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私はヒーラーとして勇者様を支えます!

誕生日の夜

作者: 雨兎

実は6月24日、誕生日でした。

ので、ちょっと誕生日ネタを……

私はふと目が覚めた。隣のベッドではニコアが寝ている。そんな彼女を起こさないように、そっとベッドからでてベランダの戸を開けた。外はすっかり夜で、月があたりを照らしている。しばらく曇り空が続いていたにも関わらず、今日の空には雲がなく、綺麗な星空であった。私、ミラはそんな空を見上げた。私が今考えているのは、勇者様であるヒヅキ様のこと。実は今日この日で彼が来て1年となるのだ。












あの日は私の誕生日だった。

といっても、まだニコアとも、ヒューズとも会ってなく、巫女である私を表面上祝うという、誕生会だけ。

みんなが見て、祝しているのは、今までの巫女達よりも大きな魔力と回復魔法の適性を持った巫女様であるミラ。

誰も私のことを心の底から祝ってくれる人なんていなかった。


堅苦しい誕生会を抜けだし、今日のような星空の下、トボトボ歩いていた時だった。凄まじい光とともに大きな落下音がした。ミラは興味を持ち、その光と音の元へと走り寄る。そこは少し開けた森であり、星空と月を映した小さな湖があった。そのすぐそばには、自分より少しくらい年上だろうか……少年がいた。



「いてて……。ここ、どこだ?」



少年は落下した時に肘をすりむいたらしく、そこを撫でていた。ミラはその少年を見つめる。巫女である自分が、この国の国民を知らないはずがなかった。何せ誰もが頼る巫女なのだ。しかし、その少年は初めて見た。ミラの興味が少年に向く。



「大丈夫ですか?」



ミラはそっと声をかけた。

少年は肘を撫でるのをやめ、ミラのほうへと顔を向ける。整った顔だが、この国の国民らしくない髪色に瞳の色。少し構える。敵であるかもしれないのだ。

少年はそんなミラを見て、ニコリと笑った。ミラは体から力が抜けるのを感じた。そして少年に近寄り、その肘に回復魔法をかけた。



「え……?治った…魔法?」



少年は驚いた声をあげる。そんな少年を見て、ミラは疑問に思う。確かに回復魔法は珍しいかもしれない。しかし少年は魔法について驚いていた。

この世界は回復魔法の使い手は確かに少ない。しかし魔法使いくらいならたくさんいる。まあ、有名な魔法使いレベルの者はわずかなのだが……。つまり、他国の者だとしても、魔法は知っているはずなのだ。

少年はしばらく固まっていたが、ミラに笑顔を向ける。



「ありがとう。俺は緋月(ヒヅキ)。君は?」


「……ミラと言います」


「そっか……。ミラ、ありがとう!」



心からの笑顔だった。

見ているこっちも笑顔になってしまうレベルの。

ミラは思わず、ドキドキしてしまった。








「あの夜がヒヅキ様との出会いだったんだ……」



ミラはベッドに顔を向ける。まだニコアは寝ている。ミラはベランダからでて部屋に戻ると、外に出るために軽装備へと着替える。そして机の上にメモを残すと、外へと出た。

夜風が頬を撫でる。気持ちのいい風だ。









「へぇ、今日はミラの誕生日だったのか」


「はい。でも私、うわべだけの誕生会なんで嫌いなんです。私は巫女として生まれ、ずっと魔法の練習をしてきたので、友達いないんです。一度でいいから巫女という立場だから祝うのではなく、(ミラ)個人として祝ってもらいたいのです」



初めて会ったばかりのヒヅキには、何故か話せた。

自分が誕生日に何より望んでいることを。



「そっか、じゃあ今日はもう遅いし何も持ってないから、おめでとうとしか言えないけど、来年はキチンと誕生日、祝うよ?」


「え……?」


「今日から俺とミラは友達な?それじゃ、俺、帰るから、またな?」


「……はいっ!ヒヅキ様、また!」



こうして私とヒヅキのファーストコンタクトは終わった。後日、王に連れられて私の元に訪れた勇者に、驚いたものだ。しかも私の誕生日にこの世界に来た……と聞いて、なおさらだった。

1番自分が不安なはずなのに、私の悩みを聞き、励ましてくれた。だからこそ私は、そんな彼を支えるような人になりたいと思ったのだ。



「今日が私の誕生日だなんて、忘れてますよね……」



ミラはあの日のように、歩いていた。しばらく歩くと少し開けた場所に出る。まるであの日のようだった。そこには星空と月を映した湖があり、そのそばには……



「ミラ……?」


「ヒヅキ様……」



ヒヅキがいた。

ヒヅキは手に剣を持ち、稽古をしていたらしい。顔から汗が流れ出ている。そっと手で払うと、ミラに笑顔を向けた。ミラは不覚にもまた、ドキドキする。ふと肘を見るとあの日のような擦れたような傷跡があった。

思わず笑みがこぼれる。



「ヒヅキ様、肘、怪我なされていますよ?」


「あれ?本当だ……いつやったんだろう?」



ミラはヒヅキに近づき、手をかざして傷を癒す。

そんなミラを見て、ヒヅキは慌てたような顔をする。

どうしたのだろうか……。ミラがそんなヒヅキを驚いて見ていると、ヒヅキは少し離れたところに置いていたと思われる袋から綺麗にラッピングされた、小さな箱を取り出した。



「ミラ、お誕生日おめでとう」



そっと彼がつぶやくように言う。

ミラがそんな彼の顔を見つめると、照れたように笑う。



「ミラの誕生日って、今日だよね?ニコアやヒューズのいるところでは渡しずらくって。こっそりベッドの隣に後で置きに行こうかと考えていたんだ」


「……あ、ありがとう…」



とたんに胸が熱くなる。目に込み上げてくる何かがある。

ヒヅキはそんな様子のミラをそっと抱きしめた。



「俺だけじゃない。ニコアやヒューズも、ミラのことを見てるよ?巫女じゃない。ミラとしてだ」


「ヒヅキ……様」


「ミラ、おめでとう!あと、汗臭くてごめんね?」



そう言うと、ヒヅキはミラから離れる。

ミラを抱きしめるときに下に置いたと思われる剣と袋を持ち、ミラに言う。



「宿に戻るか!そろそろ寝ないと、明日に響くだろうし」



そう言って歩きだすヒヅキの隣へとかけていき、そのあいた右手を握った。二人はそうして、手をつないだまま、森を歩いていった。







次の朝、ミラの胸元にはシルバーネックレスがあった。

性能は回復魔法の威力upと、防御力up。

ヒヅキからのプレゼントだった。




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