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MSXを探せ。
さて、どこから探索しようか。
あたしの知識にはないMSXってだけで、もう、どのダンジョンから潜っていいものかさっぱり見当もつかない。
「そもそもMSXとMSX2はいいとして、2+って何が違うの?」
ふと思った事を言ってみた。みんな、えって顔をしてお互いに探りを入れるように目線を交え合わせ、まずはマサムネさんが口を開いた。
「2にプラス要素があるって感じじゃねえかな? 語感からして2以上3未満ってことだろ?」
「ターボRが3の位置付けにあるとすれば、2のマイナーチェンジクラスだよね」
ジャレッドさんがあたしの手からアシュギーネのカートリッジをひょいと持っていく。
「このゲームが遊べる仕様が2以上のスペックなら、2でも2+でもどっちでもいいはずだけど、どうせならプラス機能されてそうな2+
の方が良さげだね」
くるり、カートリッジをひっくり返して裏から下から何かしらの情報を探すジャレッドさん。
「カートリッジにメーカー名が記されてないね。正規ゲームとしてはあり得ない。やっぱりどこかの誰かが自作したゲームカートリッジだね」
ジャレッドさんが余ってたピザを手掴みでくるっと巻いて飲み込むように口に放り込んだ。そのまま油まみれの手でまたカートリッジをひっくり返そうとする。おっと、とルピンデルさんが慌ててゲームを回収した。
「検索してみたら、マツシタ電器ってメーカーが発売元みたい。今のパナソニックグループね」
パナソニックグループか。よく聞く電器製品メーカーだ。ゲームも売っていたなんて知らなかった。
「こっちは2+本体で検索してみたけど、2と違って発売メーカーは少なくて3社のみー」
と、ミナミナさん。いつのまにかあたしのチョコレートパフェはサクラコからミナミナさんの手に渡り、発掘ももはや最下層に届きそうな勢いだった。
「本体を製作販売していたのはソニーと、マツシタ、サンヨーの3社。サンヨーはパナソニックに吸収されてるから、現行会社はソニーとパナソニックグループねー」
「ミナミナファンクラブにパナソニックからのゲーマーな出向技術者いなかったっけ?」
「いたと思うー。ここはパナソニック一本に狙いを絞って攻めた方が良さげだねー」
「狙いを絞るのはいいけど、あたしのチョコパ減り過ぎ」
「スペインチョコ美味しーわ、コレ」
一番美味しいソフトクリームのトップはサクラコにがっつり食われ、二番目に美味しいボトムに溜まったチョコレートソースはミナミナさんにかき乱され、無残な姿になって返ってきたチョコレートパフェ。もう一個発注かけてやる。今度はガトーショコラ突き刺さりスペシャルだ。どうせお会計は大人達の財布だし。
何か追加いる? とサクラコを見れば、黙々とパエリアを口に押し込む作業に忙しそうで、あたしをちらっと見て手を口元へ持っていきグラスを傾ける仕草をした。飲み物ね。いつものウォッカのお酒を注文してやる。
「そっちが正規品で攻めるなら、こっちは裏ルートで行くぜ。ジャレッド、エミュレータだ」
「エミュなら、正規エミュから裏エミュまでどっかにはMSXエミュレータありそうだもんね。データを吸い出すリーダーもあればなおいいし」
マサムネさんがニヤッと笑う。確かに、マサムネさんが持っているレトロゲーマーの会の人脈や、ジャレッドさんの知るありとあらゆるマニアックアイテムの流通ルートなら、法の隙間をかいくぐっちゃうようなブツが手に入りそうな、そんな顔付きの怪しい二人組だ。
ルピンデルミナミナの女性チームは正規ルートでのMSX探しを、マサムネジャレッドの野郎どもは裏ルートでのMSXゲーム再生方法を、それぞれ暗躍してくれそうだ。
さて、あたしはどうしよう。あたしに出来る事はあるのだろうか。人脈も知識もコネも何もないあたしは何をしたらいい?
「で、今回の言い出しっぺはブリギッテよね? じゃあブリギッテがMSX再生計画のチームリーダーだ。みんなをバシバシ動かすんだよ」
小サイズパエリアを無事細い胃袋に収めたサクラコが満足気に薄っぺらいお腹をさすりさすり言った。
「さあ、私は何をしたらいい?」
あたしの心を見透かしたように、サクラコはイタズラを思い付いたガキみたいな憎たらしくも可愛い笑顔であたしを見つめた。
あたしがチームリーダーで、みんなを動かす、か。
「うん。ルピンデルさん、ミナミナさんはパナソニックグループに探りを入れて。たとえ実機がなくてもデータだけでもいいから」
ルピンデルさんミナミナさんが任せとけと胸を張る。ミナミナさんのその胸があれば、ファンクラブ会員の技術者さんとやらも一瞬で落ちるでしょ。
「マサムネさん、ジャレッドさんは合法、非合法に関わらず、演算可能なエミュレータを出来る限り調べて。最終的に実機に一番近いものを使いたいし」
非合法部隊の二人は静かに親指を立て、早速スマホを弄り出した。
「そしてサクラコはあたしと一緒にゲームショップ『アメリカ』で聞き込みを。このカートリッジがどういう経緯でワゴン行きになったか、そこから調べるの」
「聞き込みか。いいね。面白そう」
サクラコはそう言ってチョコレートパフェの残骸に手を伸ばした。新しいの注文してるし、残りは全部あげるよ。そういえばバイトのお兄さんにサクラコの画像を頼まれてたけど、明日本物を連れてくからそれでいいだろう。
『MSX再生計画かよ。僕のいない時に面白そうな事始めやがってもー』
コータくんがちょっとだけ悔しそうに、でも基本的にはうれしそうに言った。
「サクラコが言うにはね、言い出しっぺがあたしだから、チームリーダーはあたしなんだって。みんなにあれこれ指示出してまとめるの」
『そりゃ責任重大だな。みんながMSXで遊べるかどうかはブリギッテ次第だ』
モニターの中のコータくんがチラチラとモニター外に視線を動かしつつ、両手がモニターから見えない位置まで不自然に下げられて、犬が笑ってるような顔で話してる。おそらく、ファミコンしながら電話してるな。
「リーダーだからって特別にあたしがしなきゃって事はないし、みんなが得意分野で頑張ってくれるから問題なしよ」
『あいつらのコントロールは難しいぞ。リミッターかけないとどんどん暴走するからな』
「乗りこなしてみせるよ。それより、後どれくらいで帰ってくるの?」
電話の前でソファにふんぞり返って見せる。脚をぶん投げて、頭の後ろで腕を組んで。ちょっとだけ、退屈してるよってパフォーマンスだ。電話中はせめてファミコンやめてよね。
『今は貨物の積み込み待ち状態だからなー。火星軌道港に軟禁されてるようなもんさ。復路にあと10週間だな』
「長いなー。サクラコ待ってるよ」
チラッとキッチンに立っているサクラコの方を見てみる。この会話が聞こえてるのかどうか、洗い物に集中してるように見えるけど。
『そんな事言ったって、フライトプラン通りだよ。ブリギッテも地球火星間往復無寄港単独航行やるんだろ? だったらフライトプラン通りに飛ぶことがどれだけ大事か解るよな』
「そこに繋げてくるかー」
それを言われるとあたしは何にも反論出来なくなる。地球火星間往復無寄港単独航行最年少記録があたしの目標だ。現役のタイトルホルダーからの有難いお言葉を頂戴するしかない。
『単独航行って言ったって、そのフライトプランにはすごい数の人が関わってるんだ。その人達をどう動かすか。今回のMSX再生計画は人を動かすいい経験になるはずだ。失敗してもいいから思い通りにやってみろ。頑張れ、夢見る少女』
「はいはい、急にパパっぽい事言わなくていいよ。サクラコに代わるね」
長くなりそうだから強制終了。あとはサクラコと好きなだけおしゃべりしてて。
「サクラコ、終わったよ。ありがとね」
電話から離れてキッチンのサクラコに声をかけると、待ってましたと顔をニヤつかせたがぐっと踏み止まり、濡らした手で寝癖のついた髪の毛をさらにボサボサに演出して黒縁眼鏡を少しずり落とした。どうかなって感じであたしを見るので、ギャップ萌えってのがいまいち解らないんだけどぐーっと親指を立ててやる。
「それイイね。あと、ちょっと下のコンビニに行ってくるね」
「こら。子供が気を遣うんじゃない」
サクラコが頬っぺたをぶーって膨らませて赤くなる。子供はあんただよ、サクラコ。
「さあね。ごゆっくりー」
お邪魔な子供はとっとと退場しますよ。あたしはサクラコの側をするりとすり抜けて玄関まで文字通り飛んでいった。




