったから作ってみた。

 これはジャスさんのナイフを使って作ったものだ。

 魂は2500ポイント也。


 4体目は、『デスネックレス』。見た目は綺麗な首飾りなんだけれど、うっかり装備すると首を絞められて殺される……という、お宝トラップ系モンスターである。

 薬草摘みの女性から手に入れたブレスレットと髪飾り、そして今回手に入れた指輪やピアスを使って、魂3500ポイント也。(材料無しで作ろうとすると魂5000ポイントも使うのだ)


 5、6体目は、『ファントムマント』。リビングアーマーとデスネックレスの間みたいなモンスター。剣を持たせれば戦うし、宝箱に入れておけば自身を装備した侵入者を絞め殺す。

 これは、1体はヘンブレンさんのマントを使って作って、もう1体は適当な服とかを集めて作った。魂は2体で6000ポイント也。


 ……こうして、私は自らの装備となるモンスターを一通り生み出した。

 合計18000ポイント也。

 これにて残りの魂、22392ポイント分。




 では、早速、装備してみよう。

 まず、私は皮鎧を装備するのをやめて、ミサさんが装備していた軽い鎧を身に付けることにした。

『銀の鎧』なる鎧は、金属の割に軽くて動きやすくて、なかなか体にしっくりくる。

 私のLvが上がって、鎧の重さを感じなくなっただけかもしれないけれど。


 鎧に続いて、生まれたばかりのモンスターを装備していく。

 ソウルソード2振とソウルナイフ1本を腰に佩き、デスネックレスで首を飾り、ファントムマントを肩に羽織る。

「リビングアーマー君、ちょっとごめんね」

 そして、装備している『銀の鎧』にリビングアーマー君を合成すれば、これ以上ないまでに私は強化される。

 ……合体技って、浪漫だよね。


 体の奥底から湧き上がってくる謎の力に酔いしれたあと、リビングアーマー君を元の鎧に合成し直した。

 生まれたてのモンスターたちは私が装備して手元で育ててやらなくちゃいけないけれど、リビングアーマー君は私から離れても十分に戦える。

 リビングアーマー君は今後も今まで通りの使い方をしていく予定だ。

「はい、リビングアーマー君。君の装備だよ」

 だから、リビングアーマー君の装備も整えてあげなくては。

 ……装備の装備、って、変な気もするけれど、実際そうなんだから仕方ない。

「まず、ファントムマント。仲良くしてあげてね」

 まず、リビングアーマー君の肩にファントムマントをかける。

 ファントムマントは少し戸惑ったけれど、すぐ、立派にリビングアーマー君を飾る役割を果たし始めた。

 リビングアーマー君はそんなファントムマントの肩のあたりを、ぽんぽん、と叩いている。多分、挨拶してるんだろう。ファントムマントも裾をひらひらさせて応えている。

「それから、兜。……遅くなってごめんね」

 そして、やっと、これだ。

『黒鋼の兜』。魂700ポイント分也。

 これがあれば、リビングアーマー君との意思疎通がしやすくなるはずだ。多分。

 兜を差し出すと、リビングアーマー君は、恐る恐る、というように手を伸ばして、受け取り……頭が本来在るであろう位置に、兜を据えた。

 ……。

「すごく威圧感」

 あまりの威圧感に思わずそう零すと、リビングアーマー君は兜をとって、小脇に抱えた。

 ……気にしたんだろうか。

「うん、でもかっこいいよ。兜があった方が意思疎通しやすいだろうし、何かと便利だと思う」

 フォローすると、リビングアーマー君は納得したらしく、もう一度兜を被った。

 ……可愛い奴よのう。


「今回は危ない目に遭わせちゃってごめん」

 リビングアーマー君に謝ると、兜がゆるゆると横に振られた。

「でも、守ってくれてありがとう」

 お礼を言えば、兜はぴたり、と止まる。

「これからもよろしくね」

 そして、挨拶すれば、兜が1つ頷いた。

 ……なんとコミュニケーションのしやすいことか。


 一頻り兜の有用性に感動していたら、不意に、リビングアーマー君の両方のガントレットが中途半端な高さに掲げられる。

 そしてリビングアーマー君は、じっ、と私の方を向いているのだ。

 ……一瞬、何なのか分からなかったけれど……それもすぐに分かった。おもわず、笑みを浮かべてしまう。

「そして、今回はお疲れ様。いえーい」

 掲げられたガントレットに、両手を打ち合わせる。

 私達は改めて勝利を喜び、ハイタッチしたのだった。


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― 新着の感想 ―
つまり、モンスターがモンスターを装備してモンスターを装着してモンスターを履いてモンスターを帯びてモンスターを嵌めてモンs(ry
[一言] リビングアーマー君可愛い
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