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3-4

 金(黒川の茶道部のため補習は休み)、土、日……ときて――――月曜日。


 いつもと何ら変わらず、いつも通り学校生活を送り――――放課後。日課となっている補習を受けるため、俺はいつもの教室へ。教室に入り黒川紅涼と一言二言会話を済ませ、すぐに補習開始となった。


 黒板に丁寧な字で数式と図を板書していく黒川。本日の内容は微分・積分であり、なかなか難易度は高い。まったく、一年時に習うにはレベルが高いんだよ、どんだけ授業スピードが速いんだよ……、と心の中で文句を呟く俺。とはいえ、文句を呟くだけでは当然覚えられるはずもなく、やる気を捻って黒川の記述する数式を目で追っていく。


 しかれど見ているだけでは咀嚼できない部分も当然生じ、仕方ないと俺は手を挙げ、黒川に質問を投げかけようとした。


 その時だった。


 突如勢いよく、遠慮という二文字を知らないがごとく教室前方の扉が開かれたのだ。


「あー、やっぱりここにいたんだ! ハハ、おっ邪魔しまーす!」


 伏見咲夕。


 栗色のロングに白のカチューシャ、平均的な女子高生よりはやや高めの身長、強気の性格を表しているかのような鋭さを含ませる目つきの女。

 ただ今部活真っ盛りの時間だっていうのに、伏見の格好はスポーツ着ではなく制服。初めて出会った時と同様、紺のブレザーではなくベージュ―のセーターを着用している。


 突然の来訪者に唖然とする俺と黒川紅涼。


「スマンが今は補習中だ。遊びたいなら後にしてくれ。つーかよォ、お前部活はどうしたんだ?」


 とは言ってみたものの、伏見は申し訳なさそうに教室から出ていく気配を見せるどころか、俺の隣の席に堂々と手を掛け、乱暴に椅子を引けばドサリとそこに腰を下ろして、


「え、部活? そんなのどうだっていいじゃん。誰も私にサボるな、なんて言ってこないし」


 短めのスカート、座ることにより白い太ももが顔を覗かせる。

 チラっと黒川の顔色を伺ってみれば、一瞬だが彼女はピクッと眉を痙攣させた。それは怒っているから、というよりは怯えているかのように。

 しかし黒川はすぐに表情を引き締め、


「今は神宮寺くんと補習の時間よ。あなたに邪魔する権利はないから。邪魔したいならさっさと出て行って」


 咎めるような視線を送る彼女。

 されど伏見咲夕は、委縮するどころかニヤリと笑い、


「へー、黒川が神宮寺(コイツ)の先生やってあげてんだ。教えてあげるのは数学だけ? もっと大人な世界をあれやこれや教えてんじゃないの? ドア、締め切ってんだしさ」

「やってるのは数学だけだ。それ以上も、それ以下もやってないから安心しろ。な、黒川?」

「そうよ、私は数学だけで精一杯。科目どころか生徒指導までしっかりとこなす高校の先生って本当に凄いのね」


 伏見は嘲笑するように鼻で笑って、


「黒川はさー、頭良いもんねー。羨ましいなぁ、教卓前(そこ)に立てて。そこからなら頭の悪い人間をいーっぱい見下せるもんね」


 ……何だコイツは? 何が言いたいんだ? 何を言いに来たんだ?


「いいなー、いいなー、天才はさ。私や神宮寺なんかは凡才で、下で這うことしかできないのに。ホント、世の中残酷だよね? ねぇ、黒川さん?」

「わ、私はそんな……、そんなつもりで……」


 伏見は笑みを隠すように左手で口を覆い、


「ぶっちゃけ……、勉強のできない人間を見下してるんでしょ?」


 黒川は目線を下げ、


「し、知らない……、そんなこと……」

「知らないって答えはさ、大抵は誤魔化すときに言うもんだよね? ははーん、やっぱり見下してるんだっ」

「だ、だから……、そんなこと分からないからっ。何度も訊かないで!」


 と、ここで伏見は俺へと視線を変え、


「じゃあさ、神宮寺はどう思う? そこで補習受けててさ、あー黒川俺のこと見下してんなー、って思わない? そう思うでしょ?」

「ンなこと思わねーよ。つーかテメェ邪魔だ、さっさとどっか行け。壁相手にボール投げてるほうが時間の有効活用だろ。肩、温めておけよ」


「……ふーん、寂しいヤツ。せっかく黒川紅涼ちゃんとの思い出を話してあげるのに?」

「……思い出?」


 中学生時代、それとも小学生時代のか? どちらにせよ興味がないと言ったら嘘にはなる。

 黒川はムッと黒く細い眉を寄せ、


「今は補習中って何度言ったら分かるの? 分からないなら榊原先生に報告するけどいいの?」


 しかし伏見は黒川の存在を無視して、


「あれは小学……一年だっけ? 黒川ってさ、何でもみんなより上手にこなせて、そんでクラスの人気者だったんだよね。テストの結果はいっつも満点かそれに近くて、体育の時間だってほぼ無敵。音楽だって工作だって、何だって凄かった」


 それは分かるような気がした。だが、伏見は黒川を持ち上げるために昔話をするのか?


「もう話さなくていいから。ハッキリ言って、私の過去なんて聞いたところで時間の無駄だから……」

「伏見、俺も黒川の過去なんて興味ねぇんだ。今は補習が優先だしな」


 とは言ってみたものの、伏見は相変わらず俺たちの言葉を耳に貸さず、


「でさぁ、いつかの掃除中だったっけ、私と二人きりになった時があったんだ。でね、猫が偶然迷い込んできて。私、猫さんが可愛かったから撫でてあげて、それで羨ましそうに見てた黒川にも撫でさせてあげたんだ。可愛い、可愛いって言いながら黒川は撫でてたんだよ」

「……猫?」

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